この記事のポイント
- 人工膝関節の手術後は正座や深くしゃがむ動作に制限がありますが、日常生活の多くは工夫で対応できます
- 自宅の環境調整(椅子やベッドの導入、手すりの設置)が退院後の暮らしを大きく左右します
- 適度な運動の継続と感染予防が、人工関節を長持ちさせる鍵です
人工膝関節全置換術(TKA)とは
人工膝関節の手術は、膝の痛みの原因となっている傷んだ関節を、金属とプラスチックでできた人工関節に取り替える手術です。日本では年間約10万件以上行われています。
手術後は膝の痛みが大きく改善し、歩けるようになりますが、正座や深くしゃがむ動作が難しくなります。作業療法士(OT)は、この制限がある中でも快適に暮らせるよう、生活の工夫を提案します。
手術後の生活で制限されること
手術後は、以下の動作を避ける必要があります。
- 正座: 人工関節に大きな負担がかかるため、原則としてできません
- 深くしゃがむ: 和式トイレや低い場所での作業が難しくなります
- ジャンプやランニング: 膝への強い衝撃は人工関節の寿命を縮めます
日本の暮らしでは、畳に座る、布団の上げ下ろし、仏壇の前での正座など、膝を深く曲げる場面が多くあります。こうした場面への対応を、OTが一緒に考えてくれます。
日常生活の工夫
「床の生活」から「椅子の生活」へ
手術後の暮らしで最も大切な工夫は、床に座る生活から、椅子とベッドの生活に切り替えることです。
- 食事: 座卓(ちゃぶ台)からテーブルとイスへ
- 寝る: 布団からベッドへ
- くつろぐ: 座椅子からソファへ
- 仏壇: 椅子に座ってお参りするスタイルへ
まずは寝室のベッド導入と、トイレの手すり設置から始めましょう。生活しながら「ここが不便」と感じた場所を、少しずつ調整していけば大丈夫です。
トイレ
- 和式トイレの場合は、洋式に改修するか簡易洋式便座を取りつけます
- 手すりがあると立ち座りが楽になります
お風呂
- 浴槽の出入りには必ず手すりを使いましょう
- シャワーチェアに座って体を洗うと安全です
- 浴槽内にすべり止めマットを敷くと安心です
着替え
- ズボンや靴下はイスに座って着脱しましょう
- 長い靴べらがあると便利です
自宅の環境調整
退院前に、OTが自宅を訪問して安全を確認することがあります。よくある調整のポイントは以下の通りです。
- 手すり: トイレ、お風呂、玄関、階段に設置
- 段差の解消: 敷居の段差をなくす、玄関にステップ台を置く
- ベッド: 布団からベッドに変更(高さは膝の高さくらいが目安)
- イスの高さ: 座面が低すぎると立ち上がるのが大変です。クッションで調整できます
- すべり止め: お風呂や玄関にすべり止めマットを敷く
手すりの設置や段差の解消、洋式トイレへの改修などには、介護保険の住宅改修費(上限20万円、自己負担1〜3割)が利用できます。ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみてください。
運動と活動の目安
手術後も適度な運動を続けることが、人工関節を長持ちさせるために大切です。
おすすめの運動
- ウォーキング: 平坦な道を歩くことから始めましょう
- 水中歩行: プールでの歩行は膝への負担が少なくおすすめです
- 自転車(エアロバイク): 膝に衝撃がかからず安全です
- ストレッチ: 膝まわりの柔軟性を保つために毎日続けましょう
避けたほうがよい運動
ジョギング、テニス、バスケットボール、スキーなど、膝に強い衝撃がかかったり、転倒のリスクがある運動は避けてください。
活動再開のめやす
- 術後2〜3か月: 車の運転
- 術後3〜6か月: ゴルフ、卓球などの軽いスポーツ
- 術後6か月以降: 旅行や長時間の外出
感染予防の重要性
人工関節は体にとって「異物」であるため、感染に注意が必要です。手術直後だけでなく、何年たっても感染のリスクはゼロにはなりません。
- 歯の治療: 抜歯やインプラントを受ける前に、膝の手術を受けたことを歯科医に必ず伝えてください
- けが: 膝の周りを傷つけたら、清潔に保ち、赤く腫れたらすぐに病院へ
- 他の病気: 風邪や膀胱炎なども早めに治療しましょう
- 定期的な通院: 年に1〜2回の定期検査を忘れずに受けてください
注意
膝が急に腫れた、赤くなった、熱を持った、安静にしていても痛みが強くなった場合は、人工関節の感染の可能性があります。すぐに手術を受けた病院に連絡してください。
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。