この記事のポイント
- ペットの世話は生活リズムの形成、身体活動の促進、精神的安定に貢献する治療的な活動です
- 動物との暮らしには転倒リスクやアレルギーなどの注意点もあり、適切なリスク管理が必要です
- 作業療法士はペットの世話を「意味のある作業」として活用し、その方の生活の質を高めます
ペットの世話は「治療的な作業」
ペットと暮らしている方は、毎日の世話を通じてたくさんの健康効果を受けていることをご存知でしょうか。
犬の散歩、猫のブラッシング、魚のエサやり──こうした何気ない毎日の行為が、実は体の健康・頭の健康・心の健康のすべてに良い影響を与えています。
作業療法では、ペットの世話を「その人にとって意味のある大切な活動」として捉え、リハビリテーションに活かすことがあります。
ペットの世話がもたらす治療的効果
1. 生活リズムの形成
ペットの世話で最も大きな効果の一つは、生活リズムが整うことです。
- 毎朝、犬の散歩やエサやりのために起きる理由ができます
- ペットの食事時間に合わせて自分の食事も規則的になります
- 散歩や遊びで体を動かす機会が増えます
「自分のためには動けないけれど、この子のためなら動ける」──そう話す方は多くいらっしゃいます。ペットの存在が、毎日の生活を支える大きな力になるのです。
2. 身体機能の維持・向上
ペットの世話には、さまざまな体の動きが含まれています。
- 犬の散歩: 歩く力やバランスの維持に
- エサの準備: 手先の器用さの練習に
- ブラッシング: 腕を動かす運動に
- トイレの掃除: しゃがんだり立ったりする全身運動に
犬を飼っている方は、飼っていない方に比べて1日の歩数が多いという調査結果があります。ただし、もともとよく歩く方が犬を飼っている可能性もあるため、「犬を飼えば運動量が増える」と言い切れるわけではありません。
3. 精神的健康への効果
動物と触れ合うと、ストレスに関わるホルモン(コルチゾール)や心拍数、血圧が下がることが、これまでの研究をまとめた2012年の報告で示されています。その背景に「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンの働きがあるのではないか、と考えられています(記事末の出典を参照)。
- 一人暮らしでも話し相手がいる安心感
- 無条件に甘えてくれる存在が心の支えになる
- 動物を撫でるだけでリラックスできる
- 「この子を世話できている」という自信につながる
ペットを飼えない環境でも、動物と触れ合う方法はあります。動物カフェ、アニマルセラピーの訪問活動、近所の犬の散歩ボランティアなど、動物と触れ合える機会を探してみてください。
4. 認知機能への刺激
ペットの世話は、脳の機能をさまざまな面から刺激します。
- エサの時間や病院の予約を覚えておく(記憶力)
- 散歩のルートを考えたり、体調の変化に対応する(判断力)
- ペットの様子の変化に気づく(注意力)
認知症の方と動物の触れ合いについては、これまでの研究をまとめた報告で「気分の落ち込みが少しやわらぐ可能性がある」とされています。一方で、落ち着きのなさや行動の変化に対する効果は、はっきりとは確かめられていません。楽しみのひとつとして取り入れるのはよいことですが、症状そのものが良くなることを期待しすぎないほうが安心です。
5. 社会参加の促進
犬を連れて散歩していると、自然と近所の方との会話が生まれます。
- 散歩中に「かわいいですね」と声をかけられる
- ドッグランやペット仲間との交流が広がる
- 散歩コースで顔見知りが増える
一人では外に出づらい方も、ペットと一緒なら外出のきっかけになります。
リスク管理 ── 安全に続けるために
ペットとの暮らしには注意すべき点もあります。
ペットとの暮らしの注意点
- 転倒に注意: ペットが足元にまとわりつくとつまずくことがあります。エサ皿やおもちゃの置き場所にも注意してください
- アレルギー: 動物アレルギーの方は、症状が出ないか確認しましょう
- 世話の負担: 無理をしすぎないよう、家族で分担したり、ペットシッターの利用も検討してください
- もしものとき: 入院などの場合にペットを預けられる先を事前に決めておきましょう
作業療法士がペットとの暮らしを支援するポイント
ペットの世話が負担になってきたときは、無理をせず工夫をしましょう。
- 自動給餌器: エサやりの手間を減らせます
- 自動清掃トイレ: 猫のトイレ掃除の負担を軽減
- 散歩の距離調整: 短い散歩でも犬は喜びます
- ペットシッター: 体調が悪いときに頼れるサービス
高齢の方や体に不安がある方がペットを飼い始める場合は、世話の負担が少ないペットから始めるのがおすすめです。小型犬や猫、メダカや金魚なども良い選択肢です。かかりつけの作業療法士に相談してみるのも一つの方法です。
まとめ ── 動物と暮らすかを考えるときの判断材料
- これから迎えるかを考えるなら、好みよりも先に「その世話を毎日続けられる体と暮らしか」を見てください。続けられる範囲に収まっていれば、世話そのものが健康を支える側に回ります
- 確かめる順番は、良い面よりもリスクが先です。アレルギーの有無、衛生面の注意、そして入院などで世話ができなくなったときの預け先──ここを決めてから迎えると、後で行き詰まりません
- 動物の大きさや種類は、今の体力に合わせて選ぶのが安全です。リードの引っ張りや足元へのまとわりつきによる転倒は、置き場所の工夫だけでは避けきれないことがあるためです
- すでに一緒に暮らしていて負担を感じ始めたら、そこが見直しどきです。手放すかどうかの二択にせず、道具を使う・家族で分ける・外部のサービスを頼るという順に、世話を軽くする方から考えます
- 「この子のためなら動ける」という気持ちが出てきたら、それは暮らしを立て直す手がかりになります。散歩や食事の時間を軸にして、1日の組み立てを整えていきましょう
- Lai NM, Chang SMW, Ng SS, Tan SL, Chaiyakunapruk N, Stanaway F. Animal-assisted therapy for dementia. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2019;(11):CD013243.
- Ballin M, et al. Association of dog ownership with accelerometer-measured physical activity and daily steps in 70-year-old individuals: a population-based cross-sectional study. BMC Public Health. 2021;21:2313.
- Beetz A, Uvnäs-Moberg K, Julius H, Kotrschal K. Psychosocial and psychophysiological effects of human-animal interactions: the possible role of oxytocin. Frontiers in Psychology. 2012;3:234.
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免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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