この記事のポイント
- 生活リズムの乱れは「だらしなさ」ではなく、脳と体の仕組みに直結する問題です
- 9万人以上を対象とした大規模研究で、リズムの乱れがうつ病や双極性障害のリスクを高めることが示されています
- 依存症、精神疾患、認知症、糖尿病など、さまざまな疾患がリズムを崩し、リズムの乱れがさらに疾患を悪化させる悪循環が生じます
- 次回の記事では、崩れたリズムをどのように立て直すかについてお伝えします
はじめに── 「規則正しい生活」の本当の意味
「規則正しい生活をしましょう」。
子どもの頃から何度も耳にしてきた言葉です。入院中の患者さんも、退院時に主治医からこう言われることが少なくありません。しかし、なぜ規則正しい生活が大切なのかを具体的に説明してもらった経験がある方は、意外と少ないのではないでしょうか。
「早寝早起きは健康に良い」── それはわかっている。でも、なぜ? どのくらい深刻なのか? 生活リズムが乱れると、体の中で何が起きているのか?
この記事では、生活リズムと心身の健康との関係を、科学的なエビデンスとともにお伝えします。少し堅い話に聞こえるかもしれませんが、できるだけわかりやすく書きますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
体内時計── 私たちの中にある「時計」
25時間の体内リズム
私たちの体には、「体内時計」と呼ばれる仕組みが備わっています。体温、血圧、ホルモンの分泌、消化── こうした体の働きは、すべてこの体内時計によってコントロールされています。
体内時計の周期は、実はぴったり24時間ではなく、約24時間10〜20分です。わずかな差ですが、放っておくと毎日少しずつ生活の時間がずれていきます。
光が時計を合わせる
では、なぜ毎日だいたい同じ時間に目が覚めるのでしょうか。それは、朝の光が体内時計をリセットしてくれるからです。
朝日を浴びると、脳が「今は朝だ」と判断して、体全体のリズムを整えてくれます。夜更かしをして昼近くまで寝る生活を続けると、このリセットがうまくいかなくなり、体のあちこちに不調が出始めます。
9万人の研究が示した事実
UK Biobank── 大規模な科学的証拠
イギリスで行われた9万人以上を対象とした大規模な研究(2018年発表)では、手首に活動量計をつけて1週間の生活パターンを調べました。
その結果、生活リズムが乱れている人は:
- うつ病になりやすい
- 気分が不安定になりやすい
- 孤独感を感じやすい
- 幸福感が低い
- 頭の回転が遅くなりやすい
「自分ではちゃんと寝ているつもり」でも、実際の生活パターンにリズムの乱れがあれば、心の健康に影響が出ることがわかったのです。
生活リズムの乱れが引き起こす「連鎖」
セロトニンの減少── 心の安定を支える物質
朝の光と「幸せホルモン」の関係は?
朝の光を浴びると、脳内でセロトニン(「幸せホルモン」とも呼ばれます)が作られます。セロトニンは気分を安定させ、不安を和らげ、やる気を保つために大切な物質です。
生活リズムが乱れて朝の光を浴びられなくなると、セロトニンが減ってしまいます。すると、気分の落ち込み・不安・やる気の低下が起きやすくなります。
さらに、セロトニンは夜になると「眠りのホルモン」に変わります。日中にセロトニンが足りないと、夜も眠りにくくなり、さらにリズムが乱れる── という悪循環が始まります。
コルチゾールの乱れ── ストレスホルモンの暴走
ストレスホルモンが暴走するとどうなる?
体にはコルチゾールという「ストレスホルモン」があります。本来は朝に多く出て、夜には減るリズムになっています。
生活リズムが乱れると、このホルモンのリズムも崩れ、夜になっても体がストレス状態のままになってしまいます。これが長く続くと、集中力の低下や物忘れが増えることがあります。「歳のせい」だと思っていた症状が、実は生活リズムの乱れが原因かもしれません。
自律神経の失調── 体の「自動調整」が狂う
体のだるさや不調はリズムの乱れのせい?
心臓の動き、体温、消化── これらは自律神経が自動でコントロールしています。生活リズムが乱れると、この自動調整がうまくいかなくなり、次のような症状が出やすくなります。
- 日中なのに体がだるく、やる気が出ない
- 夜なのに目が冴えて眠れない
- 食欲にムラがある
- 頭痛やめまい、お腹の不調がある
これらは「気のせい」ではなく、体のリズムの乱れからくる不調です。
さまざまな疾患と「リズムの崩れ」
生活リズムの乱れは、特定の疾患に限った話ではありません。多くの疾患がリズムを崩し、崩れたリズムがさらに疾患を悪化させます。
うつ病・双極性障害
うつ病の方は、夜眠れなかったり、逆に寝すぎてしまったりすることが多くあります。これは体内時計そのものが乱れていることが関係しています。
実際に、生活リズムを安定させることが治療の柱になっている方法もあります。リズムを整えることが、気分の安定に直接つながるのです。
認知症
認知症の方は脳の機能が変化するため、昼夜逆転(夜に起きて、昼に眠る)が起きやすくなります。これはご家族にとって最も大変な症状のひとつです。
また、日中に体を動かす時間が減ると、脳への刺激も減り、認知症の進行が早まるおそれがあります。
糖尿病・メタボリックシンドローム
食事の内容だけでなく、「いつ食べるか」も血糖値に影響します。不規則な食事時間や睡眠パターンは、血糖値を下げるホルモンの働きを乱し、糖尿病のリスクを高めることが研究で示されています。
依存症
深夜までのゲームや動画視聴は、生活リズムを崩します。リズムが崩れると日中のだるさが増し、だるいからまた手軽な刺激に頼る── という悪循環になりがちです。
「リズムの乱れ」に気づくためのサイン
生活リズムの乱れは、徐々に進行するため、本人が気づきにくいという特徴があります。以下のようなサインに心当たりがあれば、リズムが乱れ始めているかもしれません。
- 朝、目覚まし時計で起きてもスッキリしない日が続く
- 休日と平日で起床時間が2時間以上ずれる(「社会的時差ボケ」と呼ばれます)
- 夜、布団に入っても30分以上眠れないことが多い
- 日中に強い眠気を感じ、集中力が続かない
- 食事の時間が毎日バラバラになっている
- 「だるい」「やる気が出ない」が慢性的に続いている
これらは「怠け」や「気の持ちよう」ではありません。体内時計と生活パターンのずれが生み出す、体からのサインです。
作業療法士は「リズム」をどう見ているか
作業療法士は、患者さんの「1日の過ごし方」をとても大切にしています。何時に起きて、いつ食事をして、どのように過ごして、何時に寝るか── その中に、健康状態や回復のヒントが詰まっているからです。
「活動」「休息」「睡眠」のバランスが整っていることが、心と体の安定の土台です。このバランスが崩れていると、どんなに良い治療を受けても効果が出にくくなってしまいます。
リズムを整えることは、地味に見えるかもしれません。しかし、それは建物の基礎工事のようなものです。
おわりに── 「リズム」は治療の土台
- 生活リズムの乱れは「だらしなさ」ではなく、体の仕組みに原因がある
- リズムが崩れると、気分の落ち込み・だるさ・眠れない・免疫力低下など、さまざまな不調につながる
- うつ病、認知症、糖尿病など多くの病気とリズムの乱れは関係している
- リズムを整えることは、あらゆる治療やリハビリの「土台」になる