この記事のポイント
- 認知症の支援は「できないことを補う」だけでなく、「できることを活かして、意味のある活動を続ける」ことを目指します
- 手続き記憶(体が覚えている記憶)、感情記憶、習慣の力── 認知症でも保たれやすい機能を活用します
- 環境調整、活動の段階づけ、外的手がかりの設計、タイミングの工夫── 4つの支援戦略を解説します
- 認知症タイプ別に、ナラティブと認知特性を組み合わせた支援の実際を具体例で示します
- 本記事は「目に見えないものを支援する」シリーズ第4回です
はじめに── 「地図」を「道」に変える
前回の記事では、ナラティブ(物語)と高次脳機能特性の二つの目で認知症の方を評価し、「できること」と「できないこと」の地図を描く方法を解説しました。
今回は、その地図をもとに具体的な支援をどう組み立てるかをお伝えします。
作業療法士の支援の基本原則は明確です。
「失われた機能を嘆くのではなく、残っている力を最大限に活かして、その人にとって意味のある暮らしを続ける方法を一緒に見つけること」はじめに── 「できること」を活かす支援とは
前回の記事では、認知症の方の「できること」と「できないこと」を整理する方法をお伝えしました。
今回は、その情報をもとに具体的にどんな支援ができるかをご紹介します。
大切なのは、「できなくなったことを嘆く」のではなく、残っている力を活かして、ご本人らしい暮らしを続ける方法を見つけることです。
認知症でも「保たれやすい力」を知る
支援を組み立てる前に、認知症であっても比較的保たれやすい機能を理解しておくことが重要です。これらは支援の「土台」になります。
手続き記憶── 体が覚えている
自転車の乗り方、包丁の使い方、編み物の手さばき── こうした「体で覚えた記憶」は、エピソード記憶(出来事の記憶)が失われた後も長く保たれる傾向があります。ただし個人差が大きく、進行に伴って手順の一部が抜け落ちることもあります。「保たれているはず」と決めつけず、実際の場面で確認することが前提になります。
「昨日の夕食に何を食べたか」は思い出せなくても、「味噌汁の作り方」の手順は体が覚えている。この違いを理解することが、支援の出発点です。
感情記憶── 心が覚えている
「何をしたか」は忘れても、「楽しかった」「うれしかった」「怖かった」という感情は、その原因の記憶より長く残ることがあります。
アルツハイマー型認知症の方17名と健常対照17名に、悲しい映像・楽しい映像を見てもらった実験があります。認知症のある方は映像の内容をほとんど思い出せなかったにもかかわらず、悲しみ・喜びのいずれの感情も、映像の記憶が失われたあとまで続きました。とくに悲しみは30分以上持続し、映像をまったく思い出せない方でも同じでした(Guzmán-Vélez ら, 2014年)。
面会に来た家族の名前を思い出せなくても、「この人といると安心する」という感覚は残っている。出来事は忘れても、そのときの気分は残る── この点は、支援の質を大きく左右します。
社会性・礼節── 長年の習慣が残る
特にアルツハイマー型認知症の初期~中期では、挨拶をする、お礼を言う、場の雰囲気に合わせるといった社会的な振る舞いが保たれていることが多くあります。
リズムと習慣── 身体に刻まれたパターン
長年続けてきた生活リズムや習慣的な行動パターンは、意識的な記憶が失われても維持されることがあります。「朝起きたら顔を洗う」「食後にお茶を飲む」── こうしたルーティンの力は、支援において非常に重要な資源です。
- 昔から続けていた家事や趣味を「体が覚えている」ことがあります。すぐにやめさせず、見守りながら続けてもらいましょう
- 楽しかった記憶は心に残っています。一緒に過ごす時間が穏やかであれば、名前を忘れても「安心する人」として覚えてもらえます
- 毎日のルーティン(朝の洗顔、食後のお茶など)はできるだけ変えずに続けましょう
4つの支援戦略
作業療法士が認知症の方の支援で用いる主な戦略を、4つに整理します。
戦略1: 環境調整── 「脳の外側」に機能を置く
認知症によって脳の内側で処理しきれなくなった機能を、環境の側に移すという発想です。
視覚的手がかりの設計
- ラベリング: 引き出しや棚に中身を示すラベルを貼る(「下着」「タオル」など)
- 色分け: トイレのドアを目立つ色にする、自分の部屋だけ違う色のテープを貼る
- 写真の活用: 手順を文字ではなく写真で示す(文字の理解が難しくなった段階で特に有効)
- 矢印・動線の明示: トイレへの道順を床に矢印テープで示す
不要な刺激の排除
- 鏡の管理: 鏡に映った自分を「知らない人」と認識して不安になる場合は、鏡にカーテンをつける
- テレビの管理: つけっぱなしのテレビが混乱の原因になる場合がある。必要なときだけつける
- 物の量を減らす: 選択肢が多すぎると混乱する。衣類は2~3択に絞って提示する
安全の確保
- 火の管理: IHコンロへの変更、自動消火装置の導入
- 施錠の工夫: 外出時の安全確保と、閉じ込め感のない工夫の両立
- 転倒予防: 動線上の障害物除去、夜間の足元灯
家族の方へ: 環境調整は「管理」や「制限」ではありません。本人が自分の力で動ける環境を整えることです。トイレの場所を矢印で示すのは、「自分でトイレに行ける」を守るためです。
目で見てわかる工夫
- ラベルを貼る: 引き出しや棚に「下着」「タオル」などのラベルを貼ります
- 色で区別する: トイレのドアを目立つ色にすると、場所がわかりやすくなります
- 写真で示す: 文字が読みにくくなったら、写真やイラストで手順を示しましょう
混乱を減らす工夫
- テレビのつけっぱなしは混乱の原因になることがあります。必要なときだけつけましょう
- 服は2~3着から選ぶようにすると、迷いにくくなります
- 鏡に映った自分に不安を感じる場合は、カーテンで隠す方法もあります
安全を守る工夫
- IHコンロへの切り替えや、夜間の足元灯の設置がおすすめです
- 動線上につまずきやすい物がないか確認しましょう
環境調整は「制限」ではありません。ご本人が自分の力でできることを守るための工夫です。
戦略2: 活動の段階づけ── 「ちょうどいい」を見つける
活動の難易度を本人の現在の能力に合わせて調整することを「段階づけ(グレーディング)」といいます。
段階を下げる工夫
全部をやめるのではなく、できる範囲に調整することが基本です。
| 活動 | 以前の形 | 段階づけ後 | 保たれるもの |
|---|---|---|---|
| 料理 | 3品の夕食を一人で作る | 味噌汁1品を見守りのもとで作る | 「家族に作る」という役割と手続き記憶 |
| 掃除 | 家全体の掃除機がけ | リビングの拭き掃除 | 家を整えるという習慣と達成感 |
| 買い物 | 一人でスーパーへ行く | 家族と一緒に行き、商品を選ぶ役割を担う | 選ぶ楽しさと外出の機会 |
| 庭仕事 | 広い庭全体の管理 | プランター1つの水やり | 植物を育てる喜びと毎日のルーティン |
| 裁縫 | 複雑な刺繍作品 | 簡単な手縫いの繕い物 | 手先を使う満足感と「役に立つ」感覚 |
ポイントは「やめる」のではなく「形を変えて続ける」ことです。
段階づけの判断基準
作業療法士は以下の視点で「ちょうどいい」レベルを見極めます。
- 安全に行えるか: 身体的な危険はないか
- 本人が達成感を感じられるか: 簡単すぎても、難しすぎても意欲を損なう
- 本人の物語と矛盾しないか: その活動が本人にとって意味を持ち続けているか
- 継続可能か: 特別な準備なく、日常の中で繰り返せるか
「全部やめる」ではなく「形を変えて続ける」
大切なのは、できなくなった部分だけを減らして、できる形で続けることです。
- 料理: 3品作るのが難しくなったら → 味噌汁1品を一緒に作る
- 掃除: 家全体は難しくなったら → リビングだけ拭き掃除をお願いする
- 買い物: 一人で行くのが不安なら → 一緒に行って「どれがいい?」と選んでもらう
- 庭仕事: 広い庭の管理が大変なら → プランター1つの水やりを日課にする
「やめさせる」のではなく「一緒にやる形に変える」と考えてみてください。
戦略3: 外的手がかりの設計── 「思い出す」を助ける
記憶の代わりとなる外的手がかりを設計します。
手順の外在化
複雑な手順を外部に書き出し、一歩ずつ確認しながら進められるようにします。
例: 朝の身支度チェックリスト文字よりも写真やイラストのほうが理解しやすい場合があります。本人の認知特性に合わせて、最も伝わりやすい形式を選びます。
- 文字が読める段階: シンプルな箇条書き
- 文字の理解が難しい段階: 写真カード
- 写真でも難しい段階: 実物を順番に並べておく
カレンダーとスケジュール
- 大きなカレンダーを目につく場所に設置し、今日の日付に印をつける
- 一日のスケジュールを大きな文字で掲示する
- 時計とスケジュールを並べて配置する(「10時=体操の時間」が視覚的にわかる)
場所の手がかり
- 物の定位置を決め、常に同じ場所に置く
- 定位置にシルエットやラベルを貼る(鍵の置き場所に鍵の形のシール等)
- よく使うものは見える場所に出しておく(引き出しの中にしまうと存在を忘れる)
家族の方へ: 「何度言ってもわからない」と感じるときは、「言葉で伝える」以外の方法を試してみてください。貼り紙、写真、実物── 記憶に頼らず、「今、目の前にある情報」で理解できる仕組みを作ることが大切です。
「言葉で伝える」以外の方法を試す
「何度言っても忘れてしまう」と感じることはありませんか? それは、言葉(記憶)に頼った伝え方だからかもしれません。
記憶の代わりに、「目の前に見える情報」で伝える工夫をしてみましょう。
- 貼り紙: 「トイレはこちら→」など、大きな字で貼っておく
- 写真: 手順を写真で示す(文字が読みにくくなった場合に特に有効)
- 定位置を決める: 鍵や財布など、よく使うものは必ず同じ場所に置く
- カレンダー: 大きなカレンダーに今日の日付を丸で囲む
「言ってもわからない」のではなく、「伝え方を変える」と考えてみてください。
戦略4: タイミングの工夫── 「いつ」が成果を左右する
認知症の方の状態は一日の中で変動します。この変動を味方につけます。
- 「調子のいい時間帯」を記録して見つける: どの時間帯が安定するかは人によって異なります。1〜2週間、活動への参加のしかたや表情を記録して、その人にとっての「動きやすい時間」を特定するのが確実です。臨床では午前中に重要な活動を置くことが多いものの、これはあくまで出発点の仮説であって、全員に当てはまる法則ではありません
- 夕暮れ症候群への対応: 夕方から夜にかけて混乱や落ち着かなさが強まる現象は「夕暮れ症候群(sundowning)」と呼ばれ、報告される頻度は1.6%から66%までと研究間の幅が非常に大きいとされています(Reimus と Siemiński, 2025年)。該当する場合は、その時間帯に安心できる活動(好きな音楽、温かい飲み物)を用意します
- 食事直後を避ける: 食後は眠気が出やすく、集中しづらくなることがあります
- レビー小体型認知症の場合: 認知機能の変動が疾患の特徴そのものです。変動パターンを記録し、「調子のいい時間帯」を特定して活用します
- 「調子のいい時間帯」を見つける: 通院や入浴など集中が必要なことは、その方が動きやすい時間帯に。午前中のほうが動きやすい方もいますが、合う時間帯は人それぞれなので、1〜2週間ようすを記録してみてください
- 夕方に落ち着かなくなったら: 「夕暮れ症候群」と呼ばれる現象です。好きな音楽をかけたり、温かいお茶を出したりして、安心できる環境を整えましょう
- 食後すぐの活動は避ける: 食後30分~1時間はゆっくり過ごす時間にしましょう
認知症タイプ別── 二つの目で組み立てる支援の実際
前回の記事で解説した認知症タイプ別の特性を踏まえ、ナラティブと認知特性を組み合わせた支援の具体例を示します。
アルツハイマー型認知症── Aさんの場合
前回の評価で描いたAさん(78歳・女性)の「地図」を、支援に変換します。
ナラティブ: 40年間、家族の食事を担ってきた。料理が生きがい。
認知特性: エピソード記憶↓、遂行機能↓、手続き記憶○、注意の分配↓
支援計画:| 支援の要素 | 具体的な内容 | 活用する「保たれた力」 |
|---|---|---|
| 活動の段階づけ | 3品→味噌汁1品に絞る | 手続き記憶(包丁操作、味付けの感覚) |
| 手順の外在化 | 味噌汁の手順を写真カードで台所に掲示 | 視覚的理解力 |
| 環境調整 | IHコンロに変更、必要な材料だけをカウンターに並べておく | 見えているものへの反応力 |
| 役割の維持 | 「お母さんの味噌汁が一番おいしい」と家族が伝える | 感情記憶、家族への愛情 |
| タイミング | 朝食の味噌汁作りを日課にする(記録の結果、午前中が安定していた) | 生活リズムの習慣 |
| 見守りの設計 | 夫が隣でお茶を飲みながら、さりげなく見守る | 社会性(誰かがいると安心して動ける) |
この支援が目指すもの: Aさんが「自分が家族に料理を作っている」という実感を持ち続けること。味噌汁一杯でも、家族のために台所に立つという物語が続くことに意味があります。
レビー小体型認知症── Bさんの場合
ナラティブ: Bさん(75歳・男性)。元小学校教師。退職後は地域の子ども会の世話役を務めていた。几帳面で、手帳に予定をきっちり書き込む習慣があった。
認知特性: 注意の変動が大きい(良い日と悪い日の差が顕著)。幻視あり(部屋に「知らない子どもがいる」と訴える)。パーキンソン症状で動作が緩慢。
支援計画:| 支援の要素 | 具体的な内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| タイミングの活用 | 認知機能の変動パターンを1週間記録し、安定時間帯を特定 | 変動パターンの理解 |
| 手帳習慣の活用 | 本人の手帳に大きな字で予定を記入し、一緒に確認する日課を作る | 手帳を使う手続き記憶と習慣 |
| 幻視への対応 | 否定せず、照明を明るくする。幻視が出やすい時間帯と環境を記録し、条件を調整 | まず環境要因を探る(照明・見え方・疲労)という考え方 |
| 役割の再構築 | 近所の子どもに挨拶する、町内会の回覧板を届ける | 「子どもたちの世話役」という物語 |
| 運動面の支援 | 動作の緩慢さに合わせた時間配分。急かさない環境設定 | パーキンソン症状への配慮 |
| 安全な活動量の確保 | 転倒リスクを考慮した散歩ルートの設定 | 運動が認知機能の安定に寄与 |
この支援が目指すもの: Bさんが「人の役に立っている」という実感を持ち続けること。教師として生きてきた物語を、地域の中で小さな形で続けることに意味があります。
前頭側頭型認知症── Cさんの場合
ナラティブ: Cさん(68歳・男性)。元営業職。社交的で、人と話すことが好きだった。毎朝同じ喫茶店でモーニングを食べる習慣があった。最近、スーパーで会計前に商品を食べてしまう、知らない人に失礼な発言をするなどの行動が増えている。
認知特性: 脱抑制、常同行動(決まった時間に決まった行動)、共感性の低下。記憶は比較的保持。
支援計画:| 支援の要素 | 具体的な内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 常同行動の活用 | 毎朝の喫茶店モーニングを継続。このルーティンに沿って一日の構造を組み立てる | 常同行動は安定した行動基盤になる |
| 脱抑制への環境調整 | 買い物は少人数の時間帯を選ぶ。会計前に食べてしまうリスクがある食品は事前に購入しておく | 刺激を減らし、トラブルの機会を減らす |
| 社会参加の形を変える | 少人数の決まったメンバーとの交流に絞る(大人数の場は脱抑制が出やすい) | 社交性の物語を維持しつつリスクを管理 |
| エネルギーの発散 | 毎日の散歩や軽い運動を日課に組み込む | 活動量の確保が衝動性の緩和に寄与 |
| 食行動の管理 | 甘いものへの偏食は無理に制限せず、量と頻度を管理する。食事の時間と場所を一定にする | 食行動変化は疾患特性。過度な制限は逆効果 |
| 家族の理解促進 | 「わざとではない」「脳の疾患による行動変化である」ことを家族に繰り返し伝える | 家族の心理的負担の軽減 |
この支援が目指すもの: 社会的なトラブルを最小限にしながら、Cさんが人と関わり、外に出る暮らしを続けること。「社交的な営業マン」という物語の核を守ります。
血管性認知症── Dさんの場合
ナラティブ: Dさん(80歳・女性)。専業主婦として4人の子どもを育てた。手芸が得意で、孫の入園グッズはすべてDさんの手作りだった。2回目の脳梗塞後、右半身の軽い麻痺と「まだら認知」が出現。
認知特性: まだら認知(注意↓、言語理解○、視空間認知↓、手続き記憶○)。感情失禁あり。右半身軽度麻痺。
支援計画:| 支援の要素 | 具体的な内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 得意な認知チャネルの活用 | 言語理解が保たれているため、指示は口頭+文字で | まだら認知の「保たれている部分」を使う |
| 手芸の継続 | 片手でもできる手芸(かぎ針編み用の固定台)を導入。簡単な作品から段階的に | 手続き記憶と「孫のために作る」物語 |
| 自助具の活用 | 片手で使える道具の導入(滑り止めマット、ワンハンド用はさみ等) | 身体機能の代償 |
| 感情失禁への対応 | 涙が出ても否定しない。「悲しいのですね」と受け止めつつ、切り替えのきっかけ(お茶、好きな話題)を提供 | 感情失禁は本人の意図と無関係な現象 |
| 段階的な目標設定 | まず「コースター1枚」→「ポーチ」→「孫の巾着袋」へと段階を上げる | 達成感の積み重ねと意欲の維持 |
| 作品の共有 | 完成した作品を家族に見せる、孫に渡す機会を設ける | 「役に立っている」「家族とつながっている」実感 |
この支援が目指すもの: Dさんが「家族のために何かを作る人」であり続けること。身体機能の制限があっても、手芸を通じた家族とのつながりという物語を守ります。
タイプ別── 家族ができる支援の工夫
認知症にはいくつかのタイプがあり、それぞれ得意・不得意が異なります。ここでは、家族がすぐに試せる工夫をタイプ別にご紹介します。
アルツハイマー型認知症の方への工夫
最近のことは忘れやすくなりますが、体で覚えたこと(料理の手順、掃除の仕方など)は長く残ります。
- 昔から続けていた家事を簡単な形で続けてもらう(3品の料理→味噌汁1品を一緒に)
- 手順を写真カードにして台所に貼っておく
- 「お母さんの味噌汁が一番おいしい」と伝え続けることが大きな支えになります
レビー小体型認知症の方への工夫
日によって調子の波が大きいのが特徴です。「見えないものが見える」(幻視)こともあります。
- 調子のいい時間帯を見つけて、大事な用事はその時間に合わせましょう
- 幻視があっても否定しないでください。部屋を明るくすると軽減することがあります
- 動作がゆっくりになるので、急かさず待つことが大切です
前頭側頭型認知症の方への工夫
感情のコントロールが難しくなったり、決まった行動を繰り返す(常同行動)ことがあります。
- 毎日のルーティンを崩さず活用する(毎朝の散歩、同じ時間の食事など)
- 人が多い場所でトラブルが起きやすい場合は、空いている時間帯を選びましょう
- 困った行動は「わざと」ではなく、脳の病気による変化です。ご自身を責めないでください
血管性認知症の方への工夫
「できること」と「できないこと」がはっきり分かれる(まだら認知)のが特徴です。
- できることはそのまま任せて、できない部分だけをサポートしましょう
- 突然涙が出る(感情失禁)ことがありますが、本人の気持ちとは関係ない現象です。「大丈夫ですよ」と穏やかに声をかけてください
- 片麻痺がある場合は、自助具(片手で使える道具)を活用しましょう
支援を「続ける」ために── 進行に合わせた調整
認知症の支援は「一度きり」ではない
認知症は進行性の疾患です。今うまくいっている支援も、数か月後には合わなくなることがあります。
作業療法士は定期的に以下を確認し、支援を調整します。
- 活動の難易度は適切か: 以前はできていた工程が難しくなっていないか
- 外的手がかりは機能しているか: 文字が読めなくなっていれば、写真に切り替える
- 本人の意欲は保たれているか: 活動に対する反応(表情、発言、参加度)を観察する
- 家族の負担は増えていないか: 見守りの負担が大きくなっていないか
定期的に「今の支援がまだ合っているか」を確認しましょう。
- 以前はできていたことが、最近難しくなっていないか
- 貼り紙やカレンダーの工夫がまだ役に立っているか
- ご本人が活動を楽しんでいるか(表情やようすを観察する)
- ご家族自身の負担が増えていないか
段階を下げることは「後退」ではない
認知症が進行し、活動の段階を下げなければならないとき、家族は「また一つできなくなった」と感じるかもしれません。
しかし、段階を下げてでも活動を続けていること自体が、大きな意味を持ちます。
Aさんの例でいえば、味噌汁を一人で作ることが難しくなったら、「具材を切る」工程だけを担当する形に変える。それも難しくなったら、「味見をする」役割に変える。形は変わっても、「台所で家族の食事に関わっている」という物語の核は守られます。
たとえば、味噌汁を一人で作るのが難しくなったら、「具材を切る」だけをお願いする。それも難しくなったら、「味見をする」役割に変える。形は変わっても、「台所で家族のごはんに関わっている」という気持ちは守られます。
最終段階でも「意味のある活動」はある
重度の認知症であっても、作業療法士は「意味のある活動」を見つけます。
- 好きだった音楽を聴く: 言語的なコミュニケーションが困難になっても、なじみのある音楽への情動的な反応が保たれることがあります。神経変性疾患では音楽性が比較的保たれやすいという総説があります(Moret ら, 2026年)。ただしこの総説が挙げる根拠は主に早期のアルツハイマー型認知症のもので、どの側面がどこまで保たれるかは疾患や進行度、個人によって異なります
- 手を握る、肌に触れる: 触覚を通じた安心感は、認知機能の状態に関わらず伝わる
- 香りを楽しむ: 嗅覚は原始的な感覚であり、懐かしい香りが感情記憶を呼び起こすことがある
- 日光を浴びる、風を感じる: 感覚的な心地よさは、意識レベルが低下しても届く可能性がある
家族への支援── 支援者を支える
家族は「もう一人のクライエント」
認知症の支援において、作業療法士は家族を「支援者」であると同時に「支援の対象」として捉えます。
家族がどれほど献身的であっても、心身が消耗すれば支援の質は低下します。家族が元気でいることが、本人への最良の支援です。
作業療法士が家族に行う具体的な支援
1. 認知特性の説明と対応方法の伝達「なぜ同じことを何度も聞くのか」「なぜ怒りっぽくなったのか」── 高次脳機能障害の記事で解説したメカニズムを、家族にもわかりやすく伝えます。理由がわかると、対応に余裕が生まれます。
2. 介護方法の実践指導「声かけの仕方」「誘導の方法」「拒否があったときの対応」── 知識だけでなく、実際の場面で一緒にやってみることが重要です。
3. 休息の確保の支援デイサービスやショートステイの活用を提案し、家族が「安心して休める時間」を確保できるよう調整します。
4. 介護の見通しの共有「今後どうなっていくのか」という不安に対し、起こり得る変化と、そのときの対応の見通しをあらかじめ共有します。
5. 家族自身のナラティブを聴く家族もまた、認知症によって自分の人生の物語が変わりつつあります。「こんなはずではなかった」「老後は夫婦で旅行に行くつもりだった」── その喪失感を受け止めることも、作業療法士の大切な役割です。
家族自身が楽になるためにできること
- 理由を知る: 「なぜ同じことを何度も聞くのか」がわかると、イライラが少し和らぎます。作業療法士に聞いてみてください
- 対応のコツを教わる: 声のかけ方、拒否されたときの対応など、実際の場面で一緒に練習できます
- 休む時間をつくる: デイサービスやショートステイを活用して、自分が休む時間を確保しましょう
- 先の見通しを聞いておく: 「今後どうなるか」を事前に知っておくと、心の準備ができます
- 自分の気持ちも大切にする: 「こんなはずではなかった」と感じるのは自然なことです。その気持ちを誰かに話すだけでも楽になります
まとめ── 二つの目で見て、一つの暮らしを支える
ナラティブの目は、「その人にとって何が大切か」を教えてくれます。
高次脳機能特性の目は、「なぜ困っているか」と「何がまだできるか」を教えてくれます。
この二つを重ね合わせることで、作業療法士は「認知症の人」への画一的なケアではなく、「認知症のある○○さん」への、その人だけの支援を組み立てます。
認知症は確かに多くのものを奪いますが、すべてを一度に奪うわけではありません。残っている力を見つけ、その人の物語に沿った形で活かすこと── それが、作業療法士の専門性であり、認知症の方の「見えない力」を支援するということです。
認知症の方が、最後まで「自分らしい暮らし」を続けられるように。作業療法士は、二つの目で見守り、支え続けます。
まとめ── 「できること」を一緒に守っていく
認知症になっても、すべてが一度にできなくなるわけではありません。体が覚えていること、心が覚えていること、長年の習慣── こうした「残っている力」を活かすことで、ご本人らしい暮らしを続けることができます。
大切なのは、「できなくなったこと」を数えるのではなく、「まだできること」を見つけて、形を変えながら続けていくことです。
一人で抱え込まず、作業療法士をはじめとする専門家の力も借りながら、ご本人もご家族も穏やかに過ごせる暮らしを一緒に見つけていきましょう。
- 認知症でも体が覚えていること・心が覚えていることは長く残る
- 「やめさせる」ではなく「形を変えて続ける」工夫を
- 環境調整、貼り紙、定位置の工夫で記憶に頼らない仕組みをつくる
- ご本人の「調子のいい時間帯」に大事な活動を。タイミングの工夫で成功体験を増やす
- 困った行動は「わざと」ではなく脳の病気による変化
- 家族自身が休むことも、ご本人への大切な支援です
- ご本人が昔から続けていたことを1つ思い出す: 料理、庭仕事、手芸など、「体が覚えていそうなこと」を簡単な形で一緒にやってみましょう
- 「伝え方」を1つ変えてみる: 言葉で伝えて忘れてしまうことがあれば、貼り紙・写真・実物など「目で見てわかる方法」を試してみてください
- ご自身の休息時間を確保する: デイサービスやショートステイの利用、家族との分担など、「自分が休む仕組み」を1つ具体的に考えてみましょう
- Guzmán-Vélez E, Feinstein JS, Tranel D. Feelings without memory in Alzheimer disease. Cognitive and Behavioral Neurology. 2014;27(3):117-129.
- Reimus M, Siemiński M. Sundowning Syndrome in Dementia: Mechanisms, Diagnosis, and Treatment. Journal of Clinical Medicine. 2025;14(4):1158.
- Moret S, ら. Musicality is Preserved in Neurodegeneration. Yale Journal of Biology and Medicine. 2026;99(1):243-256.
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この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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