この記事のポイント
- 認知症の方にとって「何もすることがない」状態はBPSD(行動・心理症状)を悪化させる要因になります
- 「意味のある活動」とは本人の人生の歴史や好みに基づいた、その人らしい活動のことです
- 完成度や成果ではなく、活動の「過程」を楽しむことが大切です
「何もしないで座っている」は安静ではありません
認知症のご家族が一日中テレビの前に座っている、何もせずにぼんやりしている。「静かだからいいか」と思うかもしれません。
しかし実は、「何もすることがない」状態が続くと、不安や焦り、徘徊などの症状が出やすくなることがわかっています。
作業療法士(OT)は、ご本人にとって「意味のある活動」を見つけ、暮らしの中に取り入れるお手伝いをする専門家です。
「意味のある活動」とは何か
「意味のある活動」とは、ご本人の人生の歴史や好みに合った活動のことです。
- 元教師だった方 → 文字を書く、本を整理する
- 料理が得意だった方 → 野菜の皮むき、味見をする
- 園芸が好きだった方 → 花の水やり、土に触れる
- 几帳面な方 → タオルをたたむ、食器を並べる
大切なのは、上手にできるかどうかではありません。活動に参加している「過程」そのものに意味があります。タオルがきれいにたためなくても、「たたもうとする行為」がご本人の役割になるのです。
活動を見つけるための3つの視点
視点1: 人生の歴史をたどる
ご本人が若い頃に好きだったこと、得意だったことを思い出してみてください。
- 若い頃に夢中になったことは?
- お仕事で得意だったことは?
- ご家庭でどんな役割を担っていましたか?
- 季節ごとの楽しみは何でしたか?
こうした記憶の中に、今の活動のヒントがあります。
視点2: 「できる」レベルに合わせる
活動は、ご本人の「今できるレベル」に合わせることが大切です。
- 初期: 簡単な料理、園芸、手芸など手順のある活動
- 中期: 野菜を洗う、タオルをたたむなどシンプルな活動
- 後期: 音楽を聴く、手触りのよいものに触れるなどの感覚的な活動
「できない」体験をさせないことがポイントです。「ちょっと手伝ってもらえますか」と頼む形にすると、ご本人の自信を守れます。
視点3: 生活の中に自然に組み込む
特別な時間をつくる必要はありません。毎日の生活の中に自然に組み込むのがコツです。
- 朝食後に新聞を開く(読めなくても「習慣」が心地よさにつながります)
- 洗濯物を一緒にたたむ
- 「お箸を並べてもらえますか」と声をかける
- 散歩の途中で季節の花を眺める
「やりましょう」と指示するのではなく、「手伝ってもらえますか」「一緒にやりませんか」と声をかけてみてください。ご本人が「役に立っている」と感じられる言い方が効果的です。断られたら無理強いせず、時間を置いてまた声をかけてみましょう。
活動の具体例
家のことを一緒にする
- タオルや衣類をたたむ
- テーブルを拭く
- 食器を並べる
- 野菜の皮むき
楽しみ・趣味の活動
- 塗り絵、貼り絵
- 花の水やり
- 音楽を聴く、一緒に歌う
- 昔の写真アルバムを一緒に見る
心地よい刺激(症状が進んだ方にも)
- ハンドマッサージ
- 好きな香りを楽しむ
- 肌触りのよいものに触れる
- 窓を開けて風を感じる
やってはいけない関わり方
注意
以下の関わり方は、ご本人の自尊心を傷つけ、逆効果になることがあります。
- テスト的な質問: 「これ何かわかる?」「今日は何曜日?」と試すような聞き方
- 子ども扱い: 幼児向けの教材や、明らかに簡単すぎる活動の提供
- 失敗の指摘: 「違うでしょ」「それじゃダメ」という声かけ
- 強制: 「やりなさい」「座っていなさい」と無理に活動させること
作業療法士に相談するメリット
「何をさせたらいいかわからない」と感じたら、OTに相談してみてください。
- ご本人の「できること」を見つけ、それに合った活動を提案します
- 活動の声かけの仕方を具体的にアドバイスします
- ご自宅の環境を見て、安全に活動できる工夫を提案します
デイサービスや訪問リハビリにOTがいることが多いので、担当のケアマネジャーに相談してみてください。
ご家族の方へ ── 大切なポイントのまとめ
- 「何もしない」状態が続くと、不安や焦りなどの症状が悪化しやすくなります
- ご本人の人生の歴史や好みに合った活動を選ぶことが大切です
- 完成度ではなく「過程」を大切にしてください。たたむ行為自体に意味があります
- 「手伝ってもらえますか」と声をかけ、役割を感じてもらう工夫をしましょう
- 何をさせたらいいかわからないときは、作業療法士に相談してみてください
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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