この記事のポイント
- 就職から1年後に職場に定着している割合は障害種別で49.3〜71.5%(障害者職業総合センター, 2017年)。「就職=ゴール」ではありません
- 就職後に起きやすい困りごとは対人関係・体調管理・通勤疲労・業務量の変化の4つに集約されます
- 作業療法士は作業分析・環境調整・生活全体の視点から就労定着を支援します
- 睡眠・食事・余暇・服薬管理など生活面のサポートが定着の土台になります
- 就労定着支援事業所や障害者就業・生活支援センターとの多機関連携が継続就労の鍵です
はじめに ── 就職後1年の「壁」
障害のある方が一般企業に就職する機会は年々増えています。障害者雇用促進法の法定雇用率引き上げや、就労移行支援事業の充実により、就職件数そのものは着実に伸びてきました。
しかし、就職がゴールではありません。
障害者職業総合センターが2017年に公表した調査研究報告書によると、就職から1年後の職場定着率は、発達障害71.5%、知的障害68.0%、身体障害60.8%、精神障害49.3%でした。裏を返せば、1年以内に3割弱から5割強が職場を離れていることになります。とくに精神障害のある方では、1年で約半数が離職しており、「およそ3割」という一括りの理解では実態を取り違えます。
なお同じ調査では、3か月時点の定着率は身体障害77.8%、知的障害85.3%、精神障害69.9%、発達障害84.7%で、離職の多くが最初の1年、とりわけ最初の数か月に集中していることがわかります。せっかく手にした職場を短期間で離れてしまう背景には、就職前の準備だけでは対応しきれない「働き続けることの難しさ」が存在します。
作業療法士(OT)は、就職の支援だけでなく、就職した後に「働き続ける」ことを支える専門家でもあります。この記事では、就労定着における作業療法士の視点と具体的な支援の内容をお伝えします。なお、就職に至るまでの支援の流れについては就労支援における作業療法士の役割で詳しく解説しています。
障害のあるご家族が就職できたとき、とても嬉しいものです。しかし、就職はゴールではなくスタートです。
ある全国調査では、就職してから1年後も同じ職場で働き続けていた方の割合は、障害の種類によっておよそ5割から7割でした。つまり、1年以内におよそ3割から5割の方が職場を離れていることになります。「働き続ける」ためには、就職後のサポートがとても大切です。
この記事では、就職後に起きやすい困りごとと、ご家族にできるサポートについてお伝えします。
就職後に起きやすい困りごと
就職直後は緊張感やモチベーションが高く、多少の無理がきくことがあります。しかし、1〜3か月ほど経つと疲労が蓄積し、さまざまな困りごとが表面化してきます。大きく分けると、以下の4つの領域に集約されます。
対人関係の困りごと
職場での人間関係は、障害の有無にかかわらず離職の大きな要因です。しかし障害のある方の場合、特有の難しさが加わります。
- 暗黙のルールや空気を読むことが求められる場面で困惑する
- 自分の障害についてどこまで開示するかの判断が難しい
- 上司や同僚に相談したいが、タイミングや伝え方がわからない
- 「配慮してもらっている」という負い目から、無理をしてしまう
とくに精神障害や発達障害のある方は、見た目からは困りごとが伝わりにくいため、周囲の理解を得にくいことがあります。
体調管理の困りごと
働き始めると、生活リズムが大きく変わります。これに伴い、体調を崩しやすくなるケースが少なくありません。
- 疲労が蓄積し、休日に寝込んでしまうことが増える
- 服薬のタイミングがずれる、飲み忘れが増える
- 精神的な不調のサインに気づきにくくなる
- 通院の時間を確保しにくくなる
通勤疲労
意外と見落とされがちなのが通勤の負担です。
- 満員電車による感覚過敏への刺激(聴覚・触覚・嗅覚)
- 長時間の立位や歩行による身体的疲労
- 通勤時間の長さによる自由時間の減少
- 天候や季節の変化による体調への影響
通勤だけで1日のエネルギーの大半を消耗してしまい、肝心の業務に集中できないという声は非常に多く聞かれます。
業務量・業務内容の変化
就職直後は配慮されていた業務量が、時間の経過とともに変化することがあります。
- 慣れてきたと判断され、業務量が徐々に増える
- 本人も「期待に応えたい」と思い、断れない
- 新しい業務が追加され、対応しきれなくなる
- 繁忙期に業務が集中し、ペースを崩してしまう
これらの困りごとは、ひとつだけなら対処できても、複数が重なったときに限界を超えてしまうのが特徴です。
就職後1〜3か月経つと、疲れがたまり困りごとが出やすくなります。大きく分けて4つあります。
職場の人間関係がうまくいかない
暗黙のルールがわからない、相談のタイミングがつかめない、「配慮してもらっている」と感じて無理をしてしまう、といったことが起きやすいです。
体調を崩しやすくなる
生活リズムが変わることで、疲れがたまったり、薬を飲み忘れたりすることが増えます。休日に寝込んでしまう日が増えたら注意が必要です。
通勤で疲れてしまう
満員電車の刺激や長時間の移動は、大きな体力の消耗につながります。通勤だけでエネルギーを使い果たしてしまうこともあります。
仕事の量が変わる
慣れてきたと判断されて仕事が増えたり、新しい業務が加わったりすることがあります。ご本人は「期待に応えたい」と思って断れないことが多いです。
就労定着支援事業とは
2018年4月に創設された就労定着支援事業は、障害のある方が就職後も安定して働き続けるための障害福祉サービスです。
対象者
厚生労働省の説明では、生活介護、自立訓練、就労移行支援または就労継続支援を利用した後に通常の事業所へ新たに雇用され、就労を継続している期間が6か月を経過した障害者が対象とされています。利用期間には上限が設けられており、一般に最大3年間とされています(支給決定の取り扱いは自治体により異なるため、窓口でご確認ください)。
支援の内容
就労定着支援事業所の支援員が、月1回以上の面談を行い、以下のような支援を提供します。
- 職場での困りごとの聞き取りと対処法の検討
- 企業への訪問と、本人・企業双方への橋渡し
- 生活面の課題(体調管理、金銭管理、住居など)の支援
- 医療機関や福祉サービスとの連絡調整
就労定着支援は、「就職したら支援終了」ではなく「就職してからが本番」という考え方に基づいています。そして、この考え方は作業療法の理念とも深くつながっています。
どんな制度が使えるの?
就労定着支援という制度があり、就職して6か月が経った時点から利用できます(利用できる期間には上限があり、一般に最大3年間とされています)。
支援員が月1回以上面談をしてくれて、職場とご本人の間に入って調整してくれます。生活面の相談にも乗ってもらえるので、ご家族の負担を減らすことにもつながります。
利用を検討する場合は、担当のケースワーカーや相談支援専門員に聞いてみてください。作業療法士の3つの強み
就労定着支援の領域で、作業療法士はどのような強みを発揮できるのでしょうか。ここでは代表的な3つの視点を紹介します。
強み1:作業分析 ── 仕事を「分解」して見る力
作業療法士の最大の武器ともいえるのが作業分析です。ひとつの業務を細かいステップに分解し、どの段階でつまずいているかを明らかにします。
たとえば「書類整理が遅い」という訴えがあったとき、作業療法士は以下のように分析します。
- 書類を分類するルールを理解しているか(認知面)
- 分類を覚えておけるか(記憶・ワーキングメモリ)
- 周囲の雑音の中で集中できるか(注意機能・感覚処理)
- 長時間座り続けられるか(身体的持久力)
- 分からないときに質問できるか(コミュニケーション)
このように「できない」を「どの部分が難しいか」に変換することで、具体的な対策が見えてきます。ルールの理解が難しいなら手順書を作成し、注意が逸れやすいならパーティションを設置するなど、分析に基づいた介入が可能になります。
強み2:環境調整 ── 人を変えるのではなく環境を変える
作業療法では、課題の原因を本人の能力だけに求めません。「人」「作業」「環境」の3つの関係性で考えるのが基本です。
就労定着支援における環境調整の例を挙げます。
| 困りごと | 環境調整の例 |
|---|---|
| 聴覚過敏で集中できない | 耳栓・ノイズキャンセリングイヤホンの使用許可を得る |
| 口頭指示を覚えられない | メモではなくチャットやメールでの指示に切り替える |
| 午後に集中力が落ちる | 重要な業務を午前に配置し、午後は定型業務にする |
| 休憩のタイミングがわからない | タイマーやアラームで休憩時間を知らせる |
| 対面のコミュニケーションが苦手 | 定期面談の頻度と形式を調整する(対面→チャットなど) |
ポイントは、環境調整を一度きりではなく、継続的に見直すことです。就職直後に設定した配慮事項が、3か月後、半年後も適切とは限りません。業務内容の変化や本人の成長に合わせて、環境調整もアップデートしていく必要があります。
強み3:生活全体を見る視点
作業療法士が他の専門職と異なる最大の特徴は、仕事だけでなく生活全体を見るという視点です。
「月曜日に遅刻が多い」という問題は、職場の問題として捉えられがちです。しかし作業療法士の目で見ると、背景にはさまざまな生活上の要因が隠れている可能性があります。
- 金曜の夜に疲れ果てて、土日の生活リズムが崩れている
- 日曜の夜に不安が強くなり、眠れない
- 休日に余暇活動がなく、回復が十分にできていない
つまり、「仕事の問題」と見えていたものが、実は「生活の問題」であることが少なくないのです。作業療法士は、1日24時間、1週間7日間という時間軸の中で、仕事・休息・余暇のバランスを一緒に考えます。
作業療法士はどんな支援をしてくれるの?
作業療法士(OT)は、仕事の場面だけでなく生活全体を見て支援してくれる専門家です。
たとえば「仕事が遅い」という悩みに対して、どの部分でつまずいているかを細かく分析し、手順書をつくる・周りの環境を調整するといった具体的な対策を考えてくれます。
「月曜に遅刻が多い」という問題も、休日の過ごし方や睡眠の問題が原因かもしれないと、生活全体から原因を探ってくれます。
生活面のサポート ── 定着の土台をつくる
就労定着を支えるためには、仕事以外の時間をどう過ごすかが非常に重要です。作業療法士は以下のような生活面のサポートを行います。
睡眠
十分な睡眠は就労継続の基盤です。しかし障害のある方の中には、睡眠に課題を抱えている方が多くいます。
- 就寝・起床時間の固定を一緒に検討する
- 夜のスマートフォン使用など、睡眠を妨げる習慣を見直す
- 寝つきが悪い場合は、リラクゼーション技法を指導する
- 必要に応じて主治医と連携し、薬物療法を調整する
食事
栄養状態は体調と集中力に直結します。一人暮らしの方は特に食事が不規則になりがちです。
- 朝食をとる習慣をつくることから始める
- 簡単に準備できる食事の方法を一緒に考える
- コンビニや総菜を活用する場合の選び方を助言する
- 食事の準備が難しい場合は、配食サービスなどの社会資源を紹介する
余暇
意外に思われるかもしれませんが、余暇の過ごし方は就労定着に大きく影響します。仕事だけの生活は長続きしません。
- 仕事以外に「楽しみ」と感じられる活動を一緒に見つける
- 休日の過ごし方を計画し、心身の回復をはかる
- 趣味やスポーツなど、ストレス発散の手段を持つ
- 社会的なつながり(友人、地域活動など)を維持する
作業療法では、仕事・休息・余暇のバランスを「作業バランス」と呼びます。このバランスが崩れると、いくら職場環境が良くても、いずれ体調を崩してしまいます。
服薬管理
精神障害のある方にとって、服薬の継続は就労定着の重要な要素です。
- 服薬カレンダーやピルケースを活用した飲み忘れ防止
- 勤務時間に合わせた服薬スケジュールの調整
- 副作用(眠気、集中力低下など)と業務のタイミングを考慮する
- 通院スケジュールの確保について企業と調整する
家庭での生活サポートが「働き続ける」土台になります
仕事を長く続けるためには、家での生活を整えることがとても大切です。
- 睡眠リズムを整える — 毎日決まった時間に寝て起きる習慣を一緒に意識しましょう。寝る前のスマートフォンの使い方も見直せるとよいです
- 朝食を一緒に食べる — 朝食は1日のエネルギーの源です。簡単なものでもよいので、朝食をとる習慣をサポートしてください
- 休日の過ごし方を一緒に考える — 休日に寝込んでしまう日が多い場合は、軽い外出や楽しみの活動を一緒に計画してみましょう
- 服薬を見守る — お薬の飲み忘れがある場合は、服薬カレンダーやアラームの活用を提案してみてください
支援機関との連携 ── ひとりで支えない
就労定着支援は、作業療法士ひとりで完結するものではありません。複数の支援機関が役割を分担し、チームで支えることが大切です。
就労定着支援事業所
前述のとおり、就職後6か月を経過した時点から利用できるサービスです。月1回以上の定期面談を通じて、本人と企業の橋渡しを行います。作業療法士がこの事業所に所属している場合は、直接支援を担当します。そうでない場合も、医療機関やリハビリの場で得た情報を支援員と共有し、連携して支援にあたります。
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
通称「なかぽつ」と呼ばれるこのセンターは、就業面と生活面の両方を一体的に支援する拠点です。全国に設置されており、就労定着支援事業の利用期間が終了した後も、引き続き相談を受けることができます。
作業療法士との連携では、以下のような役割分担が考えられます。
| 支援者 | 主な役割 |
|---|---|
| 作業療法士 | 作業分析に基づく業務の調整提案、生活リズムの支援、感覚面や認知面のアセスメント |
| 就労定着支援員 | 定期面談、企業訪問、本人と企業の橋渡し |
| なかぽつ支援員 | 長期的な就業・生活相談、関係機関の調整 |
| 主治医 | 体調の管理、薬物療法の調整、就労可否の判断 |
| 企業の担当者 | 職場環境の調整、業務の割り振り、合理的配慮の実施 |
連携で大切なこと
支援機関の連携で最も重要なのは、本人を中心に据えることです。支援者同士が情報を共有することは大切ですが、本人の意向を置き去りにした「支援者だけの会議」にならないよう注意が必要です。
また、困りごとが大きくなってから動くのではなく、定期的な情報共有の仕組みをあらかじめ作っておくことが、問題の早期発見・早期対応につながります。地域の多職種・多機関で一人の生活を支えるという視点については、地域包括ケアシステムと作業療法士の役割でも詳しく紹介しています。
ご家族だけで抱え込まないでください
就労定着を支えるのは、ご家族だけの責任ではありません。複数の専門機関がチームで支える仕組みがあります。
- 就労定着支援事業所: 就職後の困りごとを一緒に解決してくれます
- 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ): 仕事と生活の両方を長期的に支えてくれます
- 主治医: 体調管理や薬の調整を行ってくれます
困ったことがあれば、まずは担当の支援員や相談窓口に連絡してみてください。「ちょっと気になることがある」くらいの段階で相談するほうが、問題が大きくなる前に対処できます。
まとめ
- 就職1年後の職場定着率は精神障害49.3%〜発達障害71.5%と障害種別で大きく異なります(2017年の調査)。就職はゴールではなく、スタートです
- 就職後の困りごとは対人関係・体調管理・通勤疲労・業務量の変化の4つの領域に集約されます
- 就労定着支援事業は就職後6か月から最大3年間利用でき、企業と本人の橋渡しを行います
- 作業療法士の強みは作業分析・環境調整・生活全体を見る視点の3つです
- 睡眠・食事・余暇・服薬管理など、生活面のサポートが就労定着の土台になります
- 就労定着支援事業所、障害者就業・生活支援センター、主治医、企業とチームで支えることが重要です
- 連携の中心にあるべきは、常に本人の意向と主体性です
「働き続けたい」という思いを支えるのは、職場の配慮だけではありません。仕事と生活の両方を見つめ、環境を継続的に調整し、本人の力を信じて伴走すること。それが、作業療法士にできる就労定着支援です。
障害のあるご家族が「働き続ける」ためには、職場だけでなく家庭での生活を整えることが大切です。
- 就職後1〜3か月は特に疲れがたまりやすい時期です。体調の変化に気を配ってあげてください
- 睡眠・食事・休日の過ごし方を一緒に整えることで、仕事を続ける土台ができます
- 困ったときは就労定着支援事業所やなかぽつセンターなど、専門機関に早めに相談しましょう
- 何より大切なのは、ご本人の「働きたい」という気持ちを尊重することです
- 帰宅後に「今日はどうだった?」と声をかける習慣をつくりましょう。無理に聞き出さなくても、話を聞いてもらえる安心感がご本人の支えになります
- 休日に寝込む日が増えたら、一緒に短い散歩に出るなど、軽い活動を提案してみてください
- 支援機関の連絡先を冷蔵庫など目につく場所に貼っておくと、いざというときにすぐ相談できます
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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