精神科の集団OTでは、訴えの多い患者様に何処まで対応できるか?

はじめに

自分の所属する病院の精神科OTでは基本的に、集団の形をもちいています。

ところが、集団で提供するレクリエーションなどでは訴えの多い患者様に十分に対応することが困難な場合があります。

昨日、実際にそんな場面を経験したので、この場で共有したいと思います。

精神科作業療法の概要(集団編)

実習前の学生さんや一般的な生活を送っている方のためにちょっと精神科の作業療法がどんなモノなのかの概要を書いてみます。

基本的に、2時間の枠組みの中で作業療法としてさまざまな活動を提供しています。

うちの病院には作業療法室があり、そこに各病棟から患者様に出向いてもらって、そこで作業療法を提供しています。

集団を利用する形をとっているので、大体25〜50、多いときには60名程度の患者様に6名前後のスタッフが関わる形をとっています。

風船バレーをはじめとしたレクリエーションや、創作活動などを通して、その場で起こるさまざまな事象や関係性などをフルに活用しながら、それぞれの患者様の運動機能や精神症状の改善をめざしたり、それらの問題の原因が何処にあるのかを分析したりします。
(これがいわゆる、作業療法における評価と介入です。)

集団を用いることによる特性(メリット、デメリット)

最大のメリットとして、社会生活の中でおこるさまざまな事柄をその集団内で再現することが出来ます。

社会生活の基本である、自分自身をコントロールする能力や、対人交流、それらをなす自分自身の思考、特性などを幅広く表出、表現してもらうことで、包括的に様々な課題を設定し、それらに介入することができます。

同時に限られた時間やマンパワーで、多くの対象者に関わり課題解決につなげていくことができることも大きなメリットです。

その一方で、個別対応に比べて、個々へ集約した働きかけが疎になってしまうという特性があります。
心身機能や精神機能が不安定な急性期の方へ導入する際には、なんとなく単純に用いると刺激量などのコントロールが不十分で、精神症状の増悪などのリスクに繋がることもあり、注意が必要な手法とひろえもんは感じています。

事例紹介

昨日OTまで来ていただいたものの、個別対応が必要になった方がおられました。活動中継続して食事に関する訴えが聞かれ、集団内での活動継続が困難になったためです。

脳血管障害の既往のある方なのですが、見当識が希薄です。
「10時から昼ご飯だ」「ご飯はあるのか」と繰り返し訴えられたので、実際の食事時間を繰り返して何度も伝えたり、「ご飯はキチンと準備されていますよ」という声かけを複数回にわたって行うなどしましたが、なかなかご本人様の納得が得られず訴えが終止継続しました。

訴えの声量がかなり大きく、他の参加者の方への影響がきわめて甚大だったので、個別対応に切り替えて、活動終了時間まで継続的に関わりをおこなうことになりました。

自分の声かけだけでは、ご本人様にとって「食事はある」という確信を持つには至らなかったので、調理担当の方や病棟看護師、その人と比較的なじみのある病院スタッフからのコメントを都度もらうことで、なんとか安心感を引き出すことが出来、最終的には個別活動を行える状態にまで落ち着いてもらえました。

考えたこと

実際に関わらせていただいて上記の方の場合は、まずスタッフが個別に関わってご本人様の安心を引き出せることが大切になると感じました。

しかし、2時間の枠内で集団活動活動と並行してそれを実行するのは時間やマンパワーなどの制約上かなり厳しい事を改めて感じました。

「安心感を引き出せる」という視点で、今回の事例で治療効果を考えると、なかなか厳しい物があるというのが実感です。

以上を踏まえると集団を用いたOTでは
・集団を構成する人や、場への影響が非常に大きく
・声かけなど、少ない準備で行える介入に対する効果が低く
・不安感が強く、安定して過ごすことが難しい
ような方へのフォローは非常に作業療法士としての技量が問われると感じました。

さらにぶっちゃけると、今のひろえもんにとっては困難だと感じます。

「じゃあ、個別で関われよ」とお叱りを頂きそうですが、諸事情でそれも難しいという(おもに、算定上の)都合などがあります。

真に対象者目線に経つならば、算定外の領域に踏み出していくしかなさそうですが、持続可能性を考えると現実的ではないです。

個別算定の是否

算定が出来るようになったら即解決するかといえば、どうでしょうか。

たしかに、上記のような脳血管障害の患者様や進行性の疾患、例えば認知症の方など症状の急激な改善が認められない方対して、より効果的な治療介入は可能になるはずです。

しかし、「カネがない」と国が積極的に点数を削ろうとしている現状を考えると、継続的な個別介入ができるような算定にはならないで、例えば延べ日数1〜3ヶ月間のみといった、期間限定での算定が認められる程度が現実的だろうと思います。

この辺りに、継続的な関わりによって、修正や変容を比較的促していくことが可能な精神疾患の方との違いというか、難しさを感じます。

また、変に点数が高くなって、病院経営側から利益追求の道具されるのも嫌だなあと思うので、大変深刻かつ難しい問題です。

おわりに

今回ご紹介した事例においては、集団内での対応は困難な現実があると感じました。

しかしながら、法などの制度に依存した枠組みを提供している以上さけて通れない困難ではあります。

是非、いろいろな方に知恵を頂き、解決につなげたい問題です。


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