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認知症と運転 ── 免許返納を考えるとき、家族ができること

認知症と運転の問題について、免許返納の判断基準や家族からの伝え方、返納後の移動手段と暮らし方をわかりやすくご紹介します。

📅 2026年5月17日 更新読了目安 30分

この記事のポイント

  • 認知症の進行により注意力・判断力が低下し、運転事故のリスクは健常者の約2倍に上昇します
  • 道路交通法の改正で75歳以上は免許更新時に認知機能検査が義務化され、「認知症のおそれ」と判定されると医師の診断が必要です
  • 作業療法士は運転評価の専門職として、神経心理学的検査やドライビングシミュレーターを用いた評価を行います
  • 免許返納後は移動手段の確保と生活の再構築が不可欠であり、OTが地域生活の維持を支援します
  • 家族の伝え方は「取り上げる」ではなく「一緒に考える」姿勢が大切です

はじめに ── 運転は「自立」の象徴

自動車の運転は、単なる移動手段ではありません。買い物、通院、友人との交流など、ご本人の暮らしと社会とのつながりを支える大切な活動です。

だからこそ、「免許を返すか返さないか」の二者択一ではなく、運転をやめた後の暮らし方まで一緒に考えることが大切です。

認知症が運転能力に与える影響

認知症が進むと、運転に必要な力が少しずつ低下していきます。

運転に影響する変化
  • 注意力の低下歩行者や信号を見落とすことが増える
  • 判断力の低下右折のタイミングや車線変更の判断が難しくなる
  • 空間把握の低下車間距離や車幅感覚がわかりにくくなる
  • 記憶の低下いつもの道で迷う、標識の意味を忘れる

認知症=すぐに運転禁止ではありません

初期の段階では安全に運転できる方もいます。大切なのは、一律に禁止するのではなく、専門家に相談して個別に判断してもらうことです。

道路交通法と認知機能検査 ── 制度の仕組み

75歳以上の免許更新の仕組み

75歳以上の方は免許更新時に認知機能検査を受けることが義務づけられています。検査で「認知症のおそれあり」と判定されると、医師の診断を受けることになります。

ただし、この検査はあくまでスクリーニング(ふるい分け)です。「おそれなし」でも安心できるわけではなく、日頃の運転行動の変化にご家族が気づくことが大切です。

作業療法士による運転評価

作業療法士に運転の相談ができます

作業療法士は、運転を「生活行為」として評価する専門家です。認知機能の検査やシミュレーター、教習所での実車評価を通じて、安全に運転を続けられるかどうかを総合的に判断します。

運転評価の目的は「免許を取り上げること」ではなく、安全に移動し続けられる方法を一緒に考えることです。

免許返納の判断基準とタイミング

返納を検討すべきサイン

以下のような変化に気づいたら、専門家への相談を検討してみてください。

相談先としては、かかりつけ医作業療法士地域包括支援センターなどがあります。

家族からの伝え方 ── 「取り上げる」ではなく「一緒に考える」

どう伝えればいいの?

免許返納の話は、ご本人にとって自立に関わるとても大切な問題です。「やめなさい」という直接的な言い方は避けましょう。

「卒業式」として前向きに

免許返納時に発行される「運転経歴証明書」は身分証として使え、バスやタクシーの割引が受けられる自治体もあります。返納を「長年の安全運転の卒業式」として家族で記念する方法もあります。

免許返納後の暮らしを支える ── 移動手段の確保と生活再構築

運転をやめた後の暮らしをどう支える?

免許返納はゴールではなくスタートです。「外出できない」「人に会えない」状態が続くと、体も心も弱ってしまいます。

代わりの移動手段
  • コミュニティバス・乗合タクシー自治体が運営する低料金の移動手段です。路線と時刻表を確認しましょう
  • 宅配サービス・移動スーパー食材や日用品を届けてくれるサービスは、買い物の負担を大きく減らします
  • 家族や近隣の送迎定期的な買い物日を決めてルーティン化すると、お互いに無理なく続けられます
  • 電動シニアカー免許不要で近距離の移動に便利です。安全に使えるか作業療法士に相談できます

運転をやめることは、ご本人にとって大きな喪失体験です。「役に立たなくなった」と感じることがあります。地域のサロン活動や趣味の時間など、新しい楽しみや役割を一緒に見つけていくことが大切です。

認知症の方の運転問題 ── 社会全体で考える

運転の問題は、ご家族だけの課題ではありません。各地でコミュニティバスやボランティア送迎、宅配サービスなど、新しい移動手段が広がっています。お住まいの自治体にどのようなサービスがあるか、地域包括支援センターに相談してみてください。


まとめ

ポイント
  • 認知症と運転の問題は「返すか返さないか」の二者択一ではありません
  • ご本人の気持ちを受け止めつつ、専門家の力を借りて判断しましょう
  • 返納後の移動手段を事前に調べ、「足がなくなる」不安を軽減することが大切です
  • 「まだ大丈夫」と感じているうちから、少しずつ情報を集めておきましょう
ご家庭でできること
  • ご本人に心配を伝えるときは、かかりつけ医や作業療法士の力を借りましょう
  • お住まいの地域のコミュニティバスや乗合タクシーの路線と時刻表を調べておきましょう
  • 運転をやめた後も外出の機会を確保し、新しい楽しみや役割を一緒に見つけていきましょう

参考文献・ガイドライン
  • Dubinsky RM, Stein AC, Lyons K. Practice parameter: risk of driving and Alzheimer disease. Neurology. 2000;54(12):2205-2211.
  • Man-Son-Hing M, et al. A systematic review and meta-analysis of the association between Alzheimer disease and driving. Archives of Internal Medicine. 2007;167(7):644-650.
  • 警察庁「令和5年中の交通事故の発生状況」(2024年)
  • 警察庁「認知機能検査について」(道路交通法施行規則)
  • 藤田佳男ほか. 高齢ドライバーの運転中止と作業療法. OTジャーナル. 2019.
  • 日本作業療法士協会「運転と作業療法 実践ガイド」
  • 国土交通省「高齢者の移動手段の確保に関する検討会 中間とりまとめ」(2017年)

免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。

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