この記事のポイント
- 注意には「持続性」「選択性」「転換性」「分配性」の4つの機能があり、どれが障害されているかで困りごとが変わります
- 環境から余計な刺激を減らし、作業を小さなステップに分けることで、注意の負担を軽くできます
- 家族の声かけは「短く・具体的に・一つずつ」が基本です
「集中できない」にはいくつもの原因があります
「集中できない」「すぐ気が散る」「ぼんやりしている」。ご家族にこうした様子が見られると、「やる気がないのでは」と思ってしまうかもしれません。
しかし、これは脳の「注意」という機能の問題であり、本人の意思や努力不足ではありません。
作業療法士(OT)は、注意の問題が暮らしにどう影響しているかを分析し、環境の整え方や活動の工夫を一緒に考えてくれる専門家です。
注意の4つの機能を知る
「注意」には4つの種類があります。どれが苦手になっているかで、困りごとの内容が変わります。
- 持続性注意: 一つのことに集中し続ける力。障害されると「途中で集中が切れる」
- 選択性注意: 必要な情報だけに注意を向ける力。障害されると「テレビがついていると会話に集中できない」
- 転換性注意: 注意を切り替える力。障害されると「途中で別のことを頼まれると混乱する」
- 分配性注意: 2つのことに同時に注意を向ける力。障害されると「料理しながら話を聞けない」
ご家族がどの注意が苦手なのかを知ると、サポートの仕方が具体的に見えてきます。
注意障害が日常生活に与える影響
注意障害があると、日常のさまざまな場面で困りごとが生じます。
- 食事: 食べこぼしが増える、食事に時間がかかる
- 入浴・着替え: 手順を飛ばしてしまう、洗い残しがある
- 調理: 火をかけたまま忘れる、同時に複数のことを進められない
- 外出: 信号の変化に気づかない、人混みでひどく疲れる
- 服薬: 他のことに気をとられて飲み忘れる
火の取り扱いにご注意ください
注意障害がある方が調理をする場合、火の消し忘れによる事故のリスクがあります。タイマー付きコンロやIHヒーターの導入を検討してください。
環境調整 ── 余計な刺激を減らす
注意障害のある方にとって、周囲のさまざまな刺激が集中の妨げになります。余計な刺激を減らすことが、暮らしを整える第一歩です。
目に入る情報を減らす
- 作業する机の上には今使うものだけを置く
- テーブルや壁の周りをすっきりさせる
耳に入る情報を減らす
- 作業中はテレビや音楽を消す
- 静かな部屋で作業する
- 必要に応じて耳栓を使う
時間の使い方を工夫する
- 「今は○○の時間」と決めて、他の用事を入れない
- タイマーを使って集中と休憩のリズムをつくる
長時間の集中が難しい場合、タイマーで「15分集中→5分休憩」のリズムをつくってみてください。キッチンタイマーやスマホのタイマーで十分です。15分が難しければ10分、5分から始めても構いません。少しずつ集中できる時間を延ばしていきましょう。
作業の構造化 ── 複雑な作業を「シンプル」にする
手順の多い作業は、注意障害のある方にとって大きな負担です。作業を小さなステップに分けることで、ぐっとやりやすくなります。
作業を小分けにする
たとえば「洗濯をする」を以下のように分けます。
- 洗濯物を集める
- 洗濯機に入れる
- 洗剤を入れる
- スタートボタンを押す
- 終了アラームが鳴ったら取り出す
- 干す
一つずつ確認しながら進めることで、手順を飛ばしにくくなります。
チェックリストを貼っておく
手順を書いたチェックリストを作業場所に貼り、一つ終わるごとにチェックを入れましょう。「どこまでやったか」がひと目でわかります。
「ながら作業」は避ける
2つのことを同時にするのが難しい場合は、一つの作業が終わってから次に取りかかるルールにしましょう。
活動の段階づけ ── 「ちょうどよい難しさ」で取り組む
いきなり難しいことに挑戦するのではなく、「ちょうどよい難しさ」から始めることが大切です。
たとえば調理なら、以下のように段階的に取り組みます。
- まず: トーストを焼く、お茶を入れるなど簡単なことから
- 次に: 卵焼きやサラダなど、3〜4手順の料理へ
- 慣れたら: ご飯を炊きながらおかずを作るなど、同時進行へ
「できた」という体験を積み重ねることが、自信の回復につながります。
注意を集中させること自体が脳の疲労を引き起こします。午前中のほうが集中しやすい方が多いので、大切な用事や作業は午前中に行うとうまくいきやすいです。午後や夕方に疲れが出やすいことも覚えておいてください。
家族の声かけの工夫
ご家族の声かけの仕方を少し工夫するだけで、ご本人の混乱を減らせます。
「短く・具体的に・一つずつ」
- ×「あれやって、それからこれも」
- ○「テーブルの上のコップを台所に持っていってね」
一つの指示が終わってから、次の指示を出しましょう。一度にたくさん言われると混乱してしまいます。
注意を引いてから話す
- まず名前を呼んで、こちらを向いてから話し始めましょう
- テレビがついているときは消してから話しかけましょう
「できたね」を伝える
注意障害のある方は失敗体験を重ねやすく、自信を失いがちです。小さなことでも「できたね」「ありがとう」と伝えることが、ご本人の意欲を支えます。
「怠けている」のではありません
集中できない、すぐ気が散る、ぼんやりしているのは、本人の意思や努力の問題ではなく、脳の注意機能の問題です。ご本人も困っています。叱るのではなく、一緒に工夫を考えていきましょう。
作業療法士に相談してみませんか
OTは注意障害のある方の暮らしを総合的にサポートできます。
- 注意機能の評価: どの注意が苦手かを詳しく調べます
- 環境調整: ご自宅の環境を「集中しやすい」ように整えるお手伝いをします
- 活動の段階づけ: ご本人に合った「ちょうどよい難しさ」の作業を提案します
- 声かけのアドバイス: ご家族の関わり方について具体的なコツをお伝えします
「集中できない」ことで困っていたら、お近くのリハビリテーション施設や地域包括支援センターに相談してみてください。
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。