この記事のポイント
- 「向いている人」を性格で決める必要はありません。作業療法士の1日は6つの仕事でできていて、そのどれが苦にならないかで考えます
- 最初から要るのは「人に興味がある」「よく見る」「試して直す」の3つだけ。知識と技術は養成校の法定101単位・臨床実習22単位で育ちます
- 働く領域によって「向いている」の中身は変わります。発達支援なら遊びを分析する力、急性期なら短時間で判断する力が前に出ます
- 家族に障害のある人がいるから向いている、とは言いません。その経験が進路になる人も、ならない人も、どちらも正解です
「向いている人」を性格で決めない
「OTに向いているのはどんな人ですか」という質問を、高校生からよく受けます。ここで「優しい人」「明るい人」と答えるのは簡単ですが、この記事ではそう答えません。性格のラベルは高校生のうちに何度も変わりますし、「自分は優しくないから無理」と入口で引き返す人を増やしたくないからです。
代わりに、作業療法士(OT: Occupational Therapist)の1日の仕事を6つに分けて、どの仕事が苦にならないかで考える方法をおすすめします。仕事の中身は法律と現場で決まっていて、ぶれません。ぶれない側に自分を当ててみるほうが、性格診断よりずっと確かです。
作業療法士の仕事そのものをまだ知らない人は、先に作業療法士ってどんな仕事?を読むと、この先が読みやすくなります。
お子さんの進路相談で「作業療法士に向いているか」を判断しようとするとき、性格(明るい・優しい・几帳面など)を基準にすると、本人の可能性を早く閉じてしまうことがあります。性格の自己評価は高校生の時期に大きく変わるためです。
この記事では、作業療法士の業務を6項目に分け、本人の日常の行動に照らして考える方法を提案します。あわせて、養成課程で育つ力と、最初から必要な力を分けて整理します。
作業療法士の1日は、6つの仕事でできている
働く場所が病院でも、子どもの発達支援の教室でも、作業療法士の1日はだいたい同じ6つの仕事の組み合わせです。急性期病院と療育施設の1日を書いた急性期病院で働くOTのリアルと小児領域で働くOTのリアルから、共通する部分を取り出しました。
1. 情報を集める
カルテを読む、家族や先生の話を聞く、本人の様子を見る。朝いちばんの仕事で、ここを飛ばすと後の全部がずれます
2. 評価する
体の動き、手の使い方、感覚の受け取り方、気持ち、家や学校の環境を調べて、困りごとの原因と可能性を見きわめる。作業療法の出発点です
3. 一緒にやってみる
着替えや料理の練習、遊び、手芸や工作などの作業を、本人と一緒に行う。うまくいかなければその場でやり方を変えます
4. 道具と環境をつくる
持ちやすいスプーン、書きやすい鉛筆の持ち手、教材、家の手すりの位置。ないものは自分で作ったり選んだりします
5. 伝えて、つなぐ
本人と家族に今日の内容と家でできることを説明し、医師・看護師・理学療法士・言語聴覚士・学校の先生と情報を共有する
6. 記録を書く
その日の評価と練習の内容を毎日書く。計画書や報告書も作ります。地味ですが、どの職場でも毎日あります
6つのうち、1日の中で大きな時間を占めるのは3(一緒にやってみる)と6(記録を書く)です。2(評価する)はすべての土台で、5(伝えて、つなぐ)は職場によっては午後の半分を占めます。
作業療法士の業務は、勤務先が病院か福祉施設かにかかわらず、おおむね次の6項目で構成されます(既存記事急性期病院で働くOTのリアル・小児領域で働くOTのリアルの1日の流れから共通部分を抽出)。
| 業務 | 内容 | 家庭で観察できる近い行動 |
|---|---|---|
| 1. 情報収集 | 診療記録の確認、家族・教員からの聞き取り、本人の観察 | 人の話を最後まで聞く、周囲の変化に気づく |
| 2. 評価 | 身体機能・感覚・認知・心理・環境を調べ、原因と可能性を見きわめる | 「なぜうまくいかないのか」を考えるのが苦にならない |
| 3. 介入(練習・作業) | 生活動作の練習、遊び、手工芸などの作業を本人と行い、その場で修正する | 失敗したときにやり方を変えて試す |
| 4. 道具・環境の調整 | 自助具の選定・作製、教材づくり、住環境の提案 | 手を動かして何かを作る、工夫する |
| 5. 説明・連携 | 本人・家族への説明、多職種や学校との情報共有 | 相手に合わせて説明の仕方を変えられる |
| 6. 記録 | 日々の記録、計画書・報告書の作成 | 毎日少しずつ書くことを続けられる |
右の列は、性格ではなく行動として観察できるものです。すべてが揃っている必要はありません。
自分に当てはめる6つのチェック
6つの仕事を、自分の日常の行動に言い換えてみます。「得意か」ではなく「苦にならないか」で答えてください。
全部そろっている必要はありません。「苦にならない」が多い人は、もう入口に立っています。少ない人も、次の節を読んでから決めてください。ここに挙げた力の多くは、養成校で育つものだからです。
ひとつだけ、最初から持っていてほしいものがあります。人に興味があることです。体のしくみや道具に興味があるのはもちろん歓迎ですが、作業療法士は「この人は何をしたいのか」を考え続ける仕事です。そこに興味が持てるなら、あとは学べます。
上の表の右列を、本人の日常の行動と照らして考えます。ここで大切なのは、6項目すべてを満たす必要はないこと、そして「得意か」ではなく「苦にならないか」で見ることです。
作業療法士に最初から求められるのは、人に関心を持てることに尽きます。知識や技術は養成課程で体系的に学ぶ前提で制度が設計されています。
最初から要るものと、学校で育つもの
高校生のうちに全部そろえる必要はありません。作業療法士の養成校は、法律で101単位以上、うち臨床実習22単位と決められています(理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則 別表第二)。3年以上かけて、知識と技術を育てる仕組みです。
最初から要るもの
人に興味がある/よく見る/試して直す。この3つは科目として教わりにくく、日常の中で育ちます
学校で育つもの
解剖学・生理学・運動学などの知識、評価の技術、練習の組み立て方、記録の書き方、初対面の人との会話の型。全員が入学してから始めます
実習で確かめるもの
臨床実習22単位で、実際の患者さんや子どもと関わりながら「自分に合うか」を確かめます。ここで初めて分かることが多いのが普通です
「理系じゃないと無理」も、よくある誤解です。法律上、受験資格は「指定の養成校で3年以上学ぶこと」で決まり、高校の文系・理系の選択で制限されません(理学療法士及び作業療法士法 第12条)。入学後に解剖学や生理学を学びますが、それは全員が同じスタートラインから始める科目です。詳しくは作業療法士になるにはにまとめています。
養成課程の中身は法令で定められています。理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則(別表第二)により、作業療法士の養成課程は101単位以上、うち臨床実習22単位です。解剖学・生理学・運動学などの基礎医学から評価学、作業療法治療学、臨床実習まで、知識と技術を3年以上かけて体系的に学びます。
受験資格は「大学入学資格を持ち、指定校または養成施設で3年以上学ぶこと」で、高校での文理選択による制限はありません(理学療法士及び作業療法士法 第12条)。入試科目は学校ごとに異なるため、志望校の選抜要項で確認が必要です。
なお、日本作業療法士協会の2024年度会員統計資料によると、会員の60.8%が女性、平均年齢は37.4歳です。「男性の仕事ではないか」「体力仕事ではないか」という不安に対しては、この数字が一つの参考になります。
領域によって「向いている」の中身が変わる
6つの仕事の配分は、働く場所で変わります。だから「向いている人」も一つではありません。
子どもの発達支援
「遊び」を分析して仕掛けをつくる力と、保護者に家でできることを伝える力が前に出ます。感覚の受け取り方の違いを見きわめる評価が中心です
急性期病院
朝の情報収集から短時間で判断し、医師・看護師とすぐに連携する力が前に出ます。1回の関わりは20〜40分と短めです
精神科
相手のペースを待つ力と、集団の場をつくる力が前に出ます。手工芸や調理などの作業を通して、生活のリズムを一緒に整えます
介護施設・訪問
家の中を見て環境を工夫する力と、介護職や家族と一緒に生活を組み立てる力が前に出ます
たとえば発達支援の現場では、「くるくる回る」「タグを気にする」といった子どもの行動を、感覚の受け取り方の違いとして読み解く評価が仕事の中心になります。どう読み解くかは発達障害の子どもに作業療法士ができることや感覚統合理論とは?で読めます。「試して直す」のが苦にならない人には、いちばん面白い領域かもしれません。
急性期と精神科の1日は、急性期病院で働くOTのリアルと精神科で働くOTのリアルにあります(どちらも現役の作業療法士向けに書いた記事ですが、雰囲気は伝わります)。
6業務の配分は勤務領域によって異なり、求められる力の重心も変わります。発達支援では遊びの分析と保護者への説明、急性期病院では短時間の判断と多職種連携、精神科では集団場面の運営と長期的な関わり、介護施設・訪問では住環境の調整と介護職との協働が前に出ます。
本人がどの領域に関心を持っているかによって、「向いている」の判断材料も変わります。発達支援における作業療法士の関わりは発達障害の子どもに作業療法士ができることを参照してください。
よくある誤解にひとこと
家族に障害のある人がいるから向いている、とは言いません
弟や妹、祖父母の支援に関わってきた人が作業療法士を志すことはあります。その時間が進路になる人も、ならない人も、どちらも正解です。適性はその経験の有無ではなく、6つの仕事に自分を当てはめて考えてください。「支えてきたから支える側になるべきだ」と自分に課す必要はありません。
ほかにも、よく聞く誤解を3つ挙げておきます。
- 「おしゃべりが得意じゃないと無理」: 作業療法士に必要なのは、上手に話すことより、よく見て、最後まで聞くことです。初対面の会話の型は、実習と就職後に身につきます
- 「体力がないと無理」: 領域によって大きく違います。急性期病院と精神科デイケアでは、体の使い方がまったく異なります。体力の話は別の記事で領域ごとに詳しく書く予定です
- 「手先が器用じゃないと無理」: 道具を作る場面はありますが、求められるのは器用さより「この人に合うものは何か」を考える工夫です
よくある質問
人見知りでも作業療法士になれますか
なれます。作業療法士の仕事で大切なのは、上手に話すことより、相手をよく見て、話を最後まで聞くことです。初対面の会話の型は養成校の実習や就職後に身につきます。新人の作業療法士が最初の会話をどう組み立てるかは、患者さんとの最初の会話に書いてあります(現役向けの記事です)。
向いていないと思ったら、どうすればいいですか
高校生のうちに決める必要はありません。養成校には臨床実習22単位が組み込まれていて、実際の患者さんや子どもと関わりながら「自分に合うか」を確かめる時間が制度として用意されています。実習で何を確かめるかは、実習で泣かないためにに書いてあります(学生向けの記事ですが、入学後の姿がわかります)。
数学や物理が苦手でも大丈夫ですか
大丈夫です。受験資格は高校の文系・理系で制限されません。入学後の解剖学・生理学・運動学は暗記と理解が中心で、全員が入学してから始めます。入試科目は学校によって違うので、志望校の要項で確認してください。
理学療法士や言語聴覚士と、向いている人は違いますか
法律上の守備範囲が違うので、前に出る力も少し違います。体の動きそのものを見たい人、生活の全体を見たい人、ことばと飲み込みを見たい人、という分け方は作業療法士・理学療法士・言語聴覚士の違いにまとめています。
「向いていない」と感じたとき、どう伝えればよいですか
性格を理由に断定することは避け、6業務のどれが本人にとって負担になりそうかを具体的に話し合うことをおすすめします。養成課程には臨床実習22単位があり、本人が現場で確かめる機会が制度として用意されています。入学前に結論を出す必要はありません。
進路相談で確認しておきたいことは
オープンキャンパスの体験授業では、6業務のうち「評価」と「一緒にやってみる」を短時間で体験できることが多いです。本人がどの場面で表情が変わるかを見ると、性格の話より具体的な判断材料になります。
まとめ
- 適性は性格ではなく、6つの仕事(情報を集める・評価する・一緒にやってみる・道具と環境をつくる・伝えてつなぐ・記録を書く)のどれが苦にならないかで考えます
- 最初から要るのは「人に興味がある」こと。知識と技術は養成校の法定101単位・臨床実習22単位で育ちます。文系・理系も受験資格に関係ありません
- 領域によって前に出る力は変わります。発達支援なら遊びを分析する力、急性期なら短時間で判断する力です
次は、いちばん興味のある領域の1日を読んでみてください。発達支援なら小児領域で働くOTのリアル、他の職種と比べたいなら作業療法士・理学療法士・言語聴覚士の違いです。
- 作業療法士の適性は、性格ではなく6業務(情報収集・評価・介入・道具と環境の調整・説明と連携・記録)に対する本人の行動で考えます
- 養成課程は法定101単位・臨床実習22単位で、知識と技術は入学後に育つ前提で設計されています。受験資格に文理選択の制限はありません
- 会員の60.8%が女性、平均年齢37.4歳(日本作業療法士協会 2024年度会員統計資料)。領域によって求められる力は異なります
- 性格ではなく行動で見る: 「人の話を最後まで聞くか」「失敗したらやり方を変えるか」「手を動かして工夫するか」。表の右列を、日常の場面で観察してみてください
- 「向いていない」と決めつけない: 実習で本人が確かめる仕組みが制度にあります。入学前に結論を出す必要はありません
- 体験授業で表情を見る: オープンキャンパスの体験授業で、本人がどの場面で身を乗り出すかが、いちばん具体的な材料になります。学校選びの手順は作業療法士になるにはにまとめています
免責事項: 当サイトの情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、医療上の助言や進路の保証を構成するものではありません。制度・法令は改正されることがあります。最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。
よくある質問
- 作業療法士に向いているのはどんな人ですか?
- 性格では決まりません。作業療法士の1日は「情報を集める・評価する・一緒にやってみる・道具と環境をつくる・伝えてつなぐ・記録を書く」の6つの仕事でできています。このうち苦にならないものが多い人は、すでに入口に立っています。最初から必要なのは、人に興味があること、よく見ること、試して直すことの3つで、知識や技術は養成校で育ちます。
- 人見知りでも作業療法士になれますか?
- なれます。作業療法士の仕事で大切なのは、上手に話すことより、相手をよく見て、話を最後まで聞くことです。初対面の会話の型は養成校の実習や就職後に身につきます。
- 理系が苦手でも作業療法士になれますか?
- なれます。法律上、受験資格は「指定の養成校で3年以上学ぶこと」で決まり、高校の文系・理系の選択で制限されません。入学後に解剖学・生理学・運動学を学びますが、それは全員が入学してから始める科目です。
- 家族に障害のある人がいると、作業療法士に向いていますか?
- 「向いている」とも「向いていない」とも言いません。家族を支えた経験が進路になる人もいれば、ならない人もいて、どちらも正解です。適性はその経験ではなく、1日の仕事の中身に自分を当てはめて考えます。
この記事の執筆者
ひろえもん作業療法士
作業療法士の国家資格を持ち、2012年から作業療法の普及・啓発を目的に当サイトを運営。 臨床経験に基づき、確認できる情報源にあたった上で執筆しています。
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