この記事のポイント
- ロービジョン(低視力)とは、眼鏡やコンタクトで矯正しても十分な視力が得られない状態のことです
- 照明・コントラスト・拡大鏡などの環境調整で、多くの日常動作を自分で続けることができます
- 作業療法士は「見えにくくてもできる方法」を一緒に考え、生活全体を支援する専門家です
ロービジョンとは何か
LVとは、眼鏡やコンタクトレンズで矯正しても、日常生活に支障をきたす程度の視力低下がある状態を指します。WHOの視力分類(ICD-10 H54)では、視力0.05以上0.3未満が中等度〜重度の視覚障害、0.05未満が盲に区分されます。この0.05以上0.3未満の範囲が、従来「low vision(ロービジョン)」と呼ばれてきた領域にあたります。なお現行のICD-10(2019年版)では区分名として「low vision」の語は使われておらず、mild / moderate / severe / blindness の4段階で表記されています。
日本の在宅の視覚障害者(身体障害者手帳所持者)は、厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」の推計で27万3千人です(平成28年調査では31万2千人)。この数字は手帳所持者の推計であって、見えにくさを抱える人の総数ではありません。ロービジョンの状態にありながら手帳を取得していない方も多く、実際に支援を必要としている人はこれより多いと考えられます。
主な原因疾患には以下のものがあります。
- 加齢黄斑変性: 中心部が見えにくくなる
- 緑内障: 視野が徐々に狭くなる
- 糖尿病網膜症: 視力低下や視野欠損が進行する
- 網膜色素変性症: 夜盲や視野狭窄が特徴的
OTは、これらの疾患による視覚障害がある方の日常生活を支援する専門家です。「見えない」ことではなく、「見えにくい中でどう暮らすか」に焦点を当てたアプローチを行います。作業療法士という職種の全体像については作業療法とは何かを解説した記事をご覧ください。
ロービジョンとは、眼鏡やコンタクトレンズで矯正しても、日常生活に支障をきたす程度に視力が低下している状態のことです。「全く見えない」のではなく、「見えにくい」状態です。
加齢黄斑変性、緑内障、糖尿病網膜症などが主な原因で、高齢になるほど増加します。
- 中心が見えにくい: 文字が読めない、顔が判別しにくい
- 周辺が見えにくい: ぶつかりやすい、段差に気づきにくい
- 全体がぼやける: すべてが霞んで見える
作業療法士(OT)は、見えにくくても自分らしく暮らすための工夫を一緒に考えてくれる専門家です。
見えにくさが日常に与える影響
視覚障害は、日常生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。OTが介入する際には、以下の領域を包括的に評価することが重要です。
移動・外出
- 段差や障害物の認識が困難になる
- 信号の色やバスの行き先表示が読めない
- 見知らぬ場所での移動に強い不安を感じる
読み書き・情報アクセス
- 新聞や書籍の文字が読めない
- 薬の名前や用量が確認できない
- 書類の記入が困難になる
調理・家事
- 食材の鮮度や調味料の判別が難しい
- 火の加減やお湯の量が分からない
- 掃除の仕上がりが確認しにくい
金銭管理
- 紙幣・硬貨の区別がつきにくい
- ATMの操作画面が見えない
- レシートの確認ができない
心理的影響
視覚障害とうつには一貫した関連が報告されています。住民ベースの研究31件をまとめたメタ解析では、視覚障害とうつの関連は調整オッズ比1.75(調査データ)/1.59(眼科的検査データ)で、うつの割合は視覚障害のある人で27%、全体では17%でした(Virgili ら、2022年報告)。また眼科・ロービジョンケアを受診している患者6,992名を対象としたメタ解析では、うつの有病割合は25%(95%CI 19〜33%)と報告されています(Parravano ら 2021)。
「2〜3倍」と表現されることがありますが、交絡を調整した推定値は1.6〜1.8倍程度です。倍率の大小にかかわらず、「迷惑をかけたくない」という思いから活動範囲を狭め、社会的孤立につながるケースは少なくありません。
見えにくくなると、日常生活のさまざまな場面で困りごとが生じます。
- 移動: 段差に気づきにくい、信号が見えにくい、外出が怖い
- 読み書き: 新聞や薬の説明書が読めない、書類の記入が難しい
- 調理・家事: 食材の区別がつかない、火の加減がわからない
- お金の管理: お札の区別がつきにくい、ATMの画面が見えない
見えにくさは気持ちの面にも大きく影響します。「迷惑をかけたくない」と外出を避けるようになったり、趣味をやめてしまったりすることも多いのです。
「何でもやってあげる」よりも、「自分でできる方法を一緒に考える」ことが大切です。先回りしてすべてを代行すると、ご本人の自信や意欲が失われてしまうことがあります。
作業療法士が提案する環境調整
OTによる環境調整は、ロービジョンケアの中核をなすアプローチです。以下の3つの原則に基づいて介入を行います。
原則1: 照明の最適化
適切な照明は、残存視力を最大限に活用するための基本です。
- 全体照明と局所照明の併用: 部屋全体の照明に加え、作業面にスタンドライトを設置する
- 明るさは「個別に決める」: 必要な照度には大きな個人差があり、原因疾患によっても好みが異なります(外層網膜疾患の方は内層網膜疾患の方より平均838ルクス明るい光を好んだという報告があります)。数値の目安を当てはめるのではなく、実際に複数の明るさを試して本人が快適と感じる水準に合わせます
- グレア(まぶしさ)の軽減: 遮光眼鏡やカーテンで過度な光を調整する
- 影の除去: 光源の位置を工夫し、作業面に影が落ちないようにする
- 効果: 好みに合わせた手元照明を家庭に導入した研究では、在宅での読書速度が平均37語/分改善し(McIntosh ら 2023)、1か月後の追跡に回答した18名のうち16名が「読書が楽になった・楽しくなった」と答えています(Henry ら 2020)
原則2: コントラストの強化
視認性を高めるために、色のコントラストを意識的に活用します。
- 食器と食卓: 白いご飯は濃い色の食器に、暗い色の料理は白い食器に盛る
- 段差の識別: 階段の端に黄色いテープを貼る
- スイッチの視認性: 壁と異なる色のカバーを取り付ける
- 水量の確認: 白いカップの内側に暗い色のマーカーをつける
原則3: 拡大と補助具の活用
- 光学的拡大: ルーペ、拡大読書器、単眼鏡
- 電子的拡大: タブレットのカメラ機能、音声読み上げソフト
- 触覚的補助: 点字シール、触覚マーカー(ぷっくりシール)
見えにくさに対応するための工夫は、大きく3つあります。
工夫1: 照明を明るくする
- 読書や作業をする場所には、手元を照らすスタンドライトを置く
- まぶしすぎる光は逆効果。遮光眼鏡でまぶしさを軽減する
- 影ができないよう、光の方向を工夫する
工夫2: 色のコントラストをつける
- 白いご飯は濃い色のお茶碗に盛る
- 階段の端には黄色いテープを貼る
- スイッチには壁と違う色のカバーをつける
工夫3: 拡大する・音声で確認する
- ルーペ(拡大鏡): 手持ち型、スタンド型など用途に合わせて選ぶ
- タブレットやスマートフォン: カメラで拡大、音声読み上げ機能を活用
- 点字シール: 調味料のボトルや家電のボタンに貼る
まずは「手元を明るくする」ことから始めてみてください。100円ショップのLEDライトでも十分です。次に、よく使う場所に色のコントラストをつけましょう。黄色いテープや色付きのシールは、すぐに手に入ります。
場面別の具体的な工夫
服薬管理
- 投薬カレンダーに大きな文字と触覚マーカーを併用する
- 音声タイマーでの服薬時間管理を導入する
- 薬剤師との連携で一包化を推進する
金銭管理
- 紙幣は折り方で区別する(千円は折らない、五千円は二つ折り、一万円は三つ折り)
- 硬貨はサイズと縁のギザギザで判別する練習を行う
- キャッシュレス決済の導入を支援する
書類への記入
- 太字のサインペンと、罫線を太くした記入用紙を使用する
- サインガイド(署名欄の位置を示す枠)を活用する
- 音声入力による電子署名の代替手段を検討する
趣味活動の継続
ロービジョンになったからといって、趣味を諦める必要はありません。
- 読書 → 拡大読書器、オーディオブック、電子書籍の拡大表示
- 手芸 → 拡大鏡付きスタンド、太い針、コントラストの強い布
- 園芸 → 触覚で判別できるラベル、レイズドベッド(高さのある花壇)
なお、見えにくさがあると浴室での転倒リスクも高まります。入浴場面の安全対策については入浴の自立支援と安全な入り方の工夫で詳しく解説しています。
お薬の管理
- 投薬カレンダーに大きな文字で薬の名前を書く
- 音声タイマーで飲む時間を知らせる
- 薬局で一包化(1回分ずつまとめてもらう)を相談する
お金の管理
- お札は折り方で区別する: 千円→折らない、五千円→二つ折り、一万円→三つ折り
- キャッシュレス決済(電子マネーやQRコード決済)を活用する
趣味を続ける工夫
見えにくくなっても、趣味を諦める必要はありません。
- 読書 → オーディオブックや電子書籍の拡大表示
- 手芸 → 拡大鏡付きスタンドや太い針を使う
- テレビ → 音声解説付き放送を活用する
活用できる便利グッズと制度
日常生活用具給付等事業
視覚障害のある方は、障害者手帳を取得することで日常生活用具の給付を受けられます。市町村が実施する地域生活支援事業(必須事業)で、対象品目・基準額・利用者負担はいずれも市町村が定めます。
- 拡大読書器: 給付対象。ただし利用者負担の割合・基準額はいずれも市町村が定めます(日常生活用具給付等事業は市町村の地域生活支援事業であり、補装具費支給制度のような国一律の「1割負担」の定めはありません)
- 音声時計・音声体温計: 視覚に頼らず情報を得るためのツール
- 活字読み上げ装置: 印刷物を読み上げる機器
スマートフォンのアクセシビリティ機能
近年は、スマートフォンのアクセシビリティ機能がロービジョンケアに大きく貢献しています。
- VoiceOver(iOS)/ TalkBack(Android): 画面の内容を音声で読み上げ
- ズーム機能: 画面全体を拡大表示
- 色反転・コントラスト強化: 見やすい表示に変更
OTとして、これらのICT活用支援も重要な介入領域です。
使える制度
日常生活用具給付等事業を使うと、拡大読書器や音声時計などを少ない自己負担で入手できます。自己負担の割合や上限額は市町村が決めているため、お住まいの地域によって異なります。市区町村の障害福祉窓口に相談してみてください。
スマートフォンの便利な機能
- 音声読み上げ: 画面の内容を読み上げてくれます
- カメラで拡大: 小さな文字をカメラで映して拡大できます
- 音声入力: 文字を打たなくても、話すだけでメッセージが送れます
ヒント
障害者手帳の取得について、まずは眼科の主治医に相談してみてください。手帳を取得することで、さまざまな支援を受けられるようになります。
まとめ
ロービジョンケアにおけるOTの役割は、残存視力を最大限に活用しながら、環境調整と代償手段の導入によって生活の質を維持・向上させることです。
照明の最適化、コントラストの強化、補助具の活用という3つの原則を軸に、個々の生活場面に即した具体的な対策を提案していくことが求められます。
また、視覚障害に伴う心理的影響にも目を向け、活動や社会参加の維持を通じた心理面の支援も忘れてはなりません。
目が見えにくくなったときに大切なポイント
- ロービジョンは「見えない」のではなく「見えにくい」状態。工夫次第で多くのことが自分でできます
- 照明を明るくする・色のコントラストをつける・拡大するの3つが基本の工夫です
- お札の折り方やスマートフォンの音声機能など、すぐにできる対策から始めましょう
- 日常生活用具給付等事業など、活用できる支援制度があります。自己負担の割合は市町村によって異なるため、お住まいの市区町村に相談してみてください
- 作業療法士は「見えにくくてもできる方法」を一緒に考える専門家です。お気軽にご相談ください
- WHO ICD-10(2019年版)H54 Visual impairment including blindness ── 視力による視覚障害の区分
- 厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果の概要」表2 ── 視覚障害の身体障害者手帳所持者 273千人
- Virgili G, et al. The Association between Vision Impairment and Depression: A Systematic Review of Population-Based Studies. J Clin Med. 2022;11(9):2412. DOI 10.3390/jcm11092412(調整オッズ比1.75/1.59)
- Parravano M, et al. Association Between Visual Impairment and Depression in Patients Attending Eye Clinics: A Meta-analysis. JAMA Ophthalmol. 2021;139(7):753-761. DOI 10.1001/jamaophthalmol.2021.1557(うつの有病割合25%)
- McIntosh S, et al. New insights into visually impaired patients’ preferred reading illumination and home-based reading speed with new task-lighting. Ophthalmic Physiol Opt. 2023;43(4):640-648. DOI 10.1111/opo.13111(在宅の読書速度が平均37語/分改善)
- Henry R, Duquette J, Wittich W. Comparison of Two Lighting Assessment Methods when Reading with Low Vision. Optom Vis Sci. 2020;97(4):257-264. DOI 10.1097/OPX.0000000000001499(1か月後の追跡に回答した18名中16名が読書が楽になった・楽しくなったと回答)
- 厚生労働省「日常生活用具給付等事業の概要」── 市町村の地域生活支援事業(必須事業)。利用者負担は市町村の判断による
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この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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