この記事のポイント
- リハビリの時間は1日40〜60分。残りの23時間の過ごし方が回復のスピードを左右します
- 自主トレーニングは「OTに確認」「痛みの範囲を守る」「転倒予防」の3原則を守れば安全に取り組めます
- ベッド上・座位・立位、それぞれの段階に合った練習メニューを作業療法士と一緒に組み立てましょう
リハビリの時間だけでは回復は進まない?
入院中のリハビリテーションは、1日あたり40〜60分が一般的です。回復期リハビリテーション病棟では最大180分まで提供されますが、それでも1日の約12%に過ぎません。
研究では、入院患者が想像以上に長く臥床していることが繰り返し報告されています。65歳以上の男性入院患者45名(米国の退役軍人病院)に加速度計を装着した調査では、測定した入院期間の平均83%を臥床して過ごし、立位・歩行の時間は中央値で1日43分(3%)にとどまっていました(Brown et al., 2009年。夜間の睡眠を含む24時間あたりの割合です)。リハビリの時間以外の過ごし方、つまり自主トレーニング(自主練習)の質と量が、回復のスピードに大きく影響します。
OTは、患者さん一人ひとりの身体機能や目標に合わせた自主トレプログラムを作成し、安全に取り組めるよう指導する役割を担っています。
入院中のリハビリの時間は、1日あたり40〜60分が一般的です。「えっ、それだけ?」と驚かれるかもしれません。
残りの23時間をベッドの上でじっとしているだけでは、せっかくのリハビリの効果が十分に発揮されません。海外の調査では、65歳以上の入院患者(米国の男性45名)が入院中の時間の8割以上を横になって過ごし、立ったり歩いたりする時間は1日40分ほどだったという報告もあります。リハビリの時間以外に、自分でできる練習(自主トレーニング)に取り組むことで、回復のスピードが変わってきます。
ただし、やみくもに動けばいいわけではありません。作業療法士(OT)に相談しながら、安全な練習メニューを組み立てることが大切です。作業療法士がどんな専門家なのかは作業療法とは何かで詳しく紹介しています。
自主トレーニングの3原則
安全に自主トレーニングを行うために、必ず守っていただきたい3つの原則があります。
原則1: 必ずOTまたはPTに確認する
自主トレの内容は、必ず担当のOTまたはPTに確認してもらいましょう。患者さんの回復段階や禁忌事項に応じて、今やるべき練習と避けるべき練習は異なります。
原則2: 痛みの範囲を守る
「痛みを我慢してでもやったほうが効く」は誤解です。痛みが出ない範囲、または軽い違和感程度の範囲で行うのが原則です。痛みを押して練習すると、炎症の悪化や関節の損傷につながるリスクがあります。
原則3: 転倒予防を最優先にする
自主トレ中に転倒して骨折などを起こせば、入院期間の延長や機能低下につながります。立位での練習は必ず手すりや安定した支持物のそばで行い、ナースコールが手の届く位置にあることを確認してから始めましょう。
原則1: 必ずリハビリの先生に確認する
「これをやっていいですか?」と、担当のリハビリの先生に必ず確認しましょう。今の回復段階でやっていい練習とやってはいけない練習があります。
原則2: 痛みが出たらストップ
「痛みを我慢するほど効果がある」は間違いです。痛みが出ない範囲で行うのが基本です。痛みを押して続けると、かえって回復が遅れることがあります。
原則3: 転ばないことが最優先
自主トレ中に転んでしまうと、骨折などで入院期間が大幅に延びることがあります。立って行う練習は必ず手すりのそばで。ナースコールが手の届く位置にあることを確認してから始めましょう。
注意
自主トレーニングは、担当のリハビリスタッフに内容を確認してもらってから始めてください。特に術後や急性期の方は、医師の許可なく自己判断で練習を行わないでください。
自主トレーニングの種類
自主トレーニングは大きく4つのカテゴリに分かれます。OTは患者さんの目標と現在の機能レベルに応じて、これらを組み合わせてプログラムを作成します。
1. 関節可動域(ROM)練習
関節の動きを維持・改善するための練習です。術後の拘縮予防や、長期臥床による可動域制限の改善を目的とします。
- 肩の屈曲・外転(タオルを使った滑車運動など)
- 手指の屈伸(テニスボールやスポンジを握る)
- 足関節の背屈・底屈(タオルギャザーなど)
2. 筋力トレーニング
MMTの結果に基づき、弱化している筋群を強化します。
- 大腿四頭筋セッティング(膝を伸ばしてベッドに押し付ける)
- ブリッジ運動(仰臥位で臀部を持ち上げる)
- セラバンドを使った上肢・下肢の筋力強化
3. ADL練習
実際のADL場面を繰り返し練習することで、動作の獲得と定着を図ります。
- 更衣動作(ボタンの留め外し、靴下の着脱)
- 整容動作(歯磨き、洗顔、髪をとかす)
- 移乗動作(ベッド⇔車いすの乗り移り)
ADLと、退院後に必要となるIADLの違いについてはADLとIADLの違いと評価方法で詳しく解説しています。
4. 認知課題
高次脳機能障害のある患者さんや、認知機能の維持を目的とした練習です。
- 計算ドリル、漢字書き取り
- パズル、ナンプレ
- 日記を書く(注意力・記憶力・構成力の練習になる)
自主トレーニングにはいくつかの種類があります。リハビリの先生が、今の状態に合わせて組み合わせてくれます。
1. 関節を動かす練習
関節が固まらないように動かす練習です。
- 肩を上げ下げする(タオルを使って)
- 手をグーパーする(スポンジを握る)
- 足首を曲げ伸ばしする
2. 筋力をつける練習
弱っている筋肉を鍛える練習です。
- 膝を伸ばしてベッドに押し付ける
- 仰向けでお尻を持ち上げる
- ゴムバンドを使った腕や脚の運動
3. 日常の動作を練習する
実際の生活動作を繰り返し練習します。
- ボタンの留め外し、靴下の着脱
- 歯磨き、洗顔、髪をとかす
- ベッドと車いすの乗り移り
4. 頭の体操
考える力や記憶力を維持するための練習です。
- 計算ドリル、漢字の書き取り
- パズル、ナンプレ
- 日記を書く(思い出す力、文章を組み立てる力の練習になります)
自主トレプログラムの組み立て方
自主トレプログラムは、以下の4ステップで組み立てます。
ステップ1: 目標を明確にする
「退院後に自分で入浴できるようになる」「杖歩行で自宅内を移動できるようになる」など、具体的な生活上の目標を設定します。OTと一緒に短期目標と長期目標を決めましょう。
ステップ2: 種目を選ぶ
目標達成に必要な機能(筋力、可動域、協調性など)に対応する練習種目を選びます。3〜5種目が現実的です。多すぎると継続が困難になります。
ステップ3: 回数・セット数を決める
各種目の回数とセット数を設定します。基本は10回×2〜3セットを目安に、現在の体力に合わせて調整します。「疲れすぎない」ことがポイントです。
ステップ4: タイミングを決める
1日の中でいつ行うかを決めます。おすすめはリハビリの前後を避けた時間帯です。
- 午前のリハビリ後、昼食前
- 午後のリハビリがない日の14〜15時
- 夕食後、就寝前の軽いストレッチ
ヒント
自主トレメニューを紙に書き出し、ベッドサイドに貼っておくと忘れずに取り組めます。チェックリスト形式にすると達成感も得られます。
自主トレのメニューは、リハビリの先生と一緒に4つのステップで組み立てます。
ステップ1: 目標を決める
「退院後にお風呂に一人で入れるようになりたい」「杖で家の中を歩けるようになりたい」など、具体的な目標を決めましょう。
ステップ2: 練習する種目を選ぶ
目標に合った練習を3〜5種目選びます。多すぎると続けられなくなるので、無理のない数にしましょう。
ステップ3: 回数を決める
基本は10回を2〜3セットが目安です。疲れすぎないことが大切です。
ステップ4: いつやるか決める
リハビリの前後は避けて、体力に余裕のある時間帯がおすすめです。
- お昼ごはんの前
- 午後のリハビリがない時間
- 夕食後の軽いストレッチ
ヒント
練習メニューを紙に書いてベッドのそばに貼っておくと、忘れずに取り組めます。終わったらチェックを入れると達成感につながります。
段階別の練習メニュー
ベッド上でできる練習
臥床状態や離床初期の患者さん向けの練習です。
- 大腿四頭筋セッティング: 膝裏でベッドを押し付ける(10回×3セット)
- ブリッジ運動: 仰臥位で膝を立て、臀部を持ち上げる(10回×2セット)
- 手指の自動運動: グーパー運動、指の対立運動(各20回)
- 足関節の底背屈: 足首の曲げ伸ばし(下肢の血流を促す目的でも行われます、20回×2セット)
- 深呼吸: 腹式呼吸(呼吸を深く保つための練習、5回×3セット)
座ってできる練習
端座位が安定している患者さん向けの練習です。
- 座位バランス練習: 座った状態で前後左右にリーチする
- タオル絞り: 上肢の筋力と手指の巧緻性を同時に訓練
- 更衣練習: ボタンの留め外し、靴下の着脱を繰り返す
- テーブル拭き: 上肢のROM練習とADL練習を兼ねる
- 認知課題: 計算ドリル、新聞の音読
立ってできる練習
立位保持が可能な患者さん向けの練習です。必ず手すりのそばで行います。
- スクワット: 手すりを持ち、浅く膝を曲げる(10回×2セット)
- つま先立ち・かかと立ち: 手すりを持って交互に行う(各10回×2セット)
- 立位での整容動作: 洗面台の前で歯磨き、洗顔を練習
- 歩行練習: 廊下を歩行器や杖を使って往復(OTまたはPTの許可を得てから)
ベッドの上でできる練習
まだベッドから起き上がるのが難しい方でもできる練習です。
- 膝の裏でベッドを押す: 太ももの前の筋肉を鍛えます(10回×3セット)
- お尻を持ち上げる: 仰向けで膝を立て、お尻を浮かせます(10回×2セット)
- 手のグーパー: 握る・開くを繰り返します(20回)
- 足首の曲げ伸ばし: 脚の血のめぐりを促す動きです(20回×2セット)
- 深呼吸: おなかを膨らませるようにゆっくり呼吸します(5回×3セット)
座ってできる練習
ベッドの端に安定して座れるようになったら取り組めます。
- 座ったまま手を伸ばす: 前後左右に手を伸ばしてバランスをとります
- タオルを絞る: 手の力と指先の動きを鍛えます
- 着替えの練習: ボタンの留め外し、靴下の着脱を繰り返します
- テーブルを拭く: 腕を大きく動かす練習になります
- 頭の体操: 計算ドリルや新聞の音読
立ってできる練習
立っていられるようになったら、必ず手すりのそばで行います。
- 軽いスクワット: 手すりを持ち、浅く膝を曲げます(10回×2セット)
- つま先立ち: 手すりを持って背伸びします(10回×2セット)
- 洗面台での歯磨き・洗顔: 立って行う日常動作の練習です
- 廊下の歩行: 歩行器や杖を使って(リハビリの先生の許可を得てから)
やりすぎ注意のサイン
自主トレーニングにおける過負荷のサインを患者さんに事前に教育しておくことが重要です。以下のサインが出た場合は、直ちに練習を中止し、看護師またはリハビリスタッフに報告するよう指導しましょう。
- 痛みの増強: 練習前にはなかった痛みが出現、または既存の痛みが増強
- 腫脹・発赤・熱感: 練習後に関節周囲の腫れや赤みが出現
- 過度の疲労: 練習後にぐったりして食事や会話もつらい状態
- 翌日に疲労が残る: 前日の自主トレの疲れが翌朝まで持ち越す
- めまい・ふらつき: 起立時のめまいや、歩行中のふらつき
- 息切れ・動悸: 安静時には見られない呼吸苦や頻脈
注意
自主トレの目的は「追い込む」ことではなく、「リハビリの効果を生活の中で定着させる」ことです。やりすぎによる疲労や傷害は、回復を遅らせる最大のリスクです。
「がんばりすぎ」は逆効果です。以下のサインが出たら、練習をやめて休みましょう。
- 練習の前にはなかった痛みが出てきた
- 関節の周りが腫れたり、赤くなったり、熱を持った
- 練習のあとにぐったりして食事もつらい
- 翌朝まで疲れが残る
- めまいがする、ふらつく
- 息が切れる、動悸がする
このようなサインが出たら、無理をせずナースコールを押してください。
注意
自主トレの目的は「追い込む」ことではなく、リハビリの効果を日常生活に定着させることです。やりすぎはかえって回復を遅らせます。
家族ができるサポート
家族の関わりは、自主トレーニングの継続と効果に大きく影響します。OTとして家族に伝えたいポイントは以下の通りです。
- 見守り: 立位での練習時は、転倒に備えてそばにいてもらう
- 声かけ: 「がんばって」よりも「昨日より上手にできているね」と変化に気づく声かけが効果的
- モチベーション維持: 自主トレの記録表を一緒に確認し、進歩を共有する
- 環境整備: 練習に必要な道具(タオル、スポンジ、ドリルなど)を準備しておく
- OTとの連携: 自主トレ中に気づいた変化(痛みの訴え、動きの改善など)をリハビリスタッフに伝える
ご家族のサポートがあると、自主トレーニングの効果がぐんと上がります。
- 見守り: 立って行う練習のときは、転ばないようそばにいてあげてください
- 声かけ: 「がんばって」よりも「昨日より上手にできてるね」と変化に気づく声かけが効果的です
- 一緒に記録を見る: 練習の記録表を一緒に確認すると、進歩が目に見えてモチベーションが上がります
- 道具の準備: タオル、スポンジ、計算ドリルなど、練習に使うものを用意しておく
- 気づいたことを伝える: 「今日は痛そうだった」「前より動きがスムーズになった」など、リハビリの先生に教えてあげてください
面会の際、一緒に自主トレに取り組んでみましょう。手のグーパー運動を一緒にやったり、計算ドリルの問題を出し合ったり。「一人でやるのは退屈」という方も、家族と一緒なら楽しく続けられます。ただし、無理にやらせるのは逆効果です。本人の気分に合わせてください。
まとめ
リハビリの効果を最大化するためには、1日40〜60分のリハビリ時間だけでなく、残りの23時間をいかに有効に使うかが鍵になります。
OTは患者さんの生活全体を見渡し、安全かつ効果的な自主トレプログラムを設計する専門家です。自主トレの内容は回復段階に応じて定期的に見直し、患者さんの目標達成に向けて段階的にレベルアップしていきましょう。
自主トレーニング指導のポイント
- 自主トレの内容は必ずOT/PTが確認し、安全性を担保する
- 3〜5種目、10回×2〜3セットを目安に、過負荷を避けるプログラム設計を行う
- ベッド上→座位→立位と段階的に進め、転倒リスクの管理を徹底する
- 自主トレ表をベッドサイドに掲示し、セルフモニタリングを促す
- 家族への教育(見守り、声かけ、変化の報告)も自主トレ成功の重要な要素である
入院中の自主トレーニング ── 大切なポイント
- リハビリの時間は1日40〜60分。残りの時間の過ごし方が回復のスピードを左右します
- 自主トレは「先生に確認」「痛みが出たらストップ」「転ばない工夫」の3原則を守りましょう
- ベッド上・座って・立ってと、今の段階に合った練習メニューを先生と一緒に決めましょう
- やりすぎは逆効果。疲れが翌日に残るようなら回数を減らしてください
- ご家族の見守りと声かけが、回復を後押しする大きな力になります
- Brown CJ, Redden DT, Flood KL, Allman RM. The underrecognized epidemic of low mobility during hospitalization of older adults. Journal of the American Geriatrics Society. 2009;57(9):1660-1665(米国の退役軍人病院に入院した65歳以上の男性45名を加速度計で測定)
- West T, Bernhardt J. Physical activity in hospitalised stroke patients. Stroke Research and Treatment. 2012;2012:813765(24研究のシステマティックレビュー。日中の中央値48%が非活動、56%を自室内で過ごす)
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
運営者プロフィールを見る →