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草取りを安全に続けるコツ

庭仕事を続けたいご本人とご家族へ。腰を痛めない姿勢、熱中症や転倒の防ぎ方、体が動かしにくくなったときの道具や環境の工夫を、作業療法士がやさしく解説します。

📅 2026年5月18日 公開⏱ 読了目安 27分

この記事のポイント

  • 草取りはしゃがむ・つまむ・引く・立ち上がるの複合動作であり、全身の筋力・バランス・巧緻性が求められます
  • 身体機能だけでなく、注意機能・遂行機能・判断力など認知面も幅広く使われる「高度な日常作業」です
  • 腰痛と熱中症が最大のリスクであり、姿勢の工夫・時間管理・環境設定で予防できます
  • 障害がある方でも、道具・姿勢・環境の段階づけ(グレーディング)により安全に参加できます
  • 園芸療法の一環として、身体・認知・精神面のリハビリテーションに活用できます

はじめに──「草取り」は作業療法の宝庫

「もう年だから草取りはやめて」——ご家族からそう伝えたことはありませんか。反対に、庭に出たがるご本人を見て、はらはらしながら見守っているご家族もいらっしゃると思います。

草取りは、しゃがむ・つまむ・引き抜く・立ち上がるという動きの組み合わせです。体も頭もしっかり使うので、危ないところもありますが、その分だけ体力や気力を保つ助けにもなります。

このページでは、腰を痛めない姿勢、暑さや転倒への備え、体が動かしにくくなったときの道具や環境の工夫など、草取りをやめさせずに安全に続けるための方法をご紹介します。

草取りの作業分析──OTはこう見る

草取りは「しゃがんで草を抜くだけ」に見えますが、実際には体のあちこちを同時に使っています。だから疲れますし、だからこそ良い運動にもなります。

草取りで使っている力

足腰の力

しゃがむ・中腰を保つ・立ち上がるという動きは、スクワットに近い運動になります

体を支えるバランス

低い姿勢のまま手を伸ばすので、倒れないように体を支える力が働きます

手指の細かい動き

小さな草の根元をつまんで引き抜くには、指先の器用さと握る力が必要です

股関節の柔らかさ

深くしゃがむ姿勢は、股関節のまわりを伸ばすよいストレッチになります

見分ける力と段取りの力

雑草と大切な花を見分け、どこから手をつけるか考えることは頭の運動です

意外に思われるかもしれませんが、草取りは頭もよく使う作業です。雑草と育てている植物を見分けるには、長年の経験と観察の力が要ります。「どこまで抜いたか」を覚えておく記憶力や、「今日はここまでにしよう」と決める判断力も使います。単純作業どころか、とても複雑な活動なのです。

草取りの心身への効果

草取りを続けることには、暮らしを支えるいくつもの良い面があります。

草取りを続けることの良い面
  • 足腰を保てる — しゃがむ・立ち上がるの繰り返しが、歩く力を保つ助けになります
  • 手の動きを保てる — つまむ・引く動作を続けることで、指先の器用さが保たれます
  • 気持ちが落ち着く — 土や緑にふれながら体を動かすと、気分が晴れやすくなります
  • 手ごたえが目に見える — 抜いた分だけ庭がきれいになり、やった実感がはっきり残ります
  • 生活のリズムが整う — 朝の涼しい時間に外へ出る習慣は、昼夜のリズムを支えます
  • 自分の役割が続く — 庭を守るのは自分の仕事だという気持ちが、自信のよりどころになります

とくに大切なのは、最後の「役割」です。長年その庭を手入れしてきた方にとって、草取りは運動ではなく家の中での持ち場です。そこを取り上げてしまうと、けがは防げても元気そのものが失われてしまうことがあります。

安全に草取りをするために──リスク管理

草取りで気をつけたいことは、大きく腰痛と熱中症の2つです。どちらも、やり方を少し変えるだけでかなり防げます。

腰を痛めないために

腰を痛める一番の原因は、中腰や前かがみの姿勢を長く続けることです。重いものを持つより、同じ姿勢を保ち続けることのほうが腰にはこたえます。

  • ひとつの姿勢を15分以上続けない:しゃがむ→膝をつく→立つ、と姿勢をこまめに変えます
  • 腰から折らず、膝を曲げてしゃがむ:腰だけを曲げた前かがみが一番負担になります
  • 膝の下にマットやクッションを敷く:膝をついた姿勢が楽になり、腰の負担も減ります
  • 低い椅子に座って作業する:腰にも膝にもやさしく、長く続けやすい姿勢です
  • 始める前と終わったあとに軽く伸びをする:腰、太ももの裏、股関節をゆっくり伸ばします

暑さで倒れないために

夏の草取りは、やる時間帯で決まります

熱中症で救急搬送された方のうち、約6割(57.1%)が65歳以上でした(総務省消防庁・令和7年)。真夏の日中の庭仕事は、短い時間でも危険があります。作業は朝の涼しいうちか、夕方に切り替えてください。

  • 早朝(6〜8時)か夕方(16時以降)に行う:日中の照りつける時間帯は避けます
  • のどが渇く前に水を飲む:30分に1回を目安に、飲み物をそばに置いておきます
  • つばの広い帽子をかぶる:首の後ろまで日が当たらないものが安心です
  • 1回30分までで区切る:タイマーをかけ、涼しい場所で休みます
  • 暑さ指数(WBGT)が28以上の日は思いきって休む:環境省の熱中症予防情報サイトや天気予報で確認できます。28以上は「厳重警戒」、31以上は「危険」の水準です

転倒と虫刺されにも気を配る

しゃがんだ姿勢から急に立ち上がると、立ちくらみが起きて転ぶことがあります。立つときは一度膝や地面に手をついて、ゆっくり起き上がってください。長袖と手袋は、虫刺されやかぶれから肌を守ってくれます。

こんなときは、その日の作業をやめてください
体のサイン
  • めまいがする、立ちくらみがする、頭が痛い
  • 吐き気がする、気分が悪い
  • 汗が出なくなった、皮膚が熱く乾いている
  • 足に力が入らない、ふらつく
その日の状態
  • 前の晩によく眠れていない
  • 朝から食欲がない、下痢をしている

尿を出す薬(利尿薬)を飲んでいる方は体の水分が減りやすいため、水分のとり方についてかかりつけの医師や薬剤師に一度相談しておくと安心です。

障害がある方の草取り──段階づけ(グレーディング)の工夫

病気や年齢で体が動かしにくくなっても、やり方を変えれば庭との関わりは続けられます。作業療法士は、その人の状態に合わせて作業のやりやすさを調整することを大切にしています。

  • 脳卒中などで体の片側が動かしにくい方:安定した椅子に座って行い、動かせる側の手で作業します。柄が太く、滑りにくい道具が使いやすいです
  • 腰や膝が痛む方:立ったまま使える長い柄の道具や、座面つきの園芸イスを使います。10分作業して5分休む、と区切るのも助けになります
  • 物忘れが目立つ方:必ず一緒に行い、「この囲いの中だけ」と抜く範囲を目で見てわかるように示します。抜いてほしくない花には目印をつけておくと安心です
  • 車椅子を使う方:手が届く高さ(60〜70cmほど)の花壇やプランターを用意し、車椅子で近づける通路を確保します

しゃがむのが難しければ、テーブルに置いたプランターの草を抜くだけでも、指先を使う練習と気分転換になります。庭全部をやらなくてよいと考えることが、続けるためのこつです。

便利な道具の紹介

道具を替えるだけで、同じ草取りが驚くほど楽になります。作業療法では、こうした道具を体の負担を道具に肩代わりさせる工夫として大事にしています。

  • 長い柄の草取り器:立ったまま草を抜けるので、腰にほとんど負担がかかりません
  • 草取り鎌(ねじり鎌):引き抜く力が弱くなっても、根元を切って処理できます
  • 園芸用の手袋:手を守り、握りやすさも助けてくれます
  • 膝パッド・園芸マット:膝をついた姿勢の痛みをやわらげます
  • 座面つきの園芸イス:座ったまま作業でき、立ち上がるときの支えにもなります
  • 高さのある花壇(レイズドベッド):かがまずに手入れができ、車椅子でも使えます

まず試すなら膝マットと園芸イスがおすすめです。手ごろな値段のものが多く、腰と膝の負担がすぐに変わります。

家族・介護者へのアドバイス

ご家族が心配のあまり「危ないからもうやめて」と言ってしまう気持ちは、とてもよくわかります。ただ、長年続けてきた庭仕事を急に取り上げられると、ご本人は自分の居場所をなくしたように感じてしまいます。

作業療法士がおすすめするのは、やめさせるのではなく、安全にできる形に変えることです。

  • 「やめて」ではなく「一緒にやろう」と声をかける
  • 暑い日や体調のすぐれない日は休む、というルールを一緒に決めておく
  • 椅子や道具を用意して、体への負担そのものを減らす
  • 「今日はここまで」と範囲を先に決め、やりきった気持ちで終われるようにする
  • きれいになった庭を一緒に眺めて、できばえを言葉にして伝える

だんだん難しくなってきたら

体力が落ちてきても、「もうできない」と全部やめてしまう必要はありません。関わり方を小さくして残すという方法があります。

  • 広い場所は業者や家族に任せ、小さな花壇だけ自分で手入れする
  • 高さのある花壇やプランターに替えて、座ったまま・立ったまま手入れできるようにする
  • 草取りの代わりに、水やりや花を眺めることで庭との関わりを続ける
  • 「あそこの草を抜いてね」と指示する役に回る

大切なのは、その方にとって庭がどんな意味を持っているかを知ることです。作業療法士は、動作ができるかどうかだけでなく、その作業がその人の暮らしの中でどんな意味を持つのかを大事にします。

ご家族からよくいただく質問

ひとりで庭に出させても大丈夫でしょうか。 ひとりで作業する場合は、携帯電話を必ずポケットに入れてもらい、家の人が「何時に戻る」と時間を共有しておくと安心です。夏場や体調に不安がある時期は、できるだけ誰かが家にいる時間帯に行ってもらいましょう。

本人が休憩を嫌がって、何時間も続けてしまいます。 「休んで」と言うより、「お茶にしよう」と誘うほうが受け入れられやすいです。飲み物を持って様子を見に行く役をご家族が担うと、自然に区切りをつくれます。

禁止しないと転んでけがをしないか心配です。 心配なときは、まず主治医やリハビリの担当者、担当のケアマネジャーに相談してください。体の状態を見たうえで、どこまでなら安全にできるかを一緒に整理できます。

まとめ

ポイント

この記事のポイント

  • 草取りは足腰・手指・頭を一度に使う、体にも気持ちにもよい活動です
  • 腰を守るこつは、しゃがみっぱなしにせず姿勢をこまめに変えることです
  • 夏は朝夕に行い、時間を区切って、のどが渇く前に水分をとります
  • 椅子や長い柄の道具を使えば、体が動かしにくくなっても続けられます
  • ご家族は禁止するよりも、一緒にできる形をつくることを考えてみてください
ご家庭でできること
  • 草取りセットをかごにまとめて玄関に置く:帽子、水筒、手袋、膝マット、タイマーを1か所にまとめておくと、準備が面倒で安全対策を飛ばしてしまうことを防げます
  • キッチンタイマーを25分でかけてから庭に出る:鳴ったら必ず日陰に入って水を飲む、と決めておきます。時間を計るだけで、やりすぎをかなり減らせます
  • その日抜く範囲をひもや目印で先に区切る:終わりが目に見えるので、無理に延長せず、やりきった気持ちで切り上げられます

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