この記事のポイント
- 通所リハビリテーションは、一定の要件を満たせば事業所の屋外でリハビリを実施できます
- 施設外リハビリの実施には、リハビリテーション計画への位置づけ、安全管理体制の確保、常時付き添い体制が求められます
- 買い物訓練、公共交通機関の利用訓練、自宅での動作確認など、「生活の場」での実践が利用者の社会参加を大きく後押しします
- 生活行為向上リハビリテーション実施加算や移行支援加算など、施設外リハビリを支える制度的な枠組みも整備されています
- 作業療法士は「活動」と「参加」の専門職として、施設外リハビリの中心的な担い手です
はじめに── なぜ施設の外に出る必要があるのか
通所リハビリテーション(デイケア)で働くセラピストの多くは、日々、施設内の訓練室やフロアでリハビリを提供しています。平行棒での歩行訓練、マット上での起居動作練習、テーブルでの上肢機能訓練──どれも重要な介入です。
しかし、ふとこんな疑問を感じたことはないでしょうか。
「この方は訓練室では歩けるのに、なぜ外出できないのだろう?」訓練室の平坦な床と、近所のスーパーまでの道のりは、まったく別物です。段差、傾斜、人混み、信号のタイミング、天候──実際の生活環境には、訓練室では再現できない無数の要因があります。
施設外リハビリテーションとは、利用者が実際に生活する場・活動する場に出向いて行うリハビリのことです。施設の中だけでは見えなかった課題を発見し、「できる活動」を「している活動」に変えるための実践です。
施設外リハビリの制度的根拠
通所リハビリテーションでの屋外実施
通所リハビリテーションは、一定の条件のもとで事業所の屋外でのサービス提供が認められています。これは厚生労働省の通知(平成27年度介護報酬改定関連通知等)で示されています。
屋外でのリハビリが認められるための主な要件は以下の通りです。
- リハビリテーション計画に、施設外でのリハビリテーションの実施が明確に位置づけられていること
- あらかじめ利用者(必要に応じて家族)に対して、施設外でのリハビリの目的・内容・リスクを説明し、同意を得ていること
- サービス提供場所との往復を含め、常時従事者が付き添うこと
- 必要に応じて速やかに当該事業所に連絡・搬送できる体制を確保すること
- 安全性に十分配慮した計画・実施であること
つまり、「計画に基づいている」「安全管理ができている」「利用者の同意がある」という3条件を満たせば、買い物訓練、公共交通機関の利用訓練、自宅での動作確認などを通所リハビリのサービスとして実施できるのです。
生活行為向上リハビリテーション実施加算
施設外リハビリを制度的に後押しする仕組みとして、生活行為向上リハビリテーション実施加算があります。
この加算の特徴は以下の点です。
- 作業療法士が中心的な役割を担うことが想定されています。「生活行為の内容の充実を図るための専門的な知識を有する作業療法士」の配置が要件です(理学療法士・言語聴覚士は所定の研修修了で可)
- 居宅訪問による評価が要件に含まれています。医師または医師の指示を受けたセラピストが利用者の居宅を訪問し、生活行為に関する評価をおおむね1か月に1回以上実施します
- 生活行為の目標、実施頻度、実施場所、実施時間を定めたリハビリテーション実施計画を作成し、同意を得た上で実施します
この加算は、まさに「施設の中で機能を改善する」から「生活の場で活動を実現する」への転換を促す仕組みです。
移行支援加算
もう一つの重要な加算が移行支援加算(旧・社会参加支援加算)です。
移行支援加算は、リハビリテーションを通じて利用者のADLやIADLが向上し、通所介護や地域活動など他のサービス・活動へ移行できた場合に算定できます。
これは、通所リハビリテーションの本来の役割が「リハビリが必要な間の支援」であり、最終的には利用者がより自立した形で社会参加できるようになることを目指すべきだという考え方に基づいています。
施設外リハビリは、この移行を実現するための重要な手段です。
施設外リハビリの具体的な実践例
ここからは、実際の臨床で取り組める施設外リハビリの具体例を紹介します。
1. 買い物訓練
対象となる方:「一人で買い物に行きたい」「自分で食材を選びたい」という希望がある方
訓練の流れ事前準備として、施設内で以下の練習を行います。
- 財布からお金を出す・しまう動作の練習
- 買い物メモの作成
- エコバッグへの商品の入れ方
- 屋内歩行の安全確認
施設外実施では、近隣のスーパーマーケットやコンビニエンスストアで実際に買い物を行います。
- 施設から店舗までの移動(歩行、車椅子、杖歩行など)
- 店内での移動と商品選択
- レジでの会計
- 商品の持ち帰り
OTの視点:買い物は「歩行能力」だけでは完結しません。商品を見つけるための視覚的探索、価格を比較するための計算能力、レジで順番を待つための社会的スキル、カゴを持ちながら歩く二重課題──複合的な能力が求められるIADLです。施設内では評価しきれないこれらの要素を、実際の場面で確認・支援できることが施設外リハビリの強みです。
2. 公共交通機関の利用訓練
対象となる方:「バスに乗って通院したい」「電車で孫に会いに行きたい」という希望がある方
訓練の流れ- バス停や駅までの経路確認(段差、横断歩道、信号の位置)
- 時刻表の読み方、ICカードの使い方
- 乗降時の動作(ステップの昇降、手すりの把持、着席)
- 車内での姿勢保持(揺れへの対応)
- 目的地での降車判断
OTの視点:公共交通機関の利用には、時間管理(発車時刻に間に合うように準備する)、空間認知(路線図を理解する)、社会的判断(混雑時の対応)など、高次な認知機能が関わります。特に高次脳機能障害のある方にとっては、施設内の机上課題では見えない困難が顕在化する場面です。
3. 自宅での動作確認・環境評価
対象となる方:自宅での生活動作に不安がある方、退院後の環境調整が必要な方
実施内容- 玄関の上がりかまち動作の確認
- トイレ・浴室での動作確認
- キッチンでの調理動作の確認
- 寝室でのベッド周り動作の確認
- 生活動線の安全確認
- 手すりの設置位置の検討
- 福祉用具の適合確認
OTの視点:施設内で「トイレ動作自立」と評価していても、自宅のトイレは狭くて手すりの位置が違うということは珍しくありません。「できる活動」と「している活動」の乖離を埋めるためには、実際の生活環境での評価が不可欠です。生活行為向上リハビリテーション実施加算では、この居宅訪問評価がおおむね月1回以上求められています。
4. 地域資源の利用支援
対象となる方:通所リハビリからの卒業(移行)を視野に入れている方
実施内容- 地域の通いの場(体操教室、サロンなど)への同行・体験
- 地域のスポーツ施設やプールの利用体験
- 趣味活動(図書館、文化センターなど)への同行
- 町内会やボランティア活動への参加支援
OTの視点:移行支援加算の算定要件にもあるように、通所リハビリの最終目標は「リハビリを続けること」ではなく、地域での生活に戻ることです。利用者が「ここなら一人で来られそう」と思える場所を一緒に見つけることが、移行支援の本質です。
5. 就労・復職に向けた訓練
対象となる方:復職や就労を目指している方
実施内容- 通勤経路の確認と移動訓練
- 職場環境の確認と動作シミュレーション
- 職場での必要動作の評価(パソコン操作、書類整理、電話応対など)
- 段階的な職場復帰プログラムへの同行
OTの視点:就労支援は作業療法士の専門性が最も活きる領域の一つです。「仕事ができるかどうか」は訓練室ではわかりません。実際の職場環境で、どのような合理的配慮があれば業務遂行が可能になるかを具体的に提案できることが、作業療法士の強みです。
施設外リハビリの安全管理
施設外リハビリは大きな可能性を持つ一方で、安全管理が極めて重要です。
事前のリスクアセスメント
施設外リハビリを実施する前に、以下の点を評価・確認します。
- 身体機能面:屋外歩行に必要な体力・持久力があるか、バランス能力は十分か
- 認知機能面:指示の理解、危険の認識、判断力に問題はないか
- 医学的リスク:心疾患、てんかん、転倒リスクの高い疾患など、屋外活動に際して特別な注意が必要な疾患がないか
- 環境面:目的地までの経路に急な坂道、交通量の多い交差点、トイレの有無など
実施時の安全対策
- 常時付き添い:利用者から離れず、必要に応じてすぐに支援できる位置にいること
- 連絡体制:携帯電話等で事業所と常時連絡が取れる状態を維持すること
- 緊急時の対応手順:急変時の搬送手順、最寄りの医療機関の把握
- 天候への配慮:猛暑、厳寒、雨天など、体調に影響を与える気象条件への対応策
- 保険の確認:施設外での事故に対する保険適用範囲の確認
記録と報告
- 施設外リハビリの実施日時、場所、内容、付き添い者を記録する
- 実施中の利用者の様子(バイタル、疲労度、達成状況)を記録する
- ヒヤリハット・インシデントがあった場合は速やかに報告・記録する
施設外リハビリを始めるための5ステップ
「やってみたいが、どこから始めればいいかわからない」という方のために、施設外リハビリを始めるための手順を整理します。
ステップ1:対象者の選定
まずは、以下のような方を候補に挙げます。
- リハビリ計画の中で「社会参加」「IADL」に関する目標がある方
- 施設内の評価では「できる活動」が増えているのに、生活での「している活動」が変わっていない方
- ご本人から「外出したい」「買い物に行きたい」などの希望がある方
- 通所リハビリからの卒業(移行)を検討している方
ステップ2:リハビリテーション計画への位置づけ
施設外リハビリを実施するには、リハビリテーション計画に明確に位置づける必要があります。
- 目標:何のために施設外で行うのか(例:「近所のスーパーまで一人で買い物ができる」)
- 内容:具体的に何をするのか(例:「スーパーまでの歩行訓練と買い物動作の確認」)
- 頻度・期間:どのくらいの頻度で、いつまで実施するのか
- リスク管理:想定されるリスクとその対策
ステップ3:本人・家族への説明と同意
施設外リハビリの目的、内容、予想されるリスク、中止基準を説明し、書面で同意を得ます。ご家族にも事前に説明しておくことが重要です。
ステップ4:リハビリテーション会議での共有
多職種カンファレンスで施設外リハビリの計画を共有し、医師の指示を得ます。看護師からは医学的なリスク管理、介護福祉士からは日頃の生活状況など、多職種の視点を集めます。
ステップ5:段階的な実施
最初から遠くに出かける必要はありません。段階的に進めます。
- 第1段階:施設の敷地内(駐車場、中庭など)での屋外歩行
- 第2段階:施設周辺の短距離歩行(近くのコンビニまでなど)
- 第3段階:目的のある外出(スーパーでの買い物、公園での散歩など)
- 第4段階:公共交通機関の利用、複合的なIADL訓練
施設外リハビリが変えるもの
施設外リハビリを実施した現場からは、しばしばこんな声が聞かれます。
「訓練室では見えなかったこの方の力が見えた」スーパーで慣れた手つきで野菜を選ぶ姿、バスの中で隣の乗客に自然に挨拶する姿──施設内では「受け身」に見えていた方が、生活の場に出ると主体的に動き始めることがあります。
同時に、施設内では見えなかった困難も明らかになります。訓練室では問題なく歩けるのに、スーパーの陳列棚の間を通るときに壁にぶつかる(半側空間無視)。計算ドリルは解けるのに、レジで小銭を出すのに時間がかかる(実行機能障害)。
「見えなかった力」と「見えなかった困難」の両方が見えること。これが施設外リハビリの最大の価値です。
そしてこれは、ICFの視点で言えば、「心身機能」レベルの評価から「活動」「参加」レベルの評価・介入への転換に他なりません。
おわりに── 「その人の生活」に足を踏み入れる覚悟
施設外リハビリは、制度的にもエビデンス的にも推奨されている実践です。しかし、実際に取り組んでいる事業所はまだ限られています。
理由はさまざまでしょう。人員配置の問題、安全管理への不安、「前例がない」という組織文化──いずれも理解できる障壁です。
しかし、リハビリテーションの目的が「その人の生活を支えること」であるならば、その人の生活の場に足を踏み入れることは避けて通れません。
訓練室でどれだけ機能が改善しても、それが生活に反映されなければ、利用者にとっての意味は限られます。逆に、たった一度の買い物訓練で「自分でできるんだ」という実感を得た方が、その後の生活を大きく変えていくこともあります。
施設外リハビリは、特別なことではありません。作業療法の本質──「その人にとって意味のある作業を、その人の生活の中で実現する」──を忠実に実践することに他ならないのです。
まずは一人の利用者の「やりたいこと」に耳を傾けるところから、始めてみませんか。