この記事のポイント
- ハンドセラピーは手・手関節・前腕の疾患やケガに対する専門的リハビリテーション領域
- 対象疾患は骨折、腱損傷、末梢神経損傷、腱鞘炎など多岐にわたり、作業療法士はスプリント作製・ROM訓練・浮腫管理・ADL訓練を包括的に実施
- 回復過程を理解し、時期に応じた適切な介入とセルフケアを組み合わせることが早期の社会復帰につながる
ハンドセラピーとは何か
ハンドセラピー(Hand Therapy)は、手・手関節・前腕の疾患や外傷に対して行われる専門的なリハビリテーションです。OTや理学療法士が担当しますが、「日常生活で手を使う動作」への復帰を最終目標とする点で、OTの関与が特に重要とされています。
米国ハンドセラピスト学会(ASHT)は、ハンドセラピーを「上肢の急性・慢性疾患に対し、科学的根拠に基づく評価と治療を行う専門領域」と定義しています(ASHT, 2023)。日本でも日本ハンドセラピィ学会が学術活動を推進しており、整形外科・手の外科領域でOTの専門性が発揮される分野です。作業療法士という専門職の全体像については、作業療法とは何かで詳しく解説しています。
全骨折に占める手指骨折の割合
手の骨の数(全身の約1/4)
多くの手外傷の標準回復期間
ハンドセラピーとは、手のケガや病気に対する専門的なリハビリのことです。作業療法士が中心となって行います。
手は小さいながらも骨が28本もあり、腱や神経が密集しています。そのため、わずかなケガでも日常生活に大きな支障が出ることがあります。回復期間は多くの場合3〜6か月程度ですが、ケガの種類によって異なります。
ハンドセラピーの主な対象疾患
手は小さな構造の中に骨・腱・神経・血管が密集しています。そのため、わずかな損傷でも日常生活に大きな支障をきたします。ハンドセラピーの代表的な対象疾患を整理します。
骨折(橈骨遠位端骨折・中手骨骨折・指骨骨折)
転倒時に手をつくことで生じる橈骨遠位端骨折は、高齢者に最も多い上肢骨折の一つです。ギプスや手術後の固定期間に関節が拘縮しやすく、早期からのリハビリテーションが重要です。Handoll & Elliott(2015)のコクランレビューでは、橈骨遠位端骨折後のリハビリテーション介入が機能回復を促進することが示されています。
腱損傷(屈筋腱損傷・伸筋腱損傷)
刃物や機械によるケガで腱が断裂すると、指の曲げ伸ばしができなくなります。特に屈筋腱損傷は「ノーマンズランド(zone II)」と呼ばれる指の付け根付近の損傷では癒着リスクが高く、手術後のプロトコル管理が回復を左右します。Stricklandのプロトコルをはじめとした早期運動療法が現在の標準治療です(Tang, 2018)。
末梢神経損傷(正中神経・尺骨神経・橈骨神経)
手の感覚や運動を司る末梢神経が損傷すると、しびれ・筋力低下・巧緻動作の障害が生じます。神経再生は1日約1mmと極めてゆっくり進むため、長期的な視点でのリハビリテーションが必要です。回復を待つ間の代償的動作訓練や、感覚再教育プログラムも重要な介入です(Novak & von der Heyde, 2015)。
腱鞘炎(ドケルバン病・ばね指)
反復的な手の動作により腱鞘に炎症が起こる疾患です。ドケルバン病は母指の使いすぎが原因で、育児中の方やスマートフォンの過度な使用者に多くみられます。ばね指は指の付け根の腱鞘が肥厚し、引っかかり感やロッキングが生じます。保存療法としてのスプリントと活動修正が第一選択です(Peters-Veluthamaningal et al., 2009)。
その他の対象疾患
上記のほか、手根管症候群、デュピュイトラン拘縮、熱傷後の瘢痕拘縮、関節リウマチによる手指変形、CRPS(複合性局所疼痛症候群)なども、ハンドセラピーの重要な対象疾患です。
手のリハビリが必要になる主なケガ・病気は次のとおりです。
- 骨折:転倒で手をついたときの手首の骨折(橈骨遠位端骨折)が多いです。ギプスや手術の後、関節が固くなりやすいため早めのリハビリが大切です
- 腱の損傷:刃物などで指の腱が切れると、指の曲げ伸ばしができなくなります。手術後の管理が回復を大きく左右します
- 神経の損傷:しびれや力の入りにくさが出ます。神経の回復は1日約1mmととてもゆっくりで、長い目で見たリハビリが必要です
- 腱鞘炎:手の使いすぎで腱に炎症が起こります。安静とスプリント(固定する装具)が基本です
作業療法士の介入内容
ハンドセラピーにおけるOTの介入は多岐にわたります。ここでは代表的な4つの柱を紹介します。
ROM訓練(関節可動域訓練)
拘縮の予防・改善を目的に、他動的・自動的な関節運動を段階的に実施します。組織の治癒段階に応じた負荷設定が鍵です。
スプリント作製・管理
熱可塑性素材を用いて患部を保護・固定するスプリントを個別に作製。治癒段階に合わせて動的スプリントへ移行します。
浮腫管理
術後や外傷後の浮腫は拘縮の原因となります。挙上、圧迫療法、逆行性マッサージなどを組み合わせて早期に対応します。
ADL訓練
実際の生活場面を想定し、箸操作・書字・ボタン留めなどの巧緻動作から家事動作まで段階的に訓練します。
ROM訓練の実際
ROM訓練は、組織の治癒段階を考慮しながら進めることが重要です。たとえば屈筋腱縫合術後であれば、術後早期は保護された範囲での受動運動から開始し、4〜6週で自動運動へ、6〜8週で抵抗運動へと段階的に進めます。
OTは、ゴニオメーターを用いて関節角度を定量的に評価し、治療効果を客観的に記録します。Total Active Motion(TAM)という指標では、指のMP・PIP・DIP関節の自動屈曲角度の合計から伸展制限の合計を引いた値で、手指機能の回復度を判定します。
スプリントの種類と役割
スプリント療法は、ハンドセラピーを象徴する介入技術の一つです。OTは患者の手に合わせて熱可塑性素材を成形し、以下のような目的で使用します。
| 種類 | 目的 | 適応例 |
|---|---|---|
| 静的スプリント | 安静・保護・固定 | 骨折後の保護、腱鞘炎の安静 |
| 動的スプリント | 持続的な牽引で拘縮を改善 | 屈筋腱損傷後のクライナートスプリント |
| 静的漸進スプリント | 段階的に関節角度を増大 | PIP関節の屈曲拘縮 |
スプリントは一度作製して終わりではなく、組織の回復に合わせて調整や再作製を繰り返すのが特徴です。適切なフィッティングがなされないと、圧迫による皮膚障害や拘縮の悪化を招くため、専門的な知識と技術が求められます。
浮腫管理のエビデンス
術後や外傷後の浮腫(むくみ)は、放置すると線維化し関節拘縮の原因になります。Villeco(2012)は、浮腫管理の包括的なレビューで以下の介入の有効性を報告しています。
- 挙上:心臓より高い位置に手を保持(最も基本的かつ重要)
- 圧迫療法:コバンラップや圧迫グローブの使用
- 逆行性マッサージ:指先から手首方向へリンパ液の還流を促進
- 能動的な手指運動:筋ポンプ作用による静脈還流の促進
手の浮腫管理は、ハンドセラピーにおける最初の一歩です。浮腫を制御できなければ、どれほど優れた運動療法も効果を発揮しません。
— Villeco, 2012(要約)
作業療法士が行う手のリハビリには、主に4つの内容があります。
- 関節を動かす練習:固くなった関節を少しずつ動かせるようにします
- スプリント(装具)の作製:手に合わせて個別に作る固定具で、保護や関節の改善に使います
- むくみの管理:手を心臓より高い位置に保つ、圧迫する包帯を巻くなどして、むくみを減らします
- 日常生活の動作練習:箸を使う、ボタンを留める、字を書くなどの練習を段階的に行います
回復過程の目安
手のケガの回復は、損傷の種類と重症度によって大きく異なります。以下はあくまで一般的な目安ですが、治療計画の見通しを立てるために知っておくと有用です。
炎症期(受傷〜2週間)
- 1組織の炎症反応と修復開始
- 2安静・固定・浮腫管理が中心
- 3保護された範囲での受動運動開始
増殖期(2〜6週間)
- 4コラーゲン産生による組織修復が進行
- 5スプリント装着下での自動運動を段階的に開始
- 6瘢痕管理(シリコンシート・マッサージ)
成熟期(6週間〜6ヶ月以上)
- 7組織のリモデリングが進み強度が増す
- 8抵抗運動・筋力強化訓練を本格化
- 9ADL訓練・復職支援を並行して実施
- 10必要に応じて動的スプリントで拘縮対策
回復期間には個人差があります
喫煙、糖尿病、高齢などの要因は組織の治癒を遅延させます。また、同じ骨折でも固定方法(ギプス or 手術)や受傷機転によって回復の経過は異なります。主治医とOTの指示に従い、焦らず段階的に進めることが大切です。
疾患別の回復期間の目安
| 疾患 | 日常生活復帰の目安 | 完全回復の目安 |
|---|---|---|
| 橈骨遠位端骨折 | 6〜8週 | 3〜6ヶ月 |
| 屈筋腱損傷(zone II) | 8〜12週 | 4〜6ヶ月 |
| 末梢神経損傷 | 損傷部位による | 6ヶ月〜2年以上 |
| 腱鞘炎(保存療法) | 2〜4週 | 1〜3ヶ月 |
手のケガの回復には時間がかかります。焦らないことが大切です。
- 最初の2週間:炎症を抑え、安静にする時期。むくみのケアが重要
- 2〜6週間:少しずつ指を動かす練習を始めます。スプリントを付けながら行います
- 6週間以降:筋力の回復訓練や日常生活の動作練習を本格的に始めます
回復の目安は、手首の骨折で3〜6か月、腱の損傷で4〜6か月、神経の損傷は半年〜2年以上かかることもあります。
自宅でできるセルフケア
OTによるリハビリテーションは週に数回の通院が基本ですが、自宅でのセルフケアの質が回復速度を大きく左右します。以下に、OTが臨床場面で患者に指導する代表的なセルフケアを紹介します。
1. 処方された運動の継続
OTが指導した自主訓練メニューを、指定された回数と頻度で行います。特に重要なポイントは以下のとおりです。
- 痛みの範囲内で行う(「痛気持ちいい」程度が目安)
- 回数よりも正しいフォームを優先する
- 1回あたりの時間は短くても、1日に複数回行う方が効果的
2. 浮腫管理の自己実施
- 就寝時は手を心臓より高い位置に置く(枕の上に手を乗せる)
- 処方された圧迫グローブやコバンラップを指示どおり使用する
- 指先から手首方向へのセルフマッサージを行う
3. 瘢痕管理
手術後の瘢痕は放置すると硬く隆起し、関節運動を妨げます。
- 抜糸後、傷が安定したら瘢痕マッサージを開始(OTの指示に従う)
- シリコンジェルシートの貼付(1日12時間以上が推奨)
- 保湿クリームを塗布し、皮膚の柔軟性を維持
4. 生活動作の段階的な再開
日常生活の中で手を使うこと自体がリハビリテーションになります。ただし、回復段階に応じた注意が必要です。
炎症期〜増殖期初期
重い物を持つ、ぞうきんを絞る等の力仕事は避けます。歯磨きや食事など軽い動作から再開しましょう。
増殖期後期
ペットボトルの開閉、書字、パソコン操作など中程度の動作を試みます。長時間の同一動作は避けましょう。
成熟期
料理、掃除、園芸などの家事動作を段階的に再開。仕事復帰も視野に入れ、OTと相談しながら負荷を調整します。
5. 痛みや異変のセルフモニタリング
以下の症状がみられた場合は、速やかに担当医またはOTに連絡してください。
- 急激な腫れや発赤の増悪
- 安静時にもズキズキする持続的な痛み
- 指先の色が白くなる、しびれが強くなる
- スプリント装着部の皮膚の発赤や水疱
自己判断での運動強度の変更は禁物です
回復が順調に感じられても、組織の治癒は外見からはわかりません。特に腱損傷後は、自己判断で負荷を上げると再断裂のリスクがあります。運動の種類や強度の変更は、必ずOTまたは主治医に相談してください。
自宅でのセルフケアが回復の速さを大きく左右します。
やっていただきたいこと- 作業療法士に教わった自主練習を、指定された回数で毎日続ける
- 寝るときは手を心臓より高くする(枕の上に乗せる)とむくみが引きやすくなります
- 手術の傷あとは、安定したら保湿クリームを塗って柔らかく保つ
- 「調子がいいから」と自己判断で運動を強くしないでください。特に腱の損傷では再断裂のリスクがあります
- 急な腫れ、強い痛み、指先のしびれが出たら、すぐに担当医に連絡してください
多職種連携の重要性
ハンドセラピーでは、OT単独ではなく多職種チームでの連携が治療成績を高めます。
手の外科医は手術方針と術後プロトコルを決定し、OTはそのプロトコルに基づいてリハビリテーションを実施します。理学療法士が肩・肘の可動域改善を担当し、OTが手・手指の機能と生活動作を担当するという役割分担も一般的です。また、職場復帰にあたっては産業医や職場との調整が必要になることもあります。復帰後に働き続けるための支援については、就労定着を支える作業療法士の視点で詳しく解説しています。
Hooper & Wood(2019)は、手のリハビリテーションにおけるOTの固有の役割として、「損傷した構造の回復だけでなく、その人にとって意味のある作業への参加を目標とする視点」を強調しています。骨が癒合し腱が滑走しても、その手で料理ができない、仕事の道具が握れないのであれば、リハビリテーションは完結しません。
ハンドセラピーの最終目標は手の構造の回復ではなく、その手を使って意味ある生活を取り戻すことにあります。
— 筆者
- ハンドセラピーは、手の外傷・疾患に対する専門的リハビリテーション領域であり、OTの技術と知識が特に求められる分野です
- 骨折・腱損傷・末梢神経損傷・腱鞘炎など疾患ごとに回復過程が異なるため、組織の治癒段階に応じたプロトコル管理が不可欠です
- ROM訓練、スプリント療法、浮腫管理、ADL訓練の4つの柱を組み合わせた包括的な介入が効果的です
- 自宅でのセルフケア(運動の継続、浮腫管理、瘢痕管理)の質が回復速度を大きく左右します
- 手の外科医・理学療法士・産業医との多職種連携により、「意味のある作業への復帰」を実現します
- 手のケガの回復には時間がかかりますが、焦らず段階的に進めることが大切です
- 自宅での自主練習とむくみのケアが、回復の速さを大きく左右します
- 自己判断で運動の強さを変えないこと。必ず作業療法士や主治医に相談してください
- リハビリの最終目標は「手が動くこと」ではなく、「その手で日常生活を取り戻すこと」です
- 作業療法士に教わった自主練習のメニューを紙に書いて、見えるところに貼っておくと忘れにくいです
- 寝るときは手を枕の上に乗せて、心臓より高い位置に保つとむくみが引きやすくなります
- 「急な腫れ・強い痛み・しびれ」が出たら迷わず病院へ連絡してください
参考文献
- ASHT (American Society of Hand Therapists). "What is Hand Therapy?" 2023.
- Court-Brown, C. M., & Caesar, B. (2006). Epidemiology of adult fractures: A review. Injury, 37(8), 691–697.
- Handoll, H. H. G., & Elliott, J. (2015). Rehabilitation for distal radial fractures in adults. Cochrane Database of Systematic Reviews, (9).
- Hooper, B., & Wood, W. (2019). The philosophy of occupational therapy: A framework for practice. In B. A. B. Schell & G. Gillen (Eds.), Willard and Spackman's Occupational Therapy (13th ed.). Wolters Kluwer.
- Novak, C. B., & von der Heyde, R. L. (2015). Rehabilitation of the upper extremity following nerve and tendon reconstruction. Hand Clinics, 31(1), 103–120.
- Peters-Veluthamaningal, C., et al. (2009). Corticosteroid injection for de Quervain's tenosynovitis. Cochrane Database of Systematic Reviews, (3).
- Tang, J. B. (2018). Recent developments in flexor tendon repair. Hand Clinics, 34(2), 189–198.
- Villeco, J. P. (2012). Edema: A silent but important factor. Journal of Hand Therapy, 25(2), 153–162.
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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