この記事のポイント
- 作業療法に関する英語の学術論文は、日本語論文の数十倍の規模で蓄積されています
- WFOT(世界作業療法士連盟)には100以上の国・地域が加盟しており、公用語は英語です
- 英語ができなくても臨床はできます。しかし英語ができると、アクセスできる知識の量と質が根本的に変わります
- この連載では、初級(読む)→ 中級(使う)→ 上級(発信する)の3段階で、OTに必要な英語力を段階的に身につけていきます
- 「完璧な英語」は不要です。OTの専門知識を持つあなたには、すでに大きなアドバンテージがあります
はじめに──ある日の臨床で
担当している利用者さんの介入方法について、もう少し深く調べたいと思ったことはありませんか。
教科書を読み返す。先輩に聞く。日本語の論文を検索する。それでも、「もっと具体的なエビデンスが欲しい」「海外ではどうしているのだろう」と感じる瞬間があるはずです。
そのとき、英語で検索できるかどうかで、見える世界がまったく変わります。
数字で見る「情報格差」
PubMedで検索してみると
PubMedで "occupational therapy" を検索すると、ヒットする論文数は数万件にのぼります。これらの大半は英語で書かれています。
一方、日本語の主要な医学文献データベースである医中誌で「作業療法」を検索した場合、ヒット数は英語論文の数十分の一です。
つまり、日本語だけで情報収集をしている限り、作業療法の知見全体のごく一部にしかアクセスできていないということです。
主要ジャーナルはすべて英語
作業療法の世界で最も影響力のある学術雑誌は、すべて英語で発行されています。
- AJOT(American Journal of Occupational Therapy)── 米国作業療法士協会の公式誌。インパクトファクター約2.1
- BJOT(British Journal of Occupational Therapy)── 英国作業療法士協会の公式誌
- OTJR: Occupational Therapy Journal of Research ── 作業に焦点を当てた研究誌
- SJOT(Scandinavian Journal of Occupational Therapy)── 北欧を中心とした研究誌
- Australian Occupational Therapy Journal ── オーストラリアの研究誌
- Canadian Journal of Occupational Therapy ── カナダの研究誌
日本の「作業療法」誌(日本作業療法士協会発行)も重要なジャーナルですが、ここに掲載される論文だけでは、世界の作業療法研究の全体像を把握することはできません。
WFOTという巨大なネットワーク
WFOT(World Federation of Occupational Therapists:世界作業療法士連盟)には、100以上の国と地域の作業療法士協会が加盟しています。WFOTの公用語は英語であり、公式文書、ポジションステートメント、教育基準はすべて英語で発行されます。
2025年のWFOT大会(Congress)には、100を超える国から2,300人以上の参加者が集まりました。次回の2026年大会も予定されています。こうした国際的なネットワークに参加するためには、英語が事実上の共通言語です。
「英語ができない」は本当か
あなたはすでに専門知識を持っている
英語学習というと、多くの方が中学・高校の英語の授業を思い出し、苦手意識を感じるかもしれません。しかし、ここで重要なことがあります。
あなたは作業療法の専門家です。一般的な英語学習者と決定的に異なるのは、内容をすでに理解しているという点です。例えば、英語の論文で "grading" という単語が出てきたとき、一般の英語学習者は「成績?ランク?」と戸惑います。しかしOTであるあなたは、即座に「段階づけ」のことだと理解できます。
"client-centered approach" も、"meaningful occupation" も、"activity analysis" も、あなたはその概念をすでに知っています。英語という別の言語で表現されているだけです。
これは、ゼロから英語を学ぶのとは根本的に異なる状況です。
「読める」だけで十分価値がある
英語の4技能(読む・聞く・書く・話す)のうち、最も少ない労力で最大の効果を得られるのは「読む」です。
論文のAbstract(要旨)を読める。海外のガイドラインを読める。英語のウェブサイトで最新情報を確認できる。それだけで、あなたが臨床でアクセスできる情報の量は劇的に増えます。
完璧に読める必要はありません。専門知識と文脈から推測しながら、大意をつかめれば十分です。わからない単語はDeepLやGoogle翻訳で確認すればよいのです。
英語ができると何が変わるのか
1. エビデンスに基づく実践が深まる
日本語で入手できるシステマティックレビューやメタアナリシスの数は限られています。英語の文献にアクセスできれば、介入の根拠をより確かなものにできます。
例えば、上肢機能訓練のエビデンスを調べたいとき、日本語だけでは数件の論文しか見つからないかもしれません。しかし英語で検索すれば、コクランレビューをはじめとする質の高いエビデンスに直接アクセスできます。
2. 理論・モデルの理解が深まる
作業療法の主要な理論やモデル──MOHO、CMOP-E、川モデル、作業適応モデルなど──はすべて英語圏で開発され、英語で記述されています。
日本語の教科書は、これらの翻訳や要約です。原著を読むことで、翻訳では伝わりにくいニュアンスや、著者が本当に伝えたかったことが見えてきます。
例えば、"occupation" という単語ひとつとっても、英語圏のOTがどれほど広い意味を込めているかは、日本語の「作業」という訳語だけでは十分に伝わりません。
3. 海外のOTとつながれる
英語でコミュニケーションが取れると、世界中のOTとつながる可能性が生まれます。
- 国際学会での交流
- SNS(X、LinkedIn)でのディスカッション
- オンライン勉強会や研究プロジェクトへの参加
- 海外研修や留学
日本のOTが直面している課題は、海外のOTも同じように直面していることが少なくありません。異なる文化や制度の中で同じ課題にどう取り組んでいるかを知ることは、自分自身の臨床を見つめ直すきっかけにもなります。
4. キャリアの選択肢が広がる
英語力は、以下のようなキャリアの可能性を開きます。
- 研究者:英語で論文を読み、書き、国際誌に投稿する
- 教育者:海外の教育プログラムや最新のエビデンスを授業に取り入れる
- 臨床家:海外のベストプラクティスを日本の臨床に応用する
- 国際協力:JICAなどの国際協力プロジェクトでOTとして活動する
- 海外就労:英語圏の国でOTとして働く
すべての人がこれらを目指す必要はありませんが、選択肢があること自体が力になります。
この連載で目指すこと
3つのステージ
この連載「英語で広がる作業療法の世界」は、全12回で構成されています。
初級編(第1〜4回):読む力をつける- 第1回(本記事):なぜOTに英語が必要なのか
- 第2回:まず覚えたいOT英語キーワード50
- 第3回:英語論文のAbstractを読んでみよう
- 第4回:英語で読めるOT情報サイトガイド
- 第5回:英語論文を通しで読む技術
- 第6回:OTの理論・モデルを英語で理解する
- 第7回:英語で書く第一歩──メール・SNS・自己紹介
- 第8回:症例を英語で説明してみよう
- 第9回:英語で発表する──国際学会への第一歩
- 第10回:英語でディスカッションする
- 第11回:世界のOTを比較する──制度・教育・実践の違い
- 第12回:海外OTとつながる──ネットワーク構築の実践
大切にする3つの原則
- 完璧主義を捨てる:「正しい英語」より「伝わる英語」を重視します
- OTの知識を活かす:ゼロからの英語学習ではなく、あなたの専門知識を英語でも使えるようにする「橋渡し」を行います
- すぐに使える:各回に具体的な例文、テンプレート、実践的なリソースを含めます
まずは一歩を踏み出す
英語学習で最も難しいのは、「始めること」です。そして最も重要なのも、「始めること」です。
今日からできることをひとつ提案します。
PubMedで、あなたが今担当している利用者さんの疾患名を英語で検索してみてください。例えば "stroke occupational therapy" や "dementia meaningful activity" と入力するだけです。表示された論文のタイトルを眺めるだけでも、「こんな研究があるのか」「この言い回しは知っている」という発見があるはずです。
すべてを理解する必要はありません。英語のOT情報に触れたという事実そのものが、最初の一歩です。
次回は、OTが最初に覚えるべき英語キーワード50を、日本語の概念と対比しながら紹介します。
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