この記事のポイント
- 熱傷(やけど)は深度によって治療方針が異なり、深い熱傷ほど瘢痕拘縮のリスクが高まります
- 作業療法士は圧迫療法・スプリント・ROM訓練を組み合わせ、瘢痕拘縮を予防しながらADL再獲得を支援します
- 外見の変化に対するアピアランスケアと心理的サポートも、作業療法士の重要な役割です
やけどの治療とリハビリは「暮らし」につながっている
熱傷(やけど)は、日常生活の中で誰にでも起こりうる外傷です。厚生労働省の統計によると、熱傷による入院患者数は年間約1万人にのぼります。軽度の熱傷であれば外来治療で治癒しますが、広範囲・深部に及ぶ重症熱傷では、長期の入院治療とリハビリテーションが必要になります。
熱傷リハビリテーションの目標は、単に「傷を治す」ことではありません。瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)を予防し、日常生活を取り戻すこと。そして、外見の変化と向き合いながら社会に復帰すること。OTは、この過程全体に関わる専門家です。
やけど(熱傷)は、日常生活の中で誰にでも起こりうるけがです。軽いやけどなら外来治療で治りますが、重いやけどでは長期の入院治療とリハビリテーションが必要になります。
やけどの治療で大切なのは、傷を治すだけではありません。傷跡が硬くなって関節が動きにくくなること(拘縮)を防ぎ、日常生活を取り戻すことが重要です。作業療法士(OT)は、この過程をサポートする専門家です。
熱傷の深度と治療の基礎知識
熱傷の治療方針は、深度によって大きく異なります。リハビリテーションの計画を立てるうえでも、深度の理解は不可欠です。
熱傷深度の分類
| 深度 | 損傷範囲 | 症状 | 治癒期間 | 瘢痕リスク |
|---|---|---|---|---|
| I度(表皮熱傷) | 表皮のみ | 発赤、疼痛 | 数日〜1週間 | なし |
| SDB(浅達性II度) | 真皮浅層 | 水疱、強い疼痛 | 1〜2週間 | 低い |
| DDB(深達性II度) | 真皮深層 | 水疱、知覚鈍麻 | 3〜4週間 | 高い |
| III度(全層熱傷) | 皮膚全層 | 白色〜褐色、無痛 | 自然治癒困難 | 非常に高い |
DDB以上の深い熱傷では、植皮術が必要になることが多く、術後の瘢痕管理とリハビリテーションが重要な課題となります。
受傷面積の評価
熱傷の重症度は深度だけでなく、受傷面積(TBSA: Total Body Surface Area)によっても判断されます。成人では「9の法則」、小児では「Lund & Browderの図表」を用いて受傷面積を算出します。TBSAが20%以上の場合は重症熱傷とされ、集中治療が必要になります。
やけどには「深さ」があり、深いやけどほど治療が長くなり、傷跡が残りやすくなります。
- 浅いやけど: 赤くなる程度で、数日で治ります
- 中程度のやけど: 水ぶくれができ、1〜4週間かかります
- 深いやけど: 皮膚の全層が損傷し、植皮術(しょくひじゅつ)が必要になることがあります
深いやけどほど、傷跡が硬く縮んで関節が動きにくくなる「拘縮」のリスクが高まります。だからこそ、早い段階からのリハビリが大切です。
瘢痕拘縮の予防 ── OTの中核的役割
熱傷後の最大の課題の一つが、瘢痕拘縮です。瘢痕組織は通常の皮膚よりも弾力性に乏しく、時間の経過とともに収縮します。特に関節部位の熱傷では、瘢痕拘縮によって関節可動域(ROM)が著しく制限され、ADLに大きな支障をきたします。
OTは以下の3つのアプローチを組み合わせて瘢痕拘縮を予防します。
圧迫療法(プレッシャーガーメント)
受傷部位に持続的な圧迫をかけることで、瘢痕の肥厚化を抑制します。
- 弾性衣類(プレッシャーガーメント)を1日23時間装着するのが原則です
- 装着期間は通常12〜18か月に及びます
- OTは患者ごとに適切なガーメントの選定・調整を行います
- 顔面熱傷では透明フェイスマスクを作製することもあります
スプリント療法
関節が拘縮位に固定されるのを防ぐため、スプリント(装具)を作製・装着します。
- 手指の熱傷では抗拘縮肢位(MP関節屈曲、IP関節伸展位)を保持するスプリントを作製します
- 夜間装着用と日中活動用で異なるスプリントを使い分けることがあります
- 植皮術後の固定にもスプリントを使用します
- 瘢痕の成熟に合わせて、スプリントの角度や形状を定期的に調整します
ROM訓練(関節可動域訓練)
瘢痕が成熟する前から、計画的に関節を動かすことが重要です。
- 急性期から疼痛管理と併行してROM訓練を開始します
- 植皮術後は医師の指示に基づき、術後5〜7日から段階的に開始します
- 自動運動を基本とし、必要に応じて他動運動を併用します
- 入浴時は瘢痕が軟化するため、効果的なROM訓練のタイミングです
深いやけどの後、傷跡が硬く縮んで関節が動きにくくなることを瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)といいます。OTはこれを防ぐために、3つの方法を組み合わせます。
- 圧迫療法: 傷跡を押さえる専用の衣類(ガーメント)を長時間着用し、傷跡が盛り上がるのを防ぎます
- スプリント療法: 関節が曲がったまま固まらないように、専用の装具(スプリント)を作ります
- 関節を動かす訓練: 傷跡が硬くなる前から、少しずつ関節を動かす練習をします
お風呂に入ると傷跡がやわらかくなるため、入浴中や入浴直後は関節を動かす練習がしやすくなります。主治医やOTに許可をもらったうえで、お風呂の時間を上手に活用してみてください。
ADL支援 ── 日常生活を取り戻すために
熱傷後のADL障害は、受傷部位・深度・範囲によって多岐にわたります。OTは個々の患者の状況に応じた具体的なADL支援を行います。
手の熱傷とADL
手は熱傷の好発部位であり、機能障害がADLに直結します。
- 把持動作の再獲得: 食器、歯ブラシ、筆記具などの持ち方を段階的に訓練します
- 自助具の活用: 太柄スプーン、ボタンエイド、ソックスエイドなど、瘢痕拘縮による巧緻動作の低下を補う道具を選定します
- 感覚再教育: 植皮部位の感覚低下に対し、段階的な感覚入力訓練を行います
更衣動作
瘢痕部位の圧迫ガーメント着脱を含め、更衣動作全般の再獲得を支援します。ガーメントの上に着る衣類の選び方(伸縮性のある素材、前開きの服など)についてもアドバイスします。
入浴動作
入浴は瘢痕管理においても重要な活動です。保湿剤の塗布、ガーメントの着脱、瘢痕マッサージを含めた一連の入浴手順を確立します。
やけどの後は、これまで当たり前にできていた日常の動作が難しくなることがあります。OTは一人ひとりの状況に合わせて、日常生活を取り戻すサポートをします。
- 手の動き: 食事、歯みがき、字を書くなどの動作を少しずつ練習します。必要に応じて使いやすい道具も提案します
- 着替え: 傷跡を圧迫するガーメントの着脱を含め、着替えの練習をします
- 入浴: 保湿剤を塗ったり、傷跡をマッサージしたりする方法もお伝えします
傷跡のある部位は圧迫ガーメントを着けていることが多いため、その上に着る服は伸縮性のある素材や、前開きのタイプが便利です。OTに相談すると、具体的なアドバイスがもらえます。
心理的ケアとアピアランスケア
熱傷後の患者が直面する心理的課題は深刻です。特に顔面や露出部位の熱傷では、外見の変化が自己イメージの崩壊をもたらすことがあります。
心理的課題
- PTSD(心的外傷後ストレス障害): 受傷時の恐怖体験がフラッシュバックとして蘇る
- ボディイメージの変容: 瘢痕による外見の変化を受け入れられない
- 社会的回避: 他者の視線を恐れ、外出や社会参加を避ける
- うつ状態: 受傷前の生活との落差から抑うつに陥る
OTによるアピアランスケア
OTは心理専門職と連携しながら、以下のアピアランスケアを行います。
- カモフラージュメイクの指導: 瘢痕を目立たなくする化粧技法を伝えます
- 衣類・アクセサリーの工夫: 瘢痕を自然にカバーする服装の提案を行います
- 段階的な社会参加: 安全な環境から少しずつ外出範囲を広げていきます
- ピアサポート: 同じ経験をした方との交流の場を紹介します
ヒント
熱傷後のPTSD症状が顕著な場合は、精神科医や臨床心理士への紹介が必要です。OTは日常生活の中での対処法を支援しつつ、専門的な心理治療との連携を図ります。
やけどの後は、体の傷だけでなく心の傷も大きな課題です。特に顔や手など、人から見える部位のやけどでは、外見の変化にとまどい、外出が怖くなることがあります。
OTは以下のようなサポートも行います。
- カモフラージュメイク: 傷跡を目立たなくする化粧の方法をお伝えします
- 服装の工夫: 傷跡を自然にカバーする服の選び方を提案します
- 少しずつの外出: 安心できる場所から、少しずつ外出範囲を広げていきます
ヒント
受傷時の恐怖体験がフラッシュバックとして蘇ったり、強い不安が続いたりする場合は、心の専門家(精神科医やカウンセラー)に相談することをおすすめします。OTと心の専門家が連携してサポートします。
傷跡について「かわいそう」「大変だったね」と繰り返すよりも、「何か一緒にやりたいことある?」と前を向く声かけが力になります。ご本人のペースを尊重しつつ、日常の小さな楽しみを一緒に見つけてみてください。
社会復帰に向けて
熱傷後の社会復帰には、職業復帰と社会参加の両面からの支援が必要です。
職業復帰支援
- 受傷前の職務内容と現在の身体機能を照合し、復職可能性の評価を行います
- 手の熱傷では、職種に応じた巧緻動作訓練を重点的に行います
- 圧迫ガーメント装着下での作業遂行を想定した訓練を実施します
- 職場環境の調整(温度管理、紫外線対策など)について助言します
長期フォローアップ
瘢痕の成熟には1〜2年かかるため、退院後も長期的なフォローアップが必要です。瘢痕の状態に応じたガーメントやスプリントの調整、ADLの再評価を定期的に行います。
やけどの治療は退院して終わりではありません。傷跡が落ち着くまでには1〜2年かかることがあり、その間も定期的にOTのサポートを受けることが大切です。
仕事への復帰についても、OTが職場環境の調整や必要な訓練を一緒に考えてくれます。焦らず、一歩ずつ進んでいきましょう。
判断に迷ったときの優先順位 ── 熱傷リハビリの要点
- 拘縮は、起きてから戻すより起こさないほうが手数が少なくて済みます。急性期の介入を「まだ早い」と先送りしないでください
- 装具や圧迫は、適合の良し悪しより続けられたかどうかで結果が分かれます。1日23時間・12〜18か月という条件に、生活の側をどう合わせるかまで考えて処方してください
- 関節を動かす時期は自己判断で決めず、植皮術後は医師の指示を起点にします。入浴で瘢痕が軟らかくなる時間帯は、数少ない好機として計画に組み込んでください
- 手の目標は可動域の数値からではなく、その手で何をする人なのかから逆算すると外しません
- 外見へのケアを「余力があれば」の項目に置かないでください。人の視線を避ける状態が続けば、機能が戻っても生活は戻りません
- 退院はリハビリの終点ではありません。瘢痕が成熟するまでの1〜2年、誰が装具を調整し続けるのかを退院前に決めておいてください
ご本人・ご家族の方へ ── 大切なポイントのまとめ
- やけどの傷跡が硬く縮むのを防ぐために、早い段階からリハビリを始めることが大切です
- 圧迫ガーメントの装着やスプリントの使用は根気が要りますが、将来の関節の動きを守る大切なケアです
- 入浴時は傷跡がやわらかくなるため、関節を動かす練習のチャンスです
- 外見の変化に対するケア(カモフラージュメイクなど)もOTに相談できます
- 傷跡が落ち着くまで1〜2年かかります。焦らず、長い目でリハビリを続けてください
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
運営者プロフィールを見る →