この記事のポイント
- 手の腱損傷は、手術後のリハビリの進め方が回復の質を大きく左右します
- スプリント(装具)で腱を保護しながら、段階的に指を動かす訓練を行います
- 回復には3〜6か月かかりますが、焦らず段階を踏むことが最も大切です
手の腱とは
腱は筋肉と骨をつなぐ組織で、筋肉の力を骨に伝えて関節を動かす役割を担っています。手の腱は大きく2つに分類されます。
- 屈筋腱: 手のひら側にあり、指を曲げる働きをする。浅指屈筋腱(FDS)と深指屈筋腱(FDP)がある
- 伸筋腱: 手の甲側にあり、指を伸ばす働きをする
腱損傷の原因として、ガラスや刃物による切創、機械による外傷、スポーツ外傷などがあります。屈筋腱損傷は伸筋腱損傷に比べて治療が複雑で、OT(特にハンドセラピスト)の専門的な介入が不可欠です。作業療法士がどのような専門職なのかは作業療法とは何かを解説した記事で詳しく紹介しています。
腱(けん)は、筋肉と骨をつなぐひも状の組織です。手には指を曲げるための腱(手のひら側)と、指を伸ばすための腱(手の甲側)があります。
ガラスや刃物で手を切ったときや、スポーツ中のけがで腱が切れてしまうことがあります。腱が切れると、指が思うように動かせなくなります。
手の腱の治療とリハビリは専門的な知識が必要で、ハンドセラピストと呼ばれる手の専門の作業療法士(OT)が担当します。
手術後のリハビリの流れ
屈筋腱損傷の術後プロトコル
屈筋腱修復後のリハビリは、癒着を防ぎながら腱の断裂を避けるという相反する目標を両立させる必要があります。現在、以下のプロトコルが広く使用されています。
早期運動療法(Early Active Motion: EAM)- 術後早期から、スプリントで保護された状態で自動運動を開始
- 腱の滑走を促進し、癒着を最小限に抑える
- 修復強度に応じた運動負荷のコントロールが必要
- 従来のKleinert法(ゴムバンドによる受動屈曲)やDuran法(他動屈曲)から進化
屈筋腱損傷の回復段階
- 保護期(術後0〜4週): ドーサルブロッキングスプリント装着。制限された範囲での自動・他動運動
- 段階的運動期(4〜8週): スプリントの使用を徐々に減らし、自動運動の範囲を拡大
- 抵抗運動期(8〜12週): 軽い抵抗運動の開始、把握訓練
- 復帰期(12週〜6か月): 日常生活動作の段階的な再開、職業復帰・スポーツ復帰
伸筋腱損傷の術後プロトコル
伸筋腱は損傷部位(ゾーン)によってリハビリプロトコルが大きく異なります。
- ゾーンI〜II(指先): マレットフィンガー。DIP関節伸展位固定スプリントを6〜8週間装着
- ゾーンIII〜IV(中節部): ボタンホール変形のリスク。PIP関節伸展位スプリント
- ゾーンV以上(手背〜前腕): 早期運動療法が適用される場合が多い
手の腱の手術後は、段階を踏んでリハビリを進めることがとても大切です。早すぎると修復した腱が再び切れるリスクがあり、遅すぎると腱が周囲の組織にくっついて(癒着)動きが悪くなります。
回復の4つの段階
- 保護期(手術後〜4週間): スプリント(装具)をつけて腱を守りながら、OTの指導のもとで小さな動きを始めます
- 段階的運動期(4〜8週間): スプリントの使用を徐々に減らし、自分の力で指を動かす練習を増やします
- 抵抗運動期(8〜12週間): 軽い物を握る練習など、少しずつ力を使う練習を始めます
- 復帰期(12週間〜6か月): 日常生活の動作を段階的に再開し、仕事やスポーツへの復帰を目指します
注意
回復の段階を自己判断で飛ばさないでください。「もう大丈夫そう」と感じても、腱の強度が十分に回復していない時期に無理をすると、再断裂のリスクがあります。必ずOTや主治医の指示に従いましょう。
スプリント(装具)の役割
スプリントはハンドセラピーの中核的な治療手段です。腱修復後のスプリントには以下の目的があります。
- 腱の保護: 修復部位への過度な張力を防止
- 適切な関節位置の維持: 腱にかかる張力を最小化するポジションの確保
- 制御された運動の促進: 安全な範囲内での腱の滑走を可能にする
OTは患者の状態に合わせてカスタムメイドのスプリントを作製します。熱可塑性素材(サーモプラスチック)を用いて、個々の手の形に合わせた精密なフィッティングを行います。
スプリントの装着期間・方法は損傷の種類とプロトコルによって異なりますが、おおむね4〜8週間の装着が必要です。
スプリントは、手術で修復した腱を守るための装具です。OTがプラスチックの素材を使って、一人ひとりの手の形にぴったり合わせて作ります。
スプリントの役割は3つあります。
- 腱を守る: 修復した腱に無理な力がかからないようにします
- 正しい位置を保つ: 指や手首を適切な角度に保ちます
- 安全に動かす: 保護しながら、リハビリに必要な動きを可能にします
スプリントは通常4〜8週間つけておく必要があります。つけたり外したりする方法、お手入れの仕方はOTがくわしく教えてくれます。
スプリントは水に濡らしたら柔らかい布で拭いて乾かしましょう。熱いお湯や直射日光に当てると変形することがあるので注意してください。かゆみや痛みを感じたら、我慢せずにOTに相談してください。
日常生活での注意点
保護期(術後0〜4週)の生活
- スプリントは入浴時以外は常時装着
- 術側の手は使用禁止。片手動作での生活指導が必要
- 入浴時はビニール袋等で防水保護
- 更衣は術側から着る、健側から脱ぐ
片手での入浴動作や浴室環境の整え方については、入浴の自立支援ガイドで詳しく解説しています。
段階的運動期(4〜8週)の生活
- 軽い物(コップ、歯ブラシ)を持つことから開始
- 両手動作は健側をメインとし、術側は補助的に使用
- 調理(包丁、鍋)はまだ控える
抵抗運動期(8〜12週)の生活
- ペットボトルのキャップ開け、箸の使用を段階的に再開
- 軽い家事(食器洗い、掃除機)の再開
- 重い物(買い物袋)の把持はまだ注意
復帰期(12週〜)の日常生活
- ほとんどの日常生活動作が可能に
- 重量物の把持や力仕事は6か月以降を目安に段階的に再開
- 冷え、天候変化で違和感が出ることがある。これは正常な反応
OTが指導する自主練習
- テンドングライディングエクササイズ: 腱の滑走を促す5つのポジションを順に行う運動
- 関節の自動運動: 各関節の屈曲・伸展を丁寧に行う
- 瘢痕マッサージ: 術創部の瘢痕を柔軟にするためのマッサージ
手術後〜4週間:術側の手は使わない時期
- スプリントをつけたまま生活します(お風呂のときだけ外します)
- けがをした手は使わず、反対の手だけで生活します
- 着替えは、けがをした側の腕から先に通し、脱ぐときは反対側から
4〜8週間:少しずつ使い始める時期
- コップや歯ブラシなど、軽い物を持つことから始めます
- 包丁や鍋など力が必要な動作はまだ控えます
8〜12週間:力を使う動作を再開する時期
- ペットボトルのふた開けや箸の使用を少しずつ再開します
- 食器洗いや掃除機がけなど、軽い家事が可能になります
12週間以降:ほとんどの動作が可能に
- 日常生活の多くの動作ができるようになります
- 重い物を持つ作業は6か月くらいを目安に段階的に再開します
OTから教わった指の運動は、1回に長時間やるよりも、1日に何度か短い時間で行うほうが効果的です。朝・昼・晩の食後など、時間を決めておくと忘れにくくなります。
回復を妨げる要因と対処法
癒着
腱修復後の最も一般的な合併症です。早期運動療法の導入で発生率は低下しましたが、完全に防ぐことはできません。
- 予防: プロトコルに基づいた早期からの適切な運動
- 治療: テンドングライディングエクササイズの強化、必要に応じて腱剥離術
再断裂
修復した腱が再び断裂するリスクは、術後4〜8週に最も高くなります。
- 予防: プロトコルの遵守、患者教育の徹底
- 対処: 再手術が必要な場合が多い
関節拘縮
長期間の固定により関節が硬くなることがあります。
- 予防: 早期からの適切な関節運動
- 治療: ダイナミックスプリント、関節モビライゼーション
心理的な影響
手の機能障害は、仕事や趣味への影響が大きく、心理的な負担も生じます。OTは機能回復だけでなく、作業遂行への影響を包括的に評価し、代替手段の提案や心理的サポートも行います。術後の痛みが長引いて生活に影響している場合は、慢性疼痛に対する作業療法のアプローチの考え方も参考になります。
回復がうまくいかないと感じたら
リハビリの過程で、以下のようなことが起きる場合があります。
- 指の動きが思ったほど回復しない: 腱が周りの組織にくっついている(癒着)可能性があります。OTに相談して、運動の方法を見直しましょう
- 再び腱が切れた感じがする: 急に指が動かなくなった場合は、すぐに病院に連絡してください
- 指が硬くて動きにくい: 関節が硬くなっている可能性があります。OTが改善のための訓練やスプリントを調整します
手が思うように使えないことで気持ちが落ち込むのは自然なことです。回復には時間がかかりますが、OTと一緒に一歩ずつ進めていきましょう。
ヒント
手の腱損傷のリハビリは、けがの種類や手術の方法によって進め方が異なります。この記事で紹介した期間はあくまで目安です。実際のリハビリは、担当のOTや主治医と相談しながら進めてください。
専門職の方へ ― 実践のポイント
- 屈筋腱損傷のリハビリでは早期運動療法(EAM)が標準となっています。修復強度に応じた運動負荷の管理が重要です
- スプリントはカスタムメイドで作製し、回復段階に応じて修正・変更を行いましょう
- 患者教育が回復の鍵です。プロトコルの意味と重要性を理解してもらうことで、アドヒアランスが向上します
- 手の機能障害は心理的・社会的影響が大きいため、ICFの視点から包括的にアプローチしましょう
ご本人・ご家族の方へ ― 大切なポイントのまとめ
- 手の腱の回復には3〜6か月かかります。焦らず、段階を踏んで進めることが最も大切です
- スプリントは腱を守る大切な装具です。OTの指示に従って正しくつけましょう
- 自主練習は「少しずつ、何度も」が基本です。OTから教わった運動を毎日コツコツ続けましょう
- 自己判断でリハビリの段階を飛ばさないでください。「もう大丈夫」と思っても、腱の強度が追いついていないことがあります
- 困ったこと、不安なことがあれば、担当のOTに遠慮なく相談してください
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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