作業療法の理論・モデル・フレームワーク・アプローチ

作業療法における理論・モデル・フレームワーク・アプローチは作業療法を説明するものとして重要です。

作業療法を行うにあたって、「繰り返す」要素があります。

それらが作業療法の理論・モデル・フレームワーク・アプローチを構成します。理論・モデル・フレームワーク・アプローチが存在することは、作業療法士が作業療法を高い品質で行うことを保証することに役立ちます。

作業療法と理論・モデル・フレームワーク・アプローチ

作業療法において、理論・モデル・フレームワーク・アプローチというこれらの言葉はあまり厳密に区別されることなく用いられています。同じ意味で使われていることも多いと言えるでしょう。

では、作業療法における理論・モデル・フレームワーク・アプローチとは一体なんでしょうか。

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作業療法は時に個別性の高いリハビリテーション手技であり、その時、作業療法士は対象者に対して機械的に手技を適用できないという特徴があります。

しかし、その個別的な関わりの中にも共通するエッセンス、枠組みが存在します。

それらの要素を抽出して概念化したものが作業療法における理論・モデル・フレームワーク・アプローチということになります。

言い換えれば、理論・モデル・フレームワーク・アプローチは作業療法を理解するためのものであり、構造化し、言葉によって表現する試みのことであると言えます。

理論・モデル・フレームワーク・アプローチを学習する意味

理論・モデル・フレームワーク・アプローチの存在は、作業療法士が安定して高い質の作業療法を提供できることに寄与します。理論を適切な場面で、適切に運用できることは、対象者の利益を高める上で非常に重要です。

また、「繰り返す」要素が、理論やモデル、フレームワークやアプローチなので、作業療法士にとっても手技の再利用性が高まり、業務効率が高まり、より質の高いサービスを短時間で提供しやすくなります。

背景となる理論を事前に共有していることによって、共通の理解が行いやすくなり、新しい学びを得る時や、情報を共有する時などにも効率化を測ることができます。

この理論やモデル、フレームワーク・アプローチの習熟度は、作業療法士の質を図る一面であると考えて良いと思います。程よい制約は作業療法士が独りよがりな治療を独断するリスクを極めて低いものにします。

また、作業療法を概念化し、規定するするものとして、作業療法士以外の方が作業療法を理解する手助けになります。

理論・モデル・フレームワーク・アプローチの役割

役割は非常に重要です。書籍から引用して見ます。

理論の役割をK・LReed(リード,1998)8)とR、J、Miller(ミラ ー,1988)ら9)を参考にまとめると次の4項目になる。

①作業療法のユニークな知識体系を確立し,作業療法アプローチの独自性を示す

人間の活動のすべてを「遂行領域,performance area」として包含するものは、作業療法のほかにない.

また固有の文化や環境のなかで,ライフサイクルに応じて「遂行の背景(performance context)」,

個人の作業遂行(occupational performance) 能力を改善向上させるために,「遂行要素,performancecomponents 」

を分析研究し,厳密な評価と治療法の確立を試みているのは作業療法の独自性といえる.

独自性がある限り,競争の激しいヘルスケア分野で生き残れる可能性がある

②理論は作業療法の守備範囲を明確にする

守備範囲は社会情勢の変化に応じて変化する.

守備範囲とは作業療法士が専門とする領野を指す.

理論は作業療法士がどのような価値観と信念に基づいて,何に焦点を当て治療援助を行おうとしているのかを明確にする.

理論は新しい知識技術を吸収し,政治社会文化の変化とも連動して定期的に更新されうる.

なぜなら作業療法は人々の生活への適応に主眼を置いているため特にこれらの変化に敏感だからである.

③理論は実践に妥当性を与え,その手引きとなる

理論は問題設定と問題解決のための鍵となる.

理論は眼前の事象に名前をつけるためのことばや概念を与え,概念間の論理的関係をわかりやすく説明してくれる.

「なぜ作業療法が障害の改善と生活 への適応を可能にするのか」

を実践と検証を通して明示することで,作業療法の妥当性を証明してくれる.

また直感や予感を,体系的に組織化され研究可能な概念や変数に変えてくれる.

④理論は診療報酬を正当化する

治療の妥当性は診療報酬と直接的に結びつく.

厳しい医療経済のなかで診療報酬を得られるか否かは,専門職の存立を左右する.

治療理由の説明は理論を通して行われ,効果の証明は研究を通して行われる。

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第1巻 「作業療法概論」[改訂第2版]

 

コラム 理論・モデル・フレームワーク・アプローチは自由度の敵!?

よくある理論やモデル・フレームワーク・アプローチに対する批判として、「作業療法の良さである自由度を制限するものだ」「広がりのある効果的な治療を排除することにつながる」というものがあります。

この批判は、実に的外れです。

すごい作業療法士は、自由度を使いこなします。つまり、自分で新しい理論やモデル・フレームワーク、アプローチを必要に応じて作り出すのです。新しいことに取り組むだけではなく、概念化することによって、その有用性を他者が検証可能な形で世に問うのです。また、検証がたくさん積み重なると、質が高めやすくなります。(これがいわゆる「エビエンス」です)再利用するのも容易になります。効率性が向上することで余裕が生まれ、他者との協業の余裕が生まれます。それがさらなる業務効率の向上に寄与することで、さらなる改善の余地を生みます。

そうして生まれた余裕は、より個別的な介入を必要とする人たちへの質の高いサービスを担保するものです。

自由度の高い作業療法を行うためには、むしろ理論・モデル・フレームワーク・アプローチを積極的に学び、それらを成立させているものが一体何であるかを理解することこそが必要なのではないでしょうか?

実践が第一

もちろんいくらたくさんの理論・モデル・フレームワーク・アプローチに関する知識があったとて、その内容をすぐさま高い質で実現できません。

作業療法はその実践において個人差の影響が大きいので、実践の中で、チューニングしていく過程がどうしても必要になります。

ましてや、理論だけ知っていても何にもなりません。理論の内容を、実践化する臨床家はそれを解釈し、具体化することが必要になります。

実践だけでもだめ

かといって、作業療法は実践だけでも不完全です。作業療法は検証されなければなりません。つまり、作業療法士が実践している内容について、他者にきちんとした説明できなければなりません。それが、専門職としての責任を果たすことにつながります。

また、作業療法士は自身の実践を支援者や、自らの実践に興味をもってくれるひとに対して、適切な説明ができるスキルを準備しておく必要があります。

例えば、自分の実践を理論化する。論文等を書いていく。発表する。そうしたことが、説明責任を果たす上で必要です。

特に、臨床家として、自身が有意義な実践をしていればいるほどに、それをほかの人にも広める事が大切になります。そういう意味で、実践だけでは不十分です。

コラム なぜか概念化を敬遠する日本の作業療法士

日本の作業療法士には、実践、臨床の方が得意という人が多いようです。なぜでしょうか。

まず、作業療法を厳密に記述するということが、難しいからです。特に、作業療法の核心が、個人因子と強く結びついてる場合には、プライバシーの問題などからそれを言語化しにくい現実もあります。

次に、論文を読む時間とお金が無いからです。業務時間内には無理なので、自分の時間を使って必要に応じて勉強することになります。そして、論文は取り寄せると高いです。お金が地味にかかるのでキツい。

最後に、永らく言語化を伴った概念化の試みをしていない、その習慣が抜けてしまっているということがあると思います。それが証拠に、論文をよく書く人は書き続けています。というか、論文を量産しているのは決まった数人の人かもしれません。

また、作業療法を厳密に記述しようとする試みには、別な問題もあります。そのような視点で書かれた論文は読みこなすために、非常にたくさんの知識や勉強や経験が必要とすることです。つまり、ある程度の下地のある、専門職しか理解できない論文や理論が生産されることになり、「知識の共有」という面では、効率が非常に悪いという点です。

作業療法というのは、さまざまな人と有機的に連携していくことが求められる仕事ですので、情報発信源の一つがわかりづらいというのは割と問題であると言えるのでは無いでしょうか。

一番良いのは、作業療法に関する厳密な論文とわかりやすくする概念図や資料集の両方がだれもが利用できる形で一般的に公開されていることなんだろうなあと思います。アブストラクトが漫画だったらいいのに。

作業療法における理論・モデル・フレームワーク・アプローチの具体例

作業療法理論、モデル、フレームワーク、アプローチには主要なものから細かで詳細なものまでがいくつも存在します。それらは、作業療法における評価や介入を作業療法士が考える上で重要な枠組みです。それらがなければ、検証可能な形で、作業療法に行うこと、作業療法士の実践をを他者と効率よく共有することはできません。また、理論やモデル、フレームワーク・アプローチを学ぶことは、作業療法士が疑問や悩みを解決するのに役立ちます。

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各論・詳細な学びは別の機会に譲るとして、ここではまず作業療法の理論・フレームワーク・アプローチにはどのようなものがあるのかについて、名称と概要をご紹介したいと思います。

 

人間作業モデル(MOHO)

Kielhofnerが提唱した作業療法業界で1,2を争う有名理論。

システム論で作業療法の説明を試みた結果としての産物。

システムとしての「人間」が「環境」と交流を持つことを「人間作業」と規定し,サブシステムとして「意思」「習慣化」「遂行」の3つを据えている。

カナダ作業遂行モデル(CMOP)

人ー作業ー環境の相互作用を捉えた理論として著名です。

川モデル

日本発祥なのに、日本人にあまりなじみがないというモデル。

海外では、広く一般的に使われているようです。

川を対象者のメタファーとして用いることによって、作業療法の対象者が視覚的に自分自身の状況を理解しやすいメリットがあります。

ICFモデル

WHOが策定した、疾患・障害を活動・参加・人・環境など、包括的に把握しその関連性を考えるモデル。

医療の基本となる考え方で、他職種連携などの場面で必須となる考え方です。

感覚統合理論

Ayres発表の世界的に有名な作業療法理論。
学習とは、「感覚情報を加工処理し,整理し,統合する脳の機能の一つである」と考えた。

系統発生,個体発生等の発達原理を基礎に据えた、発達理論です。

生体力学モデル

身体的な障害に対して、力学的な知識・視点から介入を行い、問題解決をはかろうとする考え方、方法論。

身体障害領域では、必学となる理論。

認知能力障害モデル

神経科学の内容にもとづく、精神障害者の能力について、認知的なレベルという視点から介入を行う事を考える。

能力に視点がある点で、その人のニードを考えるのに多いに役立つ。

認知ー知覚モデル

人間の行為の前提として、認知や知覚といった情報処理が存在するという考え方をベースにした介入をしようという考え方。

幅広い領域で応用可能。

グループワークモデル

集団とその要素を用いて、個々の対象者に働きかける事を考える。

精神障害領域や老年期領域をはじめ、集団レクリエーションを使用する機会がある時には、基本として抑えておくとよい。