この記事のポイント
- 発達支援の現場の作業療法士の1日は、作戦会議 → 遊びを使った個別支援 → 保護者に伝える → 園・学校との連携 → 記録と教材づくりの順に進みます
- 遊びは仕事道具です。遊びの中で子どもの手の使い方・感覚の受け取り方・人との関わりを観察し、「できた」を積める難しさに組み替えるのが作業療法士の仕事です
- この領域で働く協会会員は1,330人(2025年3月末)と少数派で、施設数は増えていますが配置義務はありません
- 本記事の1日と登場する子どもは、プライバシー保護のため複数の経験をもとに再構成したフィクションです
この1日は、架空の一例です
これから紹介する1日は、児童発達支援(未就学の子どもが通う発達支援=療育の場)と放課後等デイサービス(小学生以上が放課後に通う場。以下、放デイ)を併設した施設で働く作業療法士(OT: Occupational Therapist)の、複数の職場の経験をもとに再構成した架空の一例です。登場する子どもも、複数の経験を合成した架空の存在で、特定の誰かではありません。
発達障害(医学的には神経発達症)のある子どもの支援は、作業療法士の中では少数派の領域です。少数派だからこそ、1日の中身を知る機会がほとんどありません。この記事は、その空白を埋めるために書きました。
本記事は、児童発達支援と放課後等デイサービスを併設した施設で働く作業療法士の1日を、複数の職場の経験をもとに再構成した架空の一例として示します。登場する子どもはすべて合成・架空化しており、特定の個人・施設を描写したものではありません。
お子さんの発達支援施設を見学する際、作業療法士が何をしているのかを見るための手引きとしてお読みください。
9:00 ── 大人だけの作戦会議
子どもが来る前に、職員が集まります。保育士、児童指導員、心理担当、そして作業療法士。今日来る子どもは誰か、前回どんな様子だったか、園や学校から連絡は来ているか。ここで「今日はこの子のこの場面を見よう」と決めます。
作業療法士の役割は、この会議で「体と感覚の面から見ると、こう考えられます」という視点を出すことです。たとえば「最近、教室で立ち歩きが増えた」という報告に対して、「座っている姿勢を保つ力」や「周りの音の受け取り方」から仮説を立てる、といった具合です。
作戦会議のあと、部屋を整えます。ブランコの高さ、マットの位置、今日使う教材。発達支援の現場では、環境を整えることが支援の半分です。
開所前に、保育士・児童指導員・心理担当・作業療法士が当日の対象児の情報を共有します。作業療法士は、身体機能と感覚処理の視点から仮説を提示する役割を担います。そのうえで遊具や教材の配置など環境設定を行います。見学の際は、この「環境設定」に作業療法士がどう関わっているかを尋ねると、施設ごとの体制がわかります。
9:30 ── 個別の時間。遊びに見えて、評価と練習
ここからが、作業療法士の1日の中心です。1回40〜60分、子どもと1対1で過ごします。
たとえば、ブランコに乗りたがらない子がいたとします(架空の例です)。作業療法士は「乗らせる」ことをしません。まず、揺れをどう受け取っているのかを観察します。揺れが怖いのか、足が床から離れる感覚が苦手なのか、ブランコより前に興味があるものがあるのか。仮説を立てて、揺れがほとんどない遊具から始め、本人が「もう少し」と言える範囲で少しずつ変えていきます。ここで見ているのは、感覚の受け取り方の違いです。
別の子は、はさみが苦手だとします。作業療法士は、はさみの練習をいきなりさせません。紙を持つ手と切る手の役割分担、手首の向き、指を開く動きに分解して、粘土をちぎる・洗濯ばさみをつまむ・太い線を切る、と段階を踏みます。「できた」を積める難しさに遊びを組み替えるのが仕事です。
なお、ブランコやトランポリンを使った関わり方は「感覚統合療法」と呼ばれます。日本作業療法士協会の自閉スペクトラム症のガイドライン(2022年)では推奨度が高い一方、2006年の国内の研究レビューでは根拠が十分でないとされていて、評価は割れています。「必ず効く」とは言えない、というのがこの現場の正直なところです。感覚統合の考え方そのものは感覚統合理論とは?に、不器用さの背景は「不器用」で片づけないで ── 発達性協調運動障害(DCD)にまとめています。
個別支援は1回40〜60分が一般的です。作業療法士は、遊具や教材を用いた活動の中で、感覚の受け取り方(感覚処理)、手指の操作、姿勢の保持、人との関わりを観察し、困りごとの背景を評価したうえで、お子さんが達成できる難易度に活動を調整します。
いわゆる「感覚統合療法」については、日本作業療法士協会の『作業療法ガイドライン 自閉スペクトラム症』(2022年)で推奨度が高く位置づけられている一方、2006年の国内文献レビューでは根拠不十分(勧告C)とされており、評価が一致していません。効果を断定する説明を受けた場合は、根拠を確認することをおすすめします。
11:00 ── 小集団の時間
2〜5人の小さなグループで、順番を待つ、ルールのある遊びをする、友達に「貸して」と言う、といった場面を作ります。目的は「友達と遊べた」という経験を積むことです。
作業療法士はここで、誰がどこでつまずくかを見ています。順番を待てないのか、ルールが分からないのか、周りの音がうるさくて集中できないのか。原因が違えば、次回の作戦も違います。
小集団活動(2〜5人)では、順番の待機、ルール理解、要求の伝え方などの社会的スキルを扱います。作業療法士は、集団場面でのつまずきの背景(衝動性・理解・感覚の過負荷など)を見きわめ、個別支援と環境調整に反映します。
12:00 ── 保護者に伝える
午前の子どもを送り出す前に、保護者に今日の内容を伝えます。「今日はこれができました」「家ではこの遊びを、この難しさで試してみてください」。家でできることを1つだけ渡すのがコツです。多く渡しても続きません。
ここで大事なルールがあります。作業療法士は診断をしません。「この子は〇〇かもしれません」とは言いません。診断は医師の仕事だからです。作業療法士が伝えるのは、観察した事実と、それをもとにした関わり方の工夫です。
待合室に目を向けると、宿題をしているきょうだいの姿があることもあります。作業療法士は、通ってくる子どもだけでなく、その家族全体の生活を見ています。
セッション後のフィードバックでは、当日の内容と、家庭で取り組める活動を1つ程度お伝えします。作業療法士は診断を行いません(診断は医師の業務です)。お伝えできるのは、観察した事実にもとづく関わり方の工夫です。
見学時には、フィードバックの時間が確保されているか、家庭で再現できる形で提案されるかを確認すると、施設の支援の質を見る材料になります。
13:30 ── 園と学校へ
午後は施設の外に出ることもあります。保育所等訪問支援という制度を使って、子どもが通う園や学校に行き、教室での様子を見て、先生と一緒に工夫を考えます。座席の位置、視覚的なスケジュール表、筆記用具の持ち手。子どもを変えるのではなく、環境を子どもに合わせるのが作業療法士の考え方です。
施設に戻ると、個別支援計画の見直しや、保護者との面談が入ります。書類の時間です。
保育所等訪問支援(児童福祉法上のサービス)により、作業療法士が園・学校を訪問し、教室環境や教材の調整を教員と検討することがあります。午後は個別支援計画の見直しや保護者面談も行われます。
15:30 ── 放デイの時間
小学生が学校から帰ってくる時間です。放デイでは、宿題、おやつ、遊び、帰り支度という流れの中で、作業療法士は「宿題に取りかかるまでの手順」や「片づけの動線」など、生活の中の小さな段取りを一緒に組み立てます。
午前の未就学の子どもとは違い、本人が「できるようになりたいこと」を自分の言葉で言えることが増えます。「字をきれいに書きたい」「縄跳びを跳べるようになりたい」。その言葉を出発点にするのが、作業療法の基本です。
放課後等デイサービスでは、学齢期の子どもの生活動作・学習動作・余暇活動を扱います。学齢期になると本人の希望を出発点にした目標設定が可能になり、書字や運動など具体的な課題への支援が中心になります。
16:30 ── 記録と、明日の教材づくり
子どもが帰ったあと、今日の記録を書きます。誰と何をして、どこまでできて、次は何を試すか。記録は次回の作戦会議の材料になります。
そのあと、明日の教材を作ります。ラミネートした絵カード、洗濯ばさみを付けた紙皿、大きさの違う紐通し。作業療法士の商売道具は、文房具屋と100円ショップでだいたい揃います。手を動かして何かを作るのが苦にならない人には、楽しい時間です。
作業療法士の1日は6つの仕事でできている、という話を作業療法士に向いているのはどんな人?に書きました。この現場では、そのうち「評価する」「一緒にやってみる」「道具と環境をつくる」「伝えて、つなぐ」の4つが、1日のほとんどを占めます。
閉所後は、当日の記録と報告書の作成、次回の教材準備を行います。記録は個別支援計画の見直しと多職種の情報共有に使われます。
この現場の「数字」
発達支援の現場で働く作業療法士は少数派です。日本作業療法士協会の2024年度会員統計資料(2025年3月31日現在、会員63,352人)では、児童福祉法関連施設で働く会員は1,330人(児童発達支援525人・放デイ422人・児童発達支援センター112人など)です。
児童福祉法関連施設で働く協会会員
児童発達支援の事業所数(前年比+10.8%)
放課後等デイサービスの事業所数(同+7.2%)
施設は増えています。ただし、児童発達支援と放デイに作業療法士の配置義務はありません。必ず置くと決められているのは児童指導員または保育士と児童発達支援管理責任者で、作業療法士は「機能訓練を行う場合」の任意配置です。施設が増えたぶんだけ作業療法士の求人が増えるわけではない、というのが現実です。働く場所の全体像は病院だけじゃない ── OTが働く場所にまとめています。
発達支援の現場で作業療法士が何をするかを、遊びと4つの視点から整理した記事が発達障害の子どもに作業療法士ができることです。現役の作業療法士向けに書いた1日の記事は小児領域で働くOTのリアルにあります。
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 児童福祉法関連施設で働く協会会員 | 1,330人(児童発達支援525・放課後等デイサービス422・児童発達支援センター112ほか) | 日本作業療法士協会 2024年度会員統計資料(2025年3月31日現在) |
| 児童発達支援の事業所数 | 14,855か所(前年比+10.8%) | 厚生労働省 令和6年社会福祉施設等調査(2024年10月1日現在) |
| 放課後等デイサービスの事業所数 | 22,643か所(同+7.2%) | 同上 |
| 作業療法士の配置 | 義務なし(機能訓練を行う場合の任意配置) | 児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準 |
作業療法士が在籍する事業所は全体の一部です。見学の際は、作業療法士の在籍の有無と関わる頻度(週何回・1回何分)を確認してください。
高校生がこの1日を体験する方法
- オープンキャンパスの体験授業: 作業療法士の養成校では、小児領域の体験授業(感覚遊びや道具づくり)を用意していることがあります。「発達支援の授業はありますか」と聞いてみてください
- 職場体験・ボランティア: 放デイや児童発達支援の施設の中には、高校生のボランティアや職場体験を受け入れているところがあります。学校の先生を通して探すのが確実です。見学のときは「作業療法士は何人いますか」「どの時間に何をしていますか」と聞いてみてください
- 子どもの様子を「なぜ」で見る: 通ってくる子の行動には理由の候補がある、という見方を練習してみてください。「落ち着きがない」ではなく「何が気になっているんだろう」。この視点そのものが、作業療法士の評価の入口です
ひとつだけ、お願いがあります。体験先で出会った子どもや家族のことを、SNSや志望理由書に書くときは、名前・年齢・診断名・場所の組み合わせが分かる形では書かないでください。作業療法士が現場で守っているのと同じルールです。
お子さんが発達支援の現場に関心を持っている場合、養成校のオープンキャンパスで小児領域の体験授業の有無を確認する、施設のボランティア・職場体験の受け入れを学校経由で探す、という2つの方法があります。体験先で知り得た子どもや家族の情報を SNS や志望理由書に書かないよう、事前に本人と確認してください。
よくある質問
遊んでいるだけに見えますが、何が違うのですか
遊びは手段で、目的は評価と練習です。同じブランコでも、作業療法士は「揺れをどう受け取っているか」「体をどう支えているか」「終わりをどう伝えるか」を見ていて、次の一手を組み替えています。外から見えないところに仕事があります。
子どもが好きなら向いていますか
「好き」は大切な入口ですが、それだけでは決まりません。うまくいかないときにやり方を変えて試すこと、保護者や先生に分かる言葉で伝えること、毎日記録を書くことが1日の大半です。詳しくは作業療法士に向いているのはどんな人?へ。
発達障害の診断がない子も来ますか
来ます。困りごとがあれば、診断の有無にかかわらず相談の対象になります。ただし、診断そのものは医師の仕事で、作業療法士は行いません。
新卒でこの現場に就職できますか
できる場合もありますが、配置義務がないため求人は施設数ほど多くありません。病院で数年働いてから移る人も多くいます。病院だけじゃない ── OTが働く場所で全体像を確認してください。
気になることがあったら、学校の先生や保健室の先生、スクールカウンセラー、または地域の「発達障害者支援センター」に相談してみてください。発達障害者支援センターは、すべての都道府県・政令指定都市に置かれている、発達障害のある人と家族のための公的な相談窓口です。
見学で確認したいことは
作業療法士の在籍と関わる頻度、個別支援の時間、保護者へのフィードバックの有無、園・学校との連携(保育所等訪問支援の実施)の4点です。効果を断定する説明があった場合は、その根拠を尋ねてください。
お子さんの発達について気になることがある場合は、お住まいの市区町村の「こども家庭センター」(子育てと児童福祉の相談機関)、乳幼児健診の窓口、かかりつけの小児科、または都道府県・政令指定都市の「発達障害者支援センター」にご相談ください。診断に関する判断ができるのは医師のみです。当サイトでは診断に関するご質問にはお答えできません。
まとめ
- 朝の職員会議で仮説を立て、午前は1対1と小集団、昼に保護者へ、午後は園・学校へ、夕方は記録と教材。この繰り返しが発達支援の現場の1日です
- 遊びは仕事道具です。感覚の受け取り方と手の使い方を観察し、「できた」を積める難しさに組み替えるのが作業療法士の仕事で、診断はしません
- この領域の協会会員は1,330人(2025年3月末)と少数派で、施設は増えていても配置義務はありません
この1日を仕事にする道は、作業療法士になるにはにまとめています。他の職場の1日と比べたい人は病院だけじゃない ── OTが働く場所へ。
登場するエピソードは、プライバシー保護のため複数の経験をもとに再構成したフィクションです。
- 発達支援の現場の作業療法士は、環境設定・遊びを用いた評価と練習・保護者へのフィードバック・園や学校との連携・記録を1日の中で担います。診断は行いません
- 児童福祉法関連施設で働く協会会員は1,330人(2025年3月末)。事業所数は増加していますが、作業療法士の配置は任意です
- 感覚統合療法の評価は専門職団体のガイドラインと研究レビューで一致しておらず、効果を断定する説明には根拠の確認が必要です
- 見学では4点を確認する: 作業療法士の在籍と頻度、個別支援の時間、フィードバックの有無、園・学校との連携
- お子さんが「発達支援で働きたい」と言ったら: この記事の1日を一緒に読み、少数の領域であることと、病院で経験を積んでから移る道もあることを共有してください
- 体験先の情報の扱いを話し合う: 出会った子どもや家族の情報を SNS や志望理由書に書かないことを、事前に確認してください
登場するエピソードは、プライバシー保護のため複数の経験をもとに再構成したフィクションです。
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言や診断、進路の保証を構成するものではありません。登場するエピソードは複数の経験をもとに再構成したフィクションです。
よくある質問
- 発達支援の現場で働く作業療法士は、1日に何をしていますか?
- 朝は職員だけの作戦会議で今日来る子どもの情報を共有し、午前は遊びを使った個別支援と小集団の活動、終わるたびに保護者へ今日の内容と家でできることを伝えます。午後は園や学校との連携や面談、夕方は記録と次回の教材づくりです。複数の職場の経験をもとにした一般的な流れです。
- 作業療法士の療育は、遊んでいるだけに見えますが何が違うのですか?
- 遊びは手段で、目的は評価と練習です。作業療法士は、遊びの中で子どもの手の使い方や感覚の受け取り方、人との関わり方を観察して困りごとの原因を見きわめ、その子が「できた」を積める難しさに遊びを組み替えます。
- 子どもの発達支援で働く作業療法士は何人いますか?
- 日本作業療法士協会の2024年度会員統計では、児童福祉法関連施設で働く会員は1,330人(児童発達支援525人・放課後等デイサービス422人・児童発達支援センター112人など)です。会員63,352人のうちの少数派です。
- 発達支援の現場に新卒で就職できますか?
- できる場合もありますが、児童発達支援や放課後等デイサービスには作業療法士の配置義務がなく、求人は施設数ほど多くありません。病院で経験を積んでから移る人も多くいます。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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