この記事のポイント
はじめに── 車椅子は「最後の手段」ではない
「車椅子は、歩けなくなったら使うもの」と思っていませんか。実は、車椅子は移動の自由を取り戻すための積極的な道具です。
車椅子を使うことで外出や活動の幅が広がり、生活の質が大きく変わることがあります。そして、車椅子にはたくさんの種類があり、使う方の状態や暮らしに合わせて選ぶことがとても大切です。
この記事では、介護保険で借りられる車椅子の種類と、選ぶときに知っておきたいポイントをわかりやすくまとめます。
介護保険における車椅子の位置づけ
福祉用具貸与の対象
介護保険では、車椅子をレンタル(貸与)で借りることができます。原則として要介護2以上の認定を受けている方が対象です(要介護1以下でも例外的に認められる場合があります)。
借りられる車椅子の種類はおもに以下の通りです。
- 自走用(ご本人が手で漕ぐタイプ)
- 介助用(介助者が押すタイプ)
- 電動車椅子
- リクライニング式・ティルト式(背もたれや座面を倒せるタイプ)
クッションやテーブルなどの付属品も、あわせて借りることができます。
貸与と購入の違い
介護保険の車椅子は「購入」ではなく「レンタル」です。月々のレンタル料のうち、自己負担は1割(所得に応じて2〜3割)で済みます。
レンタルには大きなメリットがあります。
- 身体の状態が変わったら別の機種に交換できる
- メンテナンスはレンタル業者がしてくれる
- 初期費用が少ない
- 必要なくなったら返却できる
「今の状態に合った車椅子を、そのつど借り替えられる」のがレンタルの良いところです。
車椅子の各部名称と基本構造
車椅子を選ぶときに知っておきたい、おもな部品の名前と役割を簡単にまとめます。
座面(シート):座る部分です。幅と奥行きが体に合っていることがいちばん大切です。
背もたれ(バックサポート):背中を支えます。低いタイプは動きやすく、高いタイプはしっかり支えてくれます。
肘掛け(アームサポート):腕を載せる部分です。ベッドへの乗り移りがしやすいよう、跳ね上げられるタイプもあります。
足置き(フットサポート):足を載せる部分です。高さが合っていないと姿勢が崩れるので、きちんと調整してもらいましょう。
ハンドリム:自走用の車椅子についているリングで、ご本人がこれを回して進みます。
ブレーキ:車輪を止める部品です。握力が弱い方のために操作しやすいタイプもあります。
介助グリップ:介助者が押すときに握る部分です。介助する方の身長に合った高さかどうかも確認しましょう。
車椅子の主要な種類
1. 自走用標準型車椅子
いちばん一般的な車椅子です。後ろの大きな車輪についたハンドリムをご本人が回して進むタイプです。
こんな方に向いています- 腕の力があり、自分で車椅子を動かせる方
- 足は不自由だけれど、腕と体幹はしっかりしている方
- 座面の幅:お尻の両側に指2本分くらいの余裕があるのが目安です
- 座面の奥行き:膝の裏に指2〜3本分の隙間が空くのが理想です
- 重さと折りたたみ:車に積むことがあるなら、軽くて折りたためるものが便利です
2. 介助用標準型車椅子
介助者(ご家族など)が押して移動するタイプの車椅子です。後輪が小さく、ご本人が自分で漕ぐことはできません。
こんな方に向いています- ご自身で車椅子を動かすのが難しい方
- いつも介助者が一緒にいる方
- 外出時に車に積み下ろしすることが多い方
- ブレーキ:坂道で安全に止められるか確認しましょう
- 重さ:車への積み下ろしがあるなら、軽いものが助かります
- グリップの高さ:押す方の身長に合っているかも大切です
3. モジュラー型車椅子
座面の幅や高さ、背もたれの高さなど、各部分を細かく調整できるタイプの車椅子です。既製品とオーダーメイドの中間のようなもので、介護保険のレンタルでも借りることができます。
こんな方に向いています- 標準サイズではぴったり合わない方
- 病状が変化する可能性があり、あとから調整が必要な方
4. リクライニング式車椅子
背もたれを後ろに倒せる車椅子です。長時間座っているのがつらい方が、途中で体を休められるようになっています。
こんな方に向いています- 長時間座り続けるのがつらい方
- 食事のときは起こし、休憩のときは倒すなど、姿勢を変える必要がある方
- 足のむくみがあり、足を上げたい方
背もたれを倒すと体が前にずれやすくなり、お尻の皮膚に負担がかかることがあります。倒したあとの姿勢の整え方を、専門家に教えてもらいましょう。
5. ティルト式車椅子
座った姿勢のまま、座面ごと後ろに傾けられる車椅子です。リクライニング(背もたれだけ倒す)とは異なり、体がずれにくいのが特徴です。
こんな方に向いています- 自分で姿勢を変えるのが難しい方
- お尻の皮膚が弱く、圧力を分散させたい方
- ティルト:座った姿勢ごと傾く → 体がずれにくい
- リクライニング:背もたれだけ倒れる → 体が前にずれやすい
どちらが合うかは、ご本人の体の状態によって変わります。専門家に相談しましょう。
6. ティルト・リクライニング式車椅子
ティルトとリクライニングの両方の機能を持った車椅子です。いちばん柔軟に姿勢を変えられますが、そのぶんサイズが大きく重たい傾向があります。
一日のほとんどを車椅子で過ごす方や、さまざまな姿勢を取る必要がある方に向いています。
7. 電動車椅子
電動モーターで動く車椅子です。小さなレバー(ジョイスティック)を倒すだけで操作できます。
こんな方に向いています- 腕の力が弱く、手で漕ぐ車椅子が使えない方
- 長い距離を移動したい方
- 標準型:電動モーターで動くタイプ
- 簡易型(パワーアシスト):手動車椅子に電動の補助装置をつけたもの
- 電動カート(シニアカー):ハンドルで操作するタイプ。屋外での移動向き
- 操作できるか:レバーを正確に動かせるか、交通ルールを理解できるかの確認が必要です
- 充電:自宅に充電できるスペースとコンセントがあるか
- 大きさ:自宅の廊下やドアを通れるか
8. 足漕ぎ車椅子
足で床を蹴って進むタイプの車椅子です。座面が低く作られており、足が床にしっかり届きます。
片麻痺(体の半分が麻痺した状態)の方が、動く側の足で漕ぐ使い方が代表的です。足を使うことで筋力の維持にもつながるというメリットがあります。
車椅子に必ず合わせて検討するもの
クッション
車椅子には必ず専用のクッションを合わせて使ってください。クッションなしで座ると、お尻の皮膚に大きな負担がかかります。
おもなクッションの種類は以下の通りです。
- ウレタン:軽くて安価。一般的なタイプ
- ゲル:圧力を分散してくれる。やや重い
- エア:空気で圧力を分散。軽いが空気の管理が必要
- ハイブリッド:複数の素材を組み合わせたもの
クッションも介護保険で借りることができます。どの種類が合うかは、専門家に相談しましょう。
姿勢保持の補助具
車椅子だけでは姿勢を保てない場合、以下のような補助具を追加することがあります。
- 体幹サポート:体が横に傾くのを防ぐパッド
- ヘッドサポート:頭を支える部品
- 骨盤ベルト:お尻が前にずれるのを防ぐベルト
- テーブル:食事のほか、前に倒れるのを防ぐ役割もあります
車椅子選定のチェックリスト
車椅子を選ぶとき、以下のポイントを確認しておくとスムーズです。
ご本人について- 身長・体重・お尻の幅
- 腕や足の力はどれくらいか
- ご本人が操作を理解できるか
- 病状は安定しているか、変わる可能性があるか
- 廊下やドアの幅:車椅子が通れるか(車椅子の幅+5cm以上が目安)
- 段差:玄関や部屋の入口に段差がないか
- トイレ・浴室:車椅子で近づけるか、乗り移りのスペースがあるか
- 車のトランク:折りたたんで積めるか
福祉用具専門相談員や作業療法士が一緒に確認してくれます。座面の幅・奥行き・高さ、背もたれの高さ、足置きの高さなどを体に合わせて調整します。
作業療法士の役割── 車椅子は「処方」ではなく「デザイン」
車椅子選びは「カタログから一台選ぶ」だけではありません。作業療法士は、ご本人の体・暮らし・環境のすべてを見て、いちばん合った車椅子を一緒に考える専門家です。
同じ「車椅子が必要」でも、自分でスーパーに行きたい方と、施設で過ごすことが多い方では、最適な車椅子はまったく違います。「座れればいい」ではなく、「この車椅子で何ができるようになるか」を一緒に考えてくれます。
おわりに── 車椅子を知ることは、生活を知ること
車椅子は種類がたくさんあって迷いますが、大切なのは「ご本人の体と暮らしに合っているか」です。
介護保険のレンタルを使えば、状態が変わったときに交換もできます。まずは担当のケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談し、作業療法士にも意見を聞いてみてください。
「この車椅子で、何ができるようになるか」──その視点で選ぶことが、ご本人の暮らしの質を大きく変えてくれます。
- 自宅の廊下・ドアの幅を測っておきましょう。車椅子が通れるかどうかの判断に役立ちます
- ご本人がどこに行きたいか、何をしたいかを聞いてみてください。「移動の目的」がわかると、合う車椅子が見つかりやすくなります
- 試乗できるか相談してみましょう。レンタル事業者に依頼すれば、実際に乗ってみて確認できることがあります