高次脳機能障害と暮らす ― 家族が知っておきたい「見えない障害」の理解と対処法
この記事のポイント
- 高次脳機能障害の各症状が「生活のどの場面で困るか」を具体的に解説
- 症状ごとに家庭で実践できる環境調整と対応の工夫を紹介
- 職場・学校への理解の求め方と、家族のセルフケアについても触れる
「見えない障害」高次脳機能障害とは
高次脳機能障害は、脳卒中や交通事故などによる脳の損傷で、思考・記憶・注意・判断・感情のコントロールに影響が出る状態です。
外見からはわからないため、「見えない障害」と呼ばれています。周囲から「もう治ったんでしょ?」と言われることも多く、家族は「見えない障害」を理解してもらう難しさに直面します。
高次脳機能障害の家族向けガイドでは全体像をお伝えしましたが、この記事では各症状が生活のどの場面でどう困るかをより具体的に掘り下げ、OTが提案する対処法を詳しく解説します。
注意障害と暮らす ― 「聞こえすぎる」「気が散る」世界
注意障害があると、必要な情報だけに注意を向けることが難しくなります。「話を聞いていない」のではなく、周囲のすべての情報が同時に入ってきて、処理しきれないのです。
生活で困ること
- 料理: 火をつけたまま別のことを始めてしまう
- 買い物: リストにないものを次々かごに入れる
- 会話: テレビがついていると話の内容が入らない
- 運転: 複数の情報に同時に対応できず危険(運転可否は専門家の評価が必要)
家庭でできる工夫
- 環境から刺激を減らす: 会話するときはテレビを消す、作業する部屋を静かにする
- タイマーを活用する: 火を使うとき、作業の区切りにタイマーをセット
- 一度に一つのことだけ: 「あれもこれも」ではなく、1つ完了してから次へ
- 声かけで注意を戻す: 集中が切れているときに穏やかに「今は〇〇の途中ですよ」
記憶障害と暮らす ― 「忘れる」を前提にした生活設計
記憶障害は高次脳機能障害の中でも最も日常生活に影響する症状の一つです。特に新しいことが覚えにくくなるのが特徴です。
生活で困ること
- 薬の飲み忘れ: 飲んだかどうかも忘れる
- 約束の失念: 通院日や来客の予定を忘れる
- 同じ質問の繰り返し: 家族が「さっき答えたのに」とストレスを感じる
- 物の置き場所がわからない: 探し物が増える
家庭でできる工夫
- 薬カレンダー: 曜日・時間ごとにセットできる薬ケースを使う
- スマートフォンのリマインダー: 予定をアラームで通知する
- 定位置を決める: 鍵、財布、メガネなどの置き場所を固定する
- ホワイトボード: リビングに今日の予定と連絡事項を書いておく
- 写真つきメモ: 手順を写真で記録し、見ながら進める
家族へのお願い: 同じ質問をされても、怒らずに同じように答えてください。本人にとっては「初めての質問」です。メモを一緒に確認する習慣をつけると、質問の頻度が減ることがあります。
遂行機能障害と暮らす ― 「段取り」を外から支える
遂行機能障害とは、計画を立て、順序よく実行し、結果を振り返るという一連のプロセスが難しくなる障害です。
生活で困ること
- 料理: 複数の料理を同時に進められない
- 掃除: どこから始めていいかわからず手がつけられない
- 仕事: 優先順位がつけられない、マルチタスクができない
- 予定の管理: 何を先にやるべきか判断できない
家庭でできる工夫
- 手順書を作る: 「朝の支度」「洗濯の手順」など、よくやる作業の手順を書き出す
- チェックリスト: 完了したら✓を入れる(達成感にもつながる)
- タスクの分解: 「部屋を掃除する」→「1. 床のものを拾う 2. 掃除機をかける 3. テーブルを拭く」
- 声かけで誘導: 「次は何をする?」と問いかけて、自分で考える機会を作る
OTはこの「タスク分析(活動を細かく分解して段階的に支援する手法)」を最も得意としています。
感情コントロールの問題と暮らす ― 「病気のせい」と理解する
社会的行動障害は、家族にとって最もつらい症状かもしれません。
生活で困ること
- 些細なことで激怒する: リモコンが見つからないだけで怒鳴る
- 衝動的な行動: 不要な買い物、暴言、食べ過ぎ
- 空気が読めない: 場にそぐわない発言をする
- 無関心・無気力: 何事にもやる気を示さない
- 本人の自覚がない: 「自分は問題ない」と言い張る
家庭でできる工夫
- 怒りが出たら物理的距離を取る: 別の部屋に移動し、5〜10分待つ
- 引き金を把握する: 疲れているとき、空腹のとき、騒がしい環境で出やすいなど
- 予防的に環境を整える: 疲労がたまる前に休憩を入れる、刺激の少ない環境を用意する
- 衝動的行動には環境的な制限: クレジットカードの限度額を下げる、買い物はリストを持って行くなど
「病識の欠如」への対応
本人が「自分は大丈夫」と言い張ることがあります(病識の欠如)。これも障害の症状の一つです。
- 無理に説得しようとしない(対立を避ける)
- 具体的な事実を穏やかに伝える(「昨日の約束を忘れていましたよ」)
- 主治医やOTから説明してもらう(第三者の言葉のほうが入りやすいことがある)
職場・学校に理解してもらうために
高次脳機能障害は「見えない障害」だからこそ、周囲への説明が重要です。
OTが作成する「生活のしおり」(本人の特性と対応法をまとめた資料)を活用すると、職場や学校への説明がスムーズになることがあります。
伝えるとよいポイント:
- 具体的にどんな場面で困るか
- どんな配慮があると助かるか(メモを取る時間をもらう、指示は1つずつもらうなど)
- できること・得意なことは何か
家族自身を守るために
高次脳機能障害のある家族を支え続けることは、長期戦です。
- 「以前のあの人に戻ってほしい」という気持ちと、現実の間で揺れるのは自然なことです
- 完璧な対応を目指す必要はありません
- 家族会やピアサポートで、同じ経験をした人と話すことが大きな支えになります
家族の共倒れ防止ガイドも参考にしてください。
回復は年単位で続きます。「良くなった」「戻った」と思っても、新しい場面で困ることが出てくることがあります。それは後退ではなく、新しい課題が見えたということです。
OTは、その都度あなたとご家族に合わせた対応法を一緒に考えます。困ったことがあれば、いつでも相談してください。
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。