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お子さんの「感覚の世界」を知る ── 自閉スペクトラム症と日常のつまずき

ASDのお子さんが日常で感じている感覚の困りごとをわかりやすく解説。食事・着替え・外出のつまずきの理由と、家庭でできる環境調整のヒントを紹介します。

📅 2026年3月25日 更新読了目安 25分

この記事のポイント

  • 自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは、感覚過敏・感覚鈍麻・感覚探求という独自の「感覚の世界」を生きている
  • 食事・着替え・外出など日常のつまずきの多くは、感覚特性が背景にある
  • 作業療法士(OT)の感覚統合アプローチと家庭での環境調整で、暮らしやすさが大きく変わる

ASDの子どもが体験している「感覚の世界」

自閉スペクトラム症(ASD)のあるお子さんは、私たちと同じ場所にいても、感じ方がまったく違うことがあります。

たとえば、スーパーの照明がまぶしすぎて目を開けていられなかったり、逆に転んでも痛みをあまり感じなかったり。ASDのあるお子さんの9割以上に、何らかの感覚の特性があるとされています。

これは「わがまま」でも「しつけの問題」でもありません。脳が感覚を受け取る仕方が違うのです。

作業療法士(OT)は、お子さんの感覚の特性を調べて、暮らしやすくなるための工夫を提案できる専門家です。

3つの感覚パターン ── 過敏・鈍麻・探求

お子さんの感覚の特性は、大きく3つのタイプに分けられます。

タイプどんな感じ?日常での例
感覚過敏ふつうの刺激が強すぎる特定の音や光がつらい、服のタグが痛い
感覚鈍麻刺激を感じにくい痛みに気づきにくい、名前を呼んでも振り向かない
感覚探求強い刺激を求めるくるくる回る、物を叩く、匂いを嗅ぎ続ける

大切なのは、これらが一人の子どもの中に混在することです。「音には敏感だけど、痛みには鈍い」ということが普通にあります。だからこそ、「この子は過敏だから」と一括りにせず、感覚の種類ごとに見ていくことが大切です。

日常のつまずきと感覚特性の関連

食事の場面

食事の時間は、音・匂い・味・食感・見た目など、たくさんの感覚が一度に押し寄せる場面です。

  • 特定の食感が苦手(ぬるぬる、ドロドロなど)
  • 食材の匂いが混ざると気持ち悪くなる
  • おかずが皿の上で触れ合うのが嫌
  • まわりの咀嚼音が気になる

お子さんの偏食は「わがまま」ではなく、感覚の特性が原因であることが多いです。「全部食べなさい」と無理に食べさせると、食事の時間そのものが苦痛になってしまうことがあります。

着替えの場面

「この服はイヤ!」という訴えの背景には、触覚の過敏さが隠れていることがあります。

  • 服のタグや縫い目が肌に当たって痛い
  • 特定の素材(チクチクする服)が耐えられない
  • 新しい服に慣れるまでに時間がかかる
  • 靴下の縫い目の位置が気になる

「こだわりが強い」のではなく、本当に不快に感じているのです。

外出の場面

外出先は、音・光・匂い・人の動きなど、予測できない刺激がたくさんある場所です。

  • 車の音や人ごみの騒がしさ
  • 蛍光灯や太陽光のまぶしさ
  • さまざまな匂いが混ざる環境
  • 人とぶつかることへの恐怖

刺激が多すぎると、お子さんがパニックを起こしたり、固まって動けなくなったりすることがあります。これは「わがまま」ではなく、感覚があふれてしまった状態です。

ご家庭でできること

行き先の写真や動画を事前に見せて、「こんな場所だよ」と伝えておくと安心感が高まります。イヤーマフやサングラスなど、感覚を和らげるグッズを持って行くのもおすすめです。「つらくなったら教えてね」と声をかけておくと、お子さんが自分から助けを求めやすくなります。

「困った行動」を感覚から読み解く

お子さんの「困った行動」には、感覚の理由があります。

こんな行動感覚の背景できる工夫
耳をふさぐ音がつらいイヤーマフを用意する
同じ服しか着ないほかの服の感触が苦痛同じ素材・形の服を複数用意する
食べられるものが少ない食感や匂いが苦手食べられるものから少しずつ広げる
くるくる回る回る感覚が必要安全な場所で自由に回れるようにする
人に近づきすぎる距離感がつかみにくい「腕1本分の距離」など目に見える目安を教える

大切なのは、行動を「やめさせる」のではなく、なぜそうしているのかを理解することです。

OTによる感覚統合アプローチ

感覚統合療法

感覚統合療法は、OTが行う専門的なアプローチです。遊びの中で感覚を整理する力を育てます

  • 子どもが主役: 無理にやらせるのではなく、お子さん自身が「やりたい」と思える遊びの中で進めます
  • 「ちょうどよい挑戦」: 簡単すぎず難しすぎない、ちょうどよいレベルの活動を用意します
  • 楽しさが大切: ブランコ、ボールプール、トランポリンなど、楽しい活動を通じて感覚を整えます

環境調整

環境を整えることで、お子さんの暮らしやすさはすぐに変わります。OTが提案する環境調整の例を紹介します。

家庭でできる環境調整
  • 蛍光灯を暖かい色のLEDライトに変える
  • うるさい場面ではイヤーマフを使う
  • 衣服のタグを取り除く、肌触りのよい素材を選ぶ
  • 食事の席や食器を見直す
  • 絵カードやスケジュール表で予定を見えるようにする
  • 落ち着ける「クールダウンスペース」を家の中に作る

活動の段階づけ

感覚が苦手な場面に少しずつ慣れていくには、「段階を踏む」ことが大切です。

たとえば、手で触ることが苦手なお子さんの場合は、こんなふうにステップを踏みます。

  1. まずはスプーンや筆など、道具を使って触れる体験から
  2. 次に、好きな感触のものだけに直接触れてみる
  3. 少しずついろいろな素材に短い時間だけ触れてみる
  4. 最終的に、手洗いや食事など日常の場面に活かしていく

無理強いは逆効果です。お子さんのペースに合わせて、「ちょっとやってみようかな」と思えたときがチャンスです。

療育施設・発達支援センターでのOTの関わり

お子さんの感覚の特性について相談できる場所があります。

相談先内容
児童発達支援センターOTによる感覚の評価と療育(未就学児)
放課後等デイサービスOTが在籍している事業所もあります(学齢児)
小児科・児童精神科診断と療育への紹介
保健センター乳幼児健診で気になることがあれば相談可

ヒント

お住まいの自治体の「児童発達支援センター」に連絡すると、OTの評価を受けられることがあります。まずは電話で相談してみてください。

感覚過敏が学校生活に影響している場合は、感覚過敏の環境調整と10の工夫もあわせてご覧ください。不登校の背景に感覚の問題がありそうな場合は、不登校・ひきこもりの子どもとの向き合い方も参考になります。

家庭でできる感覚環境の整え方

ご家庭でできること
  • 「安全基地」を作る: 家の中に、刺激が少なく落ち着ける場所を用意してください。押入れの中や、テントのような囲われた空間が好きな子も多いです
  • 予定を「見える化」する: 絵カードや写真で1日の流れを示すと、見通しが持てて安心できます
  • 感覚グッズを活用する: 重い毛布、ハンドスピナー、噛めるネックレスなど、感覚を整えるグッズを試してみましょう
  • 「つらい」のサインを決めておく: 言葉で伝えるのが難しいお子さんには、カードを見せる・手を挙げるなど、「つらい」を伝えるサインを一緒に決めておきましょう
  • 感覚ダイアリーをつける: いつ・どこで・何がつらかったかを記録すると、パターンが見えてきます。OTへの相談時にも役立ちます

ポイント

お子さんの「困った行動」の裏には、感覚の理由が隠れていることがあります。

「やめさせる」のではなく、「なぜそうしているのか」を理解することが、支援の第一歩です。家庭でできる環境調整から始めて、必要に応じてOTに相談してみてください。お子さんの「感覚の世界」を理解する味方が増えれば、暮らしはぐっと楽になります。


免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。

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