この記事のポイント
- 外出が億劫になると「閉じこもり」の悪循環に陥り、体力・認知機能・心の健康がさらに低下しやすくなります
- 外出をためらう要因は体力低下、転倒への恐怖、交通手段の喪失などさまざまです
- 玄関先から始める段階的な外出プログラムで、無理なく外出の習慣を取り戻せます
「閉じこもり」の悪循環
「閉じこもり」とは、外出頻度が週1回程度以下にとどまる状態を指します。定義は研究によって「週1回未満」「週1回以下」と揺れがあり、この違いだけでも該当率が変わる点に注意が必要です。
この狭い定義を用いた日本の調査では、おおむね7〜12%と報告されています。2021年に埼玉県の農村部で自立高齢者1,020名を対象に行われた調査では10.4%(男性6.6%/女性13.8%)で、年齢別では65〜74歳が8.5%、75歳以上が13.1%でした(Koizumi et al., 2024)。後期高齢者・女性で高くなるのが一貫した傾向です。
閉じこもりの悪循環
外出頻度の低下は、以下のような悪循環を生み出します。
- 外出が減る
- 身体活動量が低下する
- 筋力・体力・バランス機能が低下する
- 転倒のリスクが高まる
- 転倒への恐怖が強まる
- さらに外出を避けるようになる
この悪循環は、身体面だけでなく心理面・社会面にも波及します。
- 認知機能: 外的刺激と社会的やりとりの減少が、認知機能の低下と関連すると考えられています(リスクの倍率として示せるだけの一貫した国内データはないため、ここでは数値を挙げません)
- 心理面: うつ状態、意欲の低下、自己効力感の低下
- 社会面: 社会的孤立、役割の喪失、生きがいの喪失
外出頻度と要介護状態の発生との関連は、大規模なコホート研究で確認されています。65歳以上19,822名を平均23.3か月追跡した研究では、自宅から1〜10kmの範囲に月4日以上外出する群は、月1日未満の群と比べて要介護認定の発生が少なくなっていました(ハザード比0.68、95%信頼区間0.57〜0.81)。一方、自宅から1km以内の外出頻度では有意な関連がみられませんでした(Doi et al., 2025)。「家のまわりを歩く」だけでは足りず、生活圏をどこまで広げられるかが鍵になることを示唆します。
OTは、この悪循環を断ち切るために、個々の外出を妨げている要因を分析し、段階的な外出プログラムを設計します。
「外に出るのが億劫」が続くと、悪循環に陥ります。
- 外出しなくなる → 体を動かさなくなる
- 筋力が落ちる → 歩くのがつらくなる
- 転ぶのが怖くなる → ますます外出しなくなる
この悪循環は体だけでなく、心や頭の健康にも影響します。
- 認知機能への影響: 外の刺激や人とのやりとりが減ると、頭の働きが鈍りやすいと考えられています
- 気持ちの落ち込み: 「何もする気が起きない」「自分は役立たず」と感じるようになります
- 人との交流の減少: 孤立が深まります
注意
「外に出なくても生活できるから大丈夫」と思っていませんか? 2025年に公表された、2万人近くの高齢者を約2年追跡した調査では、自宅から1〜10kmくらいの範囲へ月4日以上出かけている方のほうが、その後に介護が必要になる割合が低いことが報告されています。早めに対策することが大切です。
外出が億劫になる要因
身体的要因
- 体力・筋力の低下: 歩行距離が短くなり、疲れやすくなる
- 痛み: 膝や腰の痛みが外出の障壁になる
- 感覚機能の低下: 視力低下、聴力低下による不安
- 排泄の不安: 頻尿や尿漏れの心配
心理的要因
- 転倒への恐怖(Fear of Falling): 実際に転倒した経験がなくても恐怖を感じる
- 自己効力感の低下: 「自分にはできない」という思い込み
- うつ状態: 意欲や興味の低下
- 外見への意識: 杖や車いすを使う自分を見られたくない
環境的要因
- 交通手段の喪失: 免許返納後の移動手段がない
- 地理的条件: 坂道が多い、バス停が遠い
- 気候: 暑さ、寒さ、雨天
- バリア: 段差、エレベーターのない駅
社会的要因
- 外出する理由がない: 「行くところがない」「会う人がいない」
- 配偶者の喪失: 一緒に出かける相手がいなくなった
- 経済的制約: 外出にかかる費用の負担
OTの評価では、これらの要因を包括的にアセスメントし、修正可能な要因から優先的に介入していきます。
外出が億劫になる理由はさまざまです。
体の問題
- 疲れやすい: 体力が落ちて長く歩けない
- 痛い: 膝や腰が痛くて歩くのがつらい
- 見えにくい・聞こえにくい: 外出先で不安を感じる
- トイレの心配: 外出先でトイレに間に合わないかも
気持ちの問題
- 転ぶのが怖い: 「転んだらどうしよう」という不安
- 自信がない: 「自分にはもう無理」と思い込んでいる
- やる気が出ない: 何をするのも億劫
環境の問題
- 車がない: 免許を返納して移動手段がなくなった
- 坂道が多い: 家の周りが坂だらけで歩くのが大変
- 行くところがない: 「外に出ても行く場所がない」
「なぜ外に出たくないのか」をご本人と一緒に考えてみてください。体の問題なら対策が立てやすいですし、気持ちの問題なら寄り添い方がわかります。「外に出なさい」と一方的に言うのは逆効果です。
段階的な外出プログラム
ステップ1: 自宅内の活動を増やす
外出の前段階として、家の中での身体活動量を増やすことから始めます。
- 立位での家事: 洗い物、洗濯物を干すなど
- 自宅内の歩行: 部屋の中を意識的に歩く
- 座ってできる体操: テレビ体操などの定型的な運動
ステップ2: 玄関先・庭に出る
- 玄関先に出る: 天気の確認、郵便物の取り込み
- 庭での活動: 水やり、草取り、日光浴
- 玄関先での会話: 近所の方との立ち話
ステップ3: 近隣への外出
- ゴミ出し: 定期的な短距離外出の習慣化
- 近所の散歩: 5〜10分程度の短い散歩から
- 近くの自動販売機やコンビニ: 目的を持った短距離外出
ステップ4: 目的のある外出
- 買い物: 近くのスーパーやドラッグストア
- 通院: 定期受診
- 地域の集まり: サロン、体操教室、趣味のグループ
ステップ5: 社会参加
- 趣味活動: カルチャーセンター、囲碁・将棋クラブ
- ボランティア: 地域での役割を持つ
- 旅行: 日帰り旅行、温泉、外食
介入のポイント
- 成功体験の積み重ね: 小さな成功を褒め、自己効力感を高める
- 意味のある活動: 本人が「行きたい」と思える目的を設定する
- 安全の保障: 転倒リスクの評価、杖やシルバーカーの導入
- 仲間づくり: 一緒に出かける相手の確保
いきなり遠くに出かける必要はありません。小さなステップから始めましょう。
ステップ1: 家の中で体を動かす
- テレビ体操をする
- 立って家事をする(洗い物、洗濯物干し)
ステップ2: 玄関先に出る
- 天気を確認しに玄関を開ける
- 郵便物を取りに行く
- 庭があれば水やりをする
ステップ3: 近所を歩く
- ゴミ出しに行く
- 5分だけ近所を歩いてみる
- コンビニに飲み物を買いに行く
ステップ4: 目的を持って出かける
- スーパーに買い物に行く
- 病院に行く
- 地域のサロンや体操教室に参加してみる
ステップ5: 楽しみのために出かける
- 趣味の集まりに参加する
- 友人とお茶をする
- 日帰り旅行に出かける
「外に出なさい」は逆効果です。「一緒にコンビニまで行かない?」「一緒にお花を見に行こう」と、誘って一緒に出かけることが最も効果的です。最初は5分でも構いません。「できた」という成功体験が、次の外出への意欲につながります。
外出を支える環境と制度
転倒予防
- 杖・シルバーカーの導入: 歩行の安定性を高める
- 適切な靴の選択: 滑りにくく、かかとが安定した靴
- 歩行路の安全確認: 通常の外出ルートの段差・障害物を確認
トイレの不安への対策
- 外出先のトイレマップ: よく行く場所のトイレの位置を確認
- パッドの使用: 万が一に備えて安心感を持つ
- 外出前の排尿: 出発前のトイレ習慣をつける
活用できる制度・サービス
- 介護予防教室: 市区町村が実施する体操教室や健康教室
- 地域のサロン: 社会福祉協議会などが運営する交流の場
- 通いの場: 住民主体の運動・趣味の集まり
- デイサービス: 送迎付きで通える日中の活動の場
- 移動支援: 障害者総合支援法による外出時の支援
安全に外出するための準備
- 杖やシルバーカー: 「大げさ」と思わず、安全のために使いましょう
- 歩きやすい靴: かかとが安定して、滑りにくい靴を選ぶ
- トイレの場所を確認: 外出先のトイレの位置を事前に調べておく
活用できるサービス
- 介護予防教室: 市区町村が開催する無料の体操教室
- 地域のサロン: お茶を飲みながらおしゃべりできる場所
- デイサービス: 送迎があるので、自分で行けなくても大丈夫
- シニアカー: 歩くのが大変でも、自分で移動できます
お住まいの地域包括支援センターに相談すれば、近くのサービスや教室を教えてもらえます。
外出頻度の低下は、要介護状態の発生と関連することが2025年の大規模な追跡調査でも報告されているリスク因子です(因果関係を証明したものではなく、体調の悪化が外出を減らしている側面もあります)。OTは、個々の外出を妨げている要因を包括的に分析し、段階的なプログラムと環境調整を通じて、外出行動の再獲得と社会参加の促進を支援する役割を担っています。
外出再開に向けてのまとめ
- 外出しない状態が続くと、体力・認知機能・気持ちがさらに低下する悪循環に陥ります
- 外出をためらう理由(体の問題・気持ちの問題・環境の問題)を知ることが第一歩です
- いきなり遠くに行かず、玄関先→近所→買い物と段階的に進めましょう
- 「一緒に行こう」と誘って、小さな成功体験を積み重ねることが大切です
- 地域の介護予防教室やサロンなど、活用できるサービスがあります。地域包括支援センターに相談してください
- Koizumi S, Ohta A, Kamei M. Homebound older adults who live independently in rural Japan: Prevalence and contributing factors during the COVID-19 pandemic. Prev Med Rep. 2024;39:102640.(自立高齢者1,020名で閉じこもり10.4%。国内の狭義定義では7.5〜11.7%と紹介)
- Doi T, et al. Association between the frequency of going outdoors by life space and incident disability among older adults. J Frailty Aging. 2025;14(5):100070.(19,822名・平均23.3か月追跡。1〜10km圏へ月4日以上の外出でハザード比0.68)
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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