本文へスキップ
作業療法.net
社会復帰#作業療法#リハビリ#メンタルヘルス

コロナ後遺症の倦怠感 ── ご家族が知っておきたいペーシングの考え方

コロナ後遺症の強い倦怠感に悩むご家族のために、ペーシング(活動と休息の配分)の考え方と、ご家庭でできるサポートを紹介します。

📅 2026年5月18日 更新読了目安 23分

この記事のポイント

  • Long COVIDの倦怠感は「気合い」では解決できない。労作後倦怠感(PEM)という病態の理解が第一歩
  • ペーシングとは活動と休息を計画的に配分する技術であり、エビデンスに基づく有効な対処法
  • スプーン理論を用いたエネルギー管理で、1日の活動量を「見える化」できる
  • 作業療法士は活動分析の専門家として、あなたに合った生活リズムの再設計を支援する

Long COVIDとは何か

新型コロナの症状が治まった後も、強い倦怠感や頭がぼんやりする症状が何か月も続くことがあります。これをLong COVID(コロナ後遺症)と呼びます。

感染した方の約10%に後遺症が残り、そのうち65%が強い倦怠感を訴えています。これは「疲れ」とは違い、身体が鉛のように重くなって日常の動作すら困難になることがあります。

PEM(労作後倦怠感)を理解する

「頑張りすぎ」が逆効果になることがあります

Long COVIDの倦怠感で知っておいていただきたいのが、PEM(労作後倦怠感)という症状です。

PEMとは、少し活動しただけで翌日や翌々日にひどく体調が悪化する現象です。「調子が良かったから頑張った」結果、次の日に動けなくなる悪循環に陥りやすいのが特徴です。

「頑張れば良くなる」は当てはまりません

「もっと動いたほうがいい」「気持ちの問題では」と思いがちですが、PEMがある場合は無理に活動量を増やすと症状が悪化します。怠けているのではなく、体が回復の途中にあるのです。

ペーシングとは何か

ペーシングとは?

ペーシングとは、活動と休息を計画的に配分する技術です。PEMを防ぎながら、安定した生活を送るための方法です。

ペーシングは「何もしない」ことではありません。限られたエネルギーを、大切な活動に使うための工夫です。

スプーン理論によるエネルギー管理

スプーン理論でエネルギーを「見える化」

1日に使えるエネルギーを「スプーンの本数」に見立てる方法があります。たとえば1日12本のスプーンがあるとして、それぞれの活動に何本使うかを朝のうちに決めておきます。

スプーンの使い方の例
  • 朝の身支度起床・洗顔・着替え・朝食で3本
  • 通院移動と診察で2本
  • 家事洗濯や料理で2〜3本
  • 入浴意外とエネルギーを使うので1本

「今日は通院があるから家事は最小限にしよう」といった判断が、事前にできるようになります。

作業療法士による具体的な支援

作業療法士がどう助けてくれるの?

作業療法士は、1日の活動パターンを一緒に分析し、ご本人に合ったペース配分を提案します。

たとえば料理であれば、「座って献立を考える」ところから始め、少しずつ調理の範囲を広げていくような段階的な計画を立てます。

頭がぼんやりする(ブレインフォグ)症状に対しても、タスクを細かく分ける、リマインダーを活用するなど、日常で使える工夫を一緒に考えてくれます。

段階的な社会復帰に向けて

回復には波があります

Long COVIDからの回復は、調子が良い日と悪い日を繰り返しながら、全体としてゆるやかに良くなっていく経過をたどることが多いです。

調子が良い日こそ注意

調子が良い日に活動を詰め込むと、翌日以降にひどく体調が悪化しやすいです。良い日こそペーシングを守ることが大切です。

ご家族にお願いしたいのは、回復のペースを急かさないことです。「前はできていたのに」ではなく、「今できることを大切にする」という視点が、ご本人の心の支えになります。

セルフモニタリングのすすめ

ご本人に余裕があれば、毎日の体調と活動を簡単にメモしておくと、ペーシングの精度が上がります。スマートフォンのメモや紙のノートで、倦怠感の程度とその日の活動を記録してみてください。

まとめ

ポイント
  • Long COVIDの倦怠感は「怠け」ではなく、体の回復途中に起こる症状です
  • ペーシング(活動と休息の配分)を守ることで、安定した生活を維持できます
  • 回復のペースは人それぞれです。焦らず、今できることを大切にしましょう
  • 困ったときは作業療法士に相談してください。一緒に生活の工夫を考えてくれます
ご家庭でできること
  • ご本人が休んでいるときに「怠けている」と感じないでください。休息も回復の一部です
  • 家事の分担を見直し、ご本人の負担を減らす工夫をしましょう
  • 「前はできていたのに」ではなく、「今できていることを認める」声かけを心がけてください

参考文献

  • World Health Organization. A clinical case definition of post COVID-19 condition by a Delphi consensus. 2021.
  • NICE. COVID-19 rapid guideline: managing the long-term effects of COVID-19. 2024 update.
  • Davis HE, et al. Long COVID: major findings, mechanisms and recommendations. Nature Reviews Microbiology. 2023;21:133-146.
  • Lancet. Long COVID: 3 years in. The Lancet. 2024;403(10423):229.
  • Miserandino C. The Spoon Theory. ButYouDontLookSick.com. 2003.
  • 日本作業療法士協会. コロナ後遺症に対する作業療法の手引き. 2023.

関連記事