この記事のポイント
- 動画配信サービスには、従来のテレビにはなかった「やめにくさ」の仕組みがあります
- 「依存=意志が弱い」ではありません。サービス側の設計を知ることが、付き合い方の第一歩です
- 作業療法的な視点からの合言葉は「選ぶ・決める・味わう」。楽しみを減らすのではなく、楽しみの質を上げる方法を紹介します
はじめに── 前回の記事の「続き」として
前回の記事では、「テレビばかり見ているのは悪いことか?」という問いを取り上げました。結論は、活動の種類ではなく、その活動にどのような姿勢で臨んでいるかが大切、というものでした。
では、Netflix、Amazon Prime Video、YouTube、TVer、ABEMA── いわゆる動画配信サービスについてはどうでしょうか。
「テレビよりもっとやめられない」「気づいたら深夜2時だった」「1話だけのつもりが、シーズンまるごと見てしまった」。こんな経験に心当たりがある方は少なくないはずです。ご本人だけでなく、リハビリに通うお子さんやお孫さんが「スマホの動画ばかり見ている」と心配されるご家族もいらっしゃるかもしれません。
今回は、動画配信サービスとテレビの共通点と違いを整理したうえで、「やめられなさ」の正体を探り、主体的に楽しむためのヒントをお伝えします。
堅い話ではありません。リラックスして読んでいただければ幸いです。
テレビと動画配信── 何が同じで、何が違うか
共通点:画面を見て映像コンテンツを楽しむ
当たり前のようですが、テレビも動画配信も「画面を通じて映像を見る」という点では同じです。ソファに座って、あるいはベッドに寝転がって、光る画面を眺める。身体的な姿勢としては、ほとんど変わりません。
前回の記事で触れた「長時間の同一姿勢」「身体活動量の低下」というリスクは、テレビでも動画配信でも共通です。
違い1:「終わり」がない
テレビには番組の終わりがあり、興味のない番組が始まればテレビを消すきっかけになります。
動画配信サービスにはこの「自然な区切り」がありません。見終わると「おすすめ」が表示され、Netflixでは次の話が勝手に始まります。つまり自分で意識して止めないと、ずっと続いてしまうのです。
違い2:「自分好み」が際限なく続く
テレビでは興味のない番組の時間が、自然な休憩になっていました。動画配信ではAIが好みを学習して、好きなものばかりを次々と見せてくるので「もういいや」となりにくいのです。
お菓子の袋が全部好きな味だったら、手が止まらないですよね。それは意志が弱いのではなく、止まる理由がないからです。
違い3:いつでも、どこでも見られる
テレビは基本的にリビングに据え置きです。「テレビの前に行く」という行為が必要でした。
動画配信はスマートフォンひとつで、ベッドの中でも、トイレでも、電車の中でも見られます。「見ない時間」を作ることが、物理的に難しくなっています。
違い4:「自分で選んでいる」という感覚
動画配信は「自分で選んでいる」と感じやすいのですが、実はアルゴリズムに誘導されていることも少なくありません。「自分で決めている」と思っているため、長く見ていても問題に気づきにくいのです。
「依存」という言葉を怖がらずに
依存=意志が弱い、ではない
動画配信サービスは、できるだけ長く見続けてもらうように設計されています。自動再生、おすすめ表示、次の話へのカウントダウン。これらはすべて「やめにくくする仕組み」です。
「やめられない」のは意志の弱さではなく、やめにくいように作られているということをまず知っておいてください。
「楽しんでいる」と「引きずられている」の境目
見分け方のポイントは見終わった後の気持ちです。
「面白かった」「続きが楽しみ」と思えるなら、それは楽しんでいる状態です。一方、「また時間を無駄にした」と後悔が残るなら、引きずられている状態かもしれません。
外から見ると同じ「動画を見ている人」でも、内面の満足度はまったく違います。
作業療法士からの提案── 「選ぶ・決める・味わう」
ここからは具体的なヒントです。動画配信を「やめましょう」という話ではありません。楽しみの質を上げるための工夫です。
「選ぶ」── 見る前に決める
おすすめに流されるまま「何となく」再生するのではなく、見る前に「今日はこれを見る」と決めてから再生してみてください。
新聞のテレビ欄を見て番組を選ぶように、動画配信でも「今日のプログラム」を自分で組む感覚です。「今夜は○○の第3話を見よう」と決めてから画面を開くだけで、「何となく見続ける」パターンを断ちやすくなります。
これは小さなことのように見えて、「受動」から「能動」への切り替えです。自分で選ぶという行為そのものが、主体的な関与の第一歩になります。
「決める」── 終わりを先に設定する
動画配信には番組の終了時刻がないので、自分で「終わり」を先に決めておくことがポイントです。「今日は2話まで」「22時になったらおしまい」など、ルールを決めてみてください。
スマホのタイマーを使うのも効果的です。もうひとつおすすめなのが、自動再生をオフにすること。設定画面から変更できます。次を見るかどうかを自分で判断する「間(ま)」が生まれます。
「味わう」── 見た後に余韻を楽しむ
動画を見終わった後、すぐに次の動画を再生していませんか。
映画館で映画を見た後のことを思い出してください。席を立ち、ロビーを歩き、外の空気を吸いながら「あの場面、良かったな」と余韻に浸る時間があったはずです。
動画配信でも、見終わった後に少しだけ「余韻の時間」を作ってみてください。お茶を一杯淹れる。感想をひとこと家族に話す。ノートに一行だけ書く。
この「味わう」時間は、視聴体験を「消費」から「体験」に変えます。そして次に見るときの楽しみも増します。急いで次を再生するよりも、結果的に満足度は高くなります。
ご家族が心配なときの「声のかけ方」
ご家族がスマートフォンやタブレットで動画ばかり見ていて心配なとき、つい「いい加減にしなさい」「目が悪くなるよ」と言いたくなるかもしれません。
しかし、否定から入ると、かえって反発を招いたり、隠れて見るようになったりします。
代わりに、こんな声のかけ方はいかがでしょうか。
「何見てるの?」── 内容に興味を持つことで、会話のきっかけが生まれます。「これ面白いんだよ」と説明してくれたら、それは立派なコミュニケーションです。
「一緒に見てもいい?」── 一人で見る時間が、誰かと共有する時間に変わります。感想を言い合うことで、受動的な視聴が能動的な体験になります。
「ここまで見たら一緒にお茶にしない?」── 禁止ではなく、「次の活動」を提案する形です。動画の後に楽しみがあれば、自然に切り替えやすくなります。
大切なのは、「動画を取り上げる」のではなく「動画以外の時間を一緒に作る」という発想です。
リハビリを受けている方へ── 動画は「敵」ではなく「道具」
リハビリ中で自宅にいる時間が長い方にとって、動画配信は大切な楽しみです。それは悪いことではありません。
ただ、食事・リハビリ・人との会話・体を動かす時間など、動画以外の時間とのバランスは意識しておきたいポイントです。
「動画以外に何もしていない」と感じたら、それは生活全体の組み立てを見直すサインかもしれません。担当の作業療法士(OT)に気軽に相談してみてください。
- 動画を見る前に「今日はこれを見る」と1つ決めてからアプリを開いてみてください
- 自動再生をオフに設定してみましょう。Netflix・YouTubeどちらも設定画面から変更できます
- ご家族が動画ばかり見て心配なときは、「何見てるの?」と興味を持って声をかけてみてください
おわりに── 楽しみを「自分のもの」にする
動画配信サービスの「やめられなさ」は、意志の弱さではなく、やめにくいように設計されたサービスの仕組みによるものです。
大切なのは、その楽しみが「自分のもの」であり続けているかどうか。自分で選び、自分で終わりを決め、見終わった後に満足感がある── そうであれば、それは意味のある時間です。
「選ぶ・決める・味わう」。この3つを意識するだけで、動画との付き合い方は変わります。楽しみを減らすのではなく、楽しみの質を上げる。それが、作業療法士からの提案です。
動画がやめられないのは、意志が弱いからではありません。やめにくい仕組みの中にいるだけです。
ご家族が動画ばかり見ていて心配なときは、取り上げるのではなく「動画以外の時間を一緒に作る」ことを意識してみてください。「何見てるの?」「一緒にお茶にしない?」── そんな小さな声かけが、きっかけになります。
「選ぶ・決める・味わう」。ご家族みんなで、動画との上手な付き合い方を見つけていきましょう。