この記事のポイント
- 切断の原因は外傷・糖尿病・がんなどさまざまで、義肢の種類も能動義手・筋電義手・装飾義手など多岐にわたります
- 作業療法士は義手操作訓練・ADL訓練・ファントムペイン対処を通じて、日常生活の再建を支援します
- 義肢を「使いこなす」だけでなく、義肢なしでも生活できる方法を含めた柔軟な支援を行います
切断という現実と、その先にある暮らし
手や足の切断は、身体機能の喪失にとどまらず、アイデンティティや生活全体の再構築を迫る出来事です。日本における四肢切断の原因は、末梢血管疾患(糖尿病性壊疽など)が最も多く、次いで外傷、悪性腫瘍と続きます。高齢化と糖尿病患者の増加に伴い、下肢切断の件数は増加傾向にあります。
OTは、切断術後の患者が義肢を活用しながら日常生活を再建する過程を支援する専門家です。義手の操作訓練だけでなく、食事・更衣・入浴といったADL全般の再獲得、心理的適応、職業復帰まで、包括的なリハビリテーションを提供します。
手や足を失うことは、ご本人にとってもご家族にとっても、大きな衝撃です。しかし、切断は「終わり」ではなく、新しい暮らし方の「始まり」でもあります。
切断の原因はさまざまです。糖尿病による血流障害、事故、がんの治療など、いろいろなケースがあります。どのような理由であっても、作業療法士(OT)が義手や義足を使った日常生活の再建をサポートします。
義肢の種類を知る
義肢は大きく義手(上肢)と義足(下肢)に分かれ、それぞれに複数の種類があります。OTは特に義手の選定と訓練において中心的な役割を担います。
義手の種類
| 種類 | 特徴 | 適応 |
|---|---|---|
| 能動義手 | ハーネスとケーブルで操作。身体の動きで開閉する | 両側活動が必要な作業、コスト重視 |
| 筋電義手 | 断端の筋電位で操作。電動で開閉する | 巧緻動作が必要な場合、前腕切断 |
| 装飾義手 | 外観の回復が主目的。機能は限定的 | 外見の回復を重視する場合 |
| 作業用義手 | 特定の作業に特化した先端装置を装着 | 職業活動、スポーツ |
義足の種類
義足は切断レベル(足趾・下腿・大腿・股関節離断)によって構造が異なります。OTは義足使用者のADL支援を担当し、理学療法士(PT)が歩行訓練を主に担当します。義足を装着した状態での更衣動作、入浴動作、家事動作などがOTの支援領域です。
義肢(ぎし)にはいくつかの種類があります。
義手の主な種類
- 能動義手: 肩や腕の動きを使って手先を開閉する義手です。比較的シンプルで丈夫です
- 筋電義手: 腕の筋肉の微弱な電気信号で動く義手です。より細かい動きができます
- 装飾義手: 見た目を自然に近づけることを目的とした義手です
義足について
義足は切断した位置によって形が異なります。OTは義足を着けた状態での着替えや入浴など、日常生活の動作を練習するサポートをします。歩く練習は理学療法士(PT)が主に担当します。
義手訓練 ── OTの専門領域
義手訓練はOTの専門領域であり、段階的なプログラムに沿って進めます。
術後早期(断端管理)
- 断端の浮腫管理: 弾性包帯やシリコンライナーによる圧迫で断端を整形します
- 断端の脱感作: 過敏な断端に対し、段階的な感覚刺激を加えて過敏性を軽減します
- 残存関節のROM維持: 拘縮予防のための関節可動域訓練を行います
- 筋力強化: 義手操作に必要な筋群(特に肩甲帯周囲筋)を強化します
義手操作訓練
- 装着・脱着訓練: 義手の着脱を自立して行えるよう練習します
- 基本操作訓練: 手先具の開閉、肘の屈曲・伸展、手関節の回旋を習得します
- 反復訓練: ペグボード、積み木などを用いた反復練習で操作精度を向上させます
- 応用操作訓練: 実際のADL場面(食事、更衣、書字など)で義手を使用する訓練を行います
両手動作の再獲得
片側上肢切断の場合、健側を主手、義手を補助手として使う両手動作の再獲得が重要です。紙を押さえて書く、瓶を持って蓋を開ける、食材を押さえて切るなど、日常的な両手動作を一つずつ練習します。
義手を使いこなすには、段階的な練習が必要です。OTが一つずつ丁寧にサポートします。
まずは断端(切断した部分)のケアから
手術の後、まずは切断した部分(断端)のケアから始めます。むくみを取り、形を整え、触れられることに慣れていきます。
義手の操作を練習する
義手の着け外しから始まり、手先を開いたり閉じたりする基本操作、そして実際の生活場面での使い方へと段階的に進みます。
両手を使う動作の練習
片方の手を失った場合、もう片方の手を中心に、義手を補助として使う方法を練習します。紙を押さえて字を書く、ビンのフタを開けるなど、日常的な動作を一つずつ練習していきます。
最初から完璧を目指す必要はありません。まずは「できそうなこと」から始めて、少しずつレベルを上げていくのがコツです。ご家族も一緒に練習に参加すると、ご本人の励みになります。
ADL訓練 ── 義肢がなくてもできることを増やす
OTは義肢の使用を前提とした訓練だけでなく、義肢なしでも生活できる方法も並行して指導します。義肢は常に装着しているわけではなく、入浴時や就寝時は外すのが一般的です。
上肢切断者のADL支援
- 片手動作の工夫: 吸盤付きブラシ、釘付きまな板、ワンハンド缶オープナーなどの自助具を活用します
- 更衣動作: 片手での着脱方法、ボタンエイドの使用、着脱しやすい衣類の選択を指導します
- 食事動作: 片手用食器の選定、食事環境の調整を行います
下肢切断者のADL支援
- 入浴動作: 義足を外した状態での安全な入浴方法、シャワーチェアの活用を指導します
- 更衣動作: 義足の着脱を含めた更衣手順を確立します
- 家事動作: 義足装着下でのキッチン作業、掃除などの安全な方法を練習します
OTは義手や義足を使った練習だけでなく、義手・義足を外しているときの生活の工夫も教えてくれます。入浴やお休みの際は義肢を外すことが多いため、どちらの場面でも生活できるようにすることが大切です。
- 便利な道具の紹介: 片手で使えるまな板、吸盤付きブラシなど、暮らしを助ける道具はたくさんあります
- 着替えの工夫: 片手でも着脱しやすい服の選び方や、ボタンの代わりにマジックテープを使う工夫などを提案します
- 安全な入浴方法: 義足を外した状態でも安全に入浴できるよう、シャワーチェアの活用法などを指導します
ファントムペイン(幻肢痛)への対処
切断後の患者の約64%(2020年のメタ分析)が経験するとされるファントムペイン(幻肢痛)は、失われた四肢にあたかも痛みがあるかのように感じる現象です。OTは以下のアプローチでファントムペインの軽減を図ります。
- ミラーセラピー: 鏡を用いて健側の動きを切断側に「見せる」ことで、脳の再組織化を促します
- 断端への感覚刺激: マッサージ、タッピング、温熱療法などで断端の感覚を正常化します
- 活動への集中: 意味のある作業活動に没頭することで、痛みから注意を転換します
- リラクゼーション: 呼吸法、漸進的筋弛緩法などのストレス管理技法を指導します
ヒント
ファントムペインの治療は多職種で行います。薬物療法(神経障害性疼痛治療薬)、心理的アプローチ、リハビリテーションを組み合わせた包括的な疼痛管理が効果的です。
切断した後、もう存在しないはずの手や足に痛みを感じることがあります。これを幻肢痛(げんしつう)といいます。多くの方が経験するもので、決して「気のせい」ではありません。
OTは以下のような方法で幻肢痛の軽減をサポートします。
- ミラーセラピー: 鏡を使って脳に「手足がある」という情報を送り、痛みを和らげる方法です
- 断端のマッサージ: 切断した部分を優しくマッサージすることで感覚を整えます
- 好きな活動に集中する: 何かに集中していると痛みが和らぐことがあります
ヒント
幻肢痛がつらい場合は、遠慮なく主治医に相談してください。お薬による治療とリハビリを組み合わせることで、痛みを軽減できることが多いです。
「気のせいだよ」と言わず、痛みを認めてあげてください。断端を温めたり、軽くさすったりすることで楽になることがあります。ただし、主治医やOTに相談してから行ってください。
社会復帰 ── 仕事・趣味・コミュニティへ
職業復帰支援
OTは受傷前の職業内容を評価し、義肢を活用した復職プランを立案します。
- 作業分析: 職務に必要な動作を分析し、義肢で遂行可能かを評価します
- 作業用義手の選定: 特定の作業に特化した先端装置(フック型、工具保持型など)を検討します
- 職場環境調整: 工具・機器の改造、作業手順の見直しを提案します
- 障害者雇用制度の活用: 就労支援機関との連携を行います
社会参加の拡大
- パラスポーツの紹介: 義足ランニング、車いすバスケットボールなど、切断者が参加できるスポーツを紹介します
- ピアサポート: 同じ経験をした方との交流の場を提供します
- 運転評価と訓練: 義手・義足での自動車運転の可能性を評価し、必要な車両改造を提案します
義手や義足を使った生活に慣れてきたら、仕事や趣味、社会活動への復帰を考えていきます。
- 仕事への復帰: OTが仕事に必要な動きを分析し、義肢を使って仕事ができるよう訓練します。職場の環境調整についてもアドバイスします
- スポーツや趣味: 義足ランニングや水泳など、切断後も楽しめるスポーツはたくさんあります
- 車の運転: 義手や義足での運転が可能かを評価し、必要な車の改造を提案してくれます
- 仲間との出会い: 同じ経験をした方々との交流の場(ピアサポート)も紹介してもらえます
切断術後のリハビリテーションにおけるOTの役割 ── まとめ
- 義手訓練(断端管理・基本操作・応用操作・両手動作)はOTの専門領域です
- 義肢使用時・非使用時の両方のADL再獲得を支援し、生活全体をカバーします
- ファントムペインにはミラーセラピーや感覚刺激など多角的にアプローチします
- 職業復帰支援では作業分析に基づく復職プランを立案します
- 義肢は「道具」であり、それを使って何をするかを一緒に考えるのがOTの役割です
ご本人・ご家族の方へ ── 大切なポイントのまとめ
- 義手や義足は種類が多く、ご本人の生活に合ったものを選ぶことが大切です
- 義手の操作は段階的に練習します。焦らず一つずつできることを増やしていきましょう
- 義肢を外しているときの生活の工夫も大切です。便利な道具がたくさんあります
- 幻肢痛は「気のせい」ではありません。つらいときは遠慮なく医師やOTに相談してください
- 仕事やスポーツ、運転など、切断後も多くの活動に挑戦できます
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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