この記事のポイント
- 育児と介護が同時に重なる「ダブルケア」は推定約25万人(内閣府委託調査, 2016年公表)
- 晩婚化・晩産化により、今後さらに増加が見込まれる社会的課題
- 作業療法士の視点から「やらなくていいこと」を見つけ、暮らしの優先順位を整理する方法を紹介
- 育児側・介護側それぞれで使える支援制度と相談先をまとめて解説
ダブルケアとは何か
ダブルケアとは、育児と介護を同時に担う状態を指します。内閣府の調査では、ダブルケアに直面している人は推定約25万人(2016年公表)。その背景には、晩婚化・晩産化による出産年齢の上昇と、親世代の高齢化があります。
30代〜40代で子育ての真っ最中に、親の介護が始まる。この2つのケアが重なることで、時間・体力・精神・経済のすべてが逼迫します。
OTは、人の「暮らし全体」を見渡す専門家です。ダブルケアの問題を「作業バランス」の視点から整理し、暮らしの再設計を支援します。
ダブルケアとは、育児と介護が同時に重なっている状態のことです。 内閣府の委託調査(2016年3月公表)は、就業構造基本調査をもとにダブルケアを行う人を 約25万人(女性約17万人・男性約8万人)と推計しました。 年代は男女とも30〜40代が約8割を占めています。 なおこの推計は2012年の調査データに基づくもので、その後の更新はありません。 現在の人数はこれより多い可能性があります。
晩婚化・晩産化の影響で、30代〜40代の子育て中に親の介護が始まるケースが増えています。「どちらも中途半端になっている気がする」「自分の時間がまったくない」と感じていませんか。
作業療法士(OT)は、暮らし全体を見渡して「何を優先し、何を手放すか」を一緒に考えてくれる専門家です。
ダブルケア当事者が直面する困難
ダブルケアの当事者は、複数の困難が同時に押し寄せる状況に置かれます。
- 時間的制約: 子どもの送迎、親の通院付き添い、家事がすべて同じ時間帯に集中する
- 身体的負担: 抱っこと介助の繰り返しで、腰痛や慢性的な疲労が蓄積する
- 精神的負担: 「子どもにも親にも十分にできていない」という罪悪感が常につきまとう
- 社会的孤立: ママ友にも介護仲間にもどちらにも完全には共感してもらえない
- 経済的問題: 介護費用と教育費が同時に発生し、就労継続が困難になるケースも多い
OTの専門用語で言えば、これは典型的な「作業不均衡(occupational imbalance)」の状態です。ケアという作業に生活が占領され、セルフケア・休息・余暇のすべてが犠牲になっています。
ダブルケアの大変さは、一つひとつのケアの負担だけではありません。複数の困難が同時に押し寄せることが、当事者を追い詰めます。
- 時間が足りない: 子どもの送迎と親の通院が重なり、やりくりが限界に
- 体がつらい: 抱っこと介助の繰り返しで、腰痛や疲労が慢性化する
- 自分を責めてしまう: 「どちらにも十分なことができていない」という罪悪感
- 相談相手がいない: ママ友に介護の話はしづらく、介護仲間に育児の話も合わない
- お金の不安: 介護費用と教育費が同時に発生する
これは作業バランスが大きく崩れた状態です。まずは「崩れている」と認識することが、立て直しの第一歩になります。
注意
ダブルケアの当事者はうつ病のリスクが高いことが報告されています。「最近、涙が止まらない」「何をしても楽しくない」「眠れない日が続いている」といった症状がある場合は、かかりつけ医や精神科への相談をためらわないでください。
暮らしの優先順位づけ ── 「やらなくていいこと」を見つける
「全部やる」をやめる技術
ダブルケア当事者に最も必要なのは、「やらなくていいこと」を明確にすることです。OTはこのプロセスを「作業の取捨選択」と呼びます。
具体的には、日々の活動を以下の3つに分類します。
- 必須(Must): やらないと安全・健康に直結するもの(子どもの食事、親の服薬管理など)
- 委託可能(Delegate): 他の人やサービスに任せられるもの(掃除、買い物、送迎など)
- 手放す(Drop): 今の時期はやらなくてよいもの(完璧な手料理、季節の行事の準備など)
この分類を行うだけで、「自分がやるべきこと」が明確になり、精神的な負担が軽減されます。
1週間の作業マッピング
OTの実践では、1週間の活動を時間帯ごとに書き出す「作業マッピング」を行います。書き出すことで、負担が集中している時間帯や、実は「なくても困らない」活動が見えてきます。
「全部やる」をやめていい
ダブルケアの渦中にいると、「もっと頑張らなければ」と思いがちです。しかし、本当に必要なのは「やらなくていいこと」を見つけることです。
日々の活動を3つに分けてみてください。
- 必ずやること: やらないと安全や健康に直結するもの(子どもの食事、親の薬の管理など)
- 誰かに頼めること: 他の人やサービスに任せられるもの(掃除、買い物、送迎など)
- 今はやめること: この時期はやらなくてよいもの(完璧な手料理、季節の行事の準備など)
「手を抜く」のではなく「手を離す」と考えてみてください。全部を一人で抱える必要はありません。
紙を3つに区切り、「必ずやること」「頼めること」「今はやめること」を書き出してみてください。冷蔵庫に貼っておくと、忙しいときに「これは今日やらなくていい」と判断する助けになります。パートナーや家族と共有すれば、役割分担の話し合いもしやすくなります。
育児側で使える支援制度
ダブルケア当事者が育児の負担を軽減するために活用できる制度は、複数存在します。制度を知っているかどうかで、生活の余裕が大きく変わります。
- 保育園の優先入所: 多くの自治体では、介護を理由に保育の必要性が認められます。「介護」を事由とした保育認定が可能です
- ファミリーサポートセンター: 地域の援助会員が子どもの送迎や預かりを行う相互援助活動です。1時間数百円程度で利用できます
- 一時預かり事業: 保育園等で一時的に子どもを預かる事業です。理由を問わず利用できる自治体もあります
- 病児・病後児保育: 子どもの体調不良時に預かってもらえるサービスです。介護の予定と重なったときに活用できます
- 子育て短期支援事業(ショートステイ): 児童養護施設等で数日間子どもを預かる制度です。介護の集中対応が必要な時期に利用できます
育児の負担を軽くする制度はたくさんあります。知っているだけで、選択肢が広がります。
- 保育園の優先入所: 「親の介護をしている」ことが保育の必要性として認められる自治体が多いです。役所の保育課に相談してみてください
- ファミリーサポートセンター: 地域の方が子どもの送迎や預かりをしてくれる仕組みです。1時間数百円程度で利用できます
- 一時預かり: 保育園などで一時的に子どもを預かってもらえます。「介護の日だけ」という使い方もできます
- 子育てショートステイ: 数日間、施設で子どもを預かってもらえる制度です。介護が集中するときに使えます
介護側で使える支援制度
介護側でも、多様なサービスを組み合わせることで負担を分散できます。
- 介護保険サービス: 要介護認定を受けることで、訪問介護・デイサービス・ショートステイ等が利用できます。ケアマネジャーに「ダブルケアの状況」を伝え、育児スケジュールとの調整を依頼することが重要です
- レスパイトケア: 介護者の休息を目的としたサービスです。ショートステイや夜間対応型訪問介護が該当します
- 地域包括支援センター: 高齢者の総合相談窓口です。介護保険の申請手続きから、地域の社会資源の紹介まで幅広く対応してくれます。ダブルケアの相談も受け付けています
- 介護休業・介護休暇制度: 育児・介護休業法に基づく制度です。対象家族1人につき通算93日の介護休業、年5日の介護休暇(2人以上なら年10日)が取得できます
OTとしては、ケアマネジャーとの連携において「育児との両立」という文脈を共有することが、適切なケアプラン策定につながると考えます。
介護の負担を軽くする制度も積極的に活用しましょう。
- 介護保険サービス: 要介護認定を受けると、ヘルパーさんの訪問やデイサービスが使えます。ケアマネジャーに「育児もしている」と必ず伝えてください
- ショートステイ: 親を短期間施設に預かってもらえます。育児に集中したい時期や、自分の休息のために使えます
- 地域包括支援センター: 高齢者の総合相談窓口です。介護保険の申請から地域のサービス紹介まで対応してくれます。ダブルケアの相談も受け付けています
- 介護休業・介護休暇: 法律で認められた制度です。職場に相談してみてください
ケアマネジャーとの面談では、次の3つを伝えましょう。(1)「育児と介護を同時にしている」こと、(2) 子どもの保育園や学校の送迎時間、(3) 自分が特に大変な曜日や時間帯。これを伝えることで、デイサービスの曜日やヘルパーの訪問時間を育児スケジュールに合わせて調整してもらいやすくなります。
セルフケアの重要性 ── 自分のための時間を確保する
ダブルケアの当事者は、「自分のことは後回し」になりがちです。しかし、OTの視点ではセルフケアの欠如は作業遂行全体の質を低下させる要因です。
介護者のバーンアウト(燃え尽き)は、ケアの質の低下だけでなく、介護者自身の健康問題にもつながります。自分を責めないでの記事でも触れていますが、セルフケアは「わがまま」ではなく、ケアを持続させるための必要条件です。
具体的なセルフケアの方法として、以下を提案します。
- 週に1回、30分でも「自分だけの時間」を確保する
- 作業バランスのセルフチェックを定期的に行う
- 同じ立場の当事者とつながる(ダブルケアの当事者会など)
- 「完璧にやらなくていい」と自分に許可を出す
育児も介護も「自分を犠牲にして当然」と思っていませんか。
自分を大切にすることは、わがままではありません。むしろ、あなたが倒れたら育児も介護も立ち行かなくなります。自分のケアは、家族へのケアを続けるための土台です。
- 週に1回、30分でも「自分だけの時間」を確保する
- 完璧を目指さず、「今日はこれだけできた」と自分を認める
- 同じ立場の方とつながる(ダブルケアの当事者会やSNSのコミュニティなど)
- つらいときは、遠慮なく相談窓口に電話する
「自分の時間なんて取れない」という方へ。まずは5分だけ試してみてください。好きな飲み物をゆっくり味わう、窓の外をぼんやり眺める、好きな音楽を1曲聴く。たった5分でも「自分のための時間」があると、気持ちの余裕が少し戻ってきます。
相談先と支援ネットワーク
家族だけで抱え込まず、相談できる場所を知っておきましょう。
| 相談先 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 地域包括支援センター | 高齢者とその家族 | 介護全般の相談、介護保険の申請支援 |
| 子育て世代包括支援センター | 妊産婦・子育て家庭 | 育児全般の相談、支援制度の紹介 |
| 市区町村の福祉課 | すべての住民 | ダブルケアに関する横断的な相談 |
| 社会福祉協議会 | すべての住民 | ファミリーサポートや地域の支援情報 |
| よりそいホットライン | どなたでも | 0120-279-338(24時間無料) |
OTとしては、ダブルケア当事者に対して「一つの窓口ですべてを相談できる体制」がまだ十分に整っていない現状があります。育児と介護の支援制度は縦割りであることが多く、当事者が自分で情報を集め、調整しなければならない負担があります。
だからこそ、OTがハブとなり、育児側・介護側の支援者をつなぐ役割を果たすことが求められます。使える制度については支援制度まるわかりガイドもあわせてご確認ください。
育児と介護の相談窓口は別々のことが多いのが現状です。まずはお住まいの市区町村の福祉課に「育児と介護の両方で困っている」と伝えてみてください。両方の制度を横断的に案内してくれる場合があります。
使える制度については支援制度まるわかりガイドもあわせてご確認ください。
ダブルケアは個人の努力だけで解決できる問題ではありません。しかし、OTの視点から暮らしを整理し、使える支援制度を最大限に活用することで、「なんとかやっていける」状態をつくることは可能です。
当事者が「助けて」と言える環境をつくること。それもまた、OTの大切な仕事です。
ダブルケア当事者の方へ ― 大切なポイントのまとめ
- ダブルケアは推定約25万人(2016年公表の国の推計)が直面する社会的課題です。あなただけではありません
- 「全部やる」を手放し、「必ずやること・頼めること・今はやめること」に分けましょう
- 育児側の支援(保育園の優先入所、ファミサポ、一時預かり)を積極的に活用してください
- 介護側の支援(介護保険サービス、ショートステイ、地域包括支援センター)も組み合わせましょう
- セルフケアはわがままではなく、ケアを続けるための必要条件です
- 一人で抱え込まず、まずは市区町村の福祉課に「育児と介護の両方で困っている」と相談してみてください
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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