この記事のポイント
- 依存症は脳の病気であり、「意志が弱い人」がなるものではありません
- アルコール依存症の疑いがある人は日本に約64万人、治療を受けているのはその一部にすぎません
- 回復に必要なのは「罰」ではなく「つながり」です
- 作業療法士は、依存症からの回復において「生活を立て直す」専門家として活躍しています
はじめに── 依存症について知ることから
「依存症」と聞くと、どこか遠い世界の話のように感じるかもしれません。しかし、依存症は特別な人だけがなる病気ではありません。
お酒、薬物、ギャンブル── これらの依存症は、脳の仕組みによって誰にでも起こりえるものです。
この記事では、依存症の仕組み、回復に必要なこと、そして家族としてできることをわかりやすくお伝えします。「知ること」が「支えること」の第一歩になります。
アルコール依存症ってどんな病気?
日本では、アルコール依存症の疑いがある方が約64万人いると推計されています。しかし、治療を受けているのはそのうちの一部にすぎません。
「お酒好き」と「依存症」は何が違うの?
「お酒が好き」と「アルコール依存症」のあいだには、はっきりとした境界線はありません。少しずつ、気づかないうちに進行していきます。
こんなサインに心当たりはありませんか。
量をコントロールできない:「今日は少しだけ」と思っても、止まらなくなる。
お酒が何よりも優先になる:家族の約束や仕事よりもお酒を選んでしまう。
問題が起きてもやめられない:健康診断で注意されても、家族関係がうまくいかなくても、飲み続けてしまう。
大切なことは、ご本人は「好きで飲んでいる」と思っていることが多いという点です。しかし実際には、脳の仕組みが変わってしまい、「飲まずにはいられない」状態になっています。
なぜ「意志の問題」ではないの?
依存症は脳の病気です。意志の強さや性格の問題ではありません。長期間お酒を大量に飲み続けると、脳の中の「気持ちよさを感じる仕組み」が変わってしまいます。お酒がないと、不安やイライラを感じるようになるのです。これは糖尿病のように体の変化であり、「がんばればやめられる」というものではありません。
薬物やギャンブルの依存も同じ仕組みなの?
薬物依存症── 「自業自得」ではありません
薬物依存症に対して、「自分が悪い」「自業自得だ」と感じる方は多いかもしれません。しかし、脳の中で起きていることは、アルコール依存症と本質的に同じです。
依存症の専門家である松本俊彦医師は、依存症を「人に依存できなかった人が、モノに依存した結果」と表現しています。ストレスや孤独、心の痛みから逃れようとして手を出してしまうケースが少なくありません。
ギャンブル依存症── 物質がなくても起きる
ギャンブル依存症は、体に何かを入れるわけではないのに、お酒や薬物と同じ脳の変化が起きます。「行動」でも依存症が起きることは、医学的にも認められています。
つまり、依存症はお酒や薬物だけの問題ではなく、脳の仕組みによって誰にでも起こりうるものなのです。
依存症は回復できるの?
回復はできます
最も大切なことをお伝えします。依存症は回復できます。
「完治」ではなく「回復」という言葉を使うのは、脳の変化はすぐには戻らないためです。しかし、適切なサポートを受けながら生活を立て直していくことは十分に可能です。日本にも、回復して元気に暮らしている方がたくさんいます。
なぜ「つながり」が大切なの?
依存症の回復で最も大きな力になるのは、「人とのつながり」です。
ある著名な作家は、「依存の反対は、お酒を断つことではない。人とつながることだ」と表現しています。
依存症になる方の多くは、孤立しています。家族・友人・仕事── さまざまなつながりが薄れ、その空白をお酒や薬物で埋めようとしてしまうのです。だからこそ、回復には「再びつながること」が欠かせません。
どんなサポートがあるの?
医療:お医者さんによる治療や薬の処方。体の症状を安全に管理します。
カウンセリング:認知行動療法などの心理療法。考え方や行動のパターンに気づき、新しい対処法を学びます。
生活の立て直し:住まい、仕事、お金の問題を解決するサポート。生活が安定しないと再発しやすくなります。
仲間づくり:同じ経験をした方が集まるグループ(AA、NAなど)。「自分だけではない」と感じられることが、大きな支えになります。
作業療法士はどんなサポートをしてくれるの?
作業療法士は、依存症のある方の「生活を具体的に立て直す」専門家です。
依存症になると、生活のリズムが崩れます。朝起きる時間、食事、人との付き合い── お酒や薬物を中心に生活が回っていたため、やめたあとに「何をすればいいかわからない」という空白が生まれるのです。
作業療法士は、この空白を「意味のある活動」で埋めるお手伝いをします。
生活リズムを作る:起きる時間、食事、活動、休息。毎日の「枠組み」を一緒に整えます。
楽しめることを探す:料理、散歩、園芸、音楽など、ご本人が「やってみたい」と思える活動を一緒に見つけます。
小さな役割を取り戻す:掃除を担当する、誰かにお茶を出す── 小さなことでも「自分にもできることがある」と感じられることが、回復の力になります。
人との付き合い方を練習する:グループで何かを一緒に作ったり、スポーツをしたりする中で、お酒なしでも人と付き合える経験を重ねます。
再発しても、作業療法士は「終わり」とは考えません。そこからまた生活を立て直していけばいい── この「何度でもやり直せる」という姿勢で寄り添います。
ご家族へ── あなたも支援の対象です
依存症は「家族の病気」とも言われます。本人だけでなく、ご家族もまた、深く傷つき、疲弊しています。
怒り:「なぜやめてくれないの」「約束したのに」
自責:「私の育て方が悪かったのか」「もっと早く気づいていれば」
疲弊:尻拭い、経済的な負担、周囲への嘘、終わりの見えない緊張
もしご家族が依存症で悩んでいるなら、まず知っておいてほしいことがあります。
あなたのせいではありません。依存症は脳の病気です。育て方のせいでも、愛情が足りなかったせいでもありません。そして、ご家族の力だけで治すこともできません。
ご家族自身が支援につながることが大切です。家族会(アラノンなど)に参加すること、精神保健福祉センターに相談すること。助けを求めることは、本人を見捨てることではなく、本人を支える力を取り戻すことです。
依存症は脳の病気であり、「意志が弱い」のではありません。そして、回復できる病気です。
家族として大切なのは、ご自身を責めないこと。そして、一人で抱え込まず、相談先につながることです。
「今日一日を、自分の力で過ごせた」── その積み重ねが回復そのものです。ご家族の理解と支えは、その大きな力になります。
- 精神保健福祉センターに相談しましょう。各都道府県に設置されており、依存症の相談を無料で受け付けています。「こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」からつながることもできます
- 家族会(アラノンなど)に参加してみましょう。同じ悩みを持つ家族同士で話すことで、「自分だけではない」と感じられます。まずはオンライン参加から試してみるのもよいです
- ご自身の休息を大切にしてください。家族の支援は長期戦です。自分の趣味や友人との時間を「申し訳ない」と思わずに確保しましょう。あなたが元気でいることが、ご本人の回復を支える一番の力になります
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