この記事のポイント
- 脳卒中の急性期リハビリは発症後24〜72時間以内に開始されます
- 早期離床は廃用症候群の予防と機能回復の促進に不可欠です
- 作業療法士はポジショニング、座位訓練、基本的ADL、上肢機能維持に介入します
- リスク管理(バイタルサイン・離床基準の遵守)が急性期OTの大前提です
- 回復期へのシームレスな引き継ぎが、その後のリハビリの質を左右します
「まだ動かさないほうがいいのでは」という誤解
脳卒中で入院した翌日から、リハビリの専門家がベッドサイドに来ることに驚かれるかもしれません。「まだ安静にしていたほうがいいのでは」と心配になるのは自然なことです。
しかし、現在の医療では発症後できるだけ早くリハビリを始めることが、回復にとって大切だとわかっています。作業療法士(OT)は、ご本人の状態を慎重に見ながら、安全にリハビリを進めていきます。
急性期リハビリの3つの目的
発症直後からリハビリを始めるのには、大切な理由があります。
- 体の衰えを防ぐ: ベッドに寝たままでいると、筋力や関節の動きがどんどん低下します。1週間の安静で筋力が10〜15%も落ちることがあります
- 日常の動作を取り戻す: 食事や顔を洗うといった動作を早い段階から練習することで、「自分でできた」という自信が回復を後押しします
- 手の動きを守る: 麻痺した手を使わないでいると、脳が「この手は使わない」と判断してしまいます。早い段階から手を動かすことが大切です
ご家族が心配するのは当然のことです。ただ、OTが行うリハビリは医師と連携し、バイタルサイン(血圧・脈拍など)を確認しながら進めています。無理をさせているのではなく、安全な範囲で体を動かしているのだとご理解ください。不安なことがあれば、遠慮なくOTに質問してください。
早期離床のエビデンス ── AVERT研究が示したもの
「発症直後からリハビリを始めたほうがいい」というのは、大規模な研究で確かめられています。
ただし、やみくもに早く、たくさんやればいいわけではありません。研究では、発症後24〜48時間ごろから、短い時間のリハビリを何回かに分けて行うのが最も効果的だとわかっています。
OTは、このエビデンスに基づいて、ご本人の体調に合わせた適切なタイミングと量でリハビリを進めています。
急性期OTの具体的な介入内容
OTが急性期に行う具体的なリハビリの内容をご紹介します。
体の位置を整える(ポジショニング)
ベッド上での体の位置を整えることは、地味に見えますが非常に大切です。
- 麻痺した腕が不自然な位置にならないよう、枕やクッションで支えます
- 手指が固まってしまわないよう、適切な位置に保ちます
- 褥瘡(床ずれ)を防ぐため、定期的に体の向きを変えます
座る練習
ベッドの上で少しずつ体を起こし、最終的にはベッドの端に腰掛ける練習をします。座れるようになることが、食事やトイレなどの日常動作を取り戻す第一歩です。
日常の動作の練習
体調が安定してきたら、食事や歯磨きなどの練習を始めます。「自分の手で食べられた」「自分で顔を洗えた」という体験が、回復への大きな励みになります。
手のリハビリ
麻痺した手を動かす練習を行います。動かない手を動く手で補助しながら動かしたり、OTが手を動かして関節が固まらないようにしたりします。
リスク管理 ── 急性期OTの大前提
急性期のリハビリでは、安全を第一に考えています。
- リハビリの前後に必ず血圧・脈拍・血中酸素濃度を測定します
- 体調が悪いときは無理をせず、リハビリの内容や時間を調整します
- 医師・看護師・理学療法士などと情報を共有し、チームで安全を確認しています
「今日はどんなリハビリをしましたか?」「今の目標は何ですか?」と聞いてみてください。ご家族がリハビリの内容を理解していることは、ご本人の安心感にもつながります。また、入院前の生活習慣や趣味、利き手などの情報は、OTにとって非常に参考になります。
急性期OTの1日の流れ
急性期の病院では、OTは朝から夕方まで、さまざまな患者さんのリハビリを行っています。
- 朝: 夜間の体調を確認し、その日のリハビリ計画を立てます
- 午前: ベッドサイドでリハビリを行います(座る練習、手のリハビリなど)
- 昼: 食事の場面で、自分で食べる練習をサポートします
- 午後: 引き続きリハビリを行い、新しく入院された方の評価も行います
- 夕方: ご家族への説明や、翌日の準備を行います
急性期では、患者さんの状態が日々変化します。昨日できなかったことが今日できるようになることもあります。OTはその変化を見逃さず、リハビリの内容を毎日調整しています。
回復期への引き継ぎ ── 急性期OTが果たす「橋渡し」の役割
急性期の病院での入院期間は、通常2〜4週間程度です。その後、多くの方は回復期リハビリテーション病棟に転院し、より集中的なリハビリに移行します。
急性期のOTは、回復期の病院に以下のような情報を引き継ぎます。
- 入院前の生活の様子や趣味
- 現在のリハビリの進み具合
- ご本人やご家族のご希望
この引き継ぎがしっかり行われることで、転院先でもスムーズにリハビリを続けることができます。
転院先のOTに伝えてほしい情報があります。入院前にご本人が好きだったこと、得意だったこと、自宅の間取り(段差の有無、トイレや浴室の位置など)をメモしておくと、回復期のリハビリに役立ちます。
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。