この記事のポイント
- 移乗介助は正しい手順を知れば、介助者の腰の負担を大幅に減らせる
- 片麻痺の方の移乗は「健側(動くほう)を軸にする」が基本原則
- スライディングボードなどの福祉用具を活用すれば、より安全で楽な移乗ができる
移乗介助で最も大切なこと
移乗介助は介護場面で最も頻度が高く、かつ介助者の腰痛リスクが最も高い動作の一つです。不適切な移乗介助は、介助者の腰痛だけでなく、被介助者の転倒・骨折・皮膚損傷の原因にもなります。
OTは移乗動作の分析と指導において中心的な役割を担います。被介助者の残存能力を最大限に活かし、介助量を最小限に抑える移乗方法を提案することが重要です。
ベッドから車椅子への移乗介助は、毎日何度も行う動作です。正しい方法を知らないまま続けると、介助するご家族の腰を痛めてしまいます。
正しい手順を覚えれば、ご家族の体の負担を減らしながら、ご本人も安全に移動できます。
移乗介助の基本手順
準備
- 車椅子をベッドに対して20〜30度の角度で配置し、ブレーキをかける
- フットレストを上げるか外す
- ベッドの高さを調整(車椅子の座面とほぼ同じ高さ、またはやや高め)
- 被介助者を端座位にする(足底が床にしっかりつく高さ)
移乗動作
- 被介助者の足を肩幅に開き、足底を床にしっかりつける
- 介助者は被介助者の前に立ち、膝と膝を合わせる
- 被介助者の体幹を前方に傾ける(前傾姿勢をとらせる)
- 被介助者の殿部が浮いたら、回転させて車椅子の方向に向ける
- ゆっくり車椅子に座らせる
- 深く座り直させ、姿勢を整える
ポイント
- 介助者は腰を曲げず、膝を曲げて腰を落とす
- 「持ち上げる」のではなく「回転させる」意識が重要
- 声かけとタイミングの合図を事前に決めておく
準備すること
- 車椅子をベッドの横に斜めに置き、ブレーキをかける
- 車椅子のフットレスト(足置き)を上げる
- ご本人にベッドの端に座ってもらう(足が床につく高さ)
移乗の手順
- ご本人の足を肩幅に開き、足の裏をしっかり床につける
- 介助者はご本人の正面に立ち、膝と膝を合わせる
- ご本人に「前にお辞儀するように体を倒してください」と声をかける
- お尻が浮いたら、車椅子のほうに体を回す
- ゆっくり車椅子に座らせる
- 深く座り直し、姿勢を整える
注意
絶対にやってはいけないこと: ご本人の腕を引っ張って立たせること。肩の脱臼や骨折の原因になります。
「1、2の3で立ちますよ」と声をかけてからタイミングを合わせましょう。ご本人にも力を入れてもらうことで、介助の負担が軽くなります。「お辞儀をするように前に倒れてください」の声かけも大切です。
片麻痺の方の移乗
片麻痺患者の移乗では、健側(非麻痺側)を車椅子側に向けるのが原則です。
ベッド → 車椅子
- 車椅子を健側に配置
- 健側の手で車椅子のアームレストをつかんでもらう
- 健側の足を軸に立ち上がり、健側方向に回転して座る
車椅子 → ベッド
- ベッドを健側に配置
- 健側の手でベッドに手をつき、健側方向に回転して座る
注意点
- 麻痺側の足が引っかからないよう注意
- 麻痺側の肩が引っ張られないよう保護
- 健側の残存能力を最大限に活用する(過介助にならないよう注意)
片麻痺(体の片側が動きにくい)の方の移乗では、動くほうの手足を活かすのがポイントです。
基本ルール: 車椅子は「動くほう」の側に置く
- 右半身が動く場合 → 車椅子はご本人の右側に
- 左半身が動く場合 → 車椅子はご本人の左側に
こうすることで、ご本人が動くほうの手で車椅子のアームレストをつかみ、動くほうの足を軸にして立ち上がれます。
ヒント
麻痺した側の腕は、移乗のときにぶらんと垂れ下がりやすいです。肩を痛めないよう、腕を体の前で支えてあげてください。
スライディングボードの活用
立位がとれない患者の移乗では、スライディングボードが有効です。
- ベッドと車椅子の間にボードを渡し、座ったまま滑って移動する
- 介助者の腰への負担を大幅に軽減
- 車椅子のアームレストは跳ね上げ式であることが必要
- ボードの素材や長さは患者の体格に合わせて選定
適応: 座位保持が可能で、上肢でプッシュアップができる患者。または介助者が殿部を滑らせることで移乗を補助できる場合。
導入時は必ずOTが評価・指導し、ご家族にも正しい使い方を練習してもらうことが重要です。
立ち上がることが難しい場合、スライディングボードという板を使うと、座ったまま移乗できます。
使い方
- ベッドと車椅子の座面の間にボードを渡す
- ご本人のお尻をボードの上に載せる
- ボードの上を滑らせて車椅子に移動する
介助者が持ち上げる必要がないので、腰への負担が大幅に減ります。
介護保険のレンタル対象になっている場合があります。ケアマネジャーに相談してみてください。使い方はOTに教えてもらうのが安心です。最初は必ず専門家の指導のもとで練習しましょう。
移乗介助で腰を守るためのポイント
移乗介助で自分の腰を守ることも大切です。
- 腰を曲げない: 膝を曲げて腰を落とす
- 持ち上げない: 回転させる動きを意識する
- 体を密着させる: ご本人との距離を近くすると力が入りやすい
- 足を開く: 安定した姿勢で介助する
詳しくは介護で腰を痛めないためのボディメカニクスも参考にしてください。
介助者の腰痛予防は、移乗指導において必ず含めるべき内容です。ボディメカニクスの原則に基づき、介助者自身の身体保護を指導します。詳細はボディメカニクスの基本を参照してください。
まとめ ── 安全な移乗介助のポイント
- 車椅子はベッドの横に斜めに置き、ブレーキを必ずかけてから移乗します
- 「持ち上げる」のではなく「回転させる」意識が大切です
- 片麻痺の方は動くほうの側に車椅子を配置するのが原則です
- 立ち上がれない場合はスライディングボードの活用を検討しましょう
- 介助者の腰を守るために、正しいボディメカニクスを身につけてください
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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