この記事のポイント
- ヤングケアラーとは、家族のケアを日常的に担う18歳未満の子どものことです
- 中学2年生の5.7%(約17人に1人)が家族の世話をしているという国の調査結果があります(令和2年度)
- OTは「作業バランス」の視点から、子どもが年齢相応の生活を取り戻す支援を行います
- 学校・福祉・医療の連携が早期発見と継続支援のカギです
ヤングケアラーとは何か
「ヤングケアラー」とは、本来は大人が担うべき家族のケアを日常的に行っている18歳未満の子どものことです。厚生労働省と文部科学省が2020年度に実施した全国調査では、中学2年生の5.7%(約17人に1人)が「世話をしている家族がいる」と回答しました。高校2年生でも4.1%にのぼります。
中学2年生のうちヤングケアラーの割合
クラスに約2人いる計算
ケアについて相談した経験がない割合
この調査で特に深刻だったのは、「相談した経験がない」と答えた子どもが6割を超えていたことです。多くの子どもが「自分はヤングケアラーだ」という自覚すら持たないまま、ケアの責任を背負い続けています。
ケアの具体的な内容
ヤングケアラーが担うケアの内容は多岐にわたります。身体的な介護だけではなく、目に見えにくい役割も含まれます。
家事全般
料理・洗濯・掃除・買い物など、家庭内の家事を主に担っている
きょうだいの世話
幼いきょうだいの食事・入浴・送迎・宿題の見守りなどを行っている
身体介護
入浴やトイレの介助、移動の付き添い、服薬管理などを手伝っている
感情面のサポート
精神疾患や依存症のある家族の話し相手、見守り、感情的な支えとなっている
通訳・手続き代行
外国にルーツを持つ家族の通訳、役所や病院の手続きを代行している
経済的な役割
家計を助けるためにアルバイトをし、収入の一部を家庭に入れている
「ヤングケアラー」とは、家族のケアを日常的に担っている18歳未満の子どものことです。厚生労働省・文部科学省の令和2年度の調査では、中学2年生の5.7%(約17人に1人)が「世話をしている家族がいる」と答えています。
ケアの内容は、家事・きょうだいの世話・入浴やトイレの介助・家族の話し相手など多岐にわたります。多くの子どもが自分がヤングケアラーだという自覚を持たないまま、ケアの責任を背負い続けています。
ケアが子どもに及ぼす影響
ヤングケアラーの生活への影響は、学業面だけにとどまりません。OTの視点で整理すると、子どもの生活全体にわたる作業の制限が見えてきます。
学業への影響
厚生労働省の調査によれば、ヤングケアラーの子どもの約16%が「授業中に寝てしまうことがある」と回答し、約6%が「遅刻や早退が多い」と答えています。宿題や試験の準備に十分な時間を確保できず、進学の選択肢が狭まるケースも報告されています。
友人関係と社会参加
放課後や休日にケアの予定が入ると、部活動や友人との遊びに参加できなくなります。「自分だけ違う」という孤立感や、家庭の事情を話せない息苦しさが、子どもの対人関係を徐々に狭めていきます。
心身の健康
慢性的な睡眠不足や身体的な疲労に加え、「自分がやらなければ家族が困る」という責任感が、子どもの心に大きなプレッシャーをかけます。英国のYoung Carers Research Group(Becker, 2007)の研究では、ヤングケアラーにおけるストレス、不安、抑うつの有病率が同年代の子どもよりも有意に高いことが示されています。
見逃しやすいサイン
ヤングケアラーは「しっかりした子」「手のかからない子」と見なされやすいです。遅刻の理由をきょうだいの送迎とは言わず、本人が支援を求めることは稀です。周囲の大人が「もしかして」と気づく感度が重要です。
ケアを担い続けることで、子どもの生活にはさまざまな影響が出ます。
- 学業 — 疲れて授業中に寝てしまう、宿題の時間がとれない、進学の選択肢が狭まる
- 友人関係 — 部活や遊びに参加できず、孤立感を感じやすくなる
- 心身の健康 — 慢性的な疲労やストレスが蓄積し、不安や抑うつにつながることがある
「しっかりした子」の裏に
ヤングケアラーは「しっかりした子」と見なされやすく、本人が支援を求めることは稀です。周囲の大人が「もしかして」と気づくことが大切です。
作業療法士が「作業バランス」の視点で関わる意義
OTは、人の生活を「作業(occupation)」の集合として捉える専門家です。ここでいう「作業」とは、日常生活におけるすべての活動を意味します。セルフケア、学習、遊び、休息、社会参加――これらの作業が適切なバランスで営まれることが、子どもの健康な発達に不可欠です。作業療法という専門職の全体像については、作業療法とは何かで詳しく解説しています。
作業バランスの崩壊
ヤングケアラーの生活では、「ケア(生産活動)」が過剰になり、他の作業が圧迫されています。
| 活動領域 | 本来の子どもの生活 | ヤングケアラーの生活 |
|---|---|---|
| 学習 | 授業・宿題・読書 | 疲労で授業に集中できない |
| 遊び・余暇 | 部活・友人と過ごす時間 | ケアの合間にしか取れない |
| セルフケア | 十分な睡眠・食事 | 睡眠時間の短縮・食事の偏り |
| 休息 | 何もしない自由な時間 | 常に「次のケア」を意識 |
| 社会参加 | 地域活動・行事 | 参加を断念する場面が増える |
子どもは「小さな大人」ではありません。年齢相応の作業に参加する権利があり、それを保障することが支援の出発点です。
— カナダ作業遂行モデル(CMOP-E)の考え方に基づく
OTが貢献できる固有の視点
OTがヤングケアラー支援で発揮できる専門性は、以下の3点に集約されます。
作業分析による現状の可視化
子どもの一日の過ごし方を時間軸で整理し、どの作業がどれだけ圧迫されているかを客観的に示します
環境調整による負担軽減
ケアの動線や道具の工夫、福祉用具の導入などで、ケアにかかる時間と労力を物理的に減らします
作業バランスの再構築
子どもが学習・遊び・休息を取り戻せるよう、段階的な目標設定と環境づくりを支援します
作業療法士は、子どもの生活を「活動のバランス」という視点で見ます。勉強・遊び・休息・ケアのバランスが崩れていないかを確認し、子どもが年齢相応の生活を取り戻すお手伝いをします。
- 生活の見える化 — 子どもの1日の過ごし方を一緒に整理し、どこに無理があるかを客観的に確認します
- ケアの負担を減らす工夫 — 介護のやり方の工夫や福祉サービスの活用で、ケアにかかる時間と労力を減らします
- 自分の時間を取り戻す — 学校生活や遊び、休息の時間を確保できるよう、段階的に環境を整えます
学校・福祉・医療の連携が不可欠な理由
ヤングケアラーの問題は、一つの専門領域だけでは解決できません。2022年に施行された「ヤングケアラー支援体制強化事業」(厚生労働省)でも、多機関連携の重要性が明記されています。
早期発見(学校が起点)
- 1教員・スクールカウンセラーが生活上の変化に気づく
- 2本人との面談で家庭状況をていねいに聞き取る
- 3ヤングケアラーの可能性をスクールソーシャルワーカーに相談
アセスメントと支援計画(福祉が中核)
- 4要対協(要保護児童対策地域協議会)または子ども家庭センターが調整役となる
- 5家庭全体の状況を把握し、利用可能な福祉サービスを検討
- 6作業療法士がケア負担の分析と環境調整の助言を行う
継続支援と見守り(多職種で分担)
- 7訪問介護やヘルパー導入で家族のケア負担を分散する
- 8OTが子どもの作業バランス回復を定期的にモニタリング
- 9学校が居場所づくりと学習支援を継続する
ヤングケアラーの問題は、学校・福祉・医療が連携して対応することが大切です。
- まず学校で気づく — 教員やスクールカウンセラーが子どもの変化に気づき、家庭状況を聞き取ります
- 福祉サービスにつなぐ — 子ども家庭センターなどが調整役となり、利用できる福祉サービスを検討します
- チームで継続支援 — 訪問介護の導入やヘルパーの活用で、家族全体のケア負担を分散します
具体的な支援方法
OTが実際に関わる場面を想定し、具体的な支援の進め方を紹介します。
1. 作業日誌を使った生活の見える化
まず、子どもと一緒に1週間の作業日誌をつけます。起床から就寝まで、何をしているかを30分単位で記録します。色分けすることで、「ケア」「学校」「自分の時間」の割合を視覚的に把握できます。
ポイントは、日誌をつけること自体を「評価」と感じさせないことです。「あなたの一日を一緒に見てみよう」という協働の姿勢が大切です。
2. ケアの再分配と環境調整
日誌から見えた課題をもとに、ケアの内容を以下の観点で整理します。
他の人に移せるケア
訪問介護・デイサービス・ファミリーサポートセンターなど、外部サービスで代替できるものを検討します
効率化できるケア
福祉用具の活用(ポータブルトイレ、手すりの設置など)や家事の段取りの工夫で時間を短縮します
子どもが担い続けるケア
本人が「やりたい」と感じるケアは尊重しつつ、過度な負担にならない範囲に調整します
3. 「自分の時間」を取り戻す段階的な目標設定
ケアの負担が軽減されても、子どもがすぐに「自分の時間」を楽しめるとは限りません。長期間ケアを優先してきた子どもは、自分のやりたいことがわからなくなっている場合があります。
OTは、作業に関する興味関心チェックシート(日本作業療法士協会版)などを活用し、子ども自身が「やってみたい」と思える活動を一緒に探します。最初は週に1回、30分だけでも「自分のための時間」を確保するところから始めます。
4. 学校との連携による居場所づくり
OTがスクールカウンセラーや担任と情報共有を行い、学校内で以下のような配慮を依頼することがあります。
- 遅刻や欠席に対する柔軟な対応と学習の補充
- 安心して過ごせる居場所(保健室・相談室)の確保
- 部活動や行事への参加をサポートする仕組みづくり
5. 家族全体への支援
子どもだけを支援しても、家族全体のケア体制が変わらなければ根本的な解決にはなりません。OTは、ケアを受けている家族の生活機能を高めるリハビリテーションを通じて、家庭全体のケア負担を減らすことにも貢献できます。育児と介護が同時進行する家庭への支援の考え方は、ダブルケア家庭に提案する暮らしの整理術でも詳しく取り上げています。
ピアサポートの活用
近年、ヤングケアラー同士が体験を共有できるピアサポートグループが各地で立ち上がっています。同じ境遇の仲間と話すことで「自分だけじゃない」と感じられる場は、子どもの心の回復にとって大きな力になります。自治体の子ども家庭センターやNPOが運営する交流会を紹介するのもOTの重要な役割です。
周りの大人ができること
生活の見える化
子どもの1日の過ごし方を一緒に書き出してみましょう。ケア・勉強・自分の時間の割合が見えてきます。
外部サービスの活用
訪問介護やデイサービスなど、子どものケアを肩代わりできるサービスがないか確認してみてください。
「自分の時間」を確保する
週に1回でも、子どもが好きなことをできる時間をつくりましょう。部活や友人との時間も大切です。
一人で抱え込ませない
「大丈夫?」「困っていることはない?」と声をかけ、相談しやすい雰囲気をつくりましょう。
同じ境遇の仲間とつながる
ヤングケアラー同士が体験を共有できるグループが各地にあります。「自分だけじゃない」と感じられる場は、子どもにとって大きな支えになります。お住まいの自治体やNPOに問い合わせてみてください。
また、大人の家族介護者にも共通することですが、ケアを担う人が一人で抱え込まないことが何より大切です。介護で限界を感じたときの対処法は共倒れしないための7つの知恵で紹介しています。
支援を届けるために必要なこと
ヤングケアラー支援の最大の壁は、本人が支援を求めないことです。「家族のことだから自分がやるのは当たり前」という認識が根強く、また「家庭の事情を知られたくない」という気持ちも支援へのアクセスを阻んでいます。
だからこそ、教育・福祉・医療の現場にいるすべての専門職が、ヤングケアラーの存在に気づくための視点を持つ必要があります。OTがリハビリテーションの現場で家族構成や生活状況を聞き取る際、「お子さんが家事やケアを手伝っていますか」と一言加えるだけでも、早期発見の糸口になりえます。
子ども自身が「助けて」と言うことは稀です。周囲の大人が気づいて手を差し伸べることが何よりも大切です。
まとめ
- ヤングケアラーは「しっかりした子」の裏に隠れており、周囲が能動的に気づく姿勢が不可欠です
- OTは作業バランスの分析と環境調整を通じて、子どもの生活を年齢相応の姿に近づける支援ができます
- 学校・福祉・医療の連携が早期発見と継続的な支援体制構築のカギとなります
- ケアを完全になくすのではなく、子どもが「自分の人生」を生きられる余白を作ることが支援の目標です
- ヤングケアラーは「しっかりした子」の裏に隠れています。周囲の大人が気づくことが大切です
- 子どもが勉強・遊び・休息の時間を取り戻せるよう、外部サービスの活用やケアの分担を検討しましょう
- ケアをゼロにするのではなく、子どもが「自分の時間」を持てる余白をつくることが目標です
- 「大丈夫?」「手伝えることはある?」と声をかけることから始めましょう
- 福祉サービスの活用で、子どものケア負担を減らせないか検討してみてください
- 子どもが好きなことをする時間を、週に1回でも確保できるよう環境を整えましょう
- 厚生労働省・文部科学省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(令和2年度。中学2年生の5.7%、全日制高校2年生の4.1%が「世話をしている家族がいる」と回答)
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」(令和2年度 厚生労働省委託事業)
- 厚生労働省「ヤングケアラー支援体制強化事業実施要綱」(2022年)
- Becker, S. (2007). Global Perspectives on Children's Unpaid Caregiving in the Family. Global Social Policy, 7(1), 23-50.
- 日本作業療法士協会「作業バランスと健康に関するポジションステートメント」
- Joseph, S. et al. (2020). Young Carers in the UK: Experiences, Needs and Services. Child: Care, Health and Development, 46(2), 155-164.
- Leu, A. & Becker, S. (2017). A Cross-National and Comparative Classification of In-Country Awareness and Policy Responses to Young Carers. Journal of Youth Studies, 20(6), 750-762.
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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