このページでは、日本の作業療法士(OTR)の国家資格を取得する方法やそのための準備、具体的な行動をするために必要な情報を掲載しています。
作業療法士についての詳細は、こちらをご覧下さい。
作業療法士になるには
早速、作業療法士になるための方法をざっくりとお伝えします。
作業療法士になるために必要なことは大まかに言えば、作業療法士の養成校を卒業し、国家試験に合格することの2点が必要です。
国家試験に合格すれば、作業療法士の国家資格が取得できます。
では、国家試験の受験さえパスしてしまえば良いのでは?と考える賢い方もおられるかもしれません。例えば運転免許では、ご存じのとおり運転免許試験場で一発試験と呼ばれる方法で、自動車教習所での教習をスキップしても免許証を取得する仕組みがありますよね。
しかし、結論から言えば、作業療法士の免許を獲得するにはそういった方法は基本的に存在しません。
つまり、国家試験の受験資格を得るためには、作業療法士の養成校で勉強して養成課程を経なければならないということです。
作業療法士になるために必要な時間的コスト
上記の通り、作業療法士になるには作業療法士養成校を経て国家試験に合格しなければなりません。
さて、作業療法士になるためにはどのくらいの時間が必要になるのでしょう。
結論から言いいますと、高卒資格者が、作業療法士になるには、最短で3〜4年の期間が必要になります。
3〜4年というのは、詳細は下記に書いておりますが、どのような学校を養成校として選択するかによって変わることになります。
3年で卒業しても、4年で卒業しても得られる作業療法士の国家資格に変わりはありません。
最短3年で卒業することで、生涯年収は一年増えます。博士課程や修士課程を視野に入れるのであれば、4年制を選択するべきでしょう。
詳細は、下記養成校の項目に書いておりますのでそちらをご覧下さい。
作業療法士になるために必要な金銭的コスト
作業療法士になるのに必要な金銭的コストの大部分を占めるのは学費です。
詳細は進学を希望する学校に問い合わせていただくとして一般的な傾向を書いておきます。
誰でも知ってることとは思いますが、国立・公立が安くて、私立は高いです。
国公立がざっくり総額300万円くらい
私立はバラツキがあるのでなんとも言えませんが、肌感覚で倍額600万円くらい
でしょうか。
ちなみに、作業療法士の資格はどこの養成校を経たとしても得られるものは変わりません。しかし、取得に必要な金銭コストはバラツキがあるということですね。
作業療法士養成校とは
作業療法士養成校とは、文字どおり作業療法士の国家資格の取得を目指す人が通うための学校です。
作業療法士になるためには、作業療法士養成校の養成課程を経ることが必須です。それは、作業療法士国家試験の受験資格を得るためには、作業療法士養成校にて、定められた単位を取得する必要があるからです。
作業療法士養成校の種類
作業療法士養成校には、いろいろな種類がありますので、ニーズに応じて賢く選択しましょう。
まず、国公立か私学かという違いがあります。
それらの中には、専門学校、短大、大学があります。
そして、3年制と4年制があります。
ちなみに、大学、専門学校、短大がそれぞれ、63校、108校、3校(2018年現在)です。
臨床か研究か
また、作業療法士になった後のキャリアとして、臨床一本で行くなら、どこの学校に行っても卒後のやる気次第です。しかし、研究を志して、修士課程や博士課程を取得することを考えるのであれば、4年制大学へ行くことをお勧めします。
WFOT認定の有無
また、WFOT認定のある学校とそうでない学校があります。日本国内で働く分には大した影響力はありませんが、日本で働くのみならず、作業療法士として世界に羽ばたきたい人には、一応確認しておくべきポイントかと思います。
受験を考える人の為の作業療法士養成校の選択基準
このページを見ておられる方はおそらく、作業療法士になることを考えておられる方ご本人や誰かに作業療法士になることを勧めたいと考えておられる方ではないかと思います。
そんな方々にとって、
「どのように作業療法士養成校の受験校を選定したら良いか?」
は大きな悩みだと思います。
ここでは、作業療法士養成校を選ぶ時に役立つ選択基準をいくつかご紹介します。
学費の高さ
上記でも少し触れていますが、学費には養成校ごとで大きな違いがあります。
いくら作業療法士になりたいと思っても、なにはともあれ、学費を捻出できなければ、作業療法士になることはできません。ですので、学費は非常に重要です。
おそらく、作業療法士になることを選ぶ人の中には一定数「今は、経済的に厳しいけれど、資格を取って安定した職と生活を手にしたい」という方がおられますよね。
そのような観点から見ると、国立や公立の大学で資格を取得するのが、経済的には有利です。
なぜなら、私学に通っても、国公立に通っても最終的に得られる資格にはなんら変わりがないのですから。学力的に問題が無いのであれば、学費が比較的安い国公立の作業療法士養成校を選択するメリットは大きいと思います。
逆に、金銭の多寡は問題にならないのであれば、下記でも書きましたがより入学しやすい私学を選択するのも立派な戦略でしょう。
設立年度の古さ
古いというと、ネガティブなイメージを持つかもしれません。
しかし、作業療法養成校においては、実は古いことは大きなメリットなのではないかと思います。
まず、設立年度が古ければ古いほど、資格取得までに自分でなんとかしなければならないことが少なくても済むのです。
具体的には、臨床実習の際の実習先の確保があります。
古い養成校であれば、実習先は既に関係性のある病院を紹介してもらえるので、大した苦労もなく自習先を割り振ってもらえます。一方で、設立が比較的新しい学校では生徒が自ら個別交渉しなければならないところもあったりします。
個別交渉とはイメージするなら就職活動のようなことをします。実習先として希望する病院へのアポイントメントをとって、お願いをしてという活動をただでさえ忙しい学生生活の間を縫って行う必要があるということです。
その点、古い学校ではすでにある程度病院や施設との関係性が構築できているので、学生側が実際に動かないといけないことは少なくて済みます。
また、作業療法士国家試験の受験ノウハウも、古くからある学校の方が当然多いです。「自分で勉強していくことが不安だ」「自分は勉強が苦手だ」という意識がある人にとっては、作業療法士国家資格の取得に向けての行程が楽な可能性が高いのは、後述する設備面充実を考えても設立してからの年数が多い学校であると思います。
実習先の確保や受験ノウハウはあくまで一例ではありますが、様々な要因で要するに古い(伝統ある)作業療法士養成校の方が、作業療法士国家試験受験までの大変さが少ない可能性が高いです。
講師・教授陣
良い先生から教わろうとしたら、より良い経験ができるのはいうまでもないと思います。
養成校によっては、非常に著名な作業療法士の先生方が教育に関わっておられることがあります。作業療法の世界では早いうちに、作業療法の核になるような考え方をしっかりとした先生から早めに教えてもらっておいた方が、臨床のやりやすさが大きく違ってきます。
例えば、先生方の著作を手にとって、読んで、しっくり来たらその学校を選ぶというのもアリだと思います。
校舎・設備の充実
どうしたことか、他のサイトではほとんど触れられていないこと、いうまでもなくかなり大切な要素です。
何せ最長で4年間もお世話になるわけですから、ストレスのない学習環境が確保できるかどうかというのは非常に重要なことな訳です。
注意して頂いたいのは「単純に設立年度の新しい学校を選べば、設備が新しいはず」との考えは落とし穴かもしれないということです。
普通であれば、設立年度の新しい学校の方が校舎設備が充実しており、環境も整っていると考えられるかもしれません。しかし、そうではないこともあるので、注意が必要です。というのも、手広く色々な専門学校を運営している学校法人などにおいては、「居抜き」のような形で、以前運営していた他の学部の棟を転用して校舎としている場合があるからです。
そうした場合、新しい学校であっても、イメージするほど大して設備は充実しておらず、都会の中のビルの中にきゅうきゅうに学生を詰め込んで授業を行ったり、高い駐車場料金を学生に要求する学校があったりするようです。
実は、作業療法の学びは何かと物入りなので、多少古かろうとも、一部の新しい学校に比べると、大抵の物品が揃っている古い学校や国公立の学校というのは、余計な気苦労が少ない点で非常に魅力的であると言えます。
特に図書館の充実は、極めて重要なポイントです。
作業療法に関する知識を深めるためには、関連する書籍からの学びが欠かせません。
しかしながら、調べごとのたびに都度都度専門書籍を自分で購入するのは経済的にかなり厳しいです。一つのトピックに大して3冊は参考にしたいところですが、一冊あたり3000円以上するものがほとんどです。3冊も購入したら、税金も合わせると1万円前後です。
すぐに本が必要だという時に、書籍が充実した図書館があるかどうかというのは、後述する学びにも大きく影響するポイントです。最近では図書館を外部に公開しているところもありますから、可能であれば一度図書館を実際に自分で利用してみることをお勧めします。新しい本が入荷されているかどうかもぜひチェックして見て下さい。
交通手段、住環境
交通手段や、周辺の住環境などもよくよくリサーチしてから、決めるのが良いと思います。
実家通いならともかくとして、3〜4年間住環境が悪いところで生活することになって、不満を募らせるのもつまりません。
都会であれば、家賃が高いですが、交通手段や住環境は充実しています。
田舎であれば、交通手段はほぼ車が必須ですし、店舗やサービスは少ないですが物価や家賃料金が安いです。
学び
本当は、ここをいちばんの選考基準としたいところです。
どのような学びを重ねたいのかによって、いくべき学校は絞られるかもしれません。
臨床家志望であれば、作業療法士の学びは現状、長期的に考えると卒後教育の割合が高いので、ぶっちゃけどこの作業療法士養成校へ行っても、臨床するのであればその先の学習コストは変わりません。
ぶっちゃけ話になりますが、私学であれば、どの作業療法士養成校であったとしても、経営上の理由から、大抵は国家試験に合格することができる程度の学びをボーダーラインとして授業を行います。それ以上の難易度の授業はなかなかやりづらいし、それ以上のことをやっても残念ながら学生がついてこられないからです。
ただし、学習面で飛び抜けて大きくメリットがあると言える学校は無くもありません。一部の先進的な試みを行っている学校がそうです。そうした学校の学びはディープなので、社会に出てから臨床しながら学ぶことが難しい知識を、学生時代にしっかりと時間を確保して、作業療法の根本を丁寧に学べるというのはとても大きなメリットです。
講師陣として、野心的な作業療法士をきちんとした意図を持って呼び寄せている学校であれば、既存の枠組みに捉われない気鋭の教員が活躍しやすい環境であるで、自分が新しい学びを求めるのであれば、先端の内容に触れることができる環境があるといえます。
つまりそれは、普段の授業の中においても、先端の作業療法の概念に触れることができる環境があるということであり、少子高齢社会で変化の只中にある作業療法の世界で、作業療法士としてやっていく上では非常に大きなメリットと言えるでしょう。
ですから、学び重視で学校を選ぶのであれば、きちんと時間をかけてリサーチを行うことが重要であるといえます。
作業療法士養成校の入学試験と入学
受験する学校を選定したら、入学試験を受ける必要があります。
作業療法士養成校には、国公立と私学がありますが、国立と私学で大きく異なる点はセンター試験の受験の有無です。
国公立系の学校を受験する場合には、まず、センター試験を受験することが必要です。。その後、各学校の試験を受験します。
私立であれば、センター試験なしで受験することができます。
入学試験に合格すれば、晴れて「作業療法学生(OTS)」の仲間入りです。
コラム 文系でも理系でも作業療法士になれる?
答えは、yes です。
医師(多くは医学部医学科)と異なり、作業療法士養成校の入学試験は、理系でないと受験できないというものではありません。
学校によっては、文系の枠組みと理系の枠組みが別に用意されていて、採点対象の試験の内容も文系と理系で異なるところもあるようです。
ただし、受験科目にない科目を基礎教養の枠組みで勉強しないといけなくなった大学もあるそうなのです。「高校の生物」を大学でやり直すとか、なんだか微妙ですね。
作業療法士養成校カリキュラム
作業療法士養成校の学生は、「作業療法学生(OTS:Student Occupational Therapist)」と呼ばれます。
作業療法学生(OTS)は、立派な作業療法士(OTR)となるべく、作業療法士養成校では以下のような内容を学習します。
基礎教養・一般教養(リベラルアーツ)
科学的思考、人間科学、人文、社会、自然科学、数学、物理、保健体育、英語、倫理、コミュニケーション学
医学
人体構造学・解剖学・解剖学実習
文字通り人間の体の作りについて、学びます。
分厚い教科書を使って、人間の体に関する様々な用語をこれでもかと暗記します。
なぜかといえば、そうして学ぶ単語が、今後の臨床の礎となるからです。
エビデンスを求めて、論文や教科書を調べるときにも、きちんと言葉が理解できていないとなんの意味もありませんし、的確な臨床のためには、人体構造に対する理解が不可欠です。
学校によって異なるようですが、医学科と併設されているところや協力施設のある養成校などでは実際にご遺体を解剖させていただいて、勉強をさせていただきます。
人体の中身が実際に目で見て体験できるというのは、本当に貴重な体験ですが、全ての学生ができるわけではないようです。
生理学
人間の体の機能を構造に対応させながら学びます。
これがわからないと、どこが障害されるとどんな病気になるのか、どんな障害が起こるのかということが理解できません。
作業療法の対象となる方は、作業療法対象の根拠となる疾患の他に、なんらかの合併症を抱えておられることが非常に多いので、内科的疾患についての理解が欠かせません。
生理学がわかっていないと、疾患に関する理解が非常に難しいはずです。
病理学
病気に関する学問です。
どんな病気があるのかについてと、その厳密な分類について学ぶことができます。
作業療法士が診断をつけることはあり得ないので、わかっていなくても致命的ではありません。
ありませんが、病気の機序や統計的なデータに関する知識が全くないのは、作業療法対象者の方の健康でいる権利を侵害することにつながりかねないのではと思います。
人間発達学
人間の正常な発達について学びます。
作業療法の対象となるような発達障害のある方の理解には、目安となる発達の理解が欠かせません。
運動学
生活支援を考えると、運動学がわからないのは致命的です。(例えるなら床屋さんが、ハサミの使い方がわからないといってるようなものです。)
作業を使って、狙った動きをうまく引き出せるかどうかは、運動学と解剖学の知識が適切に用いることができるかどうかが大きく影響するので、この内容が就職までに実用レベルに達してるかどうかで、その後の仕事の大変さは大きく変わります。
内科学
内科的な疾患を主要なものを一通り学びます。
作業療法の対象となる方は、社会の高齢化に伴ってなんらかの合併症を伴っていることが増えているので、非常に重要な学びであるということができます。
整形外科学
骨折などについて学びます。
かつては「肩から先は作業療法士」という謎の分担があったのですが、最近のトレンドは、姿勢を作ってから動作をプランニングするので、必要な知識が増えているといえます。
老年医学
高齢者の方と健康、疾患についての一般論を学びます。
社会の高齢化によって、何故作業療法士の需要が増えるのかということがわかると思います。
精神医学
精神科の病気について学びます。作業療法士は精神科の病院で働くことができるリハビリテーション職です。作業療法士が関わることになる人たちが抱える精神疾患について学ぶことができます。
神経内科学
主に、脳卒中や脳の病変など脳についての知識を学びます。脳の疾患は生活の障害に大きく影響するので、作業療法士にとっては重要なトピックです。
小児科学
小さな子供達の実際について学びます。作業療法士は療育施設でも働くことができます。子供が個別の発達課題をクリアする手助けをするために必要となる、小児科の内容について学びます。
作業療法専門分野
作業療法学概論
作業療法学とは、作業療法とはどのようなものかを規定する「背景」であり、それは極めて広範な内容となるため、大まかに作業療法と、作業療法学を理解するために学習します。
この授業で、作業療法というものの概念に初めて触れる学生も多いはずです。
そして、初めて触れる作業療法的な概念も数多く登場しますので、「よくわからない」という感想を抱きやすい学科でもあります。
しかし、新しいことを学ぶ以上わからないことがたくさん登場して当たり前なので、しっかりと食らいついて学べるかどうかが、その後の学習の効率性を大きく左右することになります。
作業療法学概論は、食らいついて理解しようとしなければなりません。
基礎作業学
作業療法の臨床において用いられる、古典的かつ典型的なアクティビティの学びを通して「作業」とはなんであるかを考え、学びます。
同時に、作業に対する考え方や切り口、評価方法を通して、活動を「作業」として用いるために必要なことは何かということを勉強します。
作業療法士にとって、「作業」は基礎であり、奥義でもあります。
どこまで行って終わりがないのが「作業」の奥深さ。
臨床に出てからも一生、学び、勉強し続けるところでもあります。
「作業」とは人間の行う生活行為の全てがその対象になる可能性があります。
つまり、その全てを教科書や座学で学習するのは不可能なので、「作業」についての基本的な考え方を学び、実践を考えるということが基礎作業学の要点ということになると思います。
日常生活活動学
日常生活周辺の、人間の活動について学びます。
例えば、「歩く」「食べる」など、本当に身近な動作です。
ともすると、日常生活で、これらの活動を全く意識することなく行なっているかもしれませんが、それだけに一度これらが障害されると、生活の再建・リハビリテーションは本当に大変です。
日常生活活動は身近なだけに、これらは生活に深く結びついており、生活再建やリハビリテーション、リカバリーを考える上で欠かすことができない知識です。働く場所によっては作業療法士が職務としてアプローチするの活動の中核となるのがこの日常生活活動動作です。
リハビリテーション職であれば、どの職種も勉強しますし、在宅や地域のフィールドで活躍する職種であればどの職種も勉強することになる内容でもあります。
一方で、現在も研究が積み重ねられている分野で、卒後の知識のアップデートが非常に重要な分野です。具体的には、日進月歩な自助具・福祉用具・福祉機器、装具などを作業療法対象者の生活改善のために適切にマッチングできるかどうかを、作業療法士の学びが左右することになります。
非常に重要な学びの基礎を学ぶ勉強です。
作業療法評価学
作業療法士が臨床で用いる評価の方法や、枠組みについて学びます。
作業療法士の対象者への関わりの起点となるのが、対象者の状態の評価です。
つまり作業療法においては、評価ができないと、介入ができないので、評価学を真面目に積み重ねておくことは非常に重要です。
また、適切な評価は、自身の適切な介入立案・支援における道しるべとなるだけでなく、対象者本人が自分のことを知る手立てを提供し、同僚や他職種が作業療法対象者のことを適切に理解・把握し、必要な支援を検討することに寄与することができます。
作業療法士にとって、評価を学び、その根底にある考え方を多く知っておくことは、適切な介入を行うためにとても重要です。
身体障害作業療法学
身体障害領域に分類される疾患を中心に、典型的な作業療法との関わりを学びます。
どのような疾患に対して、どのような介入・支援を、作業療法士が行うことができるのかということを学びます。
精神疾患と高次脳機能障害が混同されている場合があったり、精神科単科の病院においては病棟などでの骨折転倒などの後のリハビリテーションは作業療法士が行う為、どの領域で働く作業療法士であろうと学習することの必要性がますます高まっています。
義士装具学
切断術後に、失った手足の代わりとなるような、義肢装具について学びます。
義肢装具の制作は作業療法士の職務の一つとされています。(実際には、義肢装具士の方が制作してくださることが多いです。)
手の外科などでは、作業療法士が装具を作成することもあり、義肢装具士に適切な形で連携するためににも正しい理解と知識の蓄積が大切です。
精神障害作業療法学
精神疾患とともに生きる人に向けた作業療法について学びます。
認知症や高次脳機能障害をも精神障害の枠組みで考えることがある以上、全ての領域の作業療法士にとって必要な学びであります。
高齢化や、交通事故、週末期のうつなど、精神領域の考え方は、どの分野の作業療法士にも必須と言えます。
発達障害作業療法学
近年発達障害という言葉の認知が高まってきています。
一方で、発達障害の概念が拡張、整理され、作業療法の適切な関わり方が問われています。具体的には、老年期まで、発達障害の診断をされていないけれども、実は発達障害であったという人もおられます。そういった方々へ、いかに作業療法として貢献できるかということが、社会から求められるようになってきています。
そのため、その他の領域の作業療法士にとっても不可欠な学びが満載です。
身体障害領域においても、どの程度対象者が、自身の認知機能や学習能力を活用できるかということが作業療法の成果の高低に大きく影響しますが、そのための評価として、正常発達について知っておくことは、実際の臨床において非常に役に立ちます。
精神科においても、発達障害と診断されていない方が、二次障害として精神疾患を発症して外来に来られる例は、枚挙にいとまがありません。全ての領域の作業療法士が学ばなければならない領域です。
老年期作業療法学
高齢社会なので、重要性はいうまでもありませんでしょう。知らないと、作業療法士として臨床をする上で困ることが沢山あります。
例えば、きちんと本当の老化を理解していないと、都合の悪い変化をなんでも「老化」としてしまうことがあります。本当の老化とうまく付き合っていくための作業療法を提供するための学びだと思います。
高次脳機能障害作業療法学
身体障害作業領域や精神障害作業療法とオーバーラップしますが、より専門的に評価と介入について学びます。
高次脳機能障害は、認知機能障害として整理されており、知識のアップデートが必要な分野であると言えるでしょう。
作業療法研究法
作業療法士が、自身の実践を論文として形にする為の手段や方法について学びます。
これによって、自身の理解の促進と作業療法の発展に寄与する手段を得ます。
非常に重要な内容ですが、実際問題学生時代には書くだけに値するような内容がほとんどないと思われますので、卒後が大事な分野になると思います。
特に統計学的な内容については、自分で勉強するか詳しい人に支持してきちんと学んでエビデンスの示し方や、どんな研究がどの程度の信頼性があるのかということについては学んでおく必要があると思います。
作業学実習
実際に、「作業」として提供されることのあるアクティビティに学生自身が取り組んでみて、その感覚や体験を元にして学びを深めます。
陶芸、籐細工、七宝焼き、編み物、織物、木工などなどの中からいくつかに取り組むことが多いようです。
何実際に自分でものを作ることができるので、楽しいですが作業分析することの難しさに直面する貴重な学びの機会でもあります。
臨床実習
見学実習
言葉の通り、現場の作業療法士が働く様を見せてもらう実習です。
日数は、1日から1週間前後で学校によって差があります。
作業療法士(OTR)の先輩方のお仕事の様子を見学する実習です。本当に見させて頂くだけですが、真摯に現場から自分なりに学ぼうとすることが大切です。
技能的なことよりも、態度とか礼節・マナーが問われます。例えば、あいさつするとか、時間を守るとか、服装とかです。社会人としての、一般常識がどんなものなのかについてあらかじめ知っておくだけで良いでしょう。
実習後には、簡単なレポート提出があったり、そのレポートを用いた授業などが行われるところもあります。
準備することがあるとすれば、自分がどのようなことを学びたいのかについて事前にしっかりと確認しておくことくらいでしょうか。加えて、実習先についての情報収集を先輩や講師陣から簡単にしておきましょう。
ちなみに、キーワード「見学実習」でgoogle検索すると一番上に出てきた、目白大学の公式blogには、見学実習について以下のようにありました。
目標
職業人・作業療法学生としてふさわしい態度を身につける
目標達成のためには以下の4つが求められます。
①挨拶や時間を守るなどの礼儀の徹底
②対象者やスタッフに適切な対応をする
③意欲的に行動すること
④スタッフの仕事を見学し、作業療法士の仕事や役割について理解を深める目白大学 公式ブログ
評価実習(短期実習)
学校で学んだ評価学の知識を、現場の臨床で試すという名目の実習です。
実際に、病院などで作業療法の対象者の方を担当させていただき、その方の支援やその方向性を決定する為の評価を行います。具体的には対象者の方と関わらせていただく中で、学生が「気がついたこと」をレポートという形で情報化を行う実習になります。
期間は2〜3週間の間にというところが多いようです。
通常は、ケースバイザーとスーパーバイザー、もしくはケースバイザーのみを実習先の作業療法士が、無償ボランティアで対応します。
総合臨床実習(長期実習)
作業療法士として、必要な全てのことを学ぶ実習です。
評価、治療介入、再評価までの全てのプロセスを経験する実習になります。
作業療法学生(OTS)にとっては初めて実際に、患者様に対して、トータルで関わらせていただく機会ということになります。
学生の指導は通常は、ケースバイザーとスーパーバイザーを実習先の作業療法士が、無償ボランティアで対応します。
評価後の介入・支援だけでなく、作業療法士として実働で必要な動き方などについて学びます。
作業療法士養成校の教育課程における必修科目とその単位数
作業療法士教育課程における必修科目とその単位数は以下のとおりです。なお、備考として、実習時間の三分の二以上は病院又は診療所において行うこと、という定めがあります。
※()の中の数字は単位数。
1.基礎分野 (合計14単位)
(1)科学的思考の基盤
(2)人間と生活
2.専門基礎分野
(1)人体の構造と機能及び心身の発達 (12単位)
(2)疾病と障害の成り立ち及び回復過程の促進 (12単位)
(3)保健医療福祉とリハビリテーションの理念 (2単位)
3.専門分野
(1)基礎作業療法学(6単位)
(2)作業療法評価学(5単位)
(3)作業治療学(20単位)
(4)地域作業療法学(4単位)
(5)臨床実習(18単位)
合計
93単位
作業療法士国家試験
毎年2月のどこかで行われます。
自分の近くの試験会場に申し込むことになります。
詳細はgoogle検索で「作業療法士国家試験」と検索すると多分一番上に出てくるはずです。
この国家試験に合格することで、国から作業療法士としての免許を発行してもらうことができ、晴れて作業療法士の国家資格を取得することができます。
国家試験に合格しないと、再受験できるのは一年後になります。定年に今後も区切りがあると仮定すればですが、一年就職が遅れるだけでも生涯年収が200万円以上違うのです。
ちなみに、国家試験の合格率は9割前後ですから、残り1割にならないように絶対に合格したいところです。
作業療法士国家試験の勉強法については、ある程度戦略的にやることで効率化を測ることができるので、闇雲に取り組むのではなく、きちんと戦略を持ってやりましょう。
そうすることによって、下記のような就職活動(や学校によっては卒業論文)などの活動に取り組む時間を捻出するのみならず、遊びやバイトの時間も確保できると思います。
戦略的な作業療法士国家試験学習法については、この下の記事も参考にしてください。
高確率で合格できる短期間学習法 作業療法士国家試験対策
新卒作業療法士の就職活動 オマケその1
以下では、作業療法士養成校の新卒者の就職活動を書いて行きます。
作業療法学生(OTS)は、就職活動を実習や国家試験の勉強と並行して行うことになります。
また、慣例として、一つの施設から内定をもらったら、その他の施設の就職面接を行うことができないという、暗黙のルールがあります。
作業療法士は未だに売り手市場が続いているので、よほどのことがない限り就職できないということはない状態です。
ですが、条件の良い施設には職員が集まりやすいことから、早くから募集を打ち切ってしまうことが当然予想されますので、計画的に就職活動を早めから行っていくことは大切です。
新卒予定の就職活動の内容としては、
- 就職説明会や学校側に届いた求人の中から、自分の希望にマッチするところを選ぶ
- アポイントメントをとって、施設見学をする
- 良さそうなら、就職面接・試験の日取りを決める
- 就職面接・試験を受ける
- 合否や内定の通知が来る
という流れになります。
就職面接や試験については、こちらをご覧ください。
就職希望先から内定をもらうための作業療法士の就職面接・試験とその対策
なお、いくら内定していても、内定先によっては国家試験に落ちていたら、就職できないというところもあるので、何がなんでも国家試験には合格してください。
後輩に教えたら、役に立った実績のあるやり方なので、勉強苦手な人は、ぜひ読んで実践してください。
高確率で合格できる短期間学習法 作業療法士国家試験対策
作業療法士国家試験 合格発表
晴れて合格していれば、日本における作業療法士の国家資格が取得できたことになります。おめでとうございます。
公式の発表は、4月間際です。
実は、合格発表前に大体わかる!?作業療法士国家試験の合否
繰り返しますが、公式の発表は、4月間際です。その発表を待っていたのでは、いろいろと就職やその後のプランニングをものすごい短期間で行う必要性が生じるので、いろいろと不都合です。
では、実際はどのようにしているでしょうか。
実は国家試験を受験した作業療法学生(OTS)は、持ち帰った問題用紙と予備校などが当日に公表している正解予想を基にして自己採点を行います。
つまり、おおよその合否は、その当日にわかってしまうわけですね。
もっとも、自己採点の結果が合格基準ラインぎりぎりの作業療法学生(OTS)は合格発表当日まで眠れぬ夜を数えることになります。
そこから、仮免許が届き次第、晴れて作業療法士としての資格を活用して働くことができるようになります。
並行して、賞状の形式の本物の免許の発行も申請します。
以上の流れによって、作業療法学生(OTS)を経て新人作業療法士(OTR)が新しく誕生することになるのです。
最後に
作業療法士になるのも、大変ですし、なってからも大変なのす。
できれば「作業療法士になりたい」という明確なビジョンのある人に作業療法士養成校を受験していただきたいというのがサイト管理人の個人的な思いです。
作業療法士の卒後教育 オマケその2
このページでも何度も書いているように、卒後教育(作業療法士養成校を卒業した後のより深い学び)は、より良い臨床を行うために欠かすことができません。
作業療法士になった後も、必要な知識・技術は勉強し続ける必要があります。
その場、機会となるのが、例えば日本作業療法士協会とか各都道府県士会、あるいは有志の作業療法士が主催している研修会勉強会です。
なぜ卒後教育が重要かという点については以下に書いておきます。
コラム 卒後教育の重要さ
ぶっちゃけ話を一つ
「国家試験の勉強は国家試験のための勉強をしなさい」
という、教訓が母校にあります。
これは
「国家試験の勉強」は臨床では役に立たない、という意味です。
割り切って、勉強をしなさいという意味です。
学生の時分には、一瞬なるほどと思いましたが、しかし、おかしいと思いませんか。
じゃあ、何のための試験なのか、と。
国家試験はその性質上、作業療法士の質を担保するためのものであります。
しかし、それは必要最低限の知識の獲得にとどまっており、実際問題として必要な実務能力を担保するものではありません。
先の話で言えば、国家試験で出題される問題の答えは、あくまで「正解の可能性が高いもの」であって、「常に正解であるものとは限らない」ということです。
その「正解」を適切な根拠と分析によって見抜く力こそが、作業療法士の臨床に求められる実務能力と言えるでしょう。
国家試験のために勉強する専門用語の数々も、臨床ではあまり使えません。
知識のアップデートの円滑化や研究のためには非常に重要な専門用語。
しかし、それらは、たとえ事実や現象を厳密に記載した情報であったとしても、それをそのまま臨床に持ち込んで運用しようにも、対象者の方への伝達などを考えるとなかなか難しい現実があります。適切な言葉への言い換え変換が必須です。それは他職種連携においてもそうで、「作業療法士語」とでもいうべき、作業療法士間のみでわかる言葉のみをいくら勉強しても、実務能力は向上しません。
さらに言えば、作業療法士の養成校で学ぶことは、卒後の臨床に関する知識はもちろんですが、専門学校などにおいては特にそうですが、作業療法士国家試験に合格することに特化・焦点化した授業が行われていることがあります。これも学校によっては異なるので、入学を検討する段階で在校生に話を聞くなどして個別に確認していただきたいと思いますが。
そのような授業の知識は、なおのこと実際の臨床では役に立てづらいかもしれません。なぜなら、一問一答型の選択肢型の問題をこなすだけでは、各知識が実際に臨床で運用可能なレベルで適切に結びつけられないからです。
作業療法士の養成校で学ぶ知識は中核的かつ重要な知識のオンパレードですが、世の中がすごい速さで変わって行く昨今においては、作業療法実施に直結するその周辺知識のアップデートは必須です。
つまり、アップデートを怠ると「かつては正しかったけれど」「今は間違い」という臨床の手技を見抜けないまま、それが正しいと確信して臨床をしてしまうことになりかねないのです。
作業療法士になるには、人間の体や人の生活についての、基本的かつ普遍的な事柄を、作業療法士の養成校で学びます。しかし、その解釈は時代や当事者の方の生活が変われば変わるものであり、常に様々な知識の関連性をアップデートして「使える」ようにしておかなければなりません。
そのアップデートで大きな役割を果たすのが「卒後教育」です。
作業療法士個人が自分の努力で知識をアップデートするのには限界があるので、「卒後教育」として行われる勉強会や講習会などに参加することで、効率よく必要な学びを得ることができます。
ただしこの勉強会の参加費用は、各作業療法士の自腹となっているのです。やる気のある作業療法士とそうでない作業療法士の実力格差を拡大させてしまっているので、かなり問題なのですが。
いずれにせよ、自分が臨床の範囲とする内容を扱った卒後教育に一回も参加したことがないという作業療法士がいたら、自前でなんでもできてしまう天才か、イマイチな作業療法士かのどちらかです。
卒後教育、大事。
です。