コレが善し悪しを決める。作業療法における個別性の要素にどのように向き合うか

作業療法というのは、きわめて個別性の高い療法だとおもいます。

対象者中心ということばで表現することになると思いますが、作業療法を受ける事になる人の価値観や生活歴、それから今までどのようなことに取り組んできたかという作業歴によって、その人が作業療法内で行うことになる作業は異なるからです。

という文章で、わかるのはきっと作業療法士とかOTSだけだと思うので、日常生活上だれもが経験したことがある事で説明したいと思います。

たとえば、右腕を骨折したとして。

右効きのひとであれば、箸を持ったり、字を書く練習をすることは、作業療法として成立します。

左利きの人であれば、もしカメラが趣味ならシャッターが押せるようになるとか、絵を描くことが趣味ならパレットが持てるようになるとかそういうことが作業療法になり得ます。

右腕の機能を骨折前の状態まで機能回復する過程において、作業療法の対象その人が何を希望するかによって、またそのひとが右腕にどのような役割をもって生活していたかによって、「作業」として選択するアクティビティは異なる訳です。

さて、その個別性の高さは作業療法の強みであると同時に、ウィークポイント、弱点でもあります。

個別性が強みとして発揮されるのは、治療の過程がオーダーメイドになることによって対象者1人一人の状態や、個性にマッチした内容に治療をデザインできるからです。

それがどうして、弱点になるかというと、短期的な視点で見ると一見効率が悪いからです。

一人一人の治療をデザインすることには、意外と労力が必要です。特に、新人作業療法士にとっては、一つの大きな壁ではないでしょうか。

ひとりひとり違う内容を考える為には、まずきちんと対象者の評価がなされる必要があります。

しかし、新人であるほど、つまり経験が浅いほどに参考にできる過去の経験は少ない訳で、適切な評価が行えるまでには 、ベテラン作業療法士と比較して多くの時間を必要とします。

たとえ、中堅以上のOTRであっても、担当が20人以上ともなると、その全ての対象者に個別性の高い治療プログラムを立案するのは、時間的にも物理的に制約が非常に大きいと言わざるを得ません。

単純な機能回復を狙った場合には、ROMなどの手技や筋力増強トレーニングなどにある程度分かりやすい道筋があるのですが、そうでない場合(たとえば認知症)には、きちんと評価が出来るような仕組み作りを行っていく必要があります。

作業療法の理屈上、コレを個々の対象者一人一人におこなっていく必要がありますので、作業療法士の業務は超短期的にはかなり大変です。

ベテランになればなるほど、過去の患者様のプログラムを改良したり、参考にしたりと言ったことが出来るようになるので、その辺りはスムーズになるようです。

しかし、この個別性の高さはリハビリテーションの質の高さや有効性にかなり影響する要素だと確信しています。

先ほどから、「短期的には効率が悪い」と書いていますが、長期的視点に立った場合にはむしろ効率が良いとさえいえるでしょう。

急性期、回復期が終了して、病院から自宅へ復帰してからも継続して行うことが出来るような「作業」をアクティビティとして見いだすことが出来れば、その人が自分で自分を「治療」することが出来るようになります。

そこから先は、作業療法士は必要なく、作業療法の対象者だったそのひとが、「自分専属の作業療法士」となるのです。

こういった視点は、医療費や介護費用の削減が国から叫ばれている中で、非常に重要になってくるものだと確信しています。

それを、実践によって示すことが出来ることが、コレからの作業療法士に求められていることだと思います。

そして、作業療法士以外の職種にも広めていくべきことだとおもっております。

とはいえ、まだまだ自分自身の実践が甘いので、精進したいと思う今日この頃です。


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