この記事のポイント
- SOAP記録は「型」を知るだけでは不十分です。「誰に読まれるか」を意識した記載が多職種連携の質を左右します
- 診療報酬の算定に必要な記載要件を押さえることは、施設経営にも直結する重要なスキルです
- よくある記録の問題を「Before/After」で具体的に示し、すぐに実践できる改善ポイントを解説します
はじめに── 記録は「書く義務」ではなく「伝える技術」
「カルテを書く時間がない」「何を書けばいいかわからない」── カルテ記載に苦手意識を持つ作業療法士は少なくありません。
しかし、記録は法的義務であると同時に、多職種への最も重要なコミュニケーション手段です。あなたの記録を読むのは、医師、看護師、理学療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、そしてケアマネジャーです。
「読まれない記録」は、存在しないのと同じです。
本稿では、基本的なSOAP記録の書き方を踏まえた上で、「伝わる記録」にするための実践的なコツと、診療報酬に必要な記載要件を解説します。
作業療法士は、リハビリのたびにカルテ(診療記録)を書いています。
カルテには、その日のリハビリで何をしたか、ご本人の状態がどう変化しているか、今後の方針は何かが記録されています。このカルテは、医師や看護師など多くの専門職が共有して読む大切な情報源です。
この記事では、カルテの仕組みをご紹介します。ご自身のリハビリの記録にどんなことが書かれているか、興味を持っていただけたら幸いです。作業療法そのものについて知りたい方は作業療法とは何かをやさしく解説した記事からお読みください。
SOAP記録の実践的な書き方
SOAP記録の基本構造は多くの方がご存知でしょう。ここでは、一歩進んだ書き方のポイントを解説します。
S(Subjective: 主観的情報)
クライアントや家族の発言を記録します。
よくある問題: 「特になし」「変わりなし」と書いてしまう
改善ポイント:
- クライアントの言葉をそのまま引用する(「" "」で囲む)
- 発言がなかった場合でも、表情や態度から読み取れることを記載する
- 「特になし」は本当に何もないのか、セラピストが聴取できていないのかが判別できない
改善例:
- Before: 「特になし」
- After: 「"昨日は夜中に2回トイレに起きた。朝から疲れている"と訴えあり」
O(Objective: 客観的情報)
セラピストが観察・測定した事実を記録します。
よくある問題: 実施した訓練内容の羅列になっている
改善ポイント:
- 「何をしたか」ではなく「何が観察されたか」を中心に記載する
- 数値化できるものは数値で記載する
- 前回との比較を示す
改善例:
- Before: 「上肢機能訓練実施。ペグボード練習。自主トレ指導」
- After: 「ペグボード(右手): 60秒/10本(前回68秒)。母指対立の可動域改善に伴い、ペグの把持が安定してきている。FIM更衣上衣: 5→5(ボタン操作にまだ介助要)」
A(Assessment: 評価・分析)
SとOの情報をもとにしたセラピストの専門的な判断を記載します。
よくある問題: Oの内容の繰り返しになっている、または「良好」「改善傾向」などの曖昧な表現
改善ポイント:
- 「なぜそうなっているのか」の分析を書く(臨床推論の記述化)
- 目標との関連を明示する
- 阻害因子・促進因子を記載する
Aの質は分析の質そのものです。判断のプロセスを深めたい方はクリニカル・リーズニングの基本もあわせてご覧ください。
改善例:
- Before: 「上肢機能は改善傾向。引き続き訓練を継続する」
- After: 「ペグボードのタイムが8秒短縮。母指対立のROM改善が巧緻動作に反映されつつある。しかし、ボタン操作ではまだ両手の協調が不十分で、更衣自立にはピンチ力の向上と両手動作の練習が必要。STG(ボタン操作自立)達成までに推定2〜3週間」
P(Plan: 計画)
今後の方針を記載します。
よくある問題: 「継続」「同様のプログラム実施」など、具体性がない
改善ポイント:
- 次回の具体的な介入内容を記載する
- 変更した場合はその理由を明記する
- 多職種への依頼事項があれば記載する
改善例:
- Before: 「訓練継続」
- After: 「ピンチ力強化(セラパテ、ペグ操作)を継続。次回よりボタン付き衣類を用いた実際場面での練習を開始予定。Ns へ: 朝の更衣時に"自分でボタンを留める"声かけを依頼」
カルテはSOAPという形式で書かれていることが多いです。
- S(ご本人の言葉): 「昨日はよく眠れた」「右手が使いやすくなった気がする」など
- O(セラピストが見た事実): 動作の変化、数値の変化など
- A(専門的な判断): 「この機能が改善してきたから、次はこの動作ができるようになるだろう」
- P(今後の計画): 次回以降のリハビリの方針
カルテの開示を求める権利は法律で認められています。ご自身やご家族のリハビリの記録を見たい場合は、担当セラピストや医事課に相談してみてください。どんなことが記録されているか知ることで、リハビリへの理解が深まります。
多職種に伝わる記載のポイント
専門用語の翻訳
カルテを読むのは作業療法士だけではありません。OT特有の専門用語は、他職種にも伝わる表現に翻訳する必要があります。
-
Before: 「作業バランスの乱れが見られる」
-
After: 「仕事と休息のバランスが崩れ、家事や趣味の時間がほとんど確保できていない状態」
-
Before: 「MOHO の観点から、意志の低下が顕著」
-
After: 「本人の活動への動機づけが低下しており、以前楽しんでいた趣味にも関心を示さない状態」
ただし、OT同士で共有するカルテであれば、専門用語を使ったほうが正確に伝わります。読者を意識して使い分けましょう。
具体的なADL場面の記述
「ADL能力が向上」ではなく、具体的にどの動作がどう変わったかを記載します。
- Before: 「ADL自立度が向上した」
- After: 「入浴動作: 浴槽への出入りが手すり使用で自立。洗体は座位で自立。洗髪は立位保持が不安定で見守りが必要」
具体的なADL場面の記述は、看護師のケア計画や退院支援にも直結する情報です。
数値とビジュアルの活用
可能な限り数値化し、変化を明確にします。
- 「握力向上」→「握力: 右15kg→18kg(3週間)」
- 「歩行改善」→「T字杖歩行: 病棟内50m自立(入院時10m見守り)」
作業療法士は、他の専門職にもわかるように記録を書く工夫をしています。
- 専門用語をかみ砕く: 作業療法独自の言葉は、誰にでもわかる表現に置き換えます
- 具体的な場面を書く: 「良くなった」ではなく「お風呂で一人で体を洗えるようになった」と書きます
- 数字で示す: 「握力が上がった」ではなく「握力が15kgから18kgに上がった」と書きます
こうした記録が、チーム全体でリハビリの方向性を共有するための土台になっています。
診療報酬に必要な記載要件
適切な記録は、診療報酬の算定にも直結します。記載不備は返戻(レセプトの差し戻し)の原因になり、施設経営に影響を及ぼします。
リハビリテーション実施計画書に関する記載
- 医師の指示: リハビリ開始時に医師からの指示があること
- 目標設定: 短期目標・長期目標が明記されていること
- 実施内容: 具体的な訓練内容が記載されていること
- カンファレンス: 定期的なカンファレンスの実施と記録
- 説明と同意: クライアントまたは家族への説明と同意の記録
疾患別リハビリテーション料の算定要件
- 開始日と算定期限の管理
- FIM等の評価: 定期的な評価の実施と記録
- 実施時間: 実施した時間の正確な記録
- 1単位あたりの内容: 漫然と同じ内容を繰り返していないことの記録
施設基準に関する記載
- 専従/専任の配置に関する記録
- カンファレンスの実施記録
- 退院時のリハビリテーション実施計画書の作成
「書いていなければやっていないのと同じ」
どれだけ質の高いリハビリを提供しても、記録がなければ証明できません。適時調査や指導監査では、記録の不備が指摘事項の上位を占めます。「やったことは必ず書く」を徹底しましょう。
作業療法士が書く記録は、リハビリの内容を証明する法的な文書でもあります。
- リハビリの目標と計画
- 実施した内容と時間
- ご本人への説明と同意の記録
- 定期的な評価結果
これらがきちんと記録されていることで、適切な医療費の算定が行われます。
よくある記録の問題と改善例
問題1: 抽象的すぎる
- Before: 「本日も意欲的にリハビリに取り組まれた。良好な経過」
- After: 「"今日は手が軽い"と笑顔で報告あり。ペグ操作のタイム改善を本人にフィードバックしたところ、"嬉しい、退院までにボタンも自分でやりたい"と具体的な目標を言語化された」
問題2: 主観と客観が混在している
- Before: 「歩行状態は安定しており、転倒リスクは低いと思われる」
- After: 「O: T字杖歩行にて病棟内50m実施。ふらつきなし。TUG: 12秒(前回15秒)。A: 歩行速度・安定性ともに改善。ただし注意分散時(会話しながらの歩行)にはバランスが不安定になるため、転倒リスクは中程度と判断」
問題3: 「継続」の連続
3回連続で P が「同様のプログラムを継続」の場合、漫然としたリハビリと見なされる可能性があります。
- 改善: たとえ同じプログラムを継続する場合でも、「前回との比較」「次の段階への移行基準」「変更を検討している理由」を記載する
問題4: 他職種への情報共有が不足
- Before: 「食事動作練習実施」
- After: 「食事動作練習実施。右手でスプーンすくい→口への運搬が安定してきた。残る課題は食器の固定(左手の参加が不十分)。→ Ns へ: 食事時に滑り止めマットの使用を依頼。食器は深皿に変更予定(栄養科と調整済み)」
問題5: 目標との関連が見えない
- Before: 「手指巧緻動作訓練、バランス訓練を実施」
- After: 「STG「ボタン操作の自立」に向けて、ピンチ力強化(セラパテ)とボタン操作練習を実施。LTG「自宅での入浴自立」に向けて、浴槽またぎ動作練習を実施(本日初めて手すり使用で自立達成)」
カルテの記録は、具体的であるほど良い記録とされています。
- 「良くなった」ではなく「ボタンを自分で留められるようになった」
- 「リハビリした」ではなく「お風呂の出入りの練習を10分、手の練習を15分行った」
こうした具体的な記録があることで、チーム全体がリハビリの進み具合を正確に把握できます。
効率的に記録を書くための工夫
記録に時間がかかりすぎて、臨床の時間が圧迫されるのは本末転倒です。効率的に質の高い記録を書く工夫を紹介します。
- テンプレートの活用: 疾患別・目的別のテンプレートを用意しておく
- リアルタイム記録: 治療中にキーワードだけでもメモしておく。記憶に頼ると細部が抜ける
- 定型文の蓄積: よく使う表現をストックしておく(ただし、コピー&ペーストの乱用は禁物)
- 音声入力の活用: 電子カルテに音声入力機能がある場合は活用する
- 「型」の内在化: SOAPの型が身につけば、書くスピードは格段に上がる
なお、評価データや介入内容を正確に記録する習慣は、後々の症例報告や研究の貴重な素材にもなります。詳しくは忙しいOTのための研究法入門で解説しています。
新人へのアドバイス
最初は時間がかかって当然です。まずは「型」に忠実に書くことを意識してください。先輩の記録を読んで学ぶことも効果的です。「この先輩の記録はわかりやすい」と思ったら、何が違うのかを分析してみましょう。
作業療法士は、限られた時間の中で正確な記録を書く工夫をしています。
リハビリ中にメモを取ったり、テンプレートを活用したりして、臨床の時間を最大限に確保しながら、質の高い記録を残すことを心がけています。
リハビリ中にセラピストがメモを取ることがありますが、これはカルテに正確な記録を残すためです。「ちゃんと見てくれていないのでは」と心配される必要はありません。むしろ、丁寧に記録しているサインです。
まとめ ── 「伝わるカルテ」で多職種連携の質を変える
- 記録は「書く義務」ではなく「伝える技術」です。読む相手を意識した記載を心がけましょう
- SOAPの各項目で「何を書くべきか」を明確にし、抽象的な表現を具体的な事実と分析に置き換えましょう
- OT特有の専門用語は他職種に伝わる表現に翻訳し、具体的なADL場面で記述しましょう
- 診療報酬の記載要件を押さえることは、施設経営にも直結する重要なスキルです
- 効率的に記録する工夫を取り入れ、臨床の時間を圧迫しないバランスを保ちましょう
ご家族の方へ ── まとめ
- リハビリの記録(カルテ)には、ご本人の状態や変化が詳しく記録されています
- カルテはチーム全体で共有され、多職種が連携するための大切な情報源です
- カルテの開示を求めることは法律で認められた権利です。興味があれば相談してみてください
- リハビリ中のセラピストのメモは、丁寧な記録を残すためのものです
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
運営者プロフィールを見る →