この記事のポイント
「もう歳だから筋力が落ちるのは仕方ない」――そう思っている方は多いのではないでしょうか。しかし、科学的な研究は別の答えを示しています。平均年齢90歳の方が8週間のトレーニングで筋力を174%向上させた研究(Fiatarone ら, 1990年)、85歳以上でも65歳と同等の筋力向上を示した研究など、高齢でも筋力増強が可能であることを示すエビデンスは数多くあります。この記事では、それらの研究を整理し、どうすれば高齢でも筋力を増やせるのかを解説します。
「歳だから仕方ない」は本当か
加齢とともに筋肉量と筋力が低下すること自体は、生理学的な事実です。低下は成人期からゆるやかに始まり、50代以降に加速するとされています。
ただし「30歳から年◯%」といった具体的な低下率は、測定指標(筋量か筋力か)・年代区分・測定方法によって大きく変わり、単一の数値として示せるものではありません。本記事では、検証可能な範囲を超える数値は用いないこととします。
しかし、「低下する」ことと「増やせない」ことは別の話です。
研究が示しているのは、筋力の低下は加齢そのものだけでなく、運動不足(不活動)によるところが大きいという事実です。そして適切な条件が揃えば、何歳であっても筋力を向上させることが可能だということです。同じように「常識」をエビデンスから検証した記事として、認知症に脳トレは効果があるのかも参考になります。
歳をとると筋力が落ちること自体は、体の自然な変化です。成人期からゆるやかに減り始め、50代以降にそのペースが速くなるとされています。「何歳から年に何%減る」という数字もよく見かけますが、調べ方によって大きく変わるため、本記事では具体的な数値は示しません。
しかし、「筋力が落ちる」ことと「もう増やせない」ことはまったく別の話です。
研究でわかっているのは、筋力低下の大きな原因は加齢そのものよりも「体を動かさないこと」だということです。正しい条件が揃えば、何歳からでも筋力を取り戻せます。
90歳でも筋力は増える――衝撃の研究
Fiatarone et al.(1990年)――JAMA掲載
この分野で最も有名な研究の一つが、ハーバード大学のFiatarone(フィアタローネ)らによる1990年の研究です。
研究の概要:
- 対象 — 介護施設に入所中のフレイル高齢者10名(うち9名が完遂)。年齢は90±1歳で、96歳までを含む
- 介入 — 高強度の抵抗運動(最大筋力の80%の負荷)を8週間
- 対象筋群 — 大腿四頭筋(太ももの前面)
- 研究デザイン — 対照群を置かない前後比較。規模はきわめて小さい
- 筋力が平均174%±31%向上(約2.7倍)
- 大腿中央部の筋断面積が9.0%±4.5%増加
- タンデム歩行の速度が平均48%改善
平均年齢90歳の方々が、たった8週間で筋力をほぼ3倍にしたのです。この結果は当時、大きな衝撃を与えました。
この数字の読み方
174%という数値は1990年の研究で完遂した9名の前後比較で、対照群はありません。もともと極端に低下していた筋力が出発点であるため、変化率が大きく出やすい点も踏まえる必要があります。「90歳でも筋力は増えうる」という命題を支持する研究ではありますが、効果量そのものを一般化できる規模ではありません。
ハーバード大学の研究チームが1990年に発表した、とても有名な研究があります。
どんな研究だったか:
- 対象は介護施設に入所中の高齢者10名(うち9名が最後まで参加)、平均年齢90歳
- しっかりした負荷の筋力トレーニングを8週間行いました
結果:
- 筋力が平均で約2.7倍に向上しました
- 太ももの筋肉も太くなりました(1990年の研究)(断面積が約9%増加)
- 一直線に足を並べて歩くテストの速さが平均48%改善しました
平均90歳の方々が、たった8週間で筋力をほぼ3倍にしたのです。
ただし、これは9名という非常に少ない人数で、比較のためのグループを置かずに行われた研究です。「90歳でも筋力は増えることがある」という希望を示すものであって、「誰でも3倍になる」という意味ではありません。
Fiatarone et al.(1994年)――NEJM掲載
同じグループが、より大規模な研究を実施しました。
研究の概要:
- 対象 — 介護施設入所のフレイル高齢者100名(女性63名・男性37名)、平均年齢87.1±0.6歳(72〜98歳)。94%が完遂
- 4群比較 — 筋トレ+栄養補給、筋トレのみ、栄養補給のみ、いずれもなし(ランダム化・プラセボ対照)
- 介入 — 10週間の漸進的抵抗運動
結果:
| 指標 | 筋トレ群 | 非筋トレ群 | p値 |
|---|---|---|---|
| 筋力 | +113±8% | +3±9% | <0.001 |
| 歩行速度 | +11.8±3.8% | −1.0±3.8% | 0.02 |
| 階段昇降パワー | +28.4±6.6% | +3.6±6.7% | 0.01 |
| 大腿筋断面積 | +2.7±1.8% | −1.8±2.0% | 0.11(有意差なし) |
注目すべきは、栄養補給はいずれの主要評価項目にも効果を示さなかったという点です。サプリメントを飲むだけでは不十分で、トレーニングが不可欠であることが示されました。一方で筋断面積の増加は有意には至っておらず、10週間という期間では機能面の改善が先行したと読むのが妥当です。
同じ研究チームが、さらに多くの方を対象にした研究を行いました。
- 対象は介護施設の入所者100名、平均年齢87歳(72〜98歳)
- 「筋トレあり」と「筋トレなし」、「栄養補給あり」と「なし」を組み合わせた4つのグループに分けて、10週間の効果を比べました
結果:
| 指標 | 筋トレあり | 筋トレなし |
|---|---|---|
| 筋力 | +113% | +3% |
| 歩く速さ | +11.8% | −1.0% |
| 階段を上る力 | +28.4% | +3.6% |
大切なポイントは、栄養補給だけでは、どの項目にも効果が出なかったということです。体を動かすことが欠かせません。
85歳以上でも、65歳と同じだけ筋力は伸びる
「若い高齢者ならまだしも、85歳を超えたらさすがに無理では?」と思うかもしれません。
しかし、Marzuca-Nassr らが International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism 誌に発表した研究(2024年、オンライン公開は2023年)は、この疑問に一つの答えを出しています。健常な65〜75歳の17名と85歳以上の12名に、全身の抵抗運動を週3回・12週間行ったものです。
研究の結果:
| 指標 | 65〜75歳群(n=17) | 85歳以上群(n=12) |
|---|---|---|
| レッグエクステンション1RM | +38±20% | +46±14% |
| 大腿四頭筋の断面積 | +10±4% | +11±5% |
| 全身除脂肪量 | +2±3% | +2±3% |
数値の上では85歳以上の群のほうが大きく伸びていますが、両群のトレーニング反応に統計的な差は認められませんでした(時間×群の交互作用はいずれも p > 0.60)。SPPBとTUGで測った身体機能も両群で改善し、群間差はありませんでした。
規模の限界
両群あわせて29名の小規模研究であり、対象は健常な高齢者です。フレイルや持病のある方にそのまま当てはまるとは限りません。
また、Cadore らのランダム化比較試験(Age誌、2014年)では、施設入所中のフレイルな90歳代24名(平均91.9±4.1歳)が、筋パワー訓練とバランス・歩行訓練を組み合わせた多要素運動プログラムを週2回・12週間行いました。介入群では TUG(単一課題・二重課題とも)、椅子からの立ち上がり、バランスが有意に改善し、筋パワーと筋力も向上、大腿の筋断面積も増加しました。転倒の発生も減少したと報告されています。一方、対照群では筋力と機能が有意に低下しました。
「85歳を超えたら、さすがにトレーニングしても無理では?」と思うかもしれません。しかし、2024年に発表された研究(お元気な高齢者29名が参加)は、次のような結果を示しています。
| 年齢 | 12週間後の脚の筋力の変化 |
|---|---|
| 65〜75歳(17名) | +38% |
| 85歳以上(12名) | +46% |
数字のうえでは85歳以上のグループのほうが大きく伸びていますが、統計的にみると2つのグループに差はありませんでした。つまり「85歳を超えると効果が落ちる」とはいえない、というのがこの研究の結論です。
ただし参加者は持病のないお元気な方々29名です。フレイルの状態にある方や持病のある方にそのまま当てはまるとは限りません。
2014年に発表された別の研究の報告では、施設で暮らす90歳代の24名が、筋力・バランス・歩行を組み合わせた運動を週2回・12週間続けたところ、立ち上がって歩くテストやバランス、椅子からの立ち上がりが改善し、転倒も減ったと報告されています。同じ期間、運動をしなかったグループでは筋力と体の機能が低下していました。
なぜ高齢でも筋力が増えるのか
神経適応と筋肥大の二段階
筋力の向上には、大きく分けて2つのメカニズムがあります。
第1段階(トレーニング開始〜6週間頃): 神経適応- 運動神経の動員パターンが改善する
- 筋肉への指令の効率が上がる
- 拮抗筋(反対側の筋肉)の不必要な収縮が減る
- 筋肉の量が変わらなくても、使い方が上手くなることで筋力が向上する
- 筋繊維そのものが太くなる
- 高齢者でも、適切な負荷があれば筋繊維の肥大が確認されている
高齢者では特に第1段階の神経適応が大きく、トレーニング初期から機能的な改善が実感しやすいことが特徴です。つまり、筋肉が目に見えて太くなる前から、立ち上がりや歩行が楽になるという変化が起こります。
筋力が上がるしくみには、2つの段階があります。
第1段階(始めてから6週間ほど): 体の使い方が上手になるまず、筋肉への指令が効率よくなり、筋肉の量は変わらなくても力が出やすくなります。高齢者ではこの変化がとくに大きく、トレーニングを始めてすぐに「立ち上がりが楽になった」「歩きやすくなった」と感じる方が多いです。
第2段階(6週間以降): 筋肉が太くなる続けていくと、筋肉そのものが太くなっていきます。高齢の方でも、適切な負荷があれば筋肉の成長が確認されています。
加齢に伴う「同化抵抗性」を乗り越える
高齢者の筋肉は、若い方と比べて「同化抵抗性(アナボリックレジスタンス)」と呼ばれる状態にあります。これは、食事や運動による筋たんぱく質合成の反応が鈍くなっている状態です。
そのため高齢者向けの合意文書(PROT-AGE Study Group, 2013)は、若年成人より多いたんぱく質摂取と、安全に耐えられる範囲での持久性・抵抗性運動の併用を推奨しています。運動と栄養を組み合わせることが、同化抵抗性への現時点での基本的な対応です。
高齢になると、食事や運動で筋肉がつくられる反応が鈍くなります。これを専門的には「同化抵抗性」といいます。
そこで高齢者向けの国際的な合意文書では、若い方より多めのたんぱく質と、無理のない範囲での運動を組み合わせることがすすめられています。
筋力を増やすために必要な4つの条件
エビデンスに基づき、高齢者の筋力増強に必要な条件を整理します。
条件1: 適切な強度の負荷をかける
- 効果的な負荷 — 最大筋力の60〜80%
- フレイル(虚弱)の方 — 20〜30%から開始し、徐々に80%まで増やす
- 機能的改善を重視する場合 — 40〜60%の負荷を速い速度で動かす「パワートレーニング」が有効
散歩や軽い体操だけでは、筋力向上に必要な負荷に達しません。「きつい」と感じる程度の抵抗運動が必要です。
散歩や軽い体操は健康によいですが、それだけでは筋力を増やすには足りません。「少しきつい」と感じる程度の運動が必要です。フレイル(体が弱っている)状態の方でも、軽い負荷から始めて少しずつ増やしていくことで効果が出ます。
条件2: 週2〜3回の頻度で継続する
公的ガイドラインの推奨は、次のとおりです。
- 成人は、主要な筋群すべてを使う筋力強化活動を、中強度以上で週2日以上(強い推奨)
- 65歳以上は、これに加えて、機能的バランスと筋力トレーニングを重視した多要素の身体活動を、中強度以上で週3日以上(強い推奨)
- 高齢者は、筋力トレーニングを週2〜3日
- 高齢者は、筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上
- 胸・背中・上肢・腹・臀部・下肢などの大きな筋群に負荷がかかるよう、全身をまんべんなく
セット数・反復回数・種目数について具体的な数値を示す一般向け情報が流通していますが、上記の公的ガイドラインはそこまでは規定していません。個別の処方はリハビリテーション専門職に相談してください。
厚生労働省の参考資料には「筋肉は年齢に関係なく鍛えることができます」と明記されています。
条件3: 十分なたんぱく質を摂取する
高齢者の筋たんぱく質合成には、若い方よりも多くのたんぱく質が必要です。
PROT-AGE Study Group(2013年)の推奨は次のとおりです。
| 対象 | 1日のたんぱく質摂取量 |
|---|---|
| 65歳超の高齢者(除脂肪体重と機能の維持・回復) | 少なくとも 1.0〜1.2 g/kg体重/日 |
| 運動している・活動的な高齢者 | 1.2 g/kg体重/日以上 |
| 急性・慢性疾患のある高齢者 | 1.2〜1.5 g/kg体重/日 |
| 重度の腎機能低下(eGFR <30、非透析) | 例外。制限が必要な場合がある |
なお同文書は、たんぱく質の質・摂取タイミング・他のサプリメントについては「具体的な推奨を出すにはエビデンスが不十分」としています。「1食◯g」「ロイシン◯g」といった数値が流通していますが、確立した推奨値ではありません。
サルコペニアの系統的レビュー(Cruz-Jentoft et al., 2014)では、ロイシン約2.5gを含む必須アミノ酸(EAA)やHMBの補給が筋量・筋機能の指標に一定の効果を示した一方、たんぱく質サプリメント単独では一貫した利得が確認されていません。
たんぱく質を含む食品: 肉、魚、卵、牛乳・乳製品、大豆製品
高齢の方が筋肉をつくるには、若い方よりも多くのたんぱく質が必要です。
国際的な合意文書(PROT-AGE、2013年)の目安は次のとおりです。
- 65歳を超えた方: 体重1kgあたり少なくとも1.0〜1.2g(体重60kgなら60〜72g)
- 運動をしている方: 体重1kgあたり1.2g以上
- 腎臓の働きが大きく低下している方: 制限が必要な場合があるので、必ず主治医にご確認ください
「1食あたり何g」という数値もよく紹介されますが、これは確立した推奨値ではありません。まずは毎食にたんぱく源を1品入れることから始めるとよいでしょう。
- 朝食: 卵、ヨーグルト、牛乳、納豆を加える
- 昼食: 肉や魚をメインのおかずにする
- 夕食: 豆腐や魚を一品添える
- おやつ: チーズやヨーグルトなど乳製品を選ぶ
条件4: 安全な環境と専門家の指導
高齢者の運動は、適切に行えば安全性が高いと考えられています。
地域在住高齢者を対象とした運動介入のコクランレビュー(Sherrington et al., 2019。108件のRCT・23,407名)では、有害事象を報告した27試験(6,019名)のうち14試験が「有害事象なし」と報告し、1試験で報告された2件の重篤な事象(骨盤の疲労骨折1件、鼠径ヘルニアの手術1件)を除けば、報告されたものの大半は筋骨格系の非重篤な事象でした。
安全性データの限界
同レビューは、有害事象が介入群と対照群の両方で綿密にモニタリングされていた試験は1件のみだったとも述べています。「有害事象の報告が少ない」ことと「有害事象が起きていない」ことは同じではありません。また、この数値は転倒予防を目的とした運動介入のもので、高強度の抵抗運動に限定した安全性データではありません。
安全に行うためには以下が重要です。
- 医師の確認: 心疾患や整形外科的な問題がある場合は事前に相談
- 専門家の指導: 理学療法士・作業療法士・トレーナーなどによるフォームの確認
- 段階的な負荷増加: 急に重い負荷をかけない
- 個別プログラム: 一人ひとりの状態に合わせた運動の選択
「高齢者に筋トレは危険では?」と心配される方もいますが、23,000名以上が参加した運動介入の研究をまとめたレビューでは、報告された問題の大半は筋肉や関節の軽いもので、重いものはごくわずかでした。ただし「有害な出来事をきちんと記録していた研究が少ない」という限界もあります。安全とはいえ、次の点は守ってください。
ただし、安全のためにはいくつかの条件があります。
- かかりつけ医に相談してから始めること
- 作業療法士や理学療法士など専門家の指導を受けること
- 少しずつ負荷を増やすこと(最初から無理をしない)
サルコペニアとの関係
サルコペニアとは
加齢に伴う筋肉量と筋力の低下が一定以上進んだ状態を「サルコペニア」と呼びます。
- 地域在住 — 1〜29%
- 長期ケア施設 — 14〜33%
- 急性期病院 — 10%(検討された研究は1件のみ)
- 幅が広い理由 — 地域差・年齢構成の違いに加え、用いる診断基準(EWGSOP/EWGSOP2/AWGS等)と測定法の違いによる。単一の数値として扱えない
上記は Cruz-Jentoft ら(2014年)が、EWGSOP基準を用いた2000〜2013年の研究をまとめた値です。サルコペニアは転倒・骨折・要介護状態のリスクと関連することが知られています。
筋力低下が食事・入浴・移動といった生活動作にどう影響するかは、ADLとIADLの違いで詳しく解説しています。
サルコペニアとは、加齢により筋肉の量と力が大きく低下した状態のことです。2014年に発表された研究のまとめ(Cruz-Jentoft らの報告)では、地域で暮らす高齢者の1〜29%、施設で暮らす高齢者の14〜33%にあたるとされています。幅が広いのは、調べ方や診断の基準が研究ごとに違うためです。サルコペニアは転倒・骨折・要介護状態のリスクと関連します。
サルコペニアに対して最も効果的な介入
Cruz-Jentoft らの系統的レビュー(2014年)は、サルコペニアに対する介入について次のように結論しています。
- 運動介入は筋力と身体パフォーマンスを改善する(中程度の質のエビデンス)
- 栄養介入の結果は一貫しない。研究数が少なく、デザインも不均一なため結論を出せない
- ロイシン約2.5gを含む必須アミノ酸(EAA)とHMBの補給は、筋量・筋機能の指標に一定の効果を示した
- たんぱく質サプリメント単独では、筋量・筋機能に一貫した利得は確認されていない
- サルコペニアのある人には、監督下での抵抗運動が推奨される
つまり現時点で確実性が相対的に高いのは運動、とりわけ監督下の抵抗運動です。栄養は運動を置き換えるものではなく、組み合わせて考えるべき要素と位置づけられます。
サルコペニアに対して、研究で効果がはっきりしているのは専門家の指導のもとで行う筋力トレーニングです。筋力と体の動きやすさの改善が確認されています。
一方、栄養だけの介入については、研究の結果がそろっておらず、まだはっきりしたことは言えません。「栄養さえ摂れば大丈夫」ではなく、運動が土台と考えてください。そのうえで、たんぱく質を十分に摂ることを組み合わせましょう。
「何歳から始めても遅くない」のか
年齢の上限は存在しない
現在の研究では、筋力トレーニングの効果に年齢の上限は確認されていません。
- 対象年齢の上限が98歳の研究でも、施設入所者の筋力と機能が改善した(Fiatarone et al., 1994。対象年齢は72〜98歳)
- 85歳以上の群と65〜75歳の群でトレーニング反応に統計的な差がなかった(Marzuca-Nassr et al., 2024)
- 平均91.9歳のフレイル高齢者でも、多要素運動で機能とパワーが改善した(Cadore et al., 2014)
- 厚生労働省の身体活動・運動ガイド2023も「筋肉は年齢に関係なく鍛えることができます」と明記している
現在の研究では、筋力トレーニングの効果に「ここまで」という年齢の上限は見つかっていません。ただし正確に言うと、これは「98歳の人で効果が確かめられた」という意味ではなく、研究に参加した方の年齢の上限が98歳だったということです。その年齢層を含む集団全体で、筋力と生活動作の改善が確認されています。
ただし「始め方」は調整が必要
年齢に上限がないとはいえ、始め方には配慮が必要です。
- 長期間運動していなかった方 — まず生活の中の活動量を増やすところから
- フレイル状態の方 — 低い負荷から安全に開始し、少しずつ増やす(開始時の負荷設定はリハビリ専門職に相談してください。前掲のCadore et al. 2014では最大筋力の40〜60%で実施)
- 持病がある方 — かかりつけ医に相談の上、リハビリ専門職の指導のもとで開始
- 施設入所中の方 — 施設のリハビリプログラムへの参加を検討
家族ができること
ご家族の筋力低下が心配な方へ、具体的にできることを整理します。
「歳だから仕方ない」と言わないこの言葉は善意から出ることが多いですが、本人の意欲を奪ってしまう可能性があります。エビデンスは「仕方なくない」ことを示しています。
かかりつけ医に相談する筋力低下が気になる場合、まずはかかりつけ医に相談しましょう。必要に応じて、リハビリテーション(理学療法・作業療法)の処方を受けることができます。作業療法がどのようなリハビリなのかは作業療法とは何かで詳しく解説しています。
日常の食事を見直す高齢者は食事量が減りがちで、特にたんぱく質が不足しやすい傾向があります。毎食に肉・魚・卵・大豆製品・乳製品などのたんぱく源を含めることを意識しましょう。
一緒に体を動かす家族と一緒に行うことで、運動の継続率は大幅に上がります。椅子からの立ち座りを一緒にやる、散歩に付き添うなど、「一緒にやる」こと自体に価値があります。
ご家族の筋力低下が心配なとき、具体的にできることをまとめます。
- 「歳だから仕方ない」と言わない: 善意の言葉でも、ご本人のやる気を奪ってしまうことがあります。研究は「仕方なくない」ことを示しています
- かかりつけ医に相談する: 筋力低下が気になったら、まずかかりつけ医に相談しましょう。必要に応じてリハビリの処方を受けられます
- 毎食のたんぱく質を意識する: 高齢の方は食事量が減りがちです。肉・魚・卵・大豆製品・乳製品を毎食に取り入れましょう
- 一緒に体を動かす: 家族と一緒なら続けやすくなります。椅子からの立ち座りを一緒にやる、散歩に付き添うなど、「一緒にやる」ことに大きな価値があります
まとめ
この記事のポイントを振り返ります。
| 疑問 | エビデンスの答え |
|---|---|
| 高齢でも筋力は増やせるか? | 増やせる。平均90歳・9名の小規模研究(1990年 JAMA 掲載)で174%の筋力向上あり |
| 何歳まで効果があるか? | 効果の年齢上限は確認されていない。研究対象の年齢上限は98歳 |
| どんなトレーニングが必要か? | 公的ガイドラインは週2〜3日の筋力トレーニング+週3日以上の多要素運動を推奨。軽い運動だけでは不十分 |
| 栄養は関係あるか? | PROT-AGEは65歳超で1.0〜1.2g/kg/日以上、運動する人は1.2g/kg/日以上を推奨。ただし運動の代わりにはならない |
| 安全か? | 報告される有害事象の大半は非重篤。ただし有害事象を綿密に記録した研究は少ない |
「高齢だから仕方ない」と諦める必要はありません。適切な負荷のトレーニング、十分なたんぱく質、専門家の指導――この3つの条件が揃えば、何歳であっても筋力を取り戻す可能性は開かれています。
大切なのは、今の体力に合った形で、無理なく、でも「少しきつい」と感じるレベルで始めることです。その一歩が、これからの生活の質を大きく変えるかもしれません。
「もう歳だから」と諦めなくて大丈夫です。平均90歳の方々の筋力が約3倍になった研究があります(9名の小さな研究ではありますが、方向性を示す大切な結果です)。
大切なのは、かかりつけ医に相談し、専門家の指導を受けながら、毎食しっかりたんぱく質を摂ること。そして何より、ご家族が「一緒にやろう」と声をかけることが、ご本人の大きな力になります。
- Fiatarone MA, Marks EC, Ryan ND, Meredith CN, Lipsitz LA, Evans WJ. High-intensity strength training in nonagenarians. Effects on skeletal muscle. JAMA. 1990;263(22):3029-3034.(平均90歳・完遂9名。筋力+174%、筋断面積+9.0%、タンデム歩行速度+48%)
- Fiatarone MA, O'Neill EF, Ryan ND, et al. Exercise training and nutritional supplementation for physical frailty in very elderly people. New England Journal of Medicine. 1994;330(25):1769-1775.(100名・平均87.1歳・72〜98歳。筋力+113%、栄養補給単独は無効)
- Marzuca-Nassr GN, et al. Muscle Mass and Strength Gains Following Resistance Exercise Training in Older Adults 65-75 Years and Older Adults Above 85 Years. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism. 2024;34(1):11-19.(65-75歳17名と85歳以上12名でトレーニング反応に差なし)
- Cadore EL, et al. Multicomponent exercises including muscle power training enhance muscle mass, power output, and functional outcomes in institutionalized frail nonagenarians. Age (Dordrecht). 2014;36(2):773-785.(平均91.9歳・24名のRCT)
- Sherrington C, et al. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2019;1:CD012424.(有害事象の記述。108件のRCT・23,407名)
- Cruz-Jentoft AJ, et al. Prevalence of and interventions for sarcopenia in ageing adults: a systematic review. Report of the International Sarcopenia Initiative (EWGSOP and IWGS). Age and Ageing. 2014;43(6):748-759.(有病率と介入エビデンス)
- Bauer J, et al. Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group. Journal of the American Medical Directors Association. 2013;14(8):542-559.(高齢者のたんぱく質推奨量)
- World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 2020.(成人は週2日以上の筋力強化活動、65歳以上は週3日以上の多要素運動)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」高齢者版 推奨事項(筋力トレーニングを週2〜3日、多要素な運動を週3日以上)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」参考資料「筋力トレーニングについて」(大きな筋群を全身まんべんなく/筋肉は年齢に関係なく鍛えられる)
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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