本文へスキップ
作業療法.net
家族支援#作業療法#高齢者#生活の質

「テレビばかり見ている」── 心配する前に知っておきたいこと

ご家族がテレビばかり見ていて心配していませんか。作業療法の視点から、テレビ視聴の良し悪しではなく「どう見ているか」を観察するポイントをお伝えします。

📅 2026年4月5日 更新読了目安 21分

この記事のポイント

  • 「テレビばかり見ている=悪い」と一般化するのは早計です
  • 問題を分解すると、「テレビそのもの」ではなく「受動的な姿勢の固定化」に課題があります
  • 作業療法が大切にするのは、活動の種類ではなく、その活動にどのような姿勢で臨んでいるかです

現場で何度も聞いた言葉

「うちの父、一日中テレビばかり見ているんです。もっと何かしたほうがいいですよね?」── こんな心配をお持ちのご家族は多いのではないでしょうか。

「テレビばかり」と聞くと、何だか良くないことのように感じます。でも、テレビを見ること自体が「悪い」わけではありません。大切なのは、その中身です。

「テレビが悪い」のではない── 問題を分解する

「テレビばかり見ているのは良くない」という漠然とした心配を、少し分解してみましょう。

体の面:長時間同じ姿勢で座り続けると、筋力や体力が落ちやすくなります。ただし、これはテレビに限らず、読書でも同じです。悪いのはテレビではなく「動かないこと」です。

頭の面:テレビは基本的に受け身のメディアです。ただし、「ただ流している」のと「番組に集中して見ている」のでは大きく違います。

人とのつながり:一人でテレビを見る時間が増えると、会話の機会が減るかもしれません。ただし、そもそも交流の場が少ないからテレビを見ている、ということもあります。

生活リズム:起きている時間のほとんどがテレビになると、食事・入浴・外出などの活動が減ってしまうことがあります。これは生活全体のバランスの偏りです。

分解してわかること── 「テレビ」は悪者ではない

整理してみると、こうなります。

  • 体の問題 → テレビに限らず、動かないことが問題
  • 頭の問題 → テレビの見方しだい
  • 人とのつながり → テレビが原因とは限らない
  • 生活リズム → テレビの量の問題

つまり、「テレビを見ること」自体が悪いわけではないのです。問題はテレビの「周辺」にあります。

同じテレビ視聴でも、姿勢が違えばまるで違う

ここからが、この記事で最もお伝えしたいことです。

同じ「テレビを見ている」でも、どのような姿勢でその活動に臨んでいるかによって、意味がまったく変わります。

ケースA:テレビが「流れている」だけの状態

画面は点いていますが、何を見ているのかわからない。チャンネルも変えず、見たい番組があるわけでもない。「何を見ていたの?」と聞いても答えられない。

これはテレビに時間を奪われている状態です。

ケースB:テレビを「選んで」見ている状態

見たい番組を選んで、時間に合わせてお茶を準備する。内容を楽しみながら見て、終わったら次の用事に移る。翌日、「昨日のあの番組、面白かったよ」と話題にする。

これはテレビを自分の暮らしに組み込んでいる状態です。選ぶ、集中する、楽しむ、話題にする──しっかり頭も心も動いています。

2つのケースの違いは何か

活動の種類は同じ「テレビを見ること」です。しかし、その活動に対する本人の姿勢── engagement(関与・没入)がまったく違います。

ケースAは、テレビに時間を奪われている状態です。ケースBは、テレビを自分の生活に組み込んでいる状態です。

作業療法が見ているのは、この「姿勢」の違いです。

作業療法が大切にしていること

作業療法士(OT)は、活動に「良い」「悪い」の序列をつけません。大切なのは、その活動がご本人にとって意味があるかどうか、そして主体的に関わっているかどうかです。

毎朝のニュース番組が「社会とつながっている実感」になっている方もいます。大好きな野球中継が「生きがい」の方もいます。テレビだから価値が低いということは、まったくありません。

一方で、何となく点けて何となく消す繰り返しなら、それは意味のある時間とは言いにくい。同じテレビでも、ご本人の向き合い方しだいで意味が変わるのです。

「活動的」の意味を広げる

「もっと活動的に」と思うかもしれませんが、「活動的」=「体を動かすこと」だけではありません。

テレビの料理番組を見て「今度作ってみよう」と考えること。相撲中継で贔屓の力士を応援すること。これらはすべて頭と心が動いている状態です。

体はソファにいても、しっかり考えたり感じたりしているなら、それは立派に「活動的」です。

ご家族へ── 「見ている」を観察する

お父さんやお母さんが「テレビばかり見ている」ことが心配なら、少しだけ観察してみてください。

何を見ているか:番組の好みはありますか。特定のジャンルや出演者を選んで見ていますか。

どう見ているか:画面に集中していますか。内容に反応していますか(笑う、怒る、感心するなど)。それとも、ただ画面が点いているだけですか。

見た後どうしているか:番組の内容を話題にしますか。「今日の○○、面白かったよ」という会話が生まれていますか。

他の活動はありますか:食事、入浴、散歩、家事、会話など、テレビ以外の活動は日常の中にありますか。

もし「選んで見ている」「内容に反応している」「話題にしている」「他の活動もある」なら、テレビは立派な日常の楽しみです。無理にやめさせる必要はありません。

もし「何となく点いているだけ」「反応が乏しい」「他に何もしていない」なら、それはテレビの問題ではなく、生活全体の意欲や活動性の低下のサインかもしれません。その場合は、かかりつけ医や担当の作業療法士に相談してみてください。

ご家庭でできること
  • テレビの「見方」を観察してみてください。番組に反応しているか、ただ点いているだけかで意味が大きく違います
  • 「何を見てたの?」と聞いてみてください。内容を話してくれたら、それは立派な楽しみの時間です
  • テレビの話題で会話を広げてみましょう。「あの番組面白かったね」の一言が、大切なコミュニケーションになります

おわりに── 問いを変える

「テレビばかり見ているのは悪いか?」──この問いへの答えは、「テレビが悪いのではなく、どう見ているかが大切」です。

楽しんで見ているなら、それは豊かな時間。何となく点いているだけなら、生活全体を見直すサインかもしれません。

活動の種類ではなく、活動への向き合い方。この視点を持つだけで、ご家族の「テレビの時間」の見え方が変わるはずです。

ポイント

「テレビばかり見ている」という状態は、テレビという活動が悪いのではなく、その活動への主体的な関与(occupational engagement)が失われているかどうかが問題の本質です。

作業療法は活動に序列をつけません。問うべきは「何をしているか」ではなく、「その活動にどのような姿勢で向き合っているか」です。この視点は、テレビに限らず生活のあらゆる場面に応用できます。

ポイント

テレビを見ること自体は、決して悪いことではありません。大切なのは、ご本人が選んで、楽しんで見ているかどうかです。

「何を見てたの?」「面白かった?」と声をかけてみてください。番組の話で会話が広がるなら、テレビは立派な暮らしの楽しみです。もし反応が乏しく、他の活動もほとんどないようなら、かかりつけ医や作業療法士に相談してみてください。

関連記事