この記事のポイント
- 終末期ケアで作業療法士が担う役割は、機能回復ではなく「その人らしい時間」を支えることです。好きな活動の継続支援・家族との関わり支援・安楽なポジショニングの3つが代表的な介入です
- 終末期リハビリテーションは、WHOが定義する緩和ケアの一環としてQOL(生活の質)の維持・向上を目的とする
- 本人の意思を尊重しつつ、多職種チームの中で「生活の質」を守る倫理的実践が求められる
終末期リハビリテーションとは何か
終末期のリハビリというと「回復するための訓練」を想像するかもしれませんが、終末期の目的はそれとは異なります。
終末期のリハビリは、ご本人が「その人らしく」過ごすための時間を支えることが目的です。多くの方が体の制限を感じながらも、「日常の活動を続けたい」と望んでいます。その願いに寄り添うのが、作業療法士の役割です。
「回復」ではなく「意味のある時間」を支える
終末期のリハビリの目標は、からだの機能を回復させることではありません。残された時間を「その人らしく」過ごすためのお手伝いです。
たとえば、長年続けてきた趣味を形を変えて楽しめるようにしたり、ご家族と穏やかに過ごせる環境を整えたり。ご本人が大切にしている「やりたいこと」を最期まで支えるのが作業療法士の専門性です。
具体的な介入例
1. 好きな活動の継続を支える
ご本人が好きだった活動を、形を変えてでも続けられるように工夫します。
- 庭仕事が好きだった方には、ベッドのそばでの室内園芸を提案
- 書道が好きだった方には、軽い筆ペンやテーブルの角度調整で書ける環境を整備
- 体力が限られている場合は、一番やりたいことに体力を温存する工夫を一緒に考えます
「何が好きだったか」「何をしているとき穏やかだったか」をご家族から教えていただくことが、大きな手がかりになります。
2. 家族との関わりを支援する
ご家族とご本人が穏やかに過ごせるよう、作業療法士がお手伝いします。
- 一緒にできることを提案します(写真の整理、音楽を聴く、ハンドマッサージなど)
- ご家族にできるケアの方法を具体的にお伝えします(手のマッサージ、クッションの当て方など)
- ご家族の疲れやストレスにも気を配ります
研究では、終末期からご家族を継続して支える関わりが、死別後のご家族自身の心のケアにつながる可能性が報告されています(出典: Kissane et al., 2006)。「何かしてあげたい」という気持ちを、具体的な形にするお手伝いをします。
3. ポジショニングと安楽の確保
ご本人が楽な姿勢で過ごせるよう整えることは、とても大切なケアです。
- クッションや枕の当て方を工夫するだけで、痛みがやわらぐことがあります
- 呼吸が楽になる姿勢(上体を少し起こす、腕を支えるなど)を作業療法士が提案します
- 床ずれの予防のための体の向きの変え方も、ご家族に具体的にお伝えします
クッションの置き方ひとつで、ご本人の苦痛が大きく変わることがあります。ぜひ作業療法士や看護師に相談してみてください。
多職種チームにおける作業療法士の位置づけ
終末期のケアは、医師、看護師、作業療法士など多くの専門家がチームで行います。その中で作業療法士は、「ご本人がどう過ごしたいか」という生活の視点をチームに伝える役割を担っています。
「この人は何をしているときに穏やかか」「どんな環境だと安心できるか」── ご家族が日頃感じていることを作業療法士に伝えていただくと、ケアに大きく活かされます。
終末期ケアにおける倫理的配慮
本人の意思決定の尊重
最も大切なのは、ご本人の意思を尊重することです。「もう何もしたくない」というのも立派な選択です。リハビリは「やらなければならないもの」ではなく、ご本人が望むときに望む形で提供されるものです。
ご家族の希望とご本人の希望が異なる場合もありますが、作業療法士はご本人の気持ちを丁寧に聴きながら、ご家族とも一緒に話し合います。
介入の利益と負担のバランス
「少しでも動いたほうがいい」「気分転換になるから」と思っても、ご本人にとっては負担になっている場合があります。ご本人が「つらい」と感じたらいつでもやめられることが大切です。
ご家族としては「もっとしてあげたい」気持ちがあると思いますが、そばにいるだけで十分な支えになっていることも多いです。
作業療法士自身のケア
事例で考える ── 終末期OT介入の実際
ある80代の女性は、毎朝仏壇に手を合わせることが日課でした。入院後、作業療法士がベッドのそばに小さな仏具を用意し、クッションで姿勢を整えることで、最期の数日まで朝のお祈りを続けることができました。
ご家族は庭の花を持参し、一緒に花を飾る時間を共有しました。後にご家族は「あの時間があったから、母は最期まで母らしくいられた」と話されました。
ご家族だからこそ知っている「その人の大切にしていること」を、ぜひ作業療法士に伝えてください。終末期OTに関わる主な参考文献・ガイドライン
- 終末期のリハビリは回復が目的ではなく、ご本人が「その人らしく」過ごすための支援です
- 作業療法士は好きな活動の工夫、ご家族との時間づくり、楽な姿勢の調整をお手伝いします
- ご本人の「やりたいこと」や「大切にしていること」を教えてください。それが最良のケアの手がかりになります
- ご本人が好きだったこと・日課にしていたことを作業療法士に伝えてください。ケアに大きく活かされます
- ハンドマッサージや手を握ること、一緒に音楽を聴くことなど、ご家族にもできるケアはたくさんあります
- 「何もしてあげられない」と感じても、そばにいること自体が大きな支えになっています
- WHO「Palliative Care」ファクトシート(2020年)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」
- Kissane DW, et al. Family focused grief therapy: a randomized, controlled trial in palliative care and bereavement. Am J Psychiatry 163(7), 1208-1218(2006年)
- Eva G, Wee B. Rehabilitation in end-of-life management. Curr Opin Support Palliat Care 4(3), 158-162(2010年)
- Cheville AL, et al. Prevalence and treatment patterns of physical impairments in patients with metastatic breast cancer. J Clin Oncol 26(16), 2621-2629(2008年)
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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