作業を見つめる視点 〜 作業の要素と評価
はじめに
この記事では、いち作業療法士として、重要と思う作業の要素と評価を書いていきます。
その前に、作業とは何でしょうか?と、皆さんに投げかけてみます。
作業療法士として、精神科領域で多くの貢献をされている山根寛先生の「ひとと作業・作業活動」という本の中では、
作業:人の生活や一生を構成するすべての行為,行動の形態
という風に定義をされています。
作業療法における、「作業」とは、一般で用いられている「単純作業」などの意味合いよりも、多くのほかのさまざまな概念を包括しているといえます。誤解を恐れず、ざっくばらんに言えば、人間がおこなうすべての活動や行動は、作業療法の作業に含まれることになります。
遊ぶことも作業ですし、勉強することも、仕事をすることも、どれも作業です。食事をすることも、眠ったりすることも作業に含めることができるとおもいます。
さらに、山根先生は同著の中で、作業療法を
作業療法:ひとの日々のいとなみ(作業)をもちい,心身の機能の障害を軽減し,生活に必要な偽のの習得を援助し,よりよい作業体験の場を提供する
と定義されています。
作業療法は、人間が行うさまざまな活動の中から、作業療法士がその人の状態にとって適切であると判断したものを提案したり、あるいは、本人の行いたいことを達成するために、必要な活動をステップアップして行っていったりする援助をしたりなどの様々な形のもとで、非常に幅広い展開がなされています。
それゆえ「これが作業療法です。」と一言で言い尽くせないところが、作業療法の最大の魅力であり、また、作業療法にかかわる人間としての悩ましさでもあります。
作業療法の良いところは、作業療法を実際に体験してみると、五感で感じることができます。
しかし、その利点を言語化して説明することはなかなか難しいもので、高いレベルの言語的な表現力が必要とされるところが面白くもあり、悩ましいところです。
しかし、その作業にはいくつかの共通する要素があり、それらを評価することが作業療法士の仕事の一つでもあります。
英語では、作業療法は「Occupational Therapy」のように訳されます。実は、「作業療法伝わりにくい問題」は、日本だけの話題ではなく、米国などでも、日本と同様にどんなことをしているのかが伝わりにくい問題に直面していると、留学を経験したOTRより直接聞いたこともあります。
これには、もちろん、作業療法が提供しているものが、広範で多様な要素を含んでおり、一口にはその全貌を伝えきることができないということが、背景としてあるのではないかと思います。
しかし、繰り返しになりますが、多岐にわたる作業を整理して、活用するための視点は確実に存在します。
では改めまして、作業に関して、それを適切に用いるために作業療法士として必要と思われるポイントを切り口として、要素と評価をみていきます。
作業の要素と評価
PDCAサイクル
工程を分析するには、いくつかの方法がありますが、有名なPDCAサイクルが一般的に馴染みやすいかなと思っていますので、それに則って項目を紹介します。
計画(Plan)
思いついた後で、実行に移すまでに頭の中で考えたり、準備や手配をする段階です。
計画段階の取り組み具合から、認知機能や経験をうまく使えるかどうかが評価できます。
実行(Do)
実際に行う場面です。
計画通りに行えるか、その場の修正力はどうか、実際に取り組んでみた様子を客観的に評価します。
また、姿勢や呼吸といった身体機能、意識や注意などの精神機能をスクリーニング的に評価できるので、詳細な評価の参考になります。
評価(Check)
取り組みを言語化します。
どんな気づきがあるかは、その人の認知の枠組みに大きく左右されるので、その辺りが評価できます。
また、気づきを促したり、やる気やモチベーションにつなげます。
改善(Action)
次の計画や他の活動などへの応用や、トレーニングするべき点などを考えます。
またそのためのリバリテーションを実行します。
作業歴・作業への思い
これが極めて大切なところだと思います。
臨床経験のある作業療法士の方であれば、同意していだだけるのではと思いますが、その人が当たり前のようにしてきたことや、ふっと振り返った時に「ああ、これって大事だったんだ」という活動や日常生活動作、仕事、役割が、疾病や受傷によってできなくなった時、意外とそのことに目を向けて言葉にするのは大変なことなのです。
この時に、その気持ちに寄り添って、作業歴や作業への思いをきちんと評価できることが、作業療法の質を大きく左右します。
リハビリテーションにとって最も大切なことは2つです。
1つは、適切で効果的な方法で、もう一つは、本人の思いです。
本人の思いを引き出すリハビリテーションが作業療法であり、それができることが作業療法士の腕の見せ所でもあります。
この要素がきちんと評価できることは、作業療法士の技量として必須であると思います。
自己評価
作業を通して、その人が自分自身をどのように評価しているのかがわかることがあります。
有名なものとしては、「ただ箱を作るだけ」でその人のメンタリティを明らかにするというものがあります。(箱作り法)
日常生活一つとっても、その取り組み方で個性が出るのは納得の行くところではないですか。
掃除を例にすると、部屋の隅に残る埃の一つも許せない人もいれば、部屋をさっと撫で回して終わる人もいるでしょう。
前者はひょっとすると、神経質すぎるかもしれませんし、後者は、衛生面で問題があるかもしれません。
そういう自分自身を本人がどう思っているのかまで評価できると、その人が自分の生活をコントロールするきっかけがつかめます。
具体的に行動を変化させることによって、その人が自分自信を見る見方も変わって生きやすくなることが少なくありません。
社会参加
ある活動・作業を行った時、それが社会的に意味のあることであれば、それが社会との繋がりを生みます。
いわゆる仕事・ビジネスがその最たるものですが、それだけではありません。
地域のお祭りに参加したり、家の前を掃き掃除したり。
誰かと手紙でやりとりをしたり、写真を発表する。
誰かとの繋がりをどの程度持っているか、またそれはどのようにして維持されるか、そのためにはどんなことが必要か。
これらがきちんと整理され、評価されていると、その人に本当に必要な支援は一体どのようなものなのかが見えやすくなってきます。
アクティビティそのものを木とすると、森に当たるのがこの社会参加であると言えます。
ミクロとマクロを行ったりきたりできるのが、良い作業療法をおこなう秘訣であると思います。
つまり、社会参加に関する評価を行うことは、直接リハビリテーションに関係なく見えるかもしれませんが、実は良い作業療法を行うために必須のものなのです。
身体機能
疾患がある場合は、その周辺の身体機能を詳細に評価すし、介入することが重要であることは無論ですが、作業を通して身体機能面を総合的に評価します。
例えば、その人の強みになりそうなところも取り上げて評価することが大切です。何故ならば、得意なことは、誰だってやる気になるものですから、「この人にはあんなことやってもらったら、生活が広がるなあ」などと考えながら評価します。
加えて、疲れやすさや、体の使い方のくせなどもスクリーニング的に評価して、必要がある場合には、より細かに評価介入を行っていきます。
コミュニケーション
その人が、他の人とどのような場面で、どのように、どんな方法で関わろうとするかを評価します。
そこで問題が生じている場合には、何故その問題が生じているかについて、さらに細かく評価し、介入を考えます。
コミュニケーションは上記の社会参加のキーワードでもあるので、作業を段階づけて考える上で重要な要素であり、評価が必要なポイントでもあります。
作業・アクティビティの種目そのもの
どのような特性があるか?
どんな社会的な意味(象徴)があるか?
関連する作業はどんなものか?
一般的にどんな身体能力が要求されるか?
どんな認知能力が必要か?
必要な道具は何?
言語化して、問うべきことはたくさんあります。
その評価がうまくできているかどうかは、上記PDCAでいうところの計画(Plan)に大きく影響します。
つまり作業療法士にとっては、作業そのものに関する習熟が欠かせない要素となるわけですね。
生活行為向上マネジメント(MTDLP)
生活行為向上マネジメント(MTDLP)は、作業療法の全体像と専門性を生かして評価介入として作業をうまく使えるように新しく開発されたフレームワークです。作業療法士には馴染みの考え方、介入の仕方を他の職種のかたも行いやすくするために色々と工夫がされており、作業療法士以外も活用することができます。
MTDLPの概要としましては、作業療法の評価・介入・実践をメタ評価するためのツールといったところでしょうか。
重要度の高い作業を多角的に評価し、実践し、前後を評価して、成果を共有するという流れで使えます。
また、そのための主要なツールは以下の通りです。
1)生活行為聞き取りシート
2)生活行為アセスメントシート
3)生活行為向上マネジメントシート
4)生活行為申し送り表
5)医療への申し送り表
詳細は、日本作業療法士協会のウェブページをご覧ください。
終わりに
作業療法がきちんとうまくいくためには、どの工程もバランスよく実行されているかどうかが非常に重要になることは皆さん当然お分かりかと思います。
そのために、作業の実践をこまめにチェックしていくことが必要不可欠なので、よかったらこの記事の内容をチェックして活用していただければと思います。
記事は以上です。読んでいただきありがとうございました。
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