この記事のポイント
- 大腿骨近位部骨折は年間約25万件発生し、高齢者の要介護の大きな原因になっています
- 手術後は脱臼予防の動作指導や日常生活の再獲得が重要で、作業療法士がサポートします
- 退院後の住環境調整と転倒予防で、安心して暮らせる環境をつくることができます
大腿骨近位部骨折とは
大腿骨近位部骨折は、太ももの付け根(股関節のすぐ下)の骨が折れるけがです。日本では年間約25万件が発生しており、そのほとんどが75歳以上の方の転倒によるものです。
骨折の場所によって手術方法が異なります。
- 骨頭に近い部分の骨折: 折れた部分を人工の骨頭に入れ替える手術(人工骨頭置換術)
- 骨頭から少し離れた部分の骨折: 金属のネジやプレートで骨を固定する手術
手術方法によって退院後に気をつけることが変わるため、担当の作業療法士(OT)に確認することが大切です。
手術後のリハビリの流れ
手術後のリハビリは段階的に進みます。
手術直後(入院中の前半)
手術の翌日からベッドに座る練習を始めます。早く体を動かし始めることが、回復を早めるために大切です。ベッドの上で着替えや顔を洗う練習もこの時期に始まります。
入院中の後半
歩行器や杖を使った歩行訓練が始まります。トイレ、お風呂、着替えの練習も行います。人工骨頭の手術を受けた方は、脱臼を防ぐための動き方をしっかり覚えることが大切です。
退院後
自宅で安全に暮らせるよう、通所リハビリや訪問リハビリを活用しながら、少しずつ活動の幅を広げていきます。
作業療法士がサポートすること
脱臼予防の動作指導
人工骨頭の手術を受けた方は、術後3か月間は特に脱臼に注意が必要です。日常生活の中で気をつけるべき動作があります。
- 靴下の着脱: 股関節を深く曲げないよう、専用の道具を使います
- 床の物を拾う: 体を前に深く曲げず、リーチャーを使います
- トイレ: 便座を高くする補助具を使い、深く腰を落とさないようにします
- 入浴: シャワーチェアを使い、浴槽への出入りの手順を決めておきます
- 寝るとき: 横向きに寝る場合は、膝の間にクッションを挟みます
退院時にOTから教わった「してはいけない動作」を紙に書いて、トイレや脱衣所に貼っておくと安心です。家族の方も一緒に覚えておくと、声かけがしやすくなります。
日常生活動作(ADL)の訓練
OTは退院後の生活がスムーズに送れるよう、さまざまな日常動作の練習をサポートします。
- 着替え: けがをした側の足から先に着る、脱ぐときは反対側からという基本ルールを練習します
- お風呂: 浴室での安全な動き方を確認し、必要な手すりやイスを選びます
- トイレ: 安全に立ち座りができるよう、手すりの使い方を練習します
- 料理: 長時間立つのがつらい場合は、キッチン用のイスを使う工夫を提案します
住環境の調整
退院前に、OTが自宅を訪問して環境を確認することがあります。安全に暮らせるよう、次のような調整を提案します。
- 手すりの設置: トイレ、お風呂、玄関などに手すりをつけます
- 段差の解消: 玄関の上がり框にステップ台を置いたり、敷居の段差をなくしたりします
- つまずき防止: 電気コードやマット類を片づけ、通り道を広くします
- ベッドの導入: 布団からベッドに変えると、起き上がりが楽になります
- 夜間の照明: トイレまでの通り道に足元灯をつけます
手すりの設置やバリアフリー工事には、介護保険の住宅改修費(上限20万円、自己負担1〜3割)が使えます。また、シャワーチェアや補高便座は福祉用具として購入補助が受けられます。ケアマネジャーに相談してみてください。
退院後の暮らしで気をつけること
転倒を防ぐ
退院後に最も気をつけたいのは再び転倒することです。一度骨折すると、反対側の骨折リスクが高くなります。
- 家の中を片づけ、つまずく原因をなくす
- かかとのある安定した室内履きを使う
- 飲んでいる薬でふらつきが出ていないか、医師に相談する
- リハビリや運動を継続する
少しずつ活動を増やす
退院後すぐに以前と同じ生活に戻る必要はありません。まずは家の中の移動を安定させ、それから少しずつ家事や外出を増やしていきましょう。痛みや疲れを感じたら無理をしないことが大切です。
最初は家の前を数分歩くだけで十分です。慣れてきたら少しずつ距離を伸ばしましょう。天気のよい日に、ご家族と一緒に歩くのがおすすめです。杖を使う場合は、主治医やOTに正しい使い方を確認してください。
注意
術後に急に強い痛みが出た、足の長さが明らかに左右で異なる、股関節が動かせなくなったなどの症状がある場合は、脱臼や合併症の可能性があります。すぐに手術を受けた病院に連絡してください。
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。