この記事のポイント
- 高次脳機能障害は外見からわからない「見えない障害」。家族が最も戸惑う後遺症の一つ
- 注意障害・記憶障害・遂行機能障害・社会的行動障害の4つの症状と具体的な対応法
- 家族自身を守るためのセルフケアと相談先も紹介
「退院したのに、以前と違う」
「退院してから怒りっぽくなった」「同じことを何度も聞く」「段取りができなくなった」。
脳卒中の後遺症というと、手足の麻痺を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし家族にとって最も困惑するのは、外見からはわからない「見えない障害」=高次脳機能障害であることが少なくありません。
体は動くのに、以前のように物事を進められない。性格が変わったように見える。本人は「自分は大丈夫」と言う。周囲にも理解されにくい。この状況は、家族にとって大きな心理的負担になります。
作業療法士(OT)は、こうした「見えない障害」への対応を専門としています。この記事では、家族が知っておきたいポイントと、毎日の暮らしですぐに使える対応のコツをお伝えします。
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、脳がダメージを受けたことで記憶・注意力・段取り・感情のコントロールがうまくいかなくなる状態です。脳卒中や頭のけがなどが原因で起こります。
見た目にはわからないので、周囲から「怠けている」と誤解されやすいのがつらいところです。ここでは、代表的な4つの症状と対応のコツをご紹介します。
注意障害 ― 「話を聞いていない」のではなく「注意が保てない」
- テレビを見ながら話しかけると反応しない
- 長時間の作業で集中が途切れる
- 複数のことを同時にできなくなった
- 周囲の音や視覚情報に気が散りやすい
- テレビを消して、正面から — 話しかけるときの基本
- 指示は1つずつ伝える — 「あれとこれをやって」は避ける
- 短い時間で区切って休憩を入れる — 作業の途中で意識的に休む
- 余計な刺激を減らす — 静かな場所で会話する
記憶障害 ― 「さっき言ったのに」には理由がある
- 今日の予定を何度も聞く
- 約束をすぐ忘れる
- 新しいことが覚えられない
- ただし、昔のことはよく覚えている場合が多い
- メモ・手帳・ホワイトボードを活用する — 外部の記録ツールで記憶を補う
- スマートフォンのアラームで通知する — 予定の時間にリマインドを設定
- 書いて、見える場所に貼る — 大切なことは視覚的に確認できるように
- 同じことを聞かれても怒らない — 「さっき言ったでしょ」は禁句
記憶障害は認知症とは違います。新しいことを覚えるのは苦手でも、体で覚えること(例:自転車の乗り方のような動作)は繰り返し練習で身につく場合があります。あきらめずに続けることが大切です。
遂行機能障害 ― 「段取りができなくなった」を支える
- 料理の手順がわからなくなった
- 仕事の計画が立てられない
- 一つのことに固執して切り替えられない
- 「何から始めればいいかわからない」
- 紙に書き出して1ステップずつ確認する — 手順を視覚化して段階的に進める
- 小さな単位に分解する — 複雑なタスクを取り組みやすく分割
- チェックリストを作る — 完了したら印をつけて進捗を見える化
- 「次は何をする?」と声かけで誘導する — 切り替えのきっかけを外から提供
作業療法士は、こうした「やることを小分けにして、一つずつ進める」お手伝いが得意です。困ったときはぜひ相談してみてください。
社会的行動障害 ― 「怒りっぽくなった」のは病気のせい
- 些細なことで激怒する
- 子どもっぽい言動が増えた
- 空気が読めない発言をする
- 衝動的な行動(暴言、浪費など)
- 本人に障害の自覚がない(病識の欠如)
- 一時的にその場を離れる — 怒り出したらクールダウンの時間を作る
- 「こうしよう」と代替案を示す — 「ダメ」と否定するより別の方法を提案
- 短く、穏やかに対応する — 感情的な場面では冷静さを保つ
- 環境的な予防策を講じる — クレジットカードの管理など衝動的行動への対策
「本人に悪意はない」ということを理解することが、家族の心の負担を少し軽くしてくれます。
家族ができる対応法 ― まとめ
高次脳機能障害への対応で共通する原則を振り返ります。
- メモやアラームを活用する:忘れてしまうことを責めるのではなく、道具で補いましょう
- やることは一つずつ:「あれもこれも」ではなく、1ステップずつ進めるのがコツです
- 怒りは病気の症状です:ご本人を責めず、少し距離を置いて落ち着くのを待ちましょう
高次脳機能障害のセルフチェック ― 家族が気づくサイン
以下のような変化が退院後に見られる場合、高次脳機能障害の可能性があります。
- 以前は得意だった料理の味が変わった
- 約束を忘れることが増えた
- 怒りっぽくなった、または無気力になった
- 仕事のミスが明らかに増えた
- 会話の内容をすぐに忘れる
- 計画を立てて行動することが難しくなった
こうした変化に気づいたら、主治医や担当のOTに相談してください。暮らしの変化セルフチェックも参考になります。
復職を目指す場合
仕事に戻りたい場合は、体の回復だけでなく、注意力や段取り力の回復も大切です。焦らず、専門家と相談しながら進めましょう。
- 障害者職業センター:復職のための評価や訓練が受けられます
- 就労移行支援事業所:新しい仕事を探す場合の訓練ができます
- 作業療法士:職場でどんな工夫が必要かを一緒に考えてくれます
くわしくは社会復帰の段階的ステップや復職が怖い方への段階的復帰ガイドもご覧ください。
家族自身を守るために
高次脳機能障害の家族は、「理解されない障害」を一人で抱える孤独に苦しむことがあります。
外見が普通なので、周囲から「もう元気そうだね」と言われる。でも家庭では以前と全く違う生活が続いている。このギャップが、家族の心を追い詰めます。
同じ経験をした人とつながる
- 高次脳機能障害の家族会:全国に支部がある(日本脳外傷友の会等)
- 地域の家族会・ピアサポート:地域包括支援センターや障害者支援センターに問い合わせ
- オンラインコミュニティ:SNS等で同じ経験の家族とつながる
自分の時間を確保する
家族の共倒れ防止ガイドでもお伝えしていますが、1日15分でも「自分だけの時間」を持つことが、介護を長く続けるための鍵です。
| 相談先 | 対象 |
|---|---|
| 主治医・リハビリ担当医 | 症状の評価と治療方針 |
| 作業療法士(訪問リハ・通所リハ) | 生活場面での具体的な対応法 |
| 地域包括支援センター | 介護サービスの調整 |
| 障害者職業センター | 復職支援 |
| 高次脳機能障害支援拠点機関 | 各都道府県に設置 |
使える制度については支援制度まるわかりガイドをご覧ください。
作業療法士に相談できること
作業療法士(OT)は、高次脳機能障害の暮らしのサポートを専門としています。
- 「どう接したらいいの?」 — 症状に合わせた声かけや対応の仕方を教えてもらえます
- 「忘れっぽさをカバーする方法は?」 — メモやアラームなど、暮らしの工夫を一緒に考えてくれます
- 「料理や買い物の練習がしたい」 — 実際の生活場面でのリハビリができます
- 「仕事に戻れるか心配」 — 職場への説明や環境調整もサポートしてくれます
「退院してから困っている」「どう接していいかわからない」。そんなときは、気軽にOTに相談してみてください。
- 「伝言メモボード」を玄関に設置する:ホワイトボードや大きめの紙を玄関の目立つ場所に貼り、その日の予定や大切な連絡を書いておきましょう。本人が外出前に確認する習慣づけにもなります
- 話しかけるときは「テレビを消して、名前を呼んでから」:注意障害があると、ながら聞きが難しくなります。まずテレビやラジオを消し、名前を呼んで注意を向けてから、短い言葉で伝えましょう
- 1日15分「自分だけの時間」を確保する:コーヒーを飲む、散歩する、好きな音楽を聴くなど、ほんの少しでも自分のための時間を持つことが、長く支えていくための土台になります
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言を構成するものではありません。個別の症状や治療については、必ず医師やかかりつけの作業療法士等の専門家にご相談ください。