この記事のポイント
- 遂行機能とは「計画を立て、実行し、修正し、評価する」脳の機能です。障害されると段取りが立てられなくなります
- チェックリスト・手順書・アラームなどの「外的キュー」で、遂行機能を補うことができます
- 家族は「代わりにやる」のではなく、「仕組みで支える」ことがご本人の自立につながります
「段取りが立てられない」のは怠けではありません
「前はテキパキしていたのに、何をするにも時間がかかるようになった」「料理の手順がわからなくなった」「約束を守れなくなった」。
こうした変化を見て、「やる気がなくなったのでは」「怠けているのでは」と思ってしまうかもしれません。しかし、これは脳の「段取りをつける機能」の問題であり、本人の意思の問題ではありません。
遂行機能障害と呼ばれるこの症状について、理解を深めていきましょう。
遂行機能とは何か
遂行機能とは、何かをやり遂げるために脳が行っている「段取り」のことです。
- 計画する: 「夕食にカレーをつくろう。材料を確認して、足りないものを買いに行こう」
- 実行する: 「野菜を切る→肉を炒める→水を加えて煮る→ルーを入れる」
- 修正する: 「煮込みが足りなさそうだから、もう少し煮よう」
- 振り返る: 「野菜が大きすぎたから、次は小さく切ろう」
私たちは普段、こうした段取りを無意識に行っています。遂行機能障害では、この「段取り」がうまくできなくなるのです。
遂行機能障害の現れ方 ── 日常生活での困りごと
遂行機能障害があると、日常のさまざまな場面で困りごとが生じます。
- 料理ができなくなる: 何から始めればよいかわからない、手順を間違える、火加減が調節できない
- 薬の管理ができない: 飲むべきタイミングで飲めない、飲んだかどうか覚えていない
- 約束が守れない: 時間に間に合うように準備することが難しい
- 優先順位がつけられない: 何を先にやるべきかの判断ができない
- 予定変更に対応できない: 計画通りにいかないと混乱してしまう
「前はできていたのに」という思い
ご家族もご本人も、「前はできていたのに」というつらさを感じていると思います。遂行機能障害は脳の損傷による症状であり、ご本人も「なぜできないのか」がわからず苦しんでいることが多いです。
OTのアプローチ ── 外的キューで遂行機能を補う
OT(作業療法士)は、「外部からの手がかり」を使って段取りの力を補う方法を提案します。
チェックリストを使う
毎日の行動をチェックリストにして、一つ終わるごとにチェックを入れます。
- 朝の準備: 起床→洗面→着替え→薬→朝食→歯磨き
- 外出前: 財布→鍵→携帯→ハンカチ→窓閉め→火の確認
チェックリストがあれば、「次に何をすればよいか」を自分で確認できます。
手順書(マニュアル)を作る
手順が複雑な作業は、写真付きの手順書を作って作業場所に貼っておくと効果的です。洗濯機の使い方、ゴミの分別方法などがおすすめです。ラミネート加工すると水に強く、長持ちします。
アラーム・タイマーを活用する
- 薬の時間にアラームを設定する
- 外出の30分前にアラームを鳴らす
- 調理中のタイマーで煮込み時間を管理する
スマホの繰り返しアラーム機能を使えば、毎日のルーティンに組み込めます。
チェックリストは「ご本人と一緒に」作るのがポイントです。ご家族が一方的に作ると、ご本人が「管理されている」と感じてしまうことがあります。「朝の準備、何からやってる?」と聞きながら、一緒に順番を決めていきましょう。
家族の関わり方 ── 「代行」ではなく「仕組み」で支える
遂行機能障害のある方を支えるとき、つい「代わりにやってあげよう」と思ってしまいます。しかし、大切なのは「代行」ではなく「仕組みで支える」ことです。
「代行」と「仕組み」の違い
- 薬: 毎回薬を渡す(代行)→ お薬カレンダーにセットしてアラームで知らせる(仕組み)
- 料理: 家族が全部作る(代行)→ 手順書を見ながらご本人が作る(仕組み)
- 外出準備: 持ち物を準備してあげる(代行)→ チェックリストでご本人が確認する(仕組み)
「仕組み」があれば、ご本人が自分の力でできるようになります。それがご本人の自信にもつながります。
「見守り」の距離感
完全に手を離すのではなく、「困ったら声をかけてね」という距離感を保ちましょう。ご本人が自分でやろうとしているときは、口を出したくなっても少し待ってみてください。
失敗を責めない
チェックリストを使っても間違えることはあります。「チェックリストがあるのになんでできないの」と言ってしまうと、ご本人はチェックリスト自体を使わなくなってしまいます。失敗を責めるのではなく、仕組みを一緒に改善していきましょう。
「全部やってあげる」の落とし穴
すべてを代行すると、ご本人の「自分でやる力」がさらに低下してしまうことがあります。時間がかかっても、仕組みを使ってご本人が自分でやる経験を積むことが大切です。ただし、安全に関わること(火の管理など)は、無理せず家族がサポートしてください。
1週間分の薬を曜日ごとにセットできる「お薬カレンダー」は、遂行機能障害のある方の服薬管理にとても有効です。薬局や100円ショップで手に入ります。日曜日に1週間分をセットし、毎食後にアラームで服薬を促す仕組みにすると、家族が毎回声をかけなくても管理できるようになります。
生活全体を見直す視点
個々の作業だけでなく、生活全体のリズムを整えることも大切です。
- 1日のスケジュールを固定する: 起床・食事・服薬・入浴の時間をできるだけ一定にする
- 週間スケジュールを見える化する: 通院、買い物、ゴミ出しなどの予定をホワイトボードやカレンダーに書く
- ものの場所を決める: 「何がどこにあるか」がわかるように、定位置とラベルで整理する
毎日の流れが決まっていると、「次に何をすればよいか」を考える負担が減り、ご本人も安心して過ごせます。
作業療法士に相談してみませんか
OTは遂行機能障害のある方の暮らしを総合的にサポートできます。
- ご本人に合ったチェックリストや手順書を一緒に作成します
- ご自宅の環境を「段取りがなくても暮らせる」ように整えるお手伝いをします
- ご家族の関わり方のコツについて、具体的にアドバイスします
「段取りが立てられない」ことで困っていたら、お近くのリハビリテーション施設や地域包括支援センターに相談してみてください。
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。