この記事のポイント
- PTSDは「心の弱さ」ではなく、脳と体がトラウマから自分を守ろうとする自然な反応です
- 作業療法士は「安全な日常」を取り戻すために、作業活動・感覚調整・ルーティンづくりで支援します
- 「トラウマインフォームドケア」の視点で、安心・安全を最優先にした関わりが大切です
「普通の暮らし」が怖くなるということ
つらい出来事を経験した後、「普通の暮らし」が怖くなってしまうことがあります。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、災害、事故、暴力、虐待などのつらい体験の後に起こることがある症状です。「心が弱いから」ではなく、脳と体がトラウマから自分を守ろうとする自然な反応です。
作業療法士(OT)は、「安心できる日常」を少しずつ取り戻すお手伝いをします。
PTSDの3つの主な症状
再体験(フラッシュバック)
つらい記憶が、本人の意思とは関係なく鮮明によみがえることがあります。
- 突然、まるでその場にいるかのように体験がよみがえる(フラッシュバック)
- 突然つらい記憶が頭に浮かぶ
- トラウマに関連した悪夢を繰り返し見る
- 特定の音やにおい、場所がきっかけで症状が出る
料理中の火や包丁、特定の場所や天候など、日常の中にきっかけがあるため、家事や外出が難しくなることがあります。
回避
つらい記憶を思い出させるものを避けようとする症状です。
- 特定の場所や人、状況を避ける
- つらい出来事について話したがらない
- 感情が湧かなくなったように感じる
- 以前は楽しめていたことに興味がなくなる
避けることで一時的に楽になりますが、行動範囲が狭まり、孤立しやすくなります。
過覚醒
常に「危険を感じているような緊張状態」が続くことがあります。
- 常に周囲を警戒している
- ちょっとした物音に大きく驚く
- 眠れない、途中で目が覚める
- 集中できない
- イライラしやすい
この緊張状態が続くと、慢性的な疲労につながります。
トラウマインフォームドケアの考え方
PTSDのある方と関わるときに大切な考え方があります。
- 安全: 安心できる環境をつくることが最優先
- 予測可能性: 「次に何をするか」を事前に伝え、驚かせない
- 本人の意思を尊重: 「やりたくない」と言ったら、無理強いしない
- 強みに着目: 「できたこと」を一緒に確認する
大切な注意点
よかれと思ってやったことが、かえってつらい記憶を呼び起こしてしまうことがあります。「この活動はしたくない」という意思は、必ず尊重してください。
作業療法のアプローチ
安全な作業活動
OTは、安心できる活動を通じて回復をサポートします。
- 手を動かす活動: 編み物、塗り絵など、「今ここ」に集中できる
- 園芸: 土に触れ、植物の成長を見守ることで安心感が生まれる
- 軽い運動: ストレッチやウォーキングで緊張を和らげる
大切なのは、ご本人が「やりたい」と思える活動を選ぶことです。
塗り絵、折り紙、パズル、編み物など、手を動かすことに集中できる活動は、つらい記憶から意識をそらす助けになります。本人が少しでも興味を持てるものを、一緒に探してみてください。
感覚調整
つらい記憶がよみがえったとき、感覚を使って「今ここ」に意識を戻す方法があります。
- 5つの感覚に集中する: 「見えるもの5つ、聞こえるもの4つ、触れるもの3つ、においが2つ、味が1つ」を数える
- 重い毛布をかける: 体に圧がかかると安心感が生まれやすい
- 安心できるにおいを嗅ぐ: お気に入りのアロマやハンドクリーム
- 氷を握る、温かいお茶を飲む: 温度の感覚で意識が戻りやすい
フラッシュバックが起きたときに使える「安心グッズ」を小さなポーチにまとめておくと安心です。好きなにおいのハンドクリーム、触り心地のよいもの、家族の写真など、「安全」を感じられるものを入れておきましょう。
日常のルーティンづくり
「毎日の決まった流れ」をつくることが、安心感につながります。
- 起きる時間・寝る時間をなるべく一定にする
- 無理のない範囲で日中の活動を少しずつ増やす
- つらい記憶のきっかけを避けながら、日常の活動を組み立てる
- リラックスできる時間を毎日の予定に組み込む
セルフケアと周囲のサポート
回復のために、日常の中でできるセルフケアがあります。
- 安全な場所をイメージする: お気に入りの場所を思い浮かべる
- ゆっくり呼吸する: 4秒吸って、7秒止めて、8秒で吐く
- 体の緊張に気づく: 肩や顎に力が入っていないか確認する
- 信頼できる人との時間を大切にする
回復は一直線ではありません。良い日と悪い日を繰り返しながら、少しずつ前に進んでいきます。
大切なポイントのまとめ
- PTSDは「心の弱さ」ではなく、脳と体の自然な反応です
- 安心できる環境をつくることが回復の第一歩です
- 手を動かす活動や感覚を使う工夫で、「今ここ」に戻ることができます
- 回復には時間がかかります。良い日と悪い日を繰り返しながら、少しずつ前に進みます
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士(OTR)
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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