エビデンスが大切と言われて久しいですが、エビデンスレベルというものが理解できなくて困っている作業療法士はいませんか?
なんとなく大切そうだなーというレベルから、なんとなくわかったわ、というレベルまで、作業療法士がエビデンスレベルの概念を理解できることを目標にした記事になります。
エビデンスレベルの概念は、臨床においても論文においても非常に重要ですので、なんとなくでも理解しておきましょう。
エビデンスレベルがわかることのメリット
作業療法の研究では、臨床を文章に落とし込むというのが一つの大きな流れとしてあると思います。
これらが、症例報告、ケーススタディ、ケースシリーズなどと言われるものです。
こうした症例報告が、きちんとエビデンスとしての影響力を持つようにするにはどうしたらいいかがわかります。
また、論文を読むときに、その論文がどの程度信用できるのかをざっくり理解することができるようになります。
臨床では、確かな根拠を持って介入ができているという自信を強化してくれるものでもあり、きちんと自分の臨床に客観的な根拠を与えてくれるものであるといえます。
また、研究においては、自分の主張を強化するには、どうしたらいいかということがわかるようになりますので、論理的な思考力が身について、研究における無駄が減るはずです。
具体的なエビデンスレベルについて
以前、作業療法とエビデンスという記事を書きましたので、そちらで確認していただければと存じます。
見ていただくと、専門用語のオンパレードであり、初見では何が何やらわからないことがわかると思います。
専門用語の意味
まずは、エビデンスレベルの説明に登場する専門用語について、一つずつ注目していきます。というか、統計で出てくる言葉なので、ちゃんと説明しようとすると統計に対する理解が必要なはずなので、ここでもざっくりとした説明で勘弁していただければと思います。
専門家の意見
専門家の、長年の経験、個人的な勘、予測を含んでの意見ということになります。漁師さんとか農家さん、伝統工芸の職人さんなどの、「こうしたらこうなるよ」という見解などがこれにあたります。
作業療法でいえば、先輩やら上司やらの発言だったり、講演会の講師の発言だったりするでしょう。
研修会などに積極的に行く作業療法士も多いと思いますので、そのエビデンスはどうなってるのかを確認するのも意義があると思います。
症例報告
何かをする前と後を前後で比較して、「ここがこんな感じで変わりました」という報告が症例報告です。
要するに専門用語でかかれた、ノンフィクションの物語です。
事実を書き溜めるという意義があります。
処置群
作業療法でいうところの介入をする、対象者、または対象者たち、ということになります。
一人ではなく、特定の作業療法を受けた人をひとかたまりとみなしているから、群なのですね。
対照群
処置群に対して、比べるための基準になる人たちの集まりですね。多くの場合は、偽薬だったり、何もしなかったりします。
処置をすることの効果を比較によってあぶり出したいからです。
ケースコントロール研究
作業療法の効果で変わったのか、それとも自然にそのような変化が見られるのか。
それを証明するのは難しいと感じたことがある人は多いと思います。
しかし、それを証明するのがこのケースコントロール研究です。
ある人の集まりの中から、作業療法の特定の介入の影響がどの程度あるのかを分析することができます。具体的には、作業療法の有る無しと、変化の有る無しも分析して、4つの群ができるのです。
バラバラに書いてみると
- 作業療法受けた 変化があった
- 作業療法受けた 変化なし
- 作業療法受けてない 変化があった
- 作業療法受けてない 変化がなかった
の4パターンの群ができる
ので、ある変化が介入によるものなのか、相関関係があるのかということをあぶり出したいときに使います。
計算の理解には、多分ベイズ統計の理解が必要なのではしょります。
これは、物事が起こってしまったあとから、ある変化は何が原因だったのかの因果関係をあぶり出すのに使えるので、作業療法の特性上は便利な方法だと思っています。
ランダム割付
無作為化といったほうが、意味が直感的にわかりやすいと思います。
作業療法する人としない人を、恣意的にならないように、偏らないように対照群と処置群にランダムに分けるという作業です。
同じ母集団からランダムに取り出したら、それぞれの集団は条件が似通ったものになるでしょうという統計学マジックです。
コホート研究
ケースコントロール研究は起こってしまった出来事を振り返ってする研究でした。
コホート研究は、起こる前からずーっと追いかける研究です。
つまり、作業療法をする人としない人の群をそれぞれ処置群と対照群として用意して、何らかの変化が起こるまでの一定期間、継続的に追跡調査をする研究ということになります。
また、同じ時間の中で、同時に行うことができるので、その辺りの年代的な条件を揃えることができるのも強みです。
要因対照研究とも呼ばれています。
時間も人手もかかるのでコストがかかるのが問題な手法ですが、わかりやすい研究手法であり、多くの人がしっくりくるのがこの研究手法ではないでしょうか。
過去のコントロール
比較対象ですね。
時間軸を問わないので、昔の比較対象という意味でしょう。
同時コントロール
同じ時間軸の中の、比較対象という意味でしょう。多分。
ランダム化比較試験
デザインされた研究でないと難しいのですが、エビデンスレベルはかなり高い試験方法です。
なぜデザインされた研究でないと難しいかというと、あらかじめ作業療法をする群と作業療法じゃないそれっぽい何かをする群をランダムに割り振りして、研究者と対象者にはどの対象者に作業療法が行われていて、行われていいないのかがわからないようにする工夫が必要になるからです。
これを作業療法の臨床でやるのは、ぶっちゃけ無理です。
効果のない作業療法もどきを対象者にするってのはありえないからです。
さておき、ランダム化比較試験というのはつまり、誰に作業療法がされていて、誰にされていないのかがわからないようにして統計処理にかけるという方法をとることで、分析する側が恣意的にデータを統計処理することを防ぐことを意図した研究方法になります。
とにかく、純粋な因果関係をあぶり出すという話です。
メタアナリシス
ランダム化比較試験をたくさんやればやるほど、信頼性が高まるようにするためのそういう方法です。そういう方法をメタアナリシスと言います。
各種データを俯瞰して、導き出す手法のことをメタアナリシスと言います。
この方法では、ランダム化比較試験では、現れてこないようなエビエンスの誤りを正すことができる力があり、より正確性をきすことができます。
矢とは違って、1本なら折れないけど、三本束ねるとおれることもあるのです。
つまり、複数のランダム化比較試験をまとめて、メタアナリシスすることでより精密にエビデンスを精査し、その真偽をはっきりとさせることができます。
今、エビデンスレベルの最も高い研究・検証の方法ということになります。
何はともあれ「症例報告」からはじめよう
さて、用語を見ながら、エビデンスとはどういうもので、エビデンスレベルの高低はどのようなものかを見てまいりました。
勘違いして欲しくないのは、エビデンスレベルが低いから、参考にするに値しないという話ではありません。また、取り組むのに値しないというものでもありません。
千里の道も一歩からです。
分析をするにも、材料がいるのです。
その材料は、なんでしょうか。
たくさんの症例の報告ということになります。
そうした報告の糸をより合わせて、太い綱にしていくことが必要です。
そう考えると、作業療法のエビデンスのもとになるような、作業療法の論文はまだまだ数が足りないでしょう。
もちろん分野にもよるとは思いますが、症例報告がたくさん集まれば、あとはいろいろな研究をいろいろな作業療法士がしてくれると思います。
エビエンスが出てくれば、きちんと国に働きかけることもできます。
本当に作業療法が必要な人への作業療法の重要性を、誰に対しても明確にすることができます。
まずは、「事実をありのままに書く」という症例報告から作業療法士は、「エビデンス道」の1歩目を踏み出す必要があると思います。
コラム エビデンスレベルの高い論文を読むには
ランダム化比較試験のメタアナリシスかどうかを判別して読めばいいということですね。
もっとも、作業療法の介入に関する論文は、日本語のものはほとんどランダムか比較試験のメタアナリシスに至るものはないでしょう。
ですから、英語で論文検索されることをお勧めします。
世界レベルならちらほら、そういう論文もあります。
まとめ
エビデンスレベルは
統計とランダムと尺度がきっちりするほど
上がる。
となんとなく理解してたら、とりあえずOKです。
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