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90歳でも筋力は増える? ― 「歳だから仕方ない」を覆すエビデンス

90歳でも筋力が約3倍になった研究があります。高齢でも筋力は増やせることを示す研究結果と、ご家族にできるサポートをやさしく解説します。

📅 2026年3月29日 公開⏱ 読了目安 31分

この記事のポイント

「もう歳だから筋力が落ちるのは仕方ない」――そう思っている方は多いのではないでしょうか。しかし、科学的な研究は別の答えを示しています。平均年齢90歳の方が8週間のトレーニングで筋力を174%向上させた研究(Fiatarone ら, 1990年)、85歳以上でも65歳と同等の筋力向上を示した研究など、高齢でも筋力増強が可能であることを示すエビデンスは数多くあります。この記事では、それらの研究を整理し、どうすれば高齢でも筋力を増やせるのかを解説します。

「歳だから仕方ない」は本当か

歳をとると筋力が落ちること自体は、体の自然な変化です。成人期からゆるやかに減り始め、50代以降にそのペースが速くなるとされています。「何歳から年に何%減る」という数字もよく見かけますが、調べ方によって大きく変わるため、本記事では具体的な数値は示しません。

しかし、「筋力が落ちる」ことと「もう増やせない」ことはまったく別の話です。

研究でわかっているのは、筋力低下の大きな原因は加齢そのものよりも「体を動かさないこと」だということです。正しい条件が揃えば、何歳からでも筋力を取り戻せます。

90歳でも筋力は増える――衝撃の研究

Fiatarone et al.(1990年)――JAMA掲載

ハーバード大学の研究チームが1990年に発表した、とても有名な研究があります。

どんな研究だったか:

  • 対象は介護施設に入所中の高齢者10名(うち9名が最後まで参加)、平均年齢90歳
  • しっかりした負荷の筋力トレーニングを8週間行いました

結果:

  • 筋力が平均で約2.7倍に向上しました
  • 太ももの筋肉も太くなりました(1990年の研究)(断面積が約9%増加)
  • 一直線に足を並べて歩くテストの速さが平均48%改善しました

平均90歳の方々が、たった8週間で筋力をほぼ3倍にしたのです。

ただし、これは9名という非常に少ない人数で、比較のためのグループを置かずに行われた研究です。「90歳でも筋力は増えることがある」という希望を示すものであって、「誰でも3倍になる」という意味ではありません。

Fiatarone et al.(1994年)――NEJM掲載

同じ研究チームが、さらに多くの方を対象にした研究を行いました。

  • 対象は介護施設の入所者100名、平均年齢87歳(72〜98歳)
  • 「筋トレあり」と「筋トレなし」、「栄養補給あり」と「なし」を組み合わせた4つのグループに分けて、10週間の効果を比べました

結果:

指標筋トレあり筋トレなし
筋力+113%+3%
歩く速さ+11.8%−1.0%
階段を上る力+28.4%+3.6%

大切なポイントは、栄養補給だけでは、どの項目にも効果が出なかったということです。体を動かすことが欠かせません。

85歳以上でも、65歳と同じだけ筋力は伸びる

「85歳を超えたら、さすがにトレーニングしても無理では?」と思うかもしれません。しかし、2024年に発表された研究(お元気な高齢者29名が参加)は、次のような結果を示しています。

年齢12週間後の脚の筋力の変化
65〜75歳(17名)+38%
85歳以上(12名)+46%

数字のうえでは85歳以上のグループのほうが大きく伸びていますが、統計的にみると2つのグループに差はありませんでした。つまり「85歳を超えると効果が落ちる」とはいえない、というのがこの研究の結論です。

ただし参加者は持病のないお元気な方々29名です。フレイルの状態にある方や持病のある方にそのまま当てはまるとは限りません。

2014年に発表された別の研究の報告では、施設で暮らす90歳代の24名が、筋力・バランス・歩行を組み合わせた運動を週2回・12週間続けたところ、立ち上がって歩くテストやバランス、椅子からの立ち上がりが改善し、転倒も減ったと報告されています。同じ期間、運動をしなかったグループでは筋力と体の機能が低下していました。

なぜ高齢でも筋力が増えるのか

神経適応と筋肥大の二段階

筋力が上がるしくみには、2つの段階があります。

第1段階(始めてから6週間ほど): 体の使い方が上手になる

まず、筋肉への指令が効率よくなり、筋肉の量は変わらなくても力が出やすくなります。高齢者ではこの変化がとくに大きく、トレーニングを始めてすぐに「立ち上がりが楽になった」「歩きやすくなった」と感じる方が多いです。

第2段階(6週間以降): 筋肉が太くなる

続けていくと、筋肉そのものが太くなっていきます。高齢の方でも、適切な負荷があれば筋肉の成長が確認されています。

加齢に伴う「同化抵抗性」を乗り越える

高齢になると、食事や運動で筋肉がつくられる反応が鈍くなります。これを専門的には「同化抵抗性」といいます。

そこで高齢者向けの国際的な合意文書では、若い方より多めのたんぱく質と、無理のない範囲での運動を組み合わせることがすすめられています。

筋力を増やすために必要な4つの条件

エビデンスに基づき、高齢者の筋力増強に必要な条件を整理します。

条件1: 適切な強度の負荷をかける

「軽い運動」だけでは筋力は十分に増えません。

散歩や軽い体操は健康によいですが、それだけでは筋力を増やすには足りません。「少しきつい」と感じる程度の運動が必要です。フレイル(体が弱っている)状態の方でも、軽い負荷から始めて少しずつ増やしていくことで効果が出ます。

条件2: 週2〜3回の頻度で継続する

公的ガイドラインの推奨は、次のとおりです。

ガイドラインの推奨
WHO 2020
  • 成人は、主要な筋群すべてを使う筋力強化活動を、中強度以上で週2日以上(強い推奨)
  • 65歳以上は、これに加えて、機能的バランスと筋力トレーニングを重視した多要素の身体活動を、中強度以上で週3日以上(強い推奨)
厚生労働省 2023
  • 高齢者は、筋力トレーニングを週2〜3日
  • 高齢者は、筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上
  • 胸・背中・上肢・腹・臀部・下肢などの大きな筋群に負荷がかかるよう、全身をまんべんなく

セット数・反復回数・種目数について具体的な数値を示す一般向け情報が流通していますが、上記の公的ガイドラインはそこまでは規定していません。個別の処方はリハビリテーション専門職に相談してください。

厚生労働省の参考資料には「筋肉は年齢に関係なく鍛えることができます」と明記されています。

条件3: 十分なたんぱく質を摂取する

高齢の方が筋肉をつくるには、若い方よりも多くのたんぱく質が必要です。

国際的な合意文書(PROT-AGE、2013年)の目安は次のとおりです。

  • 65歳を超えた方: 体重1kgあたり少なくとも1.0〜1.2g(体重60kgなら60〜72g)
  • 運動をしている方: 体重1kgあたり1.2g以上
  • 腎臓の働きが大きく低下している方: 制限が必要な場合があるので、必ず主治医にご確認ください

「1食あたり何g」という数値もよく紹介されますが、これは確立した推奨値ではありません。まずは毎食にたんぱく源を1品入れることから始めるとよいでしょう。

ご家庭でできること
  • 朝食: 卵、ヨーグルト、牛乳、納豆を加える
  • 昼食: 肉や魚をメインのおかずにする
  • 夕食: 豆腐や魚を一品添える
  • おやつ: チーズやヨーグルトなど乳製品を選ぶ

条件4: 安全な環境と専門家の指導

「高齢者に筋トレは危険では?」と心配される方もいますが、23,000名以上が参加した運動介入の研究をまとめたレビューでは、報告された問題の大半は筋肉や関節の軽いもので、重いものはごくわずかでした。ただし「有害な出来事をきちんと記録していた研究が少ない」という限界もあります。安全とはいえ、次の点は守ってください。

ただし、安全のためにはいくつかの条件があります。

  • かかりつけ医に相談してから始めること
  • 作業療法士や理学療法士など専門家の指導を受けること
  • 少しずつ負荷を増やすこと(最初から無理をしない)

サルコペニアとの関係

サルコペニアとは

サルコペニアとは、加齢により筋肉の量と力が大きく低下した状態のことです。2014年に発表された研究のまとめ(Cruz-Jentoft らの報告)では、地域で暮らす高齢者の1〜29%、施設で暮らす高齢者の14〜33%にあたるとされています。幅が広いのは、調べ方や診断の基準が研究ごとに違うためです。サルコペニアは転倒・骨折・要介護状態のリスクと関連します。

サルコペニアに対して最も効果的な介入

サルコペニアに対して、研究で効果がはっきりしているのは専門家の指導のもとで行う筋力トレーニングです。筋力と体の動きやすさの改善が確認されています。

一方、栄養だけの介入については、研究の結果がそろっておらず、まだはっきりしたことは言えません。「栄養さえ摂れば大丈夫」ではなく、運動が土台と考えてください。そのうえで、たんぱく質を十分に摂ることを組み合わせましょう。

「何歳から始めても遅くない」のか

年齢の上限は存在しない

現在の研究では、筋力トレーニングの効果に「ここまで」という年齢の上限は見つかっていません。ただし正確に言うと、これは「98歳の人で効果が確かめられた」という意味ではなく、研究に参加した方の年齢の上限が98歳だったということです。その年齢層を含む集団全体で、筋力と生活動作の改善が確認されています。

ただし「始め方」は調整が必要

年齢に上限がないとはいえ、始め方には配慮が必要です。

状態に応じた始め方
  • 長期間運動していなかった方 — まず生活の中の活動量を増やすところから
  • フレイル状態の方 — 低い負荷から安全に開始し、少しずつ増やす(開始時の負荷設定はリハビリ専門職に相談してください。前掲のCadore et al. 2014では最大筋力の40〜60%で実施)
  • 持病がある方 — かかりつけ医に相談の上、リハビリ専門職の指導のもとで開始
  • 施設入所中の方 — 施設のリハビリプログラムへの参加を検討

家族ができること

ご家族の筋力低下が心配なとき、具体的にできることをまとめます。

ご家庭でできること
  • 「歳だから仕方ない」と言わない: 善意の言葉でも、ご本人のやる気を奪ってしまうことがあります。研究は「仕方なくない」ことを示しています
  • かかりつけ医に相談する: 筋力低下が気になったら、まずかかりつけ医に相談しましょう。必要に応じてリハビリの処方を受けられます
  • 毎食のたんぱく質を意識する: 高齢の方は食事量が減りがちです。肉・魚・卵・大豆製品・乳製品を毎食に取り入れましょう
  • 一緒に体を動かす: 家族と一緒なら続けやすくなります。椅子からの立ち座りを一緒にやる、散歩に付き添うなど、「一緒にやる」ことに大きな価値があります

まとめ

この記事のポイントを振り返ります。

疑問エビデンスの答え
高齢でも筋力は増やせるか?増やせる。平均90歳・9名の小規模研究(1990年 JAMA 掲載)で174%の筋力向上あり
何歳まで効果があるか?効果の年齢上限は確認されていない。研究対象の年齢上限は98歳
どんなトレーニングが必要か?公的ガイドラインは週2〜3日の筋力トレーニング+週3日以上の多要素運動を推奨。軽い運動だけでは不十分
栄養は関係あるか?PROT-AGEは65歳超で1.0〜1.2g/kg/日以上、運動する人は1.2g/kg/日以上を推奨。ただし運動の代わりにはならない
安全か?報告される有害事象の大半は非重篤。ただし有害事象を綿密に記録した研究は少ない
ポイント

「もう歳だから」と諦めなくて大丈夫です。平均90歳の方々の筋力が約3倍になった研究があります(9名の小さな研究ではありますが、方向性を示す大切な結果です)。

大切なのは、かかりつけ医に相談し、専門家の指導を受けながら、毎食しっかりたんぱく質を摂ること。そして何より、ご家族が「一緒にやろう」と声をかけることが、ご本人の大きな力になります。

参考文献・出典

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