この記事のポイント
- がんリハビリテーションには予防的・回復的・維持的・緩和的の4つの時期があり、それぞれに作業療法士の役割があります
- ADL支援、上肢リンパ浮腫の予防、復職支援、アピアランスケアなど、暮らしに直結する介入を行います
- がんサバイバーシップの視点から、治療後も「自分らしい暮らし」を続けるためのQOL向上を目指します
がんと向き合いながら「暮らし」を続けるということ
がんと診断された方の多くが、「治療」に意識を集中させます。もちろん治療は最優先です。しかし、治療の最中も、治療の後も、「暮らし」は続きます。
国立がん研究センターのがん統計によると、2018年にがんと診断された人の5年相対生存率は男女計で64.8%(男性63.2%、女性66.8%)でした。がんは「不治の病」から「長くつき合う病気」へと変わりつつあるのです。だからこそ、治療と並行して生活の質(QOL)をいかに保つかが重要になります。
OTは、がん患者さんの「暮らし」を支える専門家です。食事、入浴、着替えといった日常動作から、仕事への復帰、趣味の再開まで、治療の段階に合わせた生活支援を行います。
がんと診断されると、治療のことで頭がいっぱいになるのは当然です。しかし、治療の最中も、治療が終わった後も、「暮らし」は続きます。
国立がん研究センターの集計では、2018年にがんと診断された人のうち約65%が5年後も生きています(5年相対生存率、男女計64.8%)。がんは「長くつき合う病気」に変わりつつあります。だからこそ、治療と並行して日常生活をどう維持するかが大切になります。
作業療法士(OT)は、がん患者さんの「暮らし」を支える専門家です。食事や着替えなどの日常動作から、仕事への復帰まで、治療の段階に合わせたサポートを行います。作業療法士がどんな専門家なのかは作業療法とは何をするリハビリなのかで詳しく解説しています。
がんリハビリテーションの4つの時期
がんリハビリテーションは、疾患の経過に応じて4つの時期に分けられます。それぞれの時期でOTの役割が異なります。
がんのリハビリは、病気の進行に合わせて4つの時期に分けられます。
予防的リハビリテーション
- 1がんと診断された直後から開始
- 2手術や治療の前に体力を維持する
- 3治療後の機能低下を最小限に抑える準備
回復的リハビリテーション
- 4手術後や治療中に実施
- 5失われた機能の回復を目指す
- 6日常生活動作の再獲得に取り組む
維持的リハビリテーション
- 7治療後の生活を安定させる時期
- 8獲得した機能を維持する
- 9社会復帰に向けた準備を進める
緩和的リハビリテーション
- 10根治が難しい場合の支援
- 11痛みや苦痛の軽減を目指す
- 12残された時間のQOLを最大化する
ヒント
「がん患者リハビリテーション料」は2010年(平成22年度)の診療報酬改定で新設されました。所定の研修を修了したOTが、医師の指示のもとで算定できます。
予防的リハビリテーションとOTの関わり
診断直後から介入を開始します。手術前の段階で以下を実施します。
- 現在のADL能力の評価: 手術後の変化を把握するためのベースラインを確立する
- 退院後の生活イメージの共有: 患者さんがどのような暮らしに戻りたいかを聴取する
- 自主トレーニングの指導: 術前から実施できる上肢機能訓練や体力維持の方法を伝える
- 心理的サポート: 不安の傾聴と、リハビリの見通しを伝えることで安心感を提供する
回復的リハビリテーションにおけるOTの介入
手術後や化学療法中の機能回復を支援します。
- ADL訓練: 食事・整容・更衣・入浴動作の再獲得
- 上肢機能訓練: 乳がん術後の肩関節可動域訓練、リンパ浮腫予防のセルフケア指導
- 倦怠感への対応: がん関連疲労(CRF)に対するエネルギー保存技法の指導
- 高次脳機能への対応: 化学療法後の認知機能低下(ケモブレイン)に対する代償手段の提案
維持的リハビリテーションとQOL
治療後の生活を安定させ、社会参加を促進する段階です。
- 復職支援: 職場環境の調整、勤務形態の段階的な引き上げ
- 家事動作の再構築: 体力に合わせた家事の方法と段階づけ
- 趣味活動の再開: 意味のある作業への再参加を支援する。旅行など外出を伴う活動の支援については旅行支援における作業療法士の関わりでも紹介しています
緩和的リハビリテーションの意義
根治が難しい場合でも、OTの役割は大きいです。
- ポジショニング: 安楽な姿勢の工夫で疼痛と褥瘡を予防する
- 残存機能の活用: 「今できること」に焦点を当てた活動支援
- 環境調整: ベッド周囲の環境を整え、自分でできることを最大化する
- 家族支援: 介助方法の指導と家族の心理的サポート
それぞれの時期に受けられるサポート
- 予防的リハビリ: 手術前から体力を維持するためのトレーニングや、退院後の生活について一緒に考えます
- 回復的リハビリ: 手術後に食事・着替え・入浴などの動作を取り戻すための練習を行います
- 維持的リハビリ: 治療が一段落した後、仕事や家事に戻るためのサポートをします
- 緩和的リハビリ: 根治が難しい場合でも、できるだけ快適に過ごすための工夫を一緒に考えます
ヒント
がんのリハビリは保険が適用されます。主治医に「リハビリを受けたい」と相談してみてください。
OTが行う具体的な介入
ADL支援 ── 「できる」を一つずつ取り戻す
がん治療に伴い、さまざまなADL障害が生じます。OTは残存機能を最大限に活用しながら、自立度の向上を図ります。
- 食事: 口腔がん術後の摂食嚥下機能に合わせた食事姿勢の調整、自助具の活用
- 更衣: 乳がん術後の肩関節制限に対応した着脱方法の指導、前開き衣類の提案
- 入浴: 体力低下に配慮したシャワー浴の段階づけ、福祉用具の導入
- 排泄: ストーマケアに関連する巧緻動作の訓練
ADLの評価と支援の基本的な考え方はADLとIADLの違いと評価方法で詳しく解説しています。
がんの治療によって、これまで普通にできていた動作が難しくなることがあります。OTは「できること」を一つずつ取り戻すサポートをします。
- 食事: 食べやすい姿勢や道具の工夫
- 着替え: 肩が動きにくい場合の着替え方法の指導
- 入浴: 体力に合わせた入浴方法の提案
- トイレ: 人工肛門のケアに必要な手の動きの練習
着替えが大変な場合は、前開きの服を用意してください。ボタンが難しければマジックテープに付け替える方法もあります。入浴はシャワーチェアを使うと、座ったまま洗えるので体力の消耗を減らせます。
上肢リンパ浮腫の予防と管理
乳がん術後のALNDや放射線治療後に生じるリンパ浮腫は、上肢機能とADLに大きな影響を与えます。OTは以下の介入を行います。
- セルフドレナージの指導: 用手的リンパドレナージの自己管理方法を指導する
- 圧迫療法の管理: 弾性スリーブの着脱訓練と日常生活での注意点
- 運動療法: 段階的な上肢の運動プログラムの立案と指導
- 生活指導: 皮膚の保護と感染予防、締め付けを避ける動作方法、体重管理の啓発
乳がんの手術後に、腕がむくむ(リンパ浮腫)ことがあります。OTはむくみを予防・管理するための方法を一緒に練習します。
- むくみを流すマッサージ(セルフドレナージ)の方法
- 専用のサポーター(弾性スリーブ)の使い方
- 腕に負担をかけない家事の方法
復職支援 ── 「働く」を再び可能にする
がんの診断は就労の継続に影響します。全国健康保険協会のレセプトデータを用いた Iwakura らのマッチドコホート研究(JAMA Network Open, 2025)は、乳がん・婦人科がんと診断された就労女性99,964人と、がんのない就労女性999,640人を比較しました。診断後2年間の離職率は乳がん18.2%(対照16.5%)、子宮頸がん22.4%(同18.7%)、子宮体がん18.7%(同16.4%)、卵巣がん22.6%(同17.9%)で、ハザード比は1.18〜1.44でした。同研究は、離職リスクが高年齢・低所得・うつ病の既往がある人でより高いことも明らかにしています。離職は「がんそのもの」だけで決まるのではなく、就労条件や心理社会的背景が大きく関わるということです。OTは就労継続・復職に向けた包括的な支援を行います。
- 職務分析: 復帰先の業務内容を分析し、身体的・認知的な要求度を評価する
- 段階的復職プログラム: 短時間勤務から開始し、体力と業務内容を段階的に引き上げる
- 職場環境の調整: 事業主や産業医と連携し、合理的配慮を提案する
- 疲労管理: がん関連疲労に対応した業務ペーシングの指導
注意
復職支援では、主治医・産業医・事業主との連携が不可欠です。OTは各関係者をつなぐコーディネーターとしての役割も担います。
がんの治療後に仕事に戻ることは、多くの方にとって大きな目標です。OTは仕事復帰のサポートも行います。
- 体力に合わせた段階的な仕事復帰の計画を一緒に立てます
- 職場の環境調整について、会社と相談するお手伝いをします
- 疲れやすさに対応した仕事のペース配分をアドバイスします
いきなりフルタイムで復帰する必要はありません。まずは主治医に仕事復帰の相談をし、短時間勤務や在宅勤務の可能性を職場と話し合ってみてください。がん相談支援センター(がん診療連携拠点病院に設置)でも就労に関する相談ができます。
アピアランスケア ── 「自分らしさ」を守る
化学療法による脱毛、手術による外見の変化、放射線治療による皮膚障害など、がん治療は外見(アピアランス)に大きな影響を与えます。OTはアピアランスケアを通じて患者さんの心理的・社会的QOLを支援します。
- 整容動作の工夫: ウィッグの着脱訓練、メイクアップの指導
- 補装具の活用: 乳房補正具の選定と使用方法の指導
- 社会参加の支援: 外見の変化に対する心理的な抵抗感を軽減し、段階的な外出を促す
- 爪の変化への対応: 化学療法による爪の変色・変形に対する保護とケア方法
がんの治療では、髪が抜ける、手術のあとが残るなど、見た目の変化が生じることがあります。OTは「自分らしさ」を守るためのケアもサポートします。
- かつら(ウィッグ)の選び方と着け方の練習
- メイクの工夫
- 外見の変化への心理的なサポート
がんサバイバーシップとQOL ── 治療後の「自分らしい暮らし」
がんサバイバーシップとは、がんの診断を受けた時点から始まる生涯にわたる経験を指します。治療が終了しても、がんの影響は長く続くことがあります。
- がん関連疲労: 治療終了後も持続する倦怠感に対する活動と休息のバランス調整
- 認知機能の変化: ケモブレインへの対処法(メモの活用、タスクの分割、環境調整)
- 心理的影響: 再発への恐怖、ボディイメージの変化への適応
- 作業バランスの再構築: 仕事・家事・趣味・休息のバランスを見直し、新しい生活リズムを確立する
OTは「がんの前の生活に戻る」のではなく、「がんとともに新しい暮らしを築く」という視点で支援を行います。
がんの治療が終わっても、疲れやすさや体力の低下が続くことがあります。これは「気持ちの問題」ではなく、治療による身体への影響です。
OTは、治療後の生活を整えるサポートも行います。
- 疲れやすさへの対応: 活動と休息のバランスを一緒に考えます
- もの忘れへの対応: メモやスマートフォンを活用した工夫を提案します
- 生活リズムの再構築: 仕事・家事・趣味・休息のバランスを見直します
治療後の疲れやすさは、外からは見えにくいものです。「怠けている」と思わず、ご本人のペースを尊重してください。家事を分担する、休息時間を確保するなど、ご家族のちょっとした配慮が大きな支えになります。
まとめ
- がんリハビリテーションは予防的・回復的・維持的・緩和的の4つの時期があり、各段階でOTが介入します
- ADL支援・リンパ浮腫管理・復職支援・アピアランスケアなど、暮らしに直結した介入がOTの強みです
- がんサバイバーシップの視点から、治療後も「自分らしい暮らし」を築くための作業バランスの再構築を支援します
- がん患者リハビリテーション料は診療報酬として算定可能であり、チーム医療の中でOTの役割を積極的に発揮しましょう
がんと診断されたご本人・ご家族へ
- がんの治療中・治療後も、日常生活を支えるリハビリを受けることができます
- 着替え、入浴、食事など、困っている動作があればOTに相談してください
- 仕事への復帰も、段階的に進めることができます。一人で悩まず専門家を頼りましょう
- 治療後の疲れやすさは「気持ちの問題」ではありません。適切な対処法があります
- がん相談支援センター(がん診療連携拠点病院に設置)に相談すると、さまざまな支援につながれます
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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