この記事のポイント
- 失語症の家族とは、短い文でゆっくり話す・「はい/いいえ」で答えられる質問をする・絵や写真を活用するなどの工夫で通じ合えます。子ども扱いや急かす対応は避けましょう
- 失語症は言語能力の障害であり、知能の障害ではありません
- 失語症にはいくつかのタイプがあり、それぞれコミュニケーションの特徴が異なります
- 家族の関わり方ひとつで、ご本人の回復やコミュニケーションの質が大きく変わります
失語症とは ── 「話せない」は「わからない」ではない
脳卒中や頭部外傷などにより、大脳の言語領域が損傷されると失語症が生じることがあります。失語症は「話す」「聴く」「読む」「書く」の言語機能全般に影響する障害です。
しかし、最も重要なのは次の点です。失語症は知能の障害ではありません。ご本人の思考力や判断力は保たれていることが多く、「伝えたいこと」「わかっていること」はたくさんあるのに、それを言葉にできないのです。
失語症は新たに年間約6万人が発症すると推計され、介護保険関連施設だけでも30万人規模とされる、決してまれではない障害です(出典: 厚生労働科学研究「失語症患者の実数調査」2016年度)。脳卒中患者の約3分の1に発症するとされ、システマティックレビューでも急性期の脳卒中患者の30%(中央値)に失語症がみられたと報告されています(出典: Flowers et al., 2016)。
脳卒中の後、ご家族が急に言葉を話せなくなったり、こちらの話が理解できなくなったりすることがあります。これが失語症です。
最も大切なことをお伝えします。失語症は「頭がおかしくなった」のではありません。考える力や判断する力は保たれていることが多いのです。伝えたいことはたくさんあるのに、それを言葉にする回路がうまく働かなくなっている状態です。
失語症は日本で新たに年間約6万人が発症すると推計され(厚生労働科学研究, 2014年度)、脳卒中の急性期では約30%にみられる(50研究の系統的レビュー, 2016年)、決してまれではない障害です。
失語症の種類を知る
失語症にはいくつかのタイプがあります。タイプによってコミュニケーションの特徴が異なるため、適切な関わり方も変わってきます。
運動性失語(ブローカ失語)
左前頭葉のブローカ野の損傷で生じます。言葉の理解は比較的保たれているが、話すことが困難なタイプです。
- 話そうとしても言葉が出てこない
- 単語を一語ずつ、途切れ途切れに話す
- 「あの……えっと……」と言葉を探す様子が見られる
- 読む力は比較的保たれていることが多い
ご本人は自分の言い間違いに気づくことが多く、もどかしさや苛立ちを感じやすい特徴があります。
感覚性失語(ウェルニッケ失語)
左側頭葉のウェルニッケ野の損傷で生じます。流暢に話すが、言葉の理解が困難なタイプです。
- なめらかに話すが、内容がまとまらない
- 単語を言い間違える(「時計」を「テレビ」と言うなど)
- こちらの話した内容が理解しにくい
- 自分の言い間違いに気づきにくい
周囲からは「しっかり話しているのに、なぜ通じないのか」と誤解されやすいタイプです。
全失語
広範な言語領域の損傷で生じます。話す・聴く・読む・書くのすべてが重度に障害されます。
- 話せる言葉がほとんどない
- 言葉の理解も困難
- 表情やジェスチャーでのコミュニケーションが中心になる
最も重いタイプですが、感情の理解や非言語的コミュニケーションの力は残っていることが多くあります。
健忘失語(失名辞失語)
物の名前が出てこないことが主な症状です。
- 「あれ、あの……」と言葉を探す
- 説明的に言い換える(「字を書くもの」=ペン)
- 日常会話は比較的スムーズに成り立つことも多い
- 他の失語症に比べると軽度に見えるが、ご本人のストレスは大きい
失語症にはいくつかのタイプがあります。ご家族の状態がどれに近いかを知ることで、より良い関わり方が見えてきます。
話したいのに言葉が出てこないタイプ(運動性失語)
- こちらの話は理解できていることが多い
- でも、自分から話そうとすると言葉が出てこない
- 「あの……えっと……」と言葉を探す様子が見られる
- ご本人はもどかしさを強く感じています
なめらかに話すが内容が伝わりにくいタイプ(感覚性失語)
- たくさん話すが、話がまとまらない
- 単語を言い間違えることが多い
- こちらの話が理解しにくい
- ご本人は言い間違いに気づきにくいことがある
話す・聴くの両方が困難なタイプ(全失語)
- 話せる言葉がほとんどない
- こちらの話の理解も難しい
- 表情やジェスチャーでのやりとりが中心になる
- 感情の理解は残っていることが多い
物の名前だけが出てこないタイプ(健忘失語)
- 「あれ、あの……字を書くもの」のように、名前の代わりに説明する
- 日常会話は比較的できるが、ご本人のストレスは大きい
ご家族がどのタイプに近いかは、担当の言語聴覚士(ST)やOTに確認してみてください。タイプに合った接し方がわかると、コミュニケーションがぐっと楽になります。
家族がやりがちなNG行動
ご家族の善意が、知らず知らずのうちにご本人を傷つけてしまうことがあります。
NG1: 子ども扱いをする
失語症のある方に対して、幼児に話しかけるようなゆっくりした口調や簡単すぎる言葉で話す方がいます。しかし失語症は知能の障害ではありません。年齢にふさわしい話し方で接することが、ご本人の尊厳を守ることにつながります。
NG2: 急かす
「早く言って」「何が言いたいの?」と急かすと、ご本人は焦りと緊張でさらに言葉が出にくくなります。沈黙を恐れず、ご本人のペースを待つことが大切です。
NG3: 代わりに全部話してしまう
ご本人が言葉を探しているとき、先回りして「○○のことでしょ?」と言ってしまいがちです。ときには助けになりますが、常にこれをすると、ご本人が自分で話す機会を奪ってしまいます。言葉を探す努力そのものがリハビリの一部です。
NG4: 本人の前で「この人はもう話せないから」と説明する
ご本人の前で第三者に障害を説明する際、あたかも「理解できない人」のように扱ってしまうことがあります。言葉が出なくても、周囲の会話は理解していることが多いのです。
NG1: 子ども扱いをする
「ごはん、たーべーるー?」のように幼児に話しかけるような口調で話していませんか。失語症は知能の障害ではありません。大人として、普通の話し方で接してください。
NG2: 急かす
「早く言って」「何が言いたいの?」と急かすと、焦りでさらに言葉が出にくくなります。ゆっくり待ってあげてください。沈黙は悪いことではありません。
NG3: 代わりに全部話してしまう
言葉を探しているとき、つい先回りして「○○でしょ?」と言ってしまいがちです。助けになることもありますが、いつもそうしていると、ご本人が話す機会を奪ってしまいます。
NG4: 本人の前で「この人は話せないから」と説明する
病院や買い物先で、ご本人の前でそう言っていませんか。言葉が出なくても、周囲の会話はわかっていることが多いのです。とても傷つく行為です。
「言葉が出ないだけで、中身は以前と同じ」。この認識を家族全員で共有してください。接し方が自然と変わります。
コミュニケーションの工夫 ── 今日からできる7つの方法
失語症のある方とのコミュニケーションは、少しの工夫で大きく改善します。
工夫1: 短い文でゆっくり話す
長い文は理解しにくくなります。1つの文に1つの情報を心がけてください。
- × 「明日の午後、お姉さんが来るから、リビングを片付けて、お茶菓子も用意しておこうね」
- ○ 「明日、お姉さんが来ます」→(反応を待つ)→「午後に来ます」
工夫2: 「はい/いいえ」で答えられる質問を使う
- × 「今日は何が食べたい?」(開かれた質問)
- ○ 「カレーがいい?」→「うどんがいい?」(閉じた質問)
ただし、常に「はい/いいえ」だけだとご本人の自己決定の幅が狭まります。状況に応じて選択肢を2〜3個提示する方法も併用してください。
工夫3: ジェスチャーや表情を活用する
言葉だけに頼らず、身振り手振り、表情、うなずきを積極的に使いましょう。ご本人のジェスチャーも大切なコミュニケーション手段として受け止めてください。
工夫4: 絵カード・写真を活用する
日常的によく使う物や場所の写真カードを用意しておくと、指差しでコミュニケーションが取れます。スマートフォンの写真アルバムを活用するのも効果的です。
工夫5: 書いて伝える
話し言葉が難しくても、文字なら読める・書ける方もいます。紙とペンを常に手元に置き、キーワードを書いて伝えることを試みてください。
工夫6: 実物を見せる
「薬を飲みましたか?」と聞くより、実物の薬を見せながら聞く方が理解しやすくなります。
工夫7: 静かな環境をつくる
テレビがついている、複数人が同時に話しているなど、雑音のある環境では言葉の理解がさらに困難になります。大切な会話をするときは、テレビを消し、静かな環境を整えましょう。
少しの工夫で、コミュニケーションがぐっと楽になります。今日から試してみてください。
工夫1: 短い文でゆっくり話す
1つの文に1つの情報にしましょう。
- × 「明日お姉さんが来るからリビング片付けてお茶菓子も用意しようね」
- ○ 「明日、お姉さんが来ます」→(反応を待つ)→「午後に来ます」
工夫2: 「はい/いいえ」で答えられる質問を使う
- × 「今日は何が食べたい?」
- ○ 「カレーがいい?」→「うどんがいい?」
選択肢を2〜3個出して、指差しで選んでもらう方法もおすすめです。
工夫3: ジェスチャーや表情を使う
言葉だけに頼らず、身振り手振り・表情・うなずきを活用しましょう。ご本人のジェスチャーも大切なメッセージです。
工夫4: 絵カード・写真を活用する
よく使う物や場所の写真をスマートフォンに入れておくと、指差しでやりとりできます。
工夫5: 書いて伝える
話し言葉が難しくても、文字なら通じることがあります。紙とペンを常に手元に置いておきましょう。
工夫6: 実物を見せる
「薬を飲んだ?」と聞くより、薬の実物を見せながら聞く方がわかりやすくなります。
工夫7: 静かな環境をつくる
テレビがついていると言葉の理解が難しくなります。大切な話をするときはテレビを消してください。
よく使う言葉(「トイレ」「お茶」「痛い」「暑い/寒い」など)を絵や写真つきでノートにまとめておくと、指差しでやりとりできます。担当のSTやOTに相談すると、ご本人に合ったノートの作り方を教えてもらえます。
作業療法士(OT)の役割 ── 生活場面でのコミュニケーション支援
失語症のリハビリというと言語聴覚士(ST)による言語訓練が中心と思われがちですが、OTには生活場面でのコミュニケーション支援という重要な役割があります。
生活動作の中でのコミュニケーション練習
OTは食事・入浴・着替えなどの日常の活動場面を通じて、実用的なコミュニケーション能力の回復を支援します。訓練室での練習だけでなく、実際の生活の中で「伝わった」という成功体験を積み重ねることが重要です。
環境調整
- コミュニケーションボードや絵カードの作成・活用指導
- 自助具の選定(文字を書きやすいペン、タブレット端末の活用など)
- 家庭内の表示の工夫(部屋のラベル、スケジュールボードなど)
家族指導
家族に対して、失語症のタイプに応じたコミュニケーション方法を具体的に指導します。「こう聞くと伝わりやすい」「この場面ではこの方法が有効」といった、生活に密着した実践的なアドバイスを行います。
社会参加の支援
買い物、外食、趣味活動など、社会参加の場面でのコミュニケーションを支援します。外出先で困ったときの対処法や、周囲に失語症を説明するためのカードの作成なども行います。
作業療法士(OT)は、日常生活の中でのコミュニケーションを支援する専門家です。
- 生活動作の中での練習: 食事や着替えなどの場面で、実際に「伝わった」経験を積み重ねます
- 便利な道具の提案: コミュニケーションボード、絵カード、タブレットなど、ご本人に合った道具を一緒に選びます
- 家族への指導: ご家族に、ご本人に合った話しかけ方や接し方を具体的にお伝えします
- 外出の支援: 買い物や外食の場面で困らないための準備をお手伝いします
言語聴覚士(ST)との連携
失語症のリハビリにおいて、OTとSTは車の両輪のような関係です。
| 職種 | 主な役割 |
|---|---|
| 言語聴覚士(ST) | 言語機能の評価と訓練(発話訓練、聴覚理解訓練、読み書き訓練) |
| 作業療法士(OT) | 生活場面での実用的コミュニケーション支援、環境調整、自助具の選定 |
STが訓練室で鍛えた言語能力を、OTが実際の生活場面で活かせるように橋渡しする。この連携が効果的なリハビリにつながります。
退院後も、STによる外来リハビリや訪問リハビリと、OTによる生活場面での支援を組み合わせることで、より実践的なコミュニケーション能力の向上が期待できます。
失語症のリハビリでは、2つの専門家が協力してご本人を支えます。
| 専門家 | 何をしてくれるか |
|---|---|
| 言語聴覚士(ST) | 話す・聴く・読む・書くの訓練を行います |
| 作業療法士(OT) | 日常生活の中で言葉を使う練習や環境の調整をします |
STが訓練で鍛えた力を、OTが実際の暮らしの中で使えるようにサポートする。この2人の連携が大切です。
退院後も、ことばのリハビリは続けられます。外来リハビリや訪問リハビリの制度について、退院前に担当のSTやOTに相談しておきましょう。支援制度まるわかりガイドもあわせてご確認ください。
回復の見通しと長期的な関わり
回復の経過
失語症の回復は、発症後最初の3〜6か月が最も大きな改善が見られる時期です。しかし、その後も緩やかな回復は続きます。発症から数年経っても、適切なリハビリと環境調整によってコミュニケーション能力が向上することは珍しくありません。
回復の程度は、損傷の部位や範囲、年齢、発症前の言語能力、リハビリへの取り組み、周囲の環境など、さまざまな要因に左右されます。
家族の長期的な関わり方
失語症との付き合いは長期にわたります。家族に求められるのは、「治す」ことではなく「通じ合う方法を一緒に探し続ける」姿勢です。
- 言語機能の完全な回復を目標にするのではなく、「伝わること」を目標にする
- ご本人のできることに注目し、できることを活かしたコミュニケーション方法を探す
- 家族自身のストレスマネジメントも忘れない
- 失語症の当事者会や家族会に参加し、同じ経験を持つ方と情報交換する
家族自身のケア
介護するご家族の負担は大きなものです。「言いたいことがわからない」「何度も聞き返してしまう」というストレスは、長期にわたると疲弊につながります。
- 家族だけで抱え込まず、専門家や支援機関に相談する
- レスパイトケア(一時的な休息)を活用する
- 自分自身の時間を意識的に確保する
回復には時間がかかります
失語症の回復は、発症後最初の3〜6か月が最も改善が見られる時期です。でも、その後も回復はゆっくりと続きます。数年経っても改善する方はたくさんいます。焦らないでください。
「治す」ではなく「通じ合う方法を探す」
失語症との付き合いは長くなります。大切なのは、言葉が完全に戻ることを目標にするのではなく、「どうすれば伝わるか」を一緒に探し続けることです。
- 言葉以外の方法(ジェスチャー、絵、写真)も立派なコミュニケーションです
- ご本人の「できること」に注目してください
- 失語症の当事者会や家族会に参加すると、同じ経験を持つ方から具体的なヒントが得られます
ご家族自身も大切にしてください
「言いたいことがわからない」「何度も聞き返してしまう」。こうしたストレスが積み重なると、ご家族も疲れてしまいます。
- 一人で抱え込まず、担当のOTやSTに相談してください
- ときには介護から離れて休む時間も必要です
- ご家族が元気でいることが、ご本人にとっても一番の支えです
相談先・支援リソース一覧
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| かかりつけの病院(リハビリテーション科) | 失語症の評価とリハビリ |
| 地域包括支援センター | 介護保険サービスの相談 |
| 日本失語症協議会 | 当事者・家族の交流、情報提供 |
| 失語症友の会(各地域) | 当事者同士の交流の場 |
| 高次脳機能障害支援センター | 各都道府県に設置、専門的な相談 |
使える制度については支援制度まるわかりガイドもあわせてご確認ください。
失語症は目に見えにくい障害です。外見は以前と変わらないため、「なぜ話せないのか」「怠けているのでは」と周囲に誤解されることもあります。
OTは、ご本人と家族が「言葉に頼らなくても通じ合える方法」を見つけるお手伝いをします。言葉が出なくても、伝えたい気持ちはあります。その気持ちに寄り添い、一緒にコミュニケーションの方法を探していきましょう。
ご家族の方へ ── 大切なポイントのまとめ
- 失語症は言語の障害であり、知能の障害ではありません。ご本人の考える力は保たれています
- 子ども扱い・急かす・代わりに話すなどのNG行動を避け、大人として接してください
- 短い文で話す、はい/いいえで答えられる質問を使う、絵や写真を活用するなどの工夫が効果的です
- OTとSTが連携して、訓練室でも日常生活でもリハビリを支えます
- 回復には時間がかかりますが、数年経っても改善は続きます。焦らず「通じ合う方法」を探し続けてください
- 厚生労働科学研究「失語症患者の障害者認定に必要な日常生活制限の実態調査及び実数調査等に関する研究」(平成26年度。年間新規発症約6万人、うち約3.6万人に後遺症)
- Flowers HL, et al. Poststroke aphasia frequency, recovery, and outcomes: a systematic review and meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2016;97(12):2188-2201(急性期30%・リハビリ期34%)
- 厚生労働科学研究成果データベース「失語症患者の障害者認定に必要な日常生活制限の実態調査及び実数調査等に関する研究」(2016年度)
- Flowers HL, et al. Poststroke Aphasia Frequency, Recovery, and Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2016;97(12):2188-2201.
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この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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