この記事のポイント
- 要介護者等と同居して介護している主な介護者のうち、双方が65歳以上の「老老介護」は61.9%を占める(2025年)
- 介護者自身の体力・認知機能の低下が重なり、共倒れリスクが高い
- 環境調整・動作指導・サービス活用で介護負担は大幅に軽減できる
- 作業療法士は「暮らし全体」を見直す専門家として相談できる
老老介護の現状 ── 数字が示す深刻さ
「老老介護」とは、65歳以上の高齢者が65歳以上の家族を介護している状態を指します。厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査」によれば、要介護者等と同居の主な介護者の年齢の組合せは、「65歳以上同士」が61.9%、ともに75歳以上の「超老老介護」が37.1%を占めており、いずれもおおむね上昇傾向にあります。
介護する方・される方とも65歳以上
介護する方・される方とも75歳以上
要介護5では半数以上が一日中の介護
この数字の背景には、核家族化の進行、子世代の遠方居住、「夫婦のことは夫婦で」という価値観の根強さがあります。しかし、介護する側もされる側も加齢に伴う体力・認知機能の低下が進行しており、若い世代の介護とは質的に異なるリスクを抱えています。
ご家族が同居して介護しているご家庭のうち、介護する方と介護を受ける方がともに65歳以上という組合せは61.9%にのぼります。さらに、ともに75歳以上という組合せも37.1%と、4割近くを占めています(2025年の国の調査)。
介護する側もされる側も体力が落ちてくる中で、二人だけで頑張り続けるのはとても大変なことです。「まだ大丈夫」と思っていても、実はからだやこころに無理がかかっていることがあります。
老老介護が抱える3つの構造的リスク
1. 介護者自身の身体的な脆弱性
高齢の介護者は、自身も腰痛・膝関節痛・骨粗鬆症などの身体的課題を抱えていることが少なくありません。移乗介助や入浴介助のような身体的負荷の高い作業は、介護者自身の腰痛や転倒・骨折のリスクを高めます。移乗や入浴の介助を「気合いで乗り切る」状態が続いていないかは、支援を組み立てるうえで最初に確認したい点です。
介護する方ご自身が腰痛や膝の痛みを抱えていることは珍しくありません。入浴の手伝いやベッドからの移動など体に負担のかかる介助は、介護する方の転倒や骨折にもつながります。
2. 認知機能の低下による「二重の忘れ」
介護を受ける側に認知症がある場合、介護する側にも加齢に伴う軽度の認知機能低下が生じていることがあります。服薬管理のミス、火の消し忘れ、受診日の失念など、安全に直結するリスクが二重に発生する可能性があります。
介護を受ける方に認知症がある場合、介護する側にも年齢による物忘れが出てきていることがあります。お薬の管理ミスや火の消し忘れなど、安全に関わるリスクが二重に高まります。
3. 社会的孤立と助けを求めにくい心理
老老介護世帯では、「人に迷惑をかけたくない」「まだ自分たちでやれる」という気持ちから、外部の支援につながるのが遅れがちです。地域とのつながりが希薄になり、問題が深刻化してからようやく発見されるケースも報告されています。
介護者のバーンアウトに注意
介護者のバーンアウト(燃え尽き)は、慢性的な疲労・意欲の低下・介護への無関心・抑うつ症状として現れます。介護負担の程度は、Zarit介護負担尺度(ZBI)などの尺度で数量的に評価できます(Zarit et al., 1980年)。「もう何も感じなくなった」「どうでもよくなった」と感じたら、それはバーンアウトのサインです。すぐに地域包括支援センターやケアマネジャーに相談してください。
介護者が共倒れしないための具体的な工夫は介護で限界を感じたときの7つの知恵でも詳しく解説しています。
「人に迷惑をかけたくない」「まだ自分たちでやれる」という気持ちから、外部の助けを求めるのが遅れがちです。
もし介護をしているご家族が、疲れが取れない、何もする気が起きない、介護のことを考えると気分が沈むといった状態にあれば、それは心身の限界サインです。早めに地域包括支援センターやケアマネジャーに相談してください。
OTが提案する「無理をしない介護」の組み立て方
OTは、人の「暮らし」を丸ごと評価し、環境・活動・人の3つの側面から解決策を考える専門家です。老老介護においては、介護を受ける方だけでなく、介護する側の生活の質と安全を同時に守ることが重要になります。
作業療法士は、暮らし全体を見渡して「もっと楽にできる方法」を一緒に考えてくれる専門家です。介護を受ける方だけでなく、介護する方の生活と健康も同時に守ることを大切にしています。
環境調整 ── 家の中の「しんどさ」を減らす
環境調整とは、家の中の物理的な環境を変えることで、介護の身体的負担を軽減する方法です。OTが最も得意とする支援の一つです。
ベッドの高さと位置の見直し
起き上がり・移乗が楽になる高さに調整し、介助者の腰への負担を軽減します。介護用ベッドは介護保険でレンタル可能です。
手すりの戦略的な設置
トイレ・浴室・廊下・玄関に手すりを設けると、介助量が大幅に減ります。介護保険の住宅改修は工事費20万円までが対象で、その7〜9割が給付されます(生涯の限度額)。
動線の整理と段差の解消
日常よく通る経路の障害物を除去し、段差にはスロープを設置。転倒リスクと介助の手間を同時に減らします。
福祉用具の積極的な活用
シャワーチェア・ポータブルトイレ・スライディングボード・リフトなど、介助者の身体的負担を直接的に減らす用具を導入します。
住宅改修と福祉用具の費用
介護保険の住宅改修は、工事費20万円までを対象に原則9割(上限18万円)が給付されます。所得に応じて8割・7割となる場合があります。この20万円は生涯の限度額ですが、限度額の範囲内なら複数回に分けて使え、要介護度が3段階上がったときや転居したときは再度20万円が設定されます。福祉用具のレンタルは月額数百円〜数千円程度です。まずはケアマネジャーに「家の中で大変な場所」を伝えるところから始めてみてください。
家の環境を少し変えるだけで、介護の負担は大きく減ります。
- ベッドの高さ調整:起き上がりや移動が楽になり、介護する方の腰への負担が減ります。介護用ベッドは介護保険でレンタルできます
- 手すりの設置:トイレ・浴室・廊下に設けると、ご本人が自分で動けることが増えます(介護保険では工事費20万円までが対象で、その7〜9割が戻ります)
- 段差の解消:よく通る場所の段差をなくすと、転倒リスクも介助の手間も減ります
- 福祉用具の活用:シャワーチェアやポータブルトイレなど、体の負担を直接減らす道具があります
ケアマネジャーに「家の中で大変な場所」を伝えるところから始めてみてください。
動作指導 ── 「正しいやり方」で体を守る
環境を整えたうえで重要なのが、介護動作そのものの見直しです。OTは、介護者の体格や体力に合った介助方法を個別に指導します。
移乗介助の見直し
- 1介護者の腰を守るため、ベッドと車椅子の高さを揃える
- 2ご本人の残存能力を活かし、できる動きは自分でしてもらう
- 3ボディメカニクスを活用し、てこの原理で最小限の力で介助する
入浴介助の簡素化
- 4シャワーチェアを導入し、立位保持の負担を減らす
- 5浴室内に手すりを設置し、ご本人の自立度を高める
- 6毎日の全身浴にこだわらず、足浴や清拭を取り入れる
排泄介助の負担軽減
- 7夜間はポータブルトイレを活用し、移動距離を短縮する
- 8トイレ内の手すりと便座の高さを調整し、自力動作を促す
- 9排泄パターンを記録し、誘導のタイミングを最適化する
介護で一番大切なのは、介護者自身が壊れないこと。ご本人の『できる力』を引き出す工夫が、結果として介護者の負担を減らします。
— 作業療法の臨床現場より
介護のやり方を少し変えるだけで、体への負担がずいぶん変わります。
- ベッドからの移動:ベッドと車椅子の高さを揃え、ご本人にできる動きは自分でしてもらう
- 入浴:シャワーチェアや手すりを使い、毎日の全身浴にこだわらず足浴や体拭きも取り入れる
- トイレ:夜間はポータブルトイレを使い、手すりと便座の高さを調整する
ご本人の「できる力」を引き出すことが、介護する方の負担を減らすことにもつながります。作業療法士にやり方を相談すると、具体的に教えてもらえます。
活動の再構築 ── 介護「以外」の時間を取り戻す
老老介護の世帯では、介護する側の生活が介護一色になりやすく、趣味・交流・休息の時間がほぼゼロになっているケースが多く見られます。作業療法では、この状態を「作業バランスの崩壊」と呼び、心身の健康に深刻な影響を及ぼすと考えます。
1日のうちたった15〜30分でも、介護以外の「自分の時間」を確保することが、介護を持続可能にするための鍵です。散歩、読書、テレビを楽しむ、友人と電話する――内容は何でもかまいません。大切なのは、「自分のための時間を持つことは悪いことではない」と認識することです。
介護する方の生活が介護一色になっていませんか? 1日のうち15〜30分でも「自分の時間」を持つことが、介護を長く続けるためにはとても大切です。
散歩、読書、テレビ、友人との電話――内容は何でもかまいません。「自分のための時間を持つことは悪いことではない」と、ぜひご自身に言い聞かせてください。
利用できるサービスの整理
老老介護世帯が活用できる介護保険サービスや公的支援を整理します。
| サービス | 内容 | 効果 | 問い合わせ先 |
|---|---|---|---|
| 訪問介護 | ヘルパーが自宅で入浴・排泄・食事の介助を行う | 介護者の身体的負担を直接軽減 | ケアマネジャー |
| 訪問リハビリ | OTやPTが自宅でリハビリ・環境調整を実施 | ご本人の自立度向上と介護指導 | ケアマネジャー |
| デイサービス | 日中に施設で過ごし、入浴・食事・活動を提供 | 日中の介護負担をゼロにできる | ケアマネジャー |
| ショートステイ | 数日〜数週間の施設宿泊 | 介護者のまとまった休息を確保 | ケアマネジャー |
| 配食サービス | 栄養バランスの取れた食事を自宅に届ける | 調理の負担軽減と安否確認を兼ねる | 市区町村 |
| 緊急通報システム | ボタン一つで救急や相談窓口につながる | 夜間・緊急時の安心を確保 | 市区町村 |
まずは地域包括支援センターへ
「どのサービスを使えばいいかわからない」という場合は、お住まいの地域包括支援センターに電話してみてください。介護保険の申請がまだの方でも、無料で相談できます。「市区町村名 + 地域包括支援センター」で検索すれば連絡先が見つかります。
利用できるサービスはたくさんあります。主なものをご紹介します。
- 訪問介護:ヘルパーさんが自宅で入浴や食事の手伝いをしてくれます
- デイサービス:日中に施設で過ごし、入浴や食事、レクリエーションを受けられます。介護する方はその間休めます
- ショートステイ:数日〜数週間の施設宿泊。介護する方がまとまった休息を取れます
- 配食サービス:栄養バランスの良い食事を届けてもらえます
- 訪問リハビリ:作業療法士が自宅に来て、環境の見直しやリハビリを行います
「どのサービスを使えばいいかわからない」場合は、地域包括支援センターに電話してみてください。介護保険の申請前でも無料で相談できます。離れて暮らすお子さん世代ができるサポートについては遠距離介護のコツで詳しく解説しています。
「頑張りすぎない」ための5つの具体策
完璧を手放す「70点介護」の発想
毎食手作りでなくてもいい、毎日入浴しなくてもいい。安全が確保できていれば十分です。100点を目指して3か月で燃え尽きるより、70点で5年続けるほうがご本人にとっても幸せです。
「見守り」と「介助」を分ける
すべてを手伝う必要はありません。ご本人が自分でできる動作は見守りに切り替え、本当に手が必要な場面だけ介助します。OTはこの線引きの判断を支援します。
サービスを「使い切る」意識を持つ
介護保険の支給限度額を使い切っていない世帯は少なくありません。「まだ大丈夫」と遠慮せず、使えるサービスは積極的に活用しましょう。
SOSを出せる先を複数確保する
ケアマネジャー、地域包括支援センター、民生委員、近隣の方、家族会など、相談先は複数持っておくと安心です。
定期的な「介護の棚卸し」を行う
月に一度、ケアマネジャーと一緒に介護内容を振り返り、不要な負担がないか確認しましょう。状態は変化するので、サービス内容も柔軟に見直すことが大切です。
介護を長く続けるために、ぜひ意識していただきたいポイントです。
- 「70点介護」で十分です:毎食手作りでなくても、毎日入浴しなくても大丈夫。100点を目指して3か月で燃え尽きるより、70点で5年続けるほうが幸せです
- ご本人の「できること」を奪わない:自分でできる動作は見守りに切り替えましょう。すべてを手伝う必要はありません
- サービスを遠慮せず使う:介護保険の限度額を使い切っていない世帯は多いです。「まだ大丈夫」と思わず、積極的に活用しましょう
- 相談先を複数持つ:ケアマネジャー、地域包括支援センター、ご近所の方など、いざというときに頼れる先を複数確保しておきましょう
老老介護と作業療法 ── 暮らしを「丸ごと」支える視点
OTは、身体機能のリハビリだけを行う職種ではありません。その人がその人らしく暮らし続けるために、何が障壁になっていて、どう取り除けるかを一緒に考える専門家です。
老老介護においては、以下のような関わりが可能です。
- 介護を受ける方への支援: 残存能力を最大限に活かす動作練習、福祉用具の選定、認知機能に合わせた生活環境の工夫
- 介護する方への支援: 腰に負担のかからない介助方法の指導、生活リズムの再構築、精神的な負担の軽減に向けた相談
- 住環境への支援: 手すりの設置場所の提案、家具の配置変更、段差解消のアドバイス
訪問リハビリや通所リハビリ(デイケア)を利用すれば、OTに直接相談できます。ケアマネジャーに「作業療法士に家の環境を見てもらいたい」と伝えてみてください。作業療法士という職種の全体像については作業療法とは何かで詳しく解説しています。
老老介護の限界は、二人の努力が足りないのではなく、仕組みで支えるべき課題です。介護を「二人だけの問題」にしないことが、最も大切な第一歩です。
- 同居して介護している組合せの6割超が65歳以上同士であり、介護者自身の健康リスクが高い構造的問題を抱えている
- 環境調整・動作指導・福祉用具の活用で、身体的な介護負担は大きく軽減できる
- 完璧な介護を目指さず、サービスを積極的に活用する「70点介護」の発想が持続可能性の鍵
- 作業療法士は介護を受ける方と介護する方の双方の「暮らし全体」を支える専門家として相談できる
- 「二人だけで頑張る」のをやめることが、最も効果的な介護の第一歩
作業療法士は、介護を受ける方だけでなく、介護するご家族の暮らし全体を支える専門家です。
- ご本人の「できること」を活かす方法を教えてもらえます
- 腰に負担のかからない介助のやり方を一緒に練習できます
- 手すりや家具の配置など、家の環境を見直してもらえます
ケアマネジャーに「作業療法士に家を見てもらいたい」と伝えてみてください。訪問リハビリや通所リハビリで相談できます。
- 老老介護は「二人の頑張りが足りない」のではなく、仕組みで支えるべき課題です
- 家の環境を変えるだけで、介護の負担は大きく減ります
- 「70点介護」で十分。サービスを積極的に活用しましょう
- 「二人だけで頑張る」のをやめることが、最も大切な第一歩です
- ケアマネジャーに「いま一番大変なこと」を率直に伝えてみましょう。サービスの見直しにつながります
- デイサービスやショートステイを利用して、介護する方の「自分の時間」を定期的に確保してください
- 近くの地域包括支援センターの電話番号を、冷蔵庫やカレンダーに貼っておくと安心です
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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