この記事のポイント
- 失語症は言語能力の障害であり、知能の障害ではありません
- 失語症にはいくつかのタイプがあり、それぞれコミュニケーションの特徴が異なります
- 家族の関わり方ひとつで、ご本人の回復やコミュニケーションの質が大きく変わります
失語症とは ── 「話せない」は「わからない」ではない
脳卒中の後、ご家族が急に言葉を話せなくなったり、こちらの話が理解できなくなったりすることがあります。これが失語症です。
最も大切なことをお伝えします。失語症は「頭がおかしくなった」のではありません。考える力や判断する力は保たれていることが多いのです。伝えたいことはたくさんあるのに、それを言葉にする回路がうまく働かなくなっている状態です。
失語症のある方は全国に約50万人いるとされています。脳卒中になった方の約3分の1に発症する、決してまれではない障害です。
失語症の種類を知る
失語症にはいくつかのタイプがあります。ご家族の状態がどれに近いかを知ることで、より良い関わり方が見えてきます。
話したいのに言葉が出てこないタイプ(運動性失語)
- こちらの話は理解できていることが多い
- でも、自分から話そうとすると言葉が出てこない
- 「あの……えっと……」と言葉を探す様子が見られる
- ご本人はもどかしさを強く感じています
なめらかに話すが内容が伝わりにくいタイプ(感覚性失語)
- たくさん話すが、話がまとまらない
- 単語を言い間違えることが多い
- こちらの話が理解しにくい
- ご本人は言い間違いに気づきにくいことがある
話す・聴くの両方が困難なタイプ(全失語)
- 話せる言葉がほとんどない
- こちらの話の理解も難しい
- 表情やジェスチャーでのやりとりが中心になる
- 感情の理解は残っていることが多い
物の名前だけが出てこないタイプ(健忘失語)
- 「あれ、あの……字を書くもの」のように、名前の代わりに説明する
- 日常会話は比較的できるが、ご本人のストレスは大きい
ご家族がどのタイプに近いかは、担当の言語聴覚士(ST)やOTに確認してみてください。タイプに合った接し方がわかると、コミュニケーションがぐっと楽になります。
家族がやりがちなNG行動
ご家族の善意が、知らず知らずのうちにご本人を傷つけてしまうことがあります。
NG1: 子ども扱いをする
「ごはん、たーべーるー?」のように幼児に話しかけるような口調で話していませんか。失語症は知能の障害ではありません。大人として、普通の話し方で接してください。
NG2: 急かす
「早く言って」「何が言いたいの?」と急かすと、焦りでさらに言葉が出にくくなります。ゆっくり待ってあげてください。沈黙は悪いことではありません。
NG3: 代わりに全部話してしまう
言葉を探しているとき、つい先回りして「○○でしょ?」と言ってしまいがちです。助けになることもありますが、いつもそうしていると、ご本人が話す機会を奪ってしまいます。
NG4: 本人の前で「この人は話せないから」と説明する
病院や買い物先で、ご本人の前でそう言っていませんか。言葉が出なくても、周囲の会話はわかっていることが多いのです。とても傷つく行為です。
「言葉が出ないだけで、中身は以前と同じ」。この認識を家族全員で共有してください。接し方が自然と変わります。
コミュニケーションの工夫 ── 今日からできる7つの方法
少しの工夫で、コミュニケーションがぐっと楽になります。今日から試してみてください。
工夫1: 短い文でゆっくり話す
1つの文に1つの情報にしましょう。
- × 「明日お姉さんが来るからリビング片付けてお茶菓子も用意しようね」
- ○ 「明日、お姉さんが来ます」→(反応を待つ)→「午後に来ます」
工夫2: 「はい/いいえ」で答えられる質問を使う
- × 「今日は何が食べたい?」
- ○ 「カレーがいい?」→「うどんがいい?」
選択肢を2〜3個出して、指差しで選んでもらう方法もおすすめです。
工夫3: ジェスチャーや表情を使う
言葉だけに頼らず、身振り手振り・表情・うなずきを活用しましょう。ご本人のジェスチャーも大切なメッセージです。
工夫4: 絵カード・写真を活用する
よく使う物や場所の写真をスマートフォンに入れておくと、指差しでやりとりできます。
工夫5: 書いて伝える
話し言葉が難しくても、文字なら通じることがあります。紙とペンを常に手元に置いておきましょう。
工夫6: 実物を見せる
「薬を飲んだ?」と聞くより、薬の実物を見せながら聞く方がわかりやすくなります。
工夫7: 静かな環境をつくる
テレビがついていると言葉の理解が難しくなります。大切な話をするときはテレビを消してください。
よく使う言葉(「トイレ」「お茶」「痛い」「暑い/寒い」など)を絵や写真つきでノートにまとめておくと、指差しでやりとりできます。担当のSTやOTに相談すると、ご本人に合ったノートの作り方を教えてもらえます。
作業療法士(OT)の役割 ── 生活場面でのコミュニケーション支援
作業療法士(OT)は、日常生活の中でのコミュニケーションを支援する専門家です。
- 生活動作の中での練習: 食事や着替えなどの場面で、実際に「伝わった」経験を積み重ねます
- 便利な道具の提案: コミュニケーションボード、絵カード、タブレットなど、ご本人に合った道具を一緒に選びます
- 家族への指導: ご家族に、ご本人に合った話しかけ方や接し方を具体的にお伝えします
- 外出の支援: 買い物や外食の場面で困らないための準備をお手伝いします
言語聴覚士(ST)との連携
失語症のリハビリでは、2つの専門家が協力してご本人を支えます。
| 専門家 | 何をしてくれるか |
|---|---|
| 言語聴覚士(ST) | 話す・聴く・読む・書くの訓練を行います |
| 作業療法士(OT) | 日常生活の中で言葉を使う練習や環境の調整をします |
STが訓練で鍛えた力を、OTが実際の暮らしの中で使えるようにサポートする。この2人の連携が大切です。
退院後も、ことばのリハビリは続けられます。外来リハビリや訪問リハビリの制度について、退院前に担当のSTやOTに相談しておきましょう。支援制度まるわかりガイドもあわせてご確認ください。
回復の見通しと長期的な関わり
回復には時間がかかります
失語症の回復は、発症後最初の3〜6か月が最も改善が見られる時期です。でも、その後も回復はゆっくりと続きます。数年経っても改善する方はたくさんいます。焦らないでください。
「治す」ではなく「通じ合う方法を探す」
失語症との付き合いは長くなります。大切なのは、言葉が完全に戻ることを目標にするのではなく、「どうすれば伝わるか」を一緒に探し続けることです。
- 言葉以外の方法(ジェスチャー、絵、写真)も立派なコミュニケーションです
- ご本人の「できること」に注目してください
- 失語症の当事者会や家族会に参加すると、同じ経験を持つ方から具体的なヒントが得られます
ご家族自身も大切にしてください
「言いたいことがわからない」「何度も聞き返してしまう」。こうしたストレスが積み重なると、ご家族も疲れてしまいます。
- 一人で抱え込まず、担当のOTやSTに相談してください
- ときには介護から離れて休む時間も必要です
- ご家族が元気でいることが、ご本人にとっても一番の支えです
相談先・支援リソース一覧
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| かかりつけの病院(リハビリテーション科) | 失語症の評価とリハビリ |
| 地域包括支援センター | 介護保険サービスの相談 |
| 日本失語症協議会 | 当事者・家族の交流、情報提供 |
| 失語症友の会(各地域) | 当事者同士の交流の場 |
| 高次脳機能障害支援センター | 各都道府県に設置、専門的な相談 |
使える制度については支援制度まるわかりガイドもあわせてご確認ください。
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。