この記事のポイント
- 心臓リハビリテーションは「動かない」のではなく、「適切に動く」ことで心臓の回復を促します
- METs(代謝当量)を基準にした活動管理で、日常生活を安全に組み立てることができます
- 入浴・排泄・家事の注意点と、自己脈拍管理の方法を身につけることが大切です
心臓の病気と「動くこと」の関係
心疾患を持つ患者さんの多くが、「動くのが怖い」「また発作が起きるのでは」と不安を抱えています。この不安に対して、運動を中心とした心臓リハビリテーション(心リハ)の効果は臨床試験で検証されてきました。
心臓リハビリテーションは、運動療法・生活指導・心理的サポートを包括的に行うプログラムです。OTは特に日常生活動作(ADL)の安全な遂行と生活全体の再構築を担当します。
冠動脈疾患を対象としたコクランレビュー(Dibben ら, 2021。85試験・23,430名)は、運動ベースの心リハについて次の結果を示しました。数値は「対照群を1としたときのリスク比」です。
- 心筋梗塞の発症: 6〜12か月時点で RR 0.72(95%CI 0.55-0.93、確実性は高い)
- 全原因入院: 6〜12か月時点で RR 0.58(0.43-0.77、確実性は中程度)
- 総死亡: 6〜12か月時点で RR 0.87(0.73-1.04、確実性は中程度)── わずかな低下にとどまります
- 心血管死: 12か月以内では明確な差はなく、12〜36か月では RR 0.77(0.63-0.93)、3年超では RR 0.58(0.43-0.78)
- 健康関連QOL: 12か月まで複数の下位尺度でわずかに改善するものの、レビューは「臨床的に重要な差とはいえない可能性がある」と述べています
日本循環器学会のガイドライン(2021年改訂版)も、心リハが運動耐容能と冠危険因子を改善しQOLを高め、再発・心血管死亡率を低下させると位置づけています。ただし同ガイドラインは、後発のメタ解析で総死亡率には有意差が認められていない点にも触れています。「動けば必ず長生きする」ではなく、「再発と入院を減らし、生活の質を保つ」のが心リハの現実的な効果です。
心臓の病気があると、「動いたら危ないのでは」と心配になりますよね。しかし、心臓リハビリ(運動を中心としたプログラム)を受けた人と受けなかった人を比べた研究をまとめたコクランレビュー(2021年、85の研究・23,430人)では、心臓リハビリを受けた人のほうが心筋梗塞を起こす人も、入院する人も少なかったと報告されています。
「動かない」ことと「無理をしない」ことは違います。心臓リハビリでは、安全に動ける範囲を専門家が一緒に確認しながら、少しずつ活動量を増やしていきます。
作業療法士(OT)は、日常生活の中で「どの動作なら安全にできるか」を一緒に考える専門家です。作業療法士がどんなことをしてくれるのかは作業療法とは何をするリハビリなのかで詳しく解説しています。
METs(代謝当量)── 活動の「強さ」を数字で知る
METsは、安静時を1として、各活動がその何倍のエネルギーを必要とするかを示す指標です。心疾患患者の活動管理において最も基本的な指標となります。
日常生活動作のMETs値
以下は国立健康・栄養研究所の改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』(2012年、Compendium of Physical Activities 2011 の日本語版)に収載されている値です。
| 活動 | METs |
|---|---|
| 座位での食事 | 1.5 |
| 入浴:座位(洗い場で体を洗う) | 1.5 |
| 排泄(トイレ) | 1.8 |
| 更衣(立位または座位) | 2.5 |
| 台所での活動(調理・皿洗い、中等度) | 3.3 |
| 掃除機がけ(中等度) | 3.3 |
| モップがけ(立位・中等度) | 3.5 |
| 階段を上る(ゆっくり) | 4.0 |
| 階段を上る(速い) | 8.8 |
METs値は文献によって幅があります
同じ「掃除」でも労力の程度で 2.3〜3.5 と幅があり、臨床で慣用的に使われる値(更衣2.0、浴槽入浴4.0など)と上記の表の値は一致しないことがあります。浴槽入浴は上表に対応する項目がありません。湯温・水位・時間で循環への負荷が大きく変わるため、単一のMETs値ではなく後述の具体的な条件で管理します。数値を一人歩きさせず、実際に許可される活動範囲は主治医の判断によることを患者さんに伝えてください。
運動処方の強度について、日本循環器学会のガイドライン(2021年改訂版)は、慢性心不全患者の有酸素運動を最高酸素摂取量の40〜60%、心拍数予備能の30〜50%、最高心拍数の50〜70%、または嫌気性代謝閾値の心拍数と示しています。心肺運動負荷試験が実施できない場合は、ボルグ指数11〜13で、心拍数が安静座位時+20〜30/分程度、かつ運動時心拍数120/分以下を目安としています。
OTによるMETsに基づく活動処方
OTは運動負荷試験の結果をもとに、患者さんの日常生活をMETsベースで再構築します。
- 現在の活動の棚卸し: 患者さんの1日の活動をすべて洗い出し、各活動のMETs値を確認する
- 高負荷活動の代替案: METs値が高い活動に対して、負荷を下げる方法を提案する
- 活動の分散: 高負荷の活動が集中しないよう、1日のスケジュールを調整する
- 段階的な負荷向上: 回復に合わせて、許可される活動のMETs値を徐々に引き上げる
日常生活のすべての動作には、心臓への負担の大きさがあります。これをMETs(メッツ)という数値で表します。
日常動作の心臓への負担の目安
国立健康・栄養研究所がまとめた『身体活動のメッツ(METs)表』から、身近な動作を抜き出しました。
| 動作 | 負担の大きさ |
|---|---|
| 座ってご飯を食べる | 軽い(1.5 METs) |
| 座って体を洗う | 軽い(1.5 METs) |
| トイレで用を足す | 軽い(1.8 METs) |
| 着替える | 軽い(2.5 METs) |
| 料理や皿洗いをする | やや大きい(3.3 METs) |
| 掃除機をかける | やや大きい(3.3 METs) |
| 階段をゆっくり上る | 大きい(4.0 METs) |
お風呂に浸かる動作は、この表には数字がありません。お湯の温度・深さ・時間で負担が大きく変わるためです。次の章で具体的な入り方を説明します。
OTは、主治医が判定した「安全にできる活動の範囲」をもとに、日常生活の過ごし方を一緒に考えます。
同じ動作でも、立って行うより座って行うほうが心臓への負担は軽くなります。着替えは椅子に座って行う、調理は高めのスツールに座って行うなど、「座ってできることは座って行う」を意識してみてください。
日常生活の具体的な注意点
入浴
入浴は心疾患患者にとって最もリスクの高いADLの一つです。温度変化・水圧・姿勢変換が循環動態に大きな影響を与えます。
日本循環器学会のガイドライン(2021年改訂版)は、心不全患者への生活指導として次の条件を挙げています。
- 湯温: 適温は40〜41℃。高温サウナ浴は危険であり避けます
- 入浴時間: 10分程度
- 水位: 鎖骨下までの深さとします
重要
「肩まで浸からず、みぞおちまでの半身浴に」という指導が広く行われてきましたが、上記ガイドラインが示す水位は鎖骨下です。半身浴を一律に勧める記述はガイドラインにはありません。指導内容は施設の方針と主治医の指示を確認してください。
これに加えて、生活上の一般的な配慮として以下を伝えます。
- 脱衣所の温度: 急激な温度差を避けるため、脱衣所を暖房で温めておく
- 入浴のタイミング: 食直後や飲酒後は避ける
- 緊急時の備え: 入浴中は家族に声をかけてから入る、鍵はかけない
入浴は心臓への負担が大きい動作です。以下の点に注意してください。
日本循環器学会のガイドラインは、心不全のある方の入浴について次のように示しています。
- お湯の温度: 40〜41℃くらい。熱いサウナは避けてください
- 浸かる時間: 10分くらいまで
- お湯の深さ: 鎖骨の下まで(首まで深く浸かる必要はありません)
このほか、暮らしの中で気をつけたいことがあります。
- 脱衣所を温める: 寒い脱衣所と温かいお風呂の温度差は体に負担がかかります
- 食事の直後・お酒を飲んだ後は避ける
注意
入浴中は家族に「お風呂に入るよ」と声をかけてからにしましょう。浴室の鍵はかけないでください。万が一のときにすぐ助けに行ける体制が大切です。
浴室の環境づくりや福祉用具の活用など、入浴全般の工夫については安全に入浴するための自立支援ガイドで詳しく解説しています。
排泄
排泄時の怒責(いきみ)は、バルサルバ効果により急激な血圧上昇と心拍数変動を引き起こします。
- 便秘の予防: 水分摂取、食物繊維の摂取、適度な運動を指導する
- 排便姿勢: 洋式トイレで前傾姿勢をとり、足台を使用して排便しやすい姿勢をつくる
- 怒責の回避: 強くいきまないよう指導。必要に応じて緩下剤の使用を医師と相談する
トイレで強くいきむと、心臓に大きな負担がかかります。
- 便秘を予防する: 水分をしっかり取り、野菜や果物を食べましょう
- 強くいきまない: 便秘がつらい場合は、主治医に相談して便を柔らかくするお薬を処方してもらいましょう
- 洋式トイレを使う: 和式トイレはしゃがむ動作が心臓に負担になります
家事
家事活動はMETsのばらつきが大きく、また連続して行いがちなため注意が必要です。
- 高負荷の家事: モップがけ(3.5 METs)や重量物の運搬は、許可された活動範囲内か確認する
- 活動の分割: 掃除は1日で全部屋をやらず、1部屋ずつ分割する
- 休憩の挿入: 連続して行わず、休憩を挟む(15〜20分ごとに5〜10分が実務上の目安。個々の許容量に合わせて調整します)
- 環境調整: 重い鍋を軽いものに変える、洗濯物を低い位置に干せるようにするなど
内部障害における活動と休息の組み立て方は共通点が多く、呼吸器疾患での工夫はCOPDの方が「やりたいこと」を続けるための作業療法の工夫でも解説しています。
家事は意外と心臓に負担がかかります。特に注意したい点をまとめました。
- 一度に全部やらない: 掃除は1日1部屋ずつ、洗濯は回数を分けましょう
- こまめに休憩する: 15〜20分動いたら、5〜10分座って休みましょう
- 重いものを持たない: 買い物は小分けにする、軽い鍋に買い替えるなどの工夫を
- 高い場所の作業を避ける: 腕を上げる作業は心臓に負担がかかります
曜日ごとに家事を分けてみてください。月曜は洗濯、火曜はリビングの掃除、水曜は買い物…というように。1日にまとめてやるのではなく、分散させることで心臓への負担を減らせます。
自己脈拍管理 ── 自分の心臓の声を聴く
心疾患患者の日常生活管理において、自己脈拍管理は最も基本的なセルフモニタリング技術です。OTは以下の項目を患者さんに指導します。
脈拍測定の方法
- 測定部位: 橈骨動脈(手首の親指側)に示指・中指・薬指を当てる
- 測定時間: 15秒間の脈拍数を数え、4倍して1分間の値とする
- 測定のタイミング: 起床時、活動前、活動中、活動後に測定する
活動中止の基準
日本循環器学会のガイドライン(2021年改訂版・表25)は、運動療法実施中の中止基準を絶対的・相対的に分けています。在宅で患者さんに伝える内容としては、次のように整理できます。
直ちに中止して受診が必要(絶対的中止基準に相当)- 強い胸痛・腹痛・背部痛、意識が遠のく、血圧低下を疑う症状
- 危険な不整脈を疑う脈の乱れ、極端な徐脈
- 本人が中止を希望したとき
- 同じ活動量なのに胸部症状・めまい・強い疲労感・気分不良が悪化した
- 息切れが強く、会話が続けられない(表には明記されていませんが、活動強度が過大なサインです)
- 脈が飛ぶ、リズムが不規則になった
- 徐脈(心拍数40/分以下)を触れる
同ガイドラインは、慢性心不全患者の「運動負荷量が過大であることを示唆する指標」として、同一運動強度での10/分以上の心拍数上昇やボルグ指数が2段階以上上昇すること、3日間で2kg以上の体重増加なども挙げています。
注意
「話しながらできる程度」が活動強度の目安です。会話ができなくなるほどの活動は負荷が強すぎます。同ガイドラインも、心肺運動負荷試験を行わない場合の強度としてボルグ指数11〜13(「楽〜ややきつい」)を示しています。
自分の脈拍を測る習慣をつけると、心臓の調子を自分でチェックできるようになります。
脈拍の測り方
手首の親指側に、反対の手の人差し指・中指・薬指を軽く当てます。15秒間、脈の数を数えて4倍すると、1分間の脈拍数がわかります。
こんなときは活動をやめてください
- 脈が飛ぶ、リズムが不規則になった
- 脈が急に速くなった、または極端に遅くなった
- 胸の痛みや圧迫感
- 強い息切れ(会話が続けられない)
- めまいや冷や汗、気分が悪い
- いつもと同じ活動なのに、つらさが増している
強い胸の痛みや意識が遠のく感じがあるときは、様子を見ずにすぐ救急要請してください。
注意
活動の強さの目安は「話しながらできるかどうか」です。会話ができなくなるほどの動作は、心臓への負担が大きすぎるサインです。すぐに座って休んでください。
朝起きたときの脈拍を毎日測って記録してみてください。自分の「普段の脈拍数」を知っておくと、体調の変化に早く気づけます。スマートウォッチや血圧計を活用するのも便利です。
日常生活の段階づけ ── 回復に合わせた活動の広げ方
心疾患からの回復過程では、段階的に活動範囲を広げることが重要です。OTは以下のような段階づけを行います。
退院後は、少しずつ活動範囲を広げていきます。焦らず、段階的に進めることが大切です。
ベッド上の生活
- 1食事・整容を座位で行う
- 2ベッドサイドでの更衣
- 3病棟内のトイレ歩行
病棟内の生活
- 4病棟内の自由歩行
- 5シャワー浴の開始
- 6売店への歩行
院内の生活
- 7階段昇降の開始
- 8シャワー浴から浴槽入浴へ
- 9退院に向けた家事動作の練習
退院後の生活
- 10家事動作の段階的な再開
- 11近所への外出
- 12通院の自立
社会参加
- 13買い物や趣味活動の再開
- 14段階的な復職
- 15運動習慣の確立
各段階の移行は、医師の判断とバイタルサインの確認のもとで行います。OTは各段階で患者さんの反応(心拍数、血圧、自覚症状)をモニタリングしながら、安全に活動範囲を広げていきます。
まとめ
- 心臓リハビリテーションにおけるOTの役割は、日常生活動作の安全な遂行と生活全体の再構築です
- METsに基づく活動管理を行い、患者さんの許容範囲内で段階的に活動を広げていきます
- 入浴・排泄・家事それぞれに具体的な注意点があり、患者さんとご家族への指導が重要です
- 自己脈拍管理と活動中止基準の指導は、安全な在宅生活の基盤となります
心臓の病気がある方・ご家族へ
- 「動かない」のではなく「適切に動く」ことが、心臓の回復を助けます
- 入浴は40〜41℃で10分程度、鎖骨の下までの深さが目安。脱衣所も温めておきましょう
- 家事は一度にまとめず、曜日ごとに分散させると心臓への負担が減ります
- 自分の脈拍を測る習慣をつけ、「いつもと違う」と感じたら休憩・受診しましょう
- 不安なことがあれば、主治医やリハビリスタッフに遠慮なく相談してください
- Dibben G, et al. Exercise-based cardiac rehabilitation for coronary heart disease. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2021;11:CD001800.(85試験・23,430名。心筋梗塞 RR 0.72、全原因入院 RR 0.58 ほか)
- 日本循環器学会ほか「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」(運動処方の強度、表25 運動療法実施中の中止基準、表37 慢性心不全患者に対する運動プログラム、表93 患者教育・生活指導の入浴条件)
- 国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」2012年(Ainsworth BE, et al. 2011 Compendium of Physical Activities の日本語版)
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この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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