この記事のポイント
はじめに── 車椅子は「最後の手段」ではない
車椅子に対して、「歩けなくなったら使うもの」「自分の足で歩くことを諦めた人の道具」というイメージを持つ方は少なくありません。
このイメージは、大きな誤解です。
車椅子は、「移動」という人間の基本的な活動を支える道具です。以前の記事で述べたように、移動手段が制限されると社会参加が連鎖的に失われます。車椅子は、歩行が困難になった方にとって、移動の自由と社会参加の機会を取り戻すための積極的な選択肢です。
そして、車椅子は一種類ではありません。利用者の身体状態、生活環境、活動の目的によって、最適な車椅子はまったく異なります。
本稿では、介護保険の福祉用具貸与制度で利用できる車椅子を中心に、主要な種類とその特徴、選定のポイントを網羅的に解説します。
「車椅子は、歩けなくなったら使うもの」と思っていませんか。実は、車椅子は移動の自由を取り戻すための積極的な道具です。
車椅子を使うことで外出や活動の幅が広がり、生活の質が大きく変わることがあります。そして、車椅子にはたくさんの種類があり、使う方の状態や暮らしに合わせて選ぶことがとても大切です。
この記事では、介護保険で借りられる車椅子の種類と、選ぶときに知っておきたいポイントをわかりやすくまとめます。
介護保険における車椅子の位置づけ
福祉用具貸与の対象
介護保険制度では、車椅子は福祉用具貸与の対象品目のひとつです。要介護2以上の認定を受けている方が原則として利用できます(要支援1〜2および要介護1の方は原則対象外ですが、例外的に認められるケースもあります)。
貸与の対象となる車椅子は以下の通りです。
- 自走用標準型車椅子
- 介助用標準型車椅子
- 普通型電動車椅子
- リクライニング式車椅子
- ティルト式車椅子
- リクライニング・ティルト式車椅子(両機能を備えたもの)
また、車椅子付属品(クッション、電動補助装置、テーブル、ブレーキ等)も貸与の対象です。
介護保険では、車椅子をレンタル(貸与)で借りることができます。原則として要介護2以上の認定を受けている方が対象です(要介護1以下でも例外的に認められる場合があります)。
借りられる車椅子の種類はおもに以下の通りです。
- 自走用(ご本人が手で漕ぐタイプ)
- 介助用(介助者が押すタイプ)
- 電動車椅子
- リクライニング式・ティルト式(背もたれや座面を倒せるタイプ)
クッションやテーブルなどの付属品も、あわせて借りることができます。
貸与と購入の違い
車椅子は「貸与」であり、購入ではありません。月額のレンタル料を支払い、その1割(所得に応じて2〜3割)が自己負担となります。
貸与のメリットは以下の点です。
- 身体状態の変化に応じて機種を変更できる
- メンテナンスは貸与事業者が行う
- 初期費用が低い(購入に比べて)
- 不要になったら返却できる
身体状態は変化するものです。回復に伴い車椅子が不要になることもあれば、状態の変化に伴いより高機能な車椅子が必要になることもあります。貸与制度はこの変化に柔軟に対応できる仕組みです。
介護保険の車椅子は「購入」ではなく「レンタル」です。月々のレンタル料のうち、自己負担は1割(所得に応じて2〜3割)で済みます。
レンタルには大きなメリットがあります。
- 身体の状態が変わったら別の機種に交換できる
- メンテナンスはレンタル業者がしてくれる
- 初期費用が少ない
- 必要なくなったら返却できる
「今の状態に合った車椅子を、そのつど借り替えられる」のがレンタルの良いところです。
車椅子の各部名称と基本構造
車椅子の選定や調整を理解するために、まず各部の名称と役割を整理します。
フレーム・座面まわり
シート(座面):利用者が座る部分です。幅・奥行き・素材が利用者の体格と用途に合っているかが重要です。
バックサポート(背もたれ):背中を支える部分です。高さと角度が姿勢保持に大きく影響します。背もたれが低いタイプ(ローバック)は活動性が高い方向け、高いタイプ(ハイバック)は体幹支持が必要な方向けです。
アームサポート(肘掛け):腕を載せる部分であると同時に、立ち上がりや移乗時の支持にも使われます。跳ね上げ式や着脱式は移乗動作をスムーズにします。
フットサポート(フットレスト):足を載せる部分です。高さの調整が不適切だと姿勢が崩れたり、足がフットサポートから落ちて巻き込まれるリスクがあります。スイングアウト式(外側に開く)やエレベーティング式(足を伸ばせる)もあります。
レッグサポート:ふくらはぎを支える部分です。フットサポートと一体になっているものと分離しているものがあります。
駆動・操作まわり
駆動輪(後輪):自走用車椅子では直径22〜24インチ程度の大きな車輪が後方に配置されます。介助用では小径(12〜16インチ程度)の車輪になります。
ハンドリム:自走用車椅子の駆動輪の外側に取り付けられたリングです。利用者がこれを掴んで回すことで自力で移動します。太さや素材、コーティングの違いで握りやすさが変わります。
キャスター(前輪):方向転換を担う小さな車輪です。直径が大きいほど段差の乗り越えが容易ですが、回転半径は大きくなります。
ブレーキ:駐車時に車輪を固定するものです。レバー式(トグル式)が一般的ですが、握力が弱い方向けの延長レバーやハブロック式もあります。介助者用のブレーキ(介助ブレーキ)がハンドグリップに付いているものもあります。
ハンドグリップ(介助グリップ):介助者が車椅子を押すときに握る部分です。高さが介助者の体格に合っていることが、介助者の腰痛予防にも重要です。
調整機構
座面高:座面から地面までの高さ。足漕ぎ(足で床を蹴って進む)をする方には低座面タイプが適しています。
座面角度:座面の前後の傾き。後方にわずかに傾斜していると、座位の安定性が増します。
背もたれ角度:リクライニング機構で調整できるものもあります。
フットサポート高さ:大腿部の裏側が座面に均等に接触し、かつ足底がフットサポートにしっかり載る高さが理想です。
車椅子を選ぶときに知っておきたい、おもな部品の名前と役割を簡単にまとめます。
座面(シート):座る部分です。幅と奥行きが体に合っていることがいちばん大切です。
背もたれ(バックサポート):背中を支えます。低いタイプは動きやすく、高いタイプはしっかり支えてくれます。
肘掛け(アームサポート):腕を載せる部分です。ベッドへの乗り移りがしやすいよう、跳ね上げられるタイプもあります。
足置き(フットサポート):足を載せる部分です。高さが合っていないと姿勢が崩れるので、きちんと調整してもらいましょう。
ハンドリム:自走用の車椅子についているリングで、ご本人がこれを回して進みます。
ブレーキ:車輪を止める部品です。握力が弱い方のために操作しやすいタイプもあります。
介助グリップ:介助者が押すときに握る部分です。介助する方の身長に合った高さかどうかも確認しましょう。
車椅子の主要な種類
1. 自走用標準型車椅子
最も一般的な車椅子です。後輪に大きな駆動輪とハンドリムが付いており、利用者自身が手で漕いで移動できるタイプです。
- 後輪直径:22〜24インチ
- ハンドリム付き
- 折りたたみ可能なものが多い
- 重量:12〜16kg程度(標準的なスチールフレーム)
- 上肢の機能が保たれており、自分で車椅子を操作できる方
- 下肢の障害により歩行が困難だが、上肢と体幹の機能は比較的良好な方
- 脊髄損傷(対麻痺)、下肢切断後、重度の変形性関節症など
- 座面幅:座った状態でお尻の両側に指2本分(約2〜3cm)ずつの余裕があるのが目安です。狭すぎると圧迫、広すぎると姿勢が崩れます
- 座面奥行き:膝裏とシートの前端の間に指2〜3本分の隙間があること。奥行きが長すぎると膝裏が圧迫されます
- フレーム素材:スチール(重いが頑丈・安価)、アルミ(軽量・一般的)、チタン(非常に軽量・高価)
- 自動車への積載:折りたたみ時のサイズと重量が、自家用車のトランクに収まるか
いちばん一般的な車椅子です。後ろの大きな車輪についたハンドリムをご本人が回して進むタイプです。
こんな方に向いています- 腕の力があり、自分で車椅子を動かせる方
- 足は不自由だけれど、腕と体幹はしっかりしている方
- 座面の幅:お尻の両側に指2本分くらいの余裕があるのが目安です
- 座面の奥行き:膝の裏に指2〜3本分の隙間が空くのが理想です
- 重さと折りたたみ:車に積むことがあるなら、軽くて折りたためるものが便利です
2. 介助用標準型車椅子
後輪が小径で、介助者が押して移動することを前提としたタイプです。
- 後輪直径:12〜16インチ
- ハンドリムなし(利用者自身では漕げない)
- 自走用よりコンパクトで軽量
- 折りたたみ時のサイズも小さい
- 自力での車椅子操作が困難な方
- 常に介助者が一緒にいる環境で使用する方
- 外出時の移動手段として(自動車への積み下ろしが容易)
- 重度の認知症があり、操作の理解が困難な方
- 介助ブレーキの操作性:介助者が坂道でスピードをコントロールできるか。ドラムブレーキ式が制動力は高い
- 重量:介助者が車への積み下ろしをすることが多いため、軽量であるほど負担が少ない
- ハンドグリップの高さ:介助者の身長に合わせて調整可能か
介助者(ご家族など)が押して移動するタイプの車椅子です。後輪が小さく、ご本人が自分で漕ぐことはできません。
こんな方に向いています- ご自身で車椅子を動かすのが難しい方
- いつも介助者が一緒にいる方
- 外出時に車に積み下ろしすることが多い方
- ブレーキ:坂道で安全に止められるか確認しましょう
- 重さ:車への積み下ろしがあるなら、軽いものが助かります
- グリップの高さ:押す方の身長に合っているかも大切です
3. モジュラー型車椅子
座面幅、座面奥行き、座面高、背もたれ高さ、フットサポート高さ、アームサポートの高さなど、各部を個別に調整できるタイプです。
- 既製品の「標準型」と、個別に仕様を決める「オーダーメイド」の中間に位置する
- 身体状態の変化に応じて再調整が可能
- 介護保険の貸与対象として多くの事業者が取り扱っている
- 標準型では体格に合うサイズがない方
- 身体状態が変化する可能性がある方(回復期、進行性疾患など)
- 姿勢保持に細かな調整が必要な方
- 調整範囲:どの部位がどの範囲で調整できるかを確認する
- 調整のしやすさ:工具不要で調整できるもの、工具が必要なものがある
- 将来の変化への対応:身体状態が変わったときに、どの程度の調整幅で対応できるか
座面の幅や高さ、背もたれの高さなど、各部分を細かく調整できるタイプの車椅子です。既製品とオーダーメイドの中間のようなもので、介護保険のレンタルでも借りることができます。
こんな方に向いています- 標準サイズではぴったり合わない方
- 病状が変化する可能性があり、あとから調整が必要な方
4. リクライニング式車椅子
背もたれの角度を後方に倒せる機構を持つ車椅子です。
- 背もたれが120度〜180度程度まで倒せる
- 頭部を支えるヘッドサポート付き
- エレベーティングレッグサポート(足を上げる機構)を併せ持つものが多い
- 長時間の座位保持が困難で、定期的に休息姿勢を取る必要がある方
- 起立性低血圧があり、血圧低下時に背もたれを倒す必要がある方
- 食事や活動時は起こし、休息時は倒すなど、姿勢の変換が必要な方
- 下肢の浮腫がありエレベーティングが必要な方
リクライニングを倒すと、体が前方にずれる「ずり落ち(シアリング)」が生じやすくなります。これは仙骨部の褥瘡リスクを高めます。リクライニング使用時は、ずり落ち防止のためのポジショニングが不可欠です。
背もたれを後ろに倒せる車椅子です。長時間座っているのがつらい方が、途中で体を休められるようになっています。
こんな方に向いています- 長時間座り続けるのがつらい方
- 食事のときは起こし、休憩のときは倒すなど、姿勢を変える必要がある方
- 足のむくみがあり、足を上げたい方
背もたれを倒すと体が前にずれやすくなり、お尻の皮膚に負担がかかることがあります。倒したあとの姿勢の整え方を、専門家に教えてもらいましょう。
5. ティルト式車椅子
座面と背もたれの角度関係を保ったまま、座面全体を後方に傾ける機構を持つ車椅子です。
- リクライニングが「背もたれだけを倒す」のに対し、ティルトは「座った姿勢ごと傾ける」
- 座面と背もたれの角度が変わらないため、ずり落ちが起きにくい
- 傾けることで体圧を分散し、褥瘡予防効果がある
- 自分で姿勢を変えることが困難な方(重度の四肢麻痺、進行した神経難病など)
- 褥瘡リスクが高く、定期的に体圧分散が必要な方
- 体幹の支持機能が低下し、座位保持に介助が必要な方
| ティルト | リクライニング | |
|---|---|---|
| 動き方 | 座面ごと後方に傾く | 背もたれだけ後方に倒れる |
| ずり落ちリスク | 低い | 高い |
| 体圧分散効果 | 高い | 中程度 |
| 活動姿勢への復帰 | 容易(戻すだけ) | ずり落ち修正が必要な場合あり |
| 適応 | 重度の姿勢保持困難 | 休息姿勢・血圧管理 |
座った姿勢のまま、座面ごと後ろに傾けられる車椅子です。リクライニング(背もたれだけ倒す)とは異なり、体がずれにくいのが特徴です。
こんな方に向いています- 自分で姿勢を変えるのが難しい方
- お尻の皮膚が弱く、圧力を分散させたい方
- ティルト:座った姿勢ごと傾く → 体がずれにくい
- リクライニング:背もたれだけ倒れる → 体が前にずれやすい
どちらが合うかは、ご本人の体の状態によって変わります。専門家に相談しましょう。
6. ティルト・リクライニング式車椅子
ティルト機能とリクライニング機能の両方を備えた車椅子です。
- ティルトで体圧を分散しつつ、リクライニングで休息姿勢を取れる
- 最も柔軟な姿勢調整が可能
- 重量が大きく、サイズも大きい傾向がある
- 重度の身体障害があり、一日の中でさまざまな姿勢を取る必要がある方
- 長時間車椅子上で過ごす方
- 褥瘡リスクが高く、かつ食事やレクリエーションなどの活動にも参加する方
ティルトとリクライニングの両方の機能を持った車椅子です。いちばん柔軟に姿勢を変えられますが、そのぶんサイズが大きく重たい傾向があります。
一日のほとんどを車椅子で過ごす方や、さまざまな姿勢を取る必要がある方に向いています。
7. 電動車椅子
電動モーターで駆動する車椅子です。ジョイスティックコントローラーでの操作が一般的です。
- バッテリー駆動(充電式)
- ジョイスティック操作(手指の微細な操作で方向と速度を制御)
- 最高速度は時速6km(道路交通法上の歩行者扱いの上限)
- 重量:30〜100kg以上(バッテリー含む)
- 上肢の筋力が低下し、手動車椅子の自走が困難な方
- 長距離の移動が必要だが、手動車椅子では疲労する方
- ジョイスティックの操作が可能な手指機能と認知機能がある方
- 脊髄損傷(頸髄損傷)、筋ジストロフィー、ALSなど
- 標準型電動車椅子:自走用車椅子のフレームに電動ユニットを搭載。屋内外で使用
- 簡易型電動車椅子:手動車椅子に電動補助装置(パワーアシスト)を取り付けたもの。手動操作を電動でアシストする方式で、手動と電動の切り替えが可能
- 電動カート(シニアカー):ハンドル操作式。屋外の移動に特化。介護保険の貸与対象
- 操作方法:ジョイスティック、ハンドル、顎操作、ヘッドアレイなど、利用者の残存機能に合った操作方法が選べるか
- バッテリーの持続距離:生活圏の移動距離に対して十分か
- 充電環境:自宅にコンセントと充電スペースがあるか
- 屋内利用の可否:回転半径が屋内の通路幅に収まるか
- 安全機能:速度制限、障害物検知、傾斜地での自動ブレーキなど
- 認知機能:交通状況の判断、危険回避の判断ができるか。電動車椅子は歩行者として公道を走行するため、安全な操作には一定の認知機能が求められます
電動モーターで動く車椅子です。小さなレバー(ジョイスティック)を倒すだけで操作できます。
こんな方に向いています- 腕の力が弱く、手で漕ぐ車椅子が使えない方
- 長い距離を移動したい方
- 標準型:電動モーターで動くタイプ
- 簡易型(パワーアシスト):手動車椅子に電動の補助装置をつけたもの
- 電動カート(シニアカー):ハンドルで操作するタイプ。屋外での移動向き
- 操作できるか:レバーを正確に動かせるか、交通ルールを理解できるかの確認が必要です
- 充電:自宅に充電できるスペースとコンセントがあるか
- 大きさ:自宅の廊下やドアを通れるか
8. 足漕ぎ車椅子
足で床を蹴って進むことを前提にした車椅子です。座面高が通常より低く設定されています。
- 座面高が35cm前後(通常は40〜43cm程度)
- 足底が床にしっかり着く設計
- 片麻痺の方が健側の足で漕ぐ使い方が代表的
- 片麻痺で、健側の下肢に十分な筋力がある方
- 上肢の筋力が不足しており、ハンドリムでの自走が困難な方
- 下肢を積極的に使うことで筋力維持・向上を図りたい方
- 座面高:足底が床にしっかり着き、膝が90度より少し鋭角になる高さが理想
- フットサポートの処理:足漕ぎ時にフットサポートが邪魔にならない設計(スイングアウトまたは取り外し可能)
- 駆動方式の選択:片麻痺の方の場合、健側の足で漕ぐ方法と、健側の手でハンドリムを操作する方法の両方を評価し、より効率的かつ安全な方を選択する
足で床を蹴って進むタイプの車椅子です。座面が低く作られており、足が床にしっかり届きます。
片麻痺(体の半分が麻痺した状態)の方が、動く側の足で漕ぐ使い方が代表的です。足を使うことで筋力の維持にもつながるというメリットがあります。
車椅子に必ず合わせて検討するもの
クッション
車椅子のシート単体で座ると、褥瘡のリスクが非常に高い状態になります。車椅子を使用する際は、必ず適切なクッションを使用してください。
クッションの種類は以下の通りです。
- ウレタンフォーム:最も一般的。軽量で安価。ただし体圧分散性は限定的
- ゲルクッション:体圧分散性が高い。ただし重量がある
- エアクッション:空気圧で体圧を分散する。軽量で体圧分散性が高いが、パンクのリスクがある。空気圧の管理が必要
- ハイブリッドクッション:ウレタンとゲルの組み合わせなど、複数の素材を組み合わせたもの
クッション選定のポイントは以下の通りです。
- 褥瘡リスクの評価:リスクが高い方にはゲルやエアなど体圧分散性の高いクッションを
- 座位姿勢への影響:クッションを置くことで座面高が変わるため、フットサポートの高さも再調整が必要
- 活動性とのバランス:体圧分散性の高いクッションは柔らかいため、座位でのリーチ動作など活動性を低下させることがあります。褥瘡予防と活動性のバランスを考慮してください
- メンテナンス:カバーの洗濯のしやすさ、空気圧の管理のしやすさ
クッションも介護保険の福祉用具貸与の対象(車椅子付属品)です。
車椅子には必ず専用のクッションを合わせて使ってください。クッションなしで座ると、お尻の皮膚に大きな負担がかかります。
おもなクッションの種類は以下の通りです。
- ウレタン:軽くて安価。一般的なタイプ
- ゲル:圧力を分散してくれる。やや重い
- エア:空気で圧力を分散。軽いが空気の管理が必要
- ハイブリッド:複数の素材を組み合わせたもの
クッションも介護保険で借りることができます。どの種類が合うかは、専門家に相談しましょう。
姿勢保持の補助具
標準的な車椅子では姿勢が保持できない場合、以下の補助具を追加します。
- 体幹サポート(ラテラルサポート):体が横に倒れるのを防ぐ側方支持
- ヘッドサポート:頭部を支える。リクライニング・ティルト式では標準装備が多い
- 骨盤ベルト:骨盤の前方への滑りを防止する。ただし拘束に該当しないよう、使用には十分な検討と同意が必要
- テーブル:車椅子に取り付けるテーブル。食事や作業の場面だけでなく、前方への転落防止にもなる
車椅子だけでは姿勢を保てない場合、以下のような補助具を追加することがあります。
- 体幹サポート:体が横に傾くのを防ぐパッド
- ヘッドサポート:頭を支える部品
- 骨盤ベルト:お尻が前にずれるのを防ぐベルト
- テーブル:食事のほか、前に倒れるのを防ぐ役割もあります
車椅子選定のチェックリスト
車椅子を選定する際に確認すべきポイントを整理します。
利用者に関する確認
- 体格:身長、体重、座幅、座奥行き、下腿長
- 身体機能:上肢筋力、下肢筋力、体幹機能、バランス能力、握力
- 認知機能:操作の理解力、安全判断力
- 疾患の特性:進行性か安定期か、拘縮の有無、褥瘡リスク、痛みの有無
- 活動の目標:自走するか介助を受けるか、屋内使用か屋外使用か、どのような活動で使用するか
環境に関する確認
- 自宅の通路幅:車椅子の全幅+5cm以上の通路幅があるか
- ドアの開口幅:最も狭いドアを車椅子が通過できるか
- 段差:自宅の出入り口の段差、室内の段差の有無
- トイレ・浴室:車椅子でのアプローチが可能か、移乗スペースはあるか
- 自動車:車椅子を積載する車のトランクサイズ
- 外出先:よく行く場所のバリアフリー状況
フィッティングの確認
- 座面幅:お尻の幅+4〜6cm
- 座面奥行き:大腿長(お尻から膝裏まで)−2〜3cm
- 座面高:足漕ぎの有無、足底が床またはフットサポートに着くか
- 背もたれ高さ:肩甲骨下角の下あたりが目安(活動性重視の場合)、肩の高さまで(支持性重視の場合)
- アームサポート高さ:肘を90度に曲げたときの高さ
- フットサポート高さ:大腿裏が座面に均等に接触する高さ
車椅子を選ぶとき、以下のポイントを確認しておくとスムーズです。
ご本人について- 身長・体重・お尻の幅
- 腕や足の力はどれくらいか
- ご本人が操作を理解できるか
- 病状は安定しているか、変わる可能性があるか
- 廊下やドアの幅:車椅子が通れるか(車椅子の幅+5cm以上が目安)
- 段差:玄関や部屋の入口に段差がないか
- トイレ・浴室:車椅子で近づけるか、乗り移りのスペースがあるか
- 車のトランク:折りたたんで積めるか
福祉用具専門相談員や作業療法士が一緒に確認してくれます。座面の幅・奥行き・高さ、背もたれの高さ、足置きの高さなどを体に合わせて調整します。
作業療法士の役割── 車椅子は「処方」ではなく「デザイン」
車椅子の選定は、カタログから一台を選ぶ作業ではありません。
その人の身体、その人の生活、その人の環境に合わせて、移動と活動の道具をデザインする──これが作業療法士の車椅子選定における専門性です。
同じ「車椅子が必要」という状態でも、一人暮らしでスーパーまで自力で行きたい方と、施設で過ごす時間が長い方とでは、最適な車椅子はまったく異なります。
「座れればいい」ではなく、「この車椅子で、この人は何ができるようになるか」を問い続けること。これが車椅子選定における作業療法の視点です。
車椅子選びは「カタログから一台選ぶ」だけではありません。作業療法士は、ご本人の体・暮らし・環境のすべてを見て、いちばん合った車椅子を一緒に考える専門家です。
同じ「車椅子が必要」でも、自分でスーパーに行きたい方と、施設で過ごすことが多い方では、最適な車椅子はまったく違います。「座れればいい」ではなく、「この車椅子で何ができるようになるか」を一緒に考えてくれます。
おわりに── 車椅子を知ることは、生活を知ること
車椅子は単なる移動の道具ではありません。座位姿勢の保持、褥瘡の予防、活動への参加、社会との接点── 車椅子が適切であるかどうかは、利用者の生活全体の質に影響します。
本稿では、介護保険の貸与対象を中心にスタンダードな車椅子の種類と選定のポイントを整理しました。
中編では、車椅子がどのような歴史をたどって現在の形にたどり着いたのかを振り返ります。車椅子の歴史を知ることは、「なぜこの形なのか」「なぜこの機能が必要なのか」を理解する助けになるでしょう。
車椅子は種類がたくさんあって迷いますが、大切なのは「ご本人の体と暮らしに合っているか」です。
介護保険のレンタルを使えば、状態が変わったときに交換もできます。まずは担当のケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談し、作業療法士にも意見を聞いてみてください。
「この車椅子で、何ができるようになるか」──その視点で選ぶことが、ご本人の暮らしの質を大きく変えてくれます。
- 自宅の廊下・ドアの幅を測っておきましょう。車椅子が通れるかどうかの判断に役立ちます
- ご本人がどこに行きたいか、何をしたいかを聞いてみてください。「移動の目的」がわかると、合う車椅子が見つかりやすくなります
- 試乗できるか相談してみましょう。レンタル事業者に依頼すれば、実際に乗ってみて確認できることがあります
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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