この記事のポイント
- 認知症の方の外出行動(徘徊)には、本人なりの理由や目的があります
- 行動を無理に止めるのではなく、背景を理解し「安全に歩ける環境」を整えることが大切です
- GPS機器や地域の見守りネットワークなど、複数の安全策を組み合わせましょう
「徘徊」という言葉が見落としていること
「徘徊」という言葉には、「目的もなくうろうろしている」というニュアンスが含まれています。しかし、認知症の方の外出行動の多くには、本人なりの理由があります。
- 昔の自宅に帰ろうとしている(記憶の中の「家」へ向かっている)
- 仕事に行こうとしている(現役時代の記憶が蘇っている)
- 不安や不快を解消しようとしている(居場所がないと感じている)
- 身体を動かしたい欲求がある(座り続けることへの不快感)
近年、認知症ケアの専門家の間では「徘徊」という言葉を避け、「外出行動」「歩き回り」などの表現が推奨されています。OTは行動の背景にある「本人の意図」を読み取り、環境調整と活動提供によって安全を確保するアプローチを取ります。
「徘徊」と言うと、目的もなくうろうろしているイメージがあるかもしれません。でも実は、ご本人なりの理由があることがほとんどです。
- 昔の家に帰ろうとしている(記憶の中の「家」に向かっている)
- 仕事に行こうとしている(働いていた頃の記憶が蘇っている)
- 落ち着かない、不安(今いる場所に安心感がない)
- 体を動かしたい(ずっと座っていることが不快)
ご本人にとっては「意味のある行動」なのです。それを理解した上で、安全に過ごせる工夫を考えることが大切です。
外出行動が起きやすい状況を知る
外出行動が増加するタイミングには一定のパターンがあります。
- 夕方(夕暮れ症候群): 日が暮れる時間帯に不安が増し、「家に帰らなきゃ」という衝動が起きる
- 環境の変化: 引っ越し、入院、デイサービスの利用開始など
- 活動の不足: 日中に「することがない」状態が続いたとき
- 身体的不快: 便秘、痛み、空腹、暑さ・寒さなどの不快感があるとき
- 対人関係のストレス: 叱られた、否定された直後
これらのパターンを把握することで、予防的な対応が可能になります。
外出行動が起きやすいタイミングがあります。
- 夕方: 日が暮れる時間帯に「家に帰らなきゃ」と不安になる
- 環境が変わったとき: 引っ越しや入院の後
- することがないとき: 日中ずっとぼんやりしていた日
- 体の不快感があるとき: 便秘、痛み、暑さ・寒さ
- 叱られた後、否定された後
パターンがわかると、事前に防ぐ工夫ができるようになります。
夕方に落ち着かなくなる場合は、15時〜16時頃から好きだった音楽をかけたり、おやつの準備を一緒にしたりして、「楽しい活動」で気持ちを切り替える工夫が効果的です。暗くなる前に部屋の照明を明るくしておくことも助けになります。
外出行動への対応 ── やってはいけないこと・やってほしいこと
やってはいけないこと
注意
以下の対応は逆効果になることがあります。
- 鍵をかけて閉じ込める: パニックや不穏を助長し、窓から出ようとする危険がある
- 「ダメ」「どこに行くの!」と叱る: 本人の不安や混乱が増す
- 身体を無理に押さえる: 興奮状態を悪化させる
- 嘘をついて騙す: 信頼関係が損なわれる
やってほしいこと
- 本人の話に合わせる: 「仕事に行く」と言われたら「お仕事ですか、今日はお休みですよ」と穏やかに
- 一緒に歩く: 可能であれば短い散歩に付き添い、自然に帰宅に導く
- 気をそらす: 「お茶を入れたので飲みませんか」「一緒にこれを見ませんか」
- 不快の原因を探る: トイレ、空腹、暑さ寒さ、痛みなどをチェックする
外出行動を「止める」のではなく「安全に導く」という発想が重要です。
- 話に合わせる: 「仕事に行く」と言われたら「お仕事ですか、今日はお休みの日ですよ」と穏やかに
- 一緒に歩く: 短い散歩に付き添い、自然に家に戻る
- 気をそらす: 「お茶を入れたので飲みませんか」と声をかける
- 体の不快をチェック: トイレ、お腹が空いていないか、暑くないかを確認
「止める」のではなく「安全に導く」と考えてみてください。
安全を守るための環境調整
自宅の環境調整
- 玄関にセンサーチャイムを設置する(ドアの開閉を検知して音で知らせる)
- 玄関の靴を減らす: 外出用の靴を見えない場所にしまい、室内履きだけ置く
- 玄関に鏡を置く: 鏡に映った自分を見て、外出の衝動が和らぐことがある
- 出口をわかりにくくする工夫: ドアノブにカバーをかける、のれんで視覚的に隠す
ICT機器の活用
- GPS端末: 靴に入れるタイプ、ペンダントタイプなど
- 見守りセンサー: ベッドや玄関の離床・通過を検知
- スマートフォンアプリ: 位置情報をリアルタイムで確認
地域の見守りネットワーク
- 地域包括支援センターに登録する
- 認知症高齢者等見守りネットワーク(自治体によって名称が異なる)
- 近隣への声かけ: 事前に近所の方に事情を伝え、見かけたら連絡をもらう
- 衣服への連絡先記入: 上着の内側に名前と連絡先を縫い付ける
家の中でできる工夫
- 玄関にセンサーチャイム: ドアが開いたら音で知らせてくれます
- 外出用の靴を隠す: 室内履きだけ見える場所に置く
- 玄関に鏡を置く: 鏡に映った自分を見て、立ち止まることがあります
- ドアノブにカバー: 開け方がわかりにくくなります
機器を活用する
- GPS端末: 靴の中に入れるタイプや首からかけるタイプがあります
- 見守りセンサー: ベッドから離れたり、玄関を通ったりすると通知が届きます
地域の力を借りる
- 地域包括支援センターに登録しておく
- 近所の方に事情を伝えておく: 見かけたら連絡をもらう
- 服の内側に名前と連絡先を縫い付けておく
GPS端末は「本人が身につけてくれるか」が最大のポイントです。首からかけるタイプを嫌がる方は多いので、靴のインソールに内蔵するタイプがおすすめです。自治体によっては購入費用の助成がありますので、地域包括支援センターに相談してみてください。
万が一のときの対応
外出してしまった場合の対応手順を、事前に家族で共有しておくことが重要です。
- 慌てず、まず自宅周辺を確認する(よく行く場所、以前の自宅方面)
- 警察に連絡する(行方不明届は早期に出すほど発見率が高い)
- 地域包括支援センターに連絡する(見守りネットワークが稼働する)
- 写真と服装の情報を準備する(日頃から最新の顔写真を用意しておく)
発見後は、叱ったり問い詰めたりせず、「よかった、心配したよ」と安心を伝えることが大切です。
外出してしまったときのために、事前に手順を決めておくことが大切です。
- まず自宅の周辺を確認(よく行く場所、昔の家の方向)
- 警察に連絡(早く届け出るほど見つかりやすくなります)
- 地域包括支援センターに連絡
- 最新の顔写真を準備しておく(日頃からスマートフォンで撮っておく)
見つかったときは、叱らずに「よかった、心配したよ」と伝えてください。
「歩くこと」自体を安全に楽しめる工夫
外出行動を完全に防ぐことは困難であり、それが目標であるべきでもありません。「安全に歩ける機会」を積極的に提供することが、OTのアプローチの本質です。
- 定期的な散歩の習慣をつくる(決まった時間に、決まったルートで)
- デイサービスでの歩行活動を取り入れてもらう
- 自宅内で安全に歩けるスペースを確保する(回遊できる動線をつくる)
「歩きたい」という欲求そのものは健全であり、それを満たす安全な方法を提供することが重要です。
外出行動を完全に防ぐのではなく、「安全に歩ける機会」をつくることも大切です。
- 毎日の散歩を習慣にする(決まった時間、決まったルートで)
- デイサービスで歩く時間をつくってもらう
- 家の中で歩けるスペースを確保する
「歩きたい」という気持ち自体は自然なことです。それを安全に満たしてあげる工夫を考えてみてください。
外出行動を「問題行動」として抑制するのではなく、その背景にある本人のニーズを理解し、安全に満たす方法を考える。これがOTの視点に基づく認知症ケアのアプローチです。家族だけで抱え込まず、地域の見守りネットワークやICT機器を活用し、「安心して歩ける暮らし」を一緒に築いていきましょう。
ご家族の方へ ── 大切なポイントのまとめ
- 外出行動には本人なりの理由があります。「問題行動」と捉えず、背景を理解しましょう
- 閉じ込めたり叱ったりするのは逆効果です。話に合わせ、安全に導く対応を心がけてください
- GPS端末やセンサーチャイムなど、複数の安全策を組み合わせましょう
- 地域包括支援センターに登録し、近所の方にも事情を伝えておくと安心です
- 「安全に歩ける機会」を積極的につくることで、外出衝動が和らぐこともあります
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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