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家族支援#作業療法#自動車運転#高次脳機能障害#IADL#高齢者

病気やけがの後、車の運転はまた再開できる?

脳卒中などの後でも、順を追った確認を経て運転に戻れる方がいます。再開までの5つのステップ、まずどこに相談すればよいか、運転を助ける装置と費用の助成、免許返納後の移動手段まで、ご本人・ご家族の疑問にお答えします。

📅 2026年5月19日 公開・2026年7月27日 更新⏱ 読了目安 31分

この記事のポイント

  • 脳卒中や高次脳機能障害の後でも運転をあきらめる必要はなく、主治医の判断のもとで神経心理学的検査・ドライビングシミュレーター・実車評価という段階的な評価を経て、運転を再開できる場合があります
  • 自動車運転は最も複雑なIADL(手段的日常生活活動)のひとつであり、身体・認知・視覚・心理の機能が高度に統合される作業です
  • 身体障害がある方には運転補助装置(手動運転装置・左アクセル等)による運転継続の選択肢があります
  • 免許返納後は「運転できない」で終わらせず、地域での移動手段(コミュニティモビリティ)を一緒に考えることが作業療法士の役割です

はじめに──運転は「生活そのもの」

車の運転は、ただの移動手段ではありません。買い物、通院、家族の送り迎え、趣味の外出——運転は暮らしの自由と、人とのつながりを支えるものです。だからこそ、病気やけがのあとで「もう運転できないのだろうか」と不安になるのは、とても自然なことです。

はじめにお伝えしたいのは、脳卒中などの後でも、運転に戻れる方はいますということです。ただし、自分の判断だけで再び運転席に座るのは危険です。主治医に相談し、決められた順序で「今の状態で安全に運転できるか」を確かめていくことが大切です。

作業療法では、運転を応用的な生活動作のひとつと考えます。食事や着替えよりもずっと複雑で、体・頭・目・気持ちのすべてを同時に使う活動だからです。

このページは、運転と作業療法の全体像をまとめた案内役の記事です。もっと詳しく知りたいテーマは、次の記事もあわせてお読みください。

運転に必要な心身の機能──OTの作業分析

ふだん何気なく行っている運転ですが、実はたくさんの力を同時に使うとても複雑な活動です。作業療法士は、この一つひとつの力を分けて確かめていきます。

運転に使われている力
  • 体を動かす力 — ハンドルを回す、アクセルとブレーキを踏み替える、後ろを振り返って確認する
  • 注意を配る力 — 前を見ながらミラーも確認し、速度も標識も同時に把握する
  • 素早く判断する力 — 飛び出しや信号の変化に、考えるより先に反応する
  • 距離や空間をつかむ力 — 車間距離、車幅、駐車のときの位置関係を正しく感じ取る
  • 見る力 — 標識や歩行者が見える視力と、横から近づくものに気づく視野の広さ
  • 気持ちを保つ力 — あおられても焦らず、自分の限界を正しく分かっていること

なかでも大切なのが「同時にいくつものことへ気を配る力」です。前の車を見ながらミラーを確認し、速度を調整し、標識を読み、同乗者と話す——運転中はこれを休みなく続けています。脳卒中や頭のけがの後は、体の動きが良くなっても、この力だけが戻りきっていないことがあります。「体は動くのに運転はまだ早い」と言われる理由の多くは、ここにあります。

なお、普通免許の視力の基準は両目で0.7以上、片目でそれぞれ0.3以上です(出典: 警視庁「適性試験の合格基準」)。ただし視力が足りていれば安心というわけではなく、見える範囲の広さや目を素早く動かせるかどうかも、安全に関わります。

病気・障害と運転──法律の枠組み

道路交通法では、安全な運転に支障が出るおそれのある病気などが定められています。これに当てはまる場合、免許が取り消されたり、一時的に停止されたりすることがあります(出典: 警察庁「運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について」)。

運転の可否が判断される主な病気
取り消しの対象
  • 認知症と診断された場合
条件つきで可
  • てんかん — 2年以上発作がなく、今後も起こるおそれがないと医師が判断した場合
個別に判断
  • 脳卒中 — 残った症状の程度によって判断が変わります
  • 統合失調症・そううつ病 — 症状が安定し、安全に運転できると医師が判断した場合
  • 重い睡眠時無呼吸症候群などの睡眠の病気
運転できません
  • アルコールや薬物への依存がある状態

こう並ぶと不安になるかもしれませんが、病名がついたらすぐに運転できなくなる、ということではありません。認知症を除けば、多くは「今の状態で安全に運転できるか」を医師が一人ひとり判断します。

警察(公安委員会)から臨時適性検査を受けるよう求められたり、主治医の診断書の提出を求められたりすることがあります。作業療法士は、この医師の判断を支えるための検査や、実際の動きの観察を担当します。

迷ったら「#8080」に相談できます

運転を続けてよいか判断に迷うときは、各都道府県警察の安全運転相談窓口(電話 #8080)に事前に相談できます。免許を取り上げるための窓口ではなく、必要な手続きや準備を教えてくれる相談先です(出典: 警察庁「安全運転相談窓口について」)。

脳卒中・高次脳機能障害後の運転再開支援

「いつになったら運転していいですか」は、ご本人・ご家族から最も多く寄せられる質問のひとつです。決まった日数はなく、回復の程度を確かめながら、段階を踏んで進めます。

1

1. 主治医に相談する

  1. 1運転を再開したい気持ちを、まず主治医に伝えます
  2. 2体の回復と、記憶や注意の回復の両面から判断が始まります
  3. 3誰にも相談せずに運転を再開することは、絶対に避けてください
2

2. 作業療法士が確かめる

  1. 4机の上で行う検査で、注意力・判断力・空間の感覚などを調べます
  2. 5運転を模した機械(ドライビングシミュレーター)で、反応や操作を見ます
  3. 6必要に応じて、教習所の協力を得て実際の車で確かめます
3

3. 医師が総合的に判断する

  1. 7検査の結果をもとに、医師が運転の可否を判断します
  2. 8「可」「条件つきで可」「不可」「もう少し先に再評価」のいずれかになります
4

4. 警察の手続きをする

  1. 9診断書を持って、運転免許センターで臨時適性検査を受けます
  2. 10その前に安全運転相談窓口(#8080)へ相談しておくこともできます
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5. 免許の条件を確認する

  1. 11体の状態に応じて「AT車に限る」「補助装置の使用」などの条件が付くことがあります
  2. 12条件が付いても、運転を続けられること自体が大きな前進です

実際の車を使った評価は、運転できるかどうかを見きわめる最も確かな方法とされています。教習所の指導員と作業療法士が同乗して安全な環境で行いますので、「試験で落とされる」と身構えなくて大丈夫です。

同じ検査をすぐに受け直しても、正しく測れません

机の上で行う検査は、繰り返すうちに問題そのものに慣れてしまい、実際の力より点数が上がります。そのため再検査は3〜6か月ほど間隔をあけて行うのが原則です。「早くもう一度受けたい」というお気持ちは自然ですが、焦らず回復を待つほうが結果的に近道になります。

認知症と自動車運転

75歳を過ぎたら受ける検査

75歳以上の方は、免許を更新するときに認知機能検査を受けることが決められています(出典: 警察庁「認知機能検査について」)。内容は、16個の絵を覚えて後から思い出す課題と、その日の年月日・曜日・時刻を答える課題の2つです。

「認知症のおそれがある」と判定された場合は、医師の診断を受けます。そこで認知症と診断されると、免許は取り消しまたは停止となります。

ご家族が気づきやすいサイン

こんな変化に気づいたら、早めに相談を
車の様子
  • いつの間にか、覚えのない傷やへこみが増えている
道
  • 長年通っている道で迷う、目的地を通り過ぎてしまう
同乗して
  • 助手席に座っていて「怖い」と感じることが増えた
運転の仕方
  • 車庫入れに時間がかかる、車線の真ん中を走れない
本人の言葉
  • ヒヤリとした場面を「相手が悪い」と言うことが増えた

いちばん難しいのは、ご本人が「まだ大丈夫」と感じていることです。認知症では、自分の力が落ちていることそのものに気づきにくくなります。責めているのではなく心配しているのだと伝わるよう、かかりつけ医や作業療法士など第三者の力を借りることをおすすめします。

身体障害と運転──運転補助装置

手や足に麻痺が残っても、装置を取り付けることで運転を続けられることがあります。「右足が動かないからもう無理」とあきらめてしまう前に、選べる手立てを知っておいてください。

体の状態に合わせて選べる装置
  • 左アクセル — 右足が動かしにくい方向け。アクセルペダルを左側に増設します
  • 手動運転装置 — 両足が動かしにくい方向け。レバーを押すとブレーキ、手前に引くとアクセルになります
  • 旋回装置(スピンナー) — ハンドルに取り付け、片手で回せるようにする取っ手です
  • ワイドミラー — 首を大きく回しにくい方の後方確認を助ける、広く映るミラーです

手動運転装置には持ち運べるタイプもあり、数分で取り付けられるものもあります。ご自身の車だけでなく、出先で借りた車で使える場合もあります。

費用の負担を軽くする制度

使える可能性のある制度
税金
  • 障害のある方の運転のために特別な装置を付けた車や、その改造の費用には消費税がかかりません(出典: 国税庁 タックスアンサー No.6214)
助成金
  • 多くの市区町村に自動車改造費の助成制度があります。上限を10万円としている自治体が多く見られます(出典: 船橋市ほか各自治体の実施要綱、2026年時点)
自動車税
  • 一定の障害等級に当てはまる方は、自動車税の減免を受けられます

金額や条件は自治体ごとに違います。お住まいの市区町村の障害福祉の窓口にお問い合わせください。どの装置が合うかは、作業療法士が体の動きを確かめたうえで一緒に選びます。取り付けて終わりではなく、慣れるまでの練習もお手伝いします。

免許返納と「その後」の生活

返納そのものより、「その後」が大切です

免許を返したあと、外出の回数が大きく減ってしまう方がいます。国立長寿医療研究センターの調査では、運転をやめた高齢者は、運転を続けていた方に比べて介護が必要な状態になる危険性が高くなることが示されています(出典: 国立長寿医療研究センター「運転中止による弊害」)。

これは「危ないまま運転を続けたほうがよい」という意味ではありません。返納と同じタイミングで、代わりの足と外出の機会を用意しておくことが大切だという意味です。ここさえ準備できれば、免許を手放すことは暮らしの縮小にはなりません。

運転が担っていた役割を、分けて考える

作業療法士は、運転をやめさせることを目的にはしていません。運転がその方の暮らしでどんな役割を果たしていたのかを一緒に整理し、代わりになる方法を探します。

運転の役割と、代わりになる方法
  • 通院 — 介護タクシー、医療機関の送迎サービス、オンライン診療
  • 買い物 — ネットスーパー、宅配サービス、移動販売車
  • 趣味の外出 — 予約制の乗合タクシー、家族の送迎、歩いて行ける新しい楽しみ
  • 家族の送り迎え — ほかの家族への役割の引き継ぎ、公共交通の活用
  • 自立している実感 — 電動車椅子、シニアカー、電動アシスト自転車

地域の中を動く方法は、車だけではありません。生活の範囲、体の状態、費用、ご家族の状況をふまえて、いくつかを組み合わせるのが現実的です。

返納を切り出すときの伝え方

ご家族が伝えるときのコツ
  • 「運転しないで」ではなく「安全に出かける方法を一緒に考えよう」と伝える
  • 代わりの手段を具体的に示す — 「このバスなら病院の前まで行けるよ」
  • 気持ちを尊重する — 運転は自立の証で、手放す寂しさはとても大きいものです
  • 段階を踏む — まず夜間や雨の日をやめる、遠出をやめる、と少しずつ範囲を狭める
  • 第三者に入ってもらう — かかりつけ医や作業療法士の言葉のほうが届くことがあります

作業療法士として大切にしたいこと

評価の結果、運転の再開は難しいと伝えられることもあります。それは多くの方にとって大きな喪失です。すぐに前向きになれなくて当然ですし、無理に自分を納得させようとしなくて構いません。

ただ、お伝えしたいのは、「運転できません」の一言で支援が終わるわけではないということです。作業療法士は、そのあとも次のようなお手伝いができます。

運転をあきらめた後も、支援は続きます
  • バスの乗り方や電動車椅子の操作を、実際の場面で一緒に練習する
  • 条件つきなら可能かを探る — 昼間だけ、近所だけ、という形が取れることもあります
  • 運転で担っていた家族の中での役割に代わる、別の形の役割を一緒に見つける
  • 時間をおいてから、もう一度評価を受けられるかどうかを検討する

まとめ

ポイント

ご本人・ご家族に覚えておいてほしいこと

  • 病気やけがの後でも、順を追った確認を経て運転に戻れる方がいます。まずは主治医に希望を伝えてください
  • 誰にも相談せずに運転を再開しないこと。それがご本人と周りの方の両方を守ります
  • 体が動くことと、安全に運転できることは別です。とくに同時に気を配る力は回復に時間がかかります
  • 手足に麻痺があっても、補助装置と費用の助成制度によって運転を続けられる場合があります
  • 免許返納を考えるときは、代わりの足を先に用意しておくと、暮らしの縮小を防げます
  • 判断に迷ったときは、安全運転相談窓口(#8080)とかかりつけ医が最初の相談先になります
ご家庭でできること
  • 運転の記録をつけてみましょう:出かけた日時・行き先・ヒヤリとした場面をひと言だけ書き留めます。1か月分あると、医師や作業療法士に今の状態を正確に伝えられます
  • 地域の移動手段を、今のうちに調べておきましょう:市区町村の窓口やホームページで、コミュニティバス・予約制の乗合タクシー・介護タクシー・タクシー券の有無を確認できます
  • ときどき助手席に乗せてもらいましょう:指摘するためではなく、一緒に確かめるためです。気になる場面があればその日のうちにメモしておくと、相談のときに役立ちます

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